「リン、起きるんだ」
「ん……く、ろのさん…おはよう、ございま……んぅ?」
ベッドのシーツと私のパジャマに滲んでいる黒っぽい赤に、思わず目が丸くなる。これは、血だ。しかも、私の足がぬるぬるしてるのを考えると、間違いなく私の血。隣で寝ていた黒野さんの服にもついていて、怖くなって起きあがった。お腹の下の方、ずくずくした違和感と痛みがある。…まさか、黒野さんに寝てる間になにかされたの?
じわり、と涙がにじむ。
「く、黒野さん…まさか、わ、私にまた、なにか…?」
「これは俺じゃない。というか俺なら、お前に何かする時は起きている時にヤる」
「え、あ、ごめんなさい…」
それはそれで…と思いながらも口を閉じれば、しげしげと広がる血を眺めていた黒野さんが「生理がきたか」とつぶやいた。
「せいり…?ま、まさか…病気ですか…?!」
「いや、自然現象だ。お前が少し大人になったということだ。身長が伸びるのは早いと思っていたが…こっちもか」
まだ血が溢れてくる下腹部に視線を向けられ、何故か妙に恥ずかしいような、居心地が悪くなったような気がして、汚れたパジャマの裾を握りしめた。
「え、えっと…私のせいなら、その…色々汚してしまって、ごめんなさい…」
「…いい。むしろこれが来るのを待っていた」
珍しく殴らずに、私の髪をなでるだけにとどめて黒野さんが私を抱き上げる。逆に、なぜそんな機嫌がいいのかわからなくて、こわい。
「く、黒野さん…?」
「風呂場にいろ。生理の対処に必要なものを買ってくる」
「あ、は、はい」
「あとでどんな現象かは説明してやる。大人の女になった以上、毎月あることだからな」
「毎月…!?」
こんな血まみれになるし、お腹もずくずくすることが毎月…大人になるって、大変だ。
風呂場の扉を閉じられながら、ぼんやりとそう思った。
…とりあえず、血が気持ち悪いから下だけ脱いで待っててもいいかな…
***
「リン、血はもう止まったな」
「は、はい、ありがとうございます。教えてもらった通り、数日前に止まりました」
「そうか」
はじめて生理、というものを体験して一週間ちょっと。
生理の対処から生理の起こる理由まで、黒野さんがいじめ抜きに教えてくれたおかげで、なにごともなく終わらせることができた。…子宮と子供のでき方の話までされた時は、さすがにすこし恥ずかしかったけど…。
「(それに、お腹をなでられるのも…なんでだろう)」
お腹にも容赦なく殴る蹴るをしてきていたのに、生理になってから黒野さんは私のお腹のあたりにそういうことをするのは避けるようになった。むしろ、ずっとお腹を…それこそ子宮というのがあるあたりを、今もだけど、後ろから抱えて、優しく撫でてくる。痛いことをお腹にされなくなったのは嬉しいけど、どうしてなのかわからなくて、体が自然と震えてしまう。
黒野さんは、私をどうしたいんだろう。
頬をすりつけてきた黒野さんの髪から、同じシャンプーの匂いがする。
妙な緊張感にこれ以上耐えられそうになくて、口を開いた。
「く、黒野さん!」
「…なんだ?」
「え、えっと、今日は金曜日なのにカレーの仕込みはなさらないんですか?」
「今日は別に仕込むことがある」
「そうなんですか?」
珍しい。
金曜日になると、必ず定時に上がってきてカレーをドロドロに、ぐずぐずに、具の形がなくなるまで煮詰めている黒野さんなのに。日課のカレー作り以外に、金曜日にすることがあるなんて。
「ああ…そろそろ始めないとお前が寝そうか…そろそろヤるか」
「ん…私が…?」
顎を指で撫でられて、くすぐったさと不安感に肌がぞわぞわする。
「ああ、今からお前を抱くからな」
え?と思うより早く抱いたままソファから立ち上がられ、電気のつけていない寝室の中へ案内された。
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