日中1人にしてしまっているリンの、日々のルーティンを俺もすっかり覚えてしまった。点滅している光の行先は、見なくても大体わかる。最近は大抵、朝から図書館に向かって、スーパーに寄って帰ってくる。たまに予定にないケーキ屋や本屋なんかに寄っていることもあるが、それくらいのことなら許せる。リンが本や菓子を好んでいるのは知っているし、まだ子供なのだから寄り道ぐらいしたい日もあるだろう。俺は寛容だから、それくらいで怒ったりはしない。…もしもリンの心を俺から奪っていくような奴が現れたら、リンが密かにマンションの裏手で可愛がっていた野良犬を捕まえて、部屋で目の前で焼き殺した時のように、そいつを嬲り殺してしまうだろうが。
最初の頃は、迷ったりしているのか手探りなのが画面越しに伺えて、戸惑いまで手に取るように感じ取れるのがそれはもう可愛かった。無論、今の落ち着いた動きで、愛する…そう、愛する俺のためにと、色々と家の事をこなしてくれる今も可愛いのには変わりないが。
なにせ、お互い愛し合っているのだから。だから、当然だ。年齢の壁さえなかったら、心が通じ合えたあの日の翌日には公的に婚姻届を出していたし、給料3ヶ月分の指輪というのを贈っていた。結婚指輪はそういうものだと、会社の女性社員が食堂で広げていた雑誌に書いてあったからな。(俺が近づいたら離れていったが。興味はないが、失礼な話だ)。だが、リンには俺の灰を削って特別に作ったものでもいいかもしれない。
まあどちらにせよ、きっと数年後に贈る時が来たら、大人になってもっと今以上に綺麗に成長したリンは、泣いて喜んで抱きついてくれるだろう。あの子は泣き虫だからな。どんなに俺が好きか語って、俺の腕の中で幸せそうに綺麗に泣いてくれるのか、楽しみだ。

「あら〜、黒野くん。今お昼?」
「…そうだが」

ばく、とリンが朝方から昼にと用意してくれていた柔らかい白パンのサンドイッチを口に含んだ瞬間、声をかけてきたのは、子供受けを狙って配給されている死神のバックルの俺と逆の、天使のバックルをつけた同僚の女。

「サンドイッチなんて食べるのね、黒野くん。もしかして、それってお手製かしら?」
「俺じゃない。身内のだ」
「ああ〜、黒野くんがもらっていった子ね!わあ〜…まだ生きてるの?」
「…俺はあの子を大事にしてるんだ、天使のお姉さん」
「あらら〜、それはそれは失礼しました。死神のお兄さん」

気分を少し害した俺に気づいて、天使の名をもらっている同僚は、「素敵な愛妻弁当ね」と相変わらず貼り付けたような笑顔を残して、足早に去っていった。相変わらず察しがいい同僚だ。
ふん、と鼻を鳴らして、もう1度GPSの端末のマップ画面を見て、俺は少しだけ目を見開いた。

「(ここは紳士服の店じゃないか……?)」

どうしてまたこんなところに?リンに男が?と思ったが、リンが大好きなのは俺だと言ってくれたし、先週末も変わりなく熱く愛し合ったのだから、それはない。そもそも他の男との親しい接触自体、ないはずだ。じゃあ、まさか、俺のものをなにか買いに?その線の方が濃いな。いや、そうに違いない。少し動揺したが、絶対そうだろう。ベッドでも、泣きながら俺しかいらないと縋っていたし。そうに決まっている。リンは俺に嘘なんかつかない。しかし、何故、急にそんな。なにかを俺にくれる気になったのか。

「…、あ」

今日は9月の6日。誕生日か、俺の。

next?
24
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