あの日、本当に休みの日だったのに、なぜか私の治療室にきた黒野お兄さんは、あのあとも結局、散々ベッドの上から動けない私に嫌がらせをして、満足して帰っていった。
やっぱりすごく酷い人だと思ったら、その週明けのリハビリでお兄さんの能力の黒煙に、意識があるまま体内を軽く炙られた私は泣き叫んで倒れて、全治2ヶ月と言われて集中治療室に隔離されて過ごすことになった。いくら熱耐性があるとはいえ、本当に酷い。酷い人なんてものじゃなかった。
あれから時間もたち、身体もだいぶ悪くなくなったが、思い出すだけでもつらくて、泣きじゃくりたくなる。まさか熱に内蔵を焼かれる痛みを知る日がくるなんて、思ってなかった。

「(火炙りって、痛いんだなあ……)」

焔人になる人。焔人に焼かれた人。みんな同じように、痛かったのかな…。
ふ…と息を吐き出すと、すこし部屋の外が騒がしくなった。なんだろう?
ベッドをおりて、点滴台を握って部屋を出たら、対岸の部屋に白衣の大人たちがたくさん集まって騒いでいるのが見えた。

「早く抑えろ!」
「黒野くん、暴れないでくれ!」
「っ…弱いやつが俺に指図するな…!」
「うわあ!!」
「きゃっ!」

白衣の大人の1人が黒い煙に巻かれて吹き飛んで、隣の壁に激突した。思わずしゃがみこんで点滴が抜けた。
すると、私の声に大人たちが振り返る、その向こう側に、ストレッチャーに座った黒野お兄さんが。
その顔は、珍しく顔色が悪かった。

「!くろ、の…お兄さん……?」
「リン…なんだ、そこにいたのか……」

黒野さんが、ストレッチャーからずる、と滑り降りて、ふら、とした足取りで近づいてきた

「!黒野くん、動くな!灰病が…」
「…リン…回復したなら、早くお前をいじめさせろ……」
「ひっ……!!」

汗が頬に伝っていてしんどそうなのに、瞳は熱でもあるようだった。煤を吹き出して迫ってくるお兄さんは正気に思えない。逃げたいと思うのに、腰が抜けて、うしろの壁にもたれこんで尻もちをついてしまった。

すると、目の前にきた黒野お兄さんの身体がぐらりと倒れ、取り巻いていたあの日私を焼いた黒い煙も霧散した。

「え…………?」
「今のうちだ!黒野くんを治療室に収容しろ!」
「ほら、君も早く病室へ!」

白衣の人に無理やり腕を掴まれて立たされて病室に押し込められる。
閉じられる扉の向こうで、黒野お兄さんが対岸の部屋に担がれていくのが見えた。

「…なんだったんだろう。(大丈夫かな……)」

嫌な人だけど。酷い人だけど。
私をいじめて楽しむ怖い人だけど。
……あのまま死んじゃったり、しないよね?

next?
05
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