カーテンの隙間から薄く差し込む太陽の光に起きた。もう明け方か…食べるのも忘れていた。
ベッドに押さえつけて加減せずに抱き潰したリンは、張り飛ばした頬を赤黒く張らし、鼻血のあとを残しながら死んだようにして横で寝ていた。(呼吸の確認をしたらちゃんと生きていた。まぎらわしい)
両手を差し貫いた時の傷は、ナイフを煤に戻す際に、傷は煤で焼いて止血してふさいでやった。リンは厄介にも熱耐性が高く、普段以上に煤を高温にしたせいか泣いて嫌がったが、力で俺に勝てるわけがない。無理矢理、両手を焼いて熱い痛いと泣きじゃくる顔を堪能した。元より、失血死などで死なせるつもりもないし、これは嘘をついた罰にちょうどよかった。俺の付けた傷がこの綺麗な体に残ればいい。俺から逃げさせはしない。これでもう、俺に嘘をつく気にはなれないだろう。

「(…なのに、もう一緒にいたくないと言われた)」

一生を誓えと、心から好きだと言ってほしいと、最中に言ったら絶対に嫌だ!!と喘ぎ声混じりに泣き叫ばれた気がする。俺に首を絞められても、ぐちゃぐちゃに濡らして喘いでいるくせに。どうしてそんなにも好きになってくれない?拒絶するんだ?俺が特別に思っているように、お前にも俺をそう思ってほしいのに。
激しくしすぎたからか?だが、普段はもっと抑えているだろう。

「…社会的にも俺は優良物件だし、身体の相性も悪くないんだぞ…」

何が足りていないのか、わからない。
俺以上に、何も持たないリンを愛してやれる奴など存在しないだろうに。
抱き寄せて、動かないリンのふくらみがない胸元に顔を埋めた。微かな血の匂いが混じる、やわらかい肌の香りがする。…匂いと心臓の音に、眠気がやってきた。起きたらリンに、またチョーカーをつけなければ。…今度は、逃げないように繋いでおくリードも必要か。

「(…両足の腱を切ってもいいが、俺は仕事があるから四六時中、面倒を見られるわけじゃないし…そこまではしなくても十分だろう)」

サラリーマンは、自由じゃないからな。不便だ。
鼻を鳴らして、リンに顔を擦り寄せれば、昨日の余韻が残る、赤く主張したままの乳頭が目に止まる。

「(………噛みたい)」

あまりの無防備な主張に口をつけようとしたら、家の固定電話が鳴った。うちに鳴らしてくる相手など会社の誰かしかないが、タイミングが悪い。無視したい。ああだが、相手が相手だと査定に響くかもしれない。
うるさく鳴り続ける電話に嫌な気分になっていると、リンがみじろぎし、泣き腫らしてうさぎのように赤くなっている目を開けてしまった。

「リン、起きたか」

声をかければ、ぼんやりとしていた目が俺を捉えて、かつてないほど怯えた顔になる。あんなに愛したのに全く伝わっていなさそうのは、やはりいつもより激しく身体にぶつけすぎたのかもしれない。俺を愛してないどころか、嫌いなのかもしれないという可能性は考えるのをやめよう。それは俺へのショックが強い。愛はまた育てられる可能性があるが、嫌悪までいかれるのは嫌だ。

「…リン。俺は電話をとるが、騒がず動くなよ」

おそらく腰が砕けて動けないだろうが、逃げ出そうとしていた前科を考慮してリンに声をかけてから、まだうるさく鳴り響いているベッド脇の電話の子機に手を伸ばした。

「はい、黒野」
『黒野、ようやく出たか。お前早まって死体を増やしてないだろうな?』

電話の相手は、声で判別できるぐらいには嫌いな上司だった。
朝っぱらから恋人同士の理解を深める時間を邪魔して、開口一番になにを言ってるんだこの人は。

next?
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