いつもなら私と黒野さんの寝息しか聞こえない薄暗い寝室に、荒い呼吸音が響く。
痛い、痛い、どうして、こんな――。
今しがたまでされていたことを考えると、私は呆然となるしかないのに、黒野さんはまた首筋に何度目かのキスをしてくる。

「はァ……初夜としては、概ね満足した」

今日はこれくらいにするか。
そんな言葉が聞こえると同時に、私の両手首に絡みついていた黒い鎖が黒い煙になって、夢のように消えていった。
でも、手首をひりひりとさせる赤ぎれと全身のだるさと、部屋いっぱいの生臭い変な匂いが、私の身体におこったことが悪い夢じゃないことを私に語りかけていた。

「ぅ…あ……」
「はじめてだからな。また回数をかさねて、良いだけになるようにしてやる」
「…いたぃ、よ……」
「痛いだけじゃない鳴き方をしていたぞ?…ほら」
「ひ、っん」

お腹の横を指でなでられ、ぞくぞくするような、お腹の奥がまたきゅうとするような感覚に、変な声が漏れる。
「この才能はありそうだな」と笑われて、自分の情けなさに、ぼろ、と涙が落ちた。つらくて、もう何も感じたくなくて、解放された両手で顔を覆ったら、私の上にかぶさっている上半身裸の黒野さんが手首を掴んでシーツに押さえつけてきた。

「勝手に隠すな。お前の感情は余すことなく俺にだけ見せろ…特にお前の泣き顔はよく見たい」
「な、んで、…こんな…っ」
「愛している女を、抱ける体になったなら抱きたいと思うのは普通じゃないか」

むしろお前の身体の成長に、俺は十分留意してやった、と黒野さんは額をくっつけてきて、涙でぐちゃぐちゃの私の頬に手を当てた。

「だが…まさかシスターになりたいんだと言って、大人しいお前があんなに暴れるとは思わなかったよ。俺は抵抗されるのは好きじゃないと知っているはずだろうに」
「っ、言わ…ないで……」
「リンが将来の夢を持ってたとは思わなかったが…ここで早いうちに処女膜を食い破っておけて良かった。お前を神にくれてやる気は無いからなァ」

お前は俺と一生添い遂げると誓ったじゃないか。
冷めていない熱を押し殺したような金色の目が、きゅっと目の前で三日月に嬉しそうに細く歪む。

「教えてやる、リン」
「お、ねがぃ…聞きたく、ないです…」
「男にこんな風に抱かれた女を、太陽神は傍には置かない」

お前にシスターになる資格はもうない。
楽しそうに囁かれた言葉に声を上げて泣こうとした口さえ黒野さんの口で深く塞がれ、飲み込まれた。

***

「……」

疲れきって昼まで眠った。
もう二度と起きたくなかったけど、お腹は正直にお腹がすいたと鳴いて、私は脱がされた姿のまま、黒野さんの腕の中で目が覚めた。
消えてしまいたいような気持ちになったけど、できるはずもなく、結局は今も顔を合わせて食卓についている。

「せっかく昨晩は頑張ったから、ご褒美にフレンチトーストを焼いてやったのに、食がすすんでないな」
「…すみません…食欲が、なくて」
「お前が?…可愛いな、そんなに俺を意識してるのか」

落ち込んでるんですが、と思ったけど、黒野さんにはプラスに受け取ってもらっていた方がいいかなと、否定の言葉を小さく切ったフレンチトーストと一緒に飲み込んだ。
とろとろに柔らかいフレンチトーストは、きっといつもなら美味しかったのに、今は味がしなかった。

next?
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