私の物心着いた記憶は、暗闇から始まる。
時間の感覚も奪われる狭いコインロッカーの暗闇。
外から聞こえる、この中にいる私に気づかない人たちの声。
何も見えない恐怖からだったのか、篭もる空気のせいだったのか、自然と荒くなる息。
押し込まれる前に手に握らされたビスケットの袋は、握っていたはずなのに気づいた時には私の手の中で灰になって崩れていた。
勝手に酸素を奪うように、熱されていった空気。汗が止まらなかった。オーブンのようにロッカーの中が熱くて、私もそのうちビスケットのように真っ黒に焼けてしまうんだと思った。
嫌だった。これ以上、熱くて暗いのはもう嫌だった。だから「助けて」と扉を中から押そうと手を伸ばした。すると目の前の鉄の壁が、どろりと溶けた。
差し込んだ光がちかちかと目を焼いた。炎の壁の向こう側でその光は、青い色をしていた。
目をうすく細くして、転がるように這い出た先には、青い光がたくさんあった。

「子供だ!出火元のロッカー内から炎を背負った子供が!おそらく第三世代です!」
「どうして子供がロッカー内に…」
「理由はあとでいい!早く保護を!」

さあおいで。怖かったろう。落ち着いて。炎を消すんだ。青い光が色んな言葉と一緒に手を伸ばしてきて、私の最初の記憶はそこで暗転している。「君は自分の能力に蒸し焼きにされて、脱水と酸欠で気絶したんだ」と、次に目覚めたここの白衣の大人が言っていたから、そのせいなんだと思う。
…ただ、それより今はただ熱くて、喉ばかり渇く。お腹だってすいて、目が霞んできた。

『200…180度…室内の温度が、炎出力と共に下降しています』
「これ以上は彼女の体内の冷却が間に合いません。中止しましょう」
「はあ…やはりあの炎は見込めそうにない検体だな……よし、リンちゃん!今日の試験はおしまいだ。炎を消してくれ。身体を冷やそう」

ガラス越しから投げかけられた許しの言葉に、炎で作った輪を消して、そのまま汗を落とした床に座り込んだ。冷たい風が部屋に送り込まれてきて、火照って仕方ない全身が気持ちがいい。
座りこんだままガラスの向こう側に目を向ければ、白衣の大人たちが集まって話している。
私はいつも、この能力の試験でいい点をとれていないらしいから、そのせいかもしれない。

「(一生懸命やっているつもりでも、私はここでも役立たずなダメな子なのでしょうか)」

引き取ってくれた家でも、私は期待に応えられなかった。だから、コインロッカーに置いていかれて、挙句にはロッカーや周囲を丸ごとドロドロに燃やして溶かしてボヤ騒ぎ。

「……捨てないで…」

ここがどんな場所でもいいから、捨てないでほしい。役立たずを見る目で、私を見ないで欲しい。

「きっと、誰かの役に立ちますから…なんでも、私はしますから…」

だから、燃えるゴミのように捨てないで。


next?
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