黒野さんは、約束してくれたものを思っていたよりしっかり用意してくれていた。
嘘をつかれるかもしれないと思っていたけど、
黒野さんは私が思っていたより、私の事を手放したく無いと思っているのかもしれない。
不満そうに煙を吐き出すため息をついているけど、私を膝に抱えたまま、用意したものを見せてくれた。
私名義の通帳。小さめのお財布。
連絡用の携帯。防犯ブザー。
おうちの合鍵。
それらを入れる、小さな子供向けのポシェットまで用意をしてくれていた。

「門限は15時までだ。それまでにうちに帰るように」

門限は短めだったけど、少しずつ愛に応える振りをして、信頼を得て伸ばしていけそうならいけばいい。
そう思えるくらいに、正直ここまでしてくれるとは思っていなかったから、私の方がびっくりしてしまった。

「ほんとに……いいんですか…?」
「いいとは思ってないが…ただ…」
「?ただ…、っあぐ!?」

気になるところで言葉を切られて見あげようとしたら、きゅ、と後ろから首を緩く絞められ、一気に息が詰まった。苦しくて、自然と涙が滲む。

「っ…く…ぁ…!」
「……そのつらそうな姿に、惹かれてしょうがないからな」

俺にお前が返してくれるなら譲歩してもいいと思った、と言って黒野さんは私の首から手を離した。一気に酸素が入り込んで、噎せこんでソファに倒れると、黒野さんが被さるように上に乗って見下ろしてくる。

「げほっ…、…上にのるの、好きですね…」
「お前を見下ろしてるのは眺めがいいんだ…それで、ここまで譲ったんだぞ俺は」

だから俺を愛せと言いたげにしながら、ギラギラと目が光っているのはとても怖いけど、もう私は、ここで怖気付くわけにはいかない。
震える気持ちを隠して、大好きな相手に目を向けるように、躊躇うような素振りも少しだけ含ませて、その瞳を見つめ返す。

「…私も、貴方からの痛みが気持ちよくなるぐらい、貴方のこと愛する努力をします…だからこれからは、優一郎さんって呼んでもいいですか?」

ちゃんと婚約者になりますから、と続ける前に唇を塞がれて身体が跳ねそうになった。けど、受け入れる姿勢を貫かなきゃと、ぐっと耐えて、いつもは慣れなかった、口の中に入ってくる舌を受け入れた。

***

「もうひとつ、自由にするのに渡すものがあった」
「……なんで…する前にくれなかったんですか」
「煽ることを言ったお前が悪い」

ソファにうなだれたままでいれば、まだ痛む首になにかを巻かれ、カチャリと錠がかけられる音がした。

「鍵付きのチョーカーだ」
「ちょーかー…?」
「灰島製で、GPSがついてる。今日からこれを付けて過ごせ、居場所がわかるようにな」
「!……は、ぃ……」
「約束を守れる、いい子でいてくれ。リン」

…まだ、超えなきゃいけない壁は高いみたい。
頭を撫でられながら、ぎゅ、と瞼を閉じた。

next?
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