「あ、シンラ」
「…ん、リンか」

研究所の無機質な廊下。
私と同じように白衣の大人に付き添われながら、重そうな足の制御装置を引きずって、前から歩いてきたのは、よく知った顔の黒髪ギザっ歯の男の子のシンラだった。私と同じくらいの時にここにきた子だから、たまに施設内で顔を合わせているうちに、話すようになった。大人たちから家族を能力の事故で燃やしちゃった子だと聞いたけど、能力の事故なら仕方ないと思った。だって、私もロッカーを他人の物も一緒に燃やしちゃいましたから。

「シンラは今から試験ですか?」
「ああ…リンは今、終わったのか?」
「はい、さっき……今日もあんまりいい結果は出せませんでしたが」

自分の情けなさを苦々しく思いながら、自分の能力の補助具である杖を握りしめて微笑めば、シンラは少し戸惑ったような顔をしたが、ぽんと肩を叩いてくれた。

「リンは、頑張ってんじゃん」
「シンラ…ありがとうございます」
「…そんじゃあな」
「ええ、またあとで」

ぎこちないながらも笑みをくれて去っていく背中に、手を軽く振り、私の歩みを促す白衣のあとに着いていく。すると白衣を着たその大人が歩きながら口を開いた。

「リンくん…ああいや、ちゃんだったか。すまない、まだどちらか怪しい見た目でね。しかし君は怖くないんだね、悪魔の子が」
「悪魔…?シンラが、ですか?」
「実の母親と、弟を焼き殺したと噂の子だよ。知らないわけじゃないだろう?」

嫌な気分になる言い方に少し、困る。でも、私は今のシンラしか知らないから、本当かもわからない噂話なんて、知ったことじゃない。

「…私は家族がわからないし、私と話してくれるシンラしか知らないので。だから火は怖くても、シンラを怖いとは思いません」
「それはいいことだ。なら、君には火も克服して貰いたいなあ。自分の能力を恐れて、本来の数値を君は出せていない。実にもったいないことだ」
「…それとこれは……」

話が別では、と言おうとした。しかし白衣の人の、命に価値をつけようと見下ろしてくる視線に私は目を伏せ、口を閉じた。

「リンちゃん、僕達だって君にいい点をとってもらいたいだけなんだよ」
「私は……」
「だから君は明日から、試験は少しお休みにしよう」
「え……?」

目の前にしゃがみこんで、肩に手をおいてきた白衣の人は、どことなく怖くなる笑顔で言われた。

「心配することはないよ。代わりにとても大事な仕事をしてもらって、ついでに君の火力もあげられたらと思う」
「大事な仕事を、私に……?」
「ああ、きっと気に入るよ。人を怖がらない君にしかできない仕事だ」

私にしか、できない仕事。
その言葉は、私の胸を熱くした。
点数が悪くても、役に立てることがあるかもしれないことが、ただ嬉しくて。

「それで、それはどんなお仕事なんですか?」
「…リハビリだよ」
「リハビリ?」
「灰病のお兄さんの、リハビリさ」

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