「リン、お前最近見てなかったけど大丈夫なのか?」
「はい、平気です。体調が悪かっただけですから」
「…心配した」
「シンラ…ありがとうございます」

どさっと隣に腰掛けるシンラの優しい言葉に、自然と笑みが零れる。また、数少ない友達とこんな風に笑いあえることができるなんて。
黒野お兄さんがリハビリを終えて、退所したおかげだ。ありがとう、太陽神様。

「そういやリン、お前大人になったらどうするんだ?」
「え…?」
「だってずっとここにはいるつもりないだろ?なにか将来なりたいものとかないのかよ?」
「将来…………」

『俺と結婚しよう』

囁かれた言葉が思い出されて、肌がぞくりと寒くなる。……私、このまま大人になったらあの人と本当に……?

「(まさか、そんな。お兄さんだってまだ10代だし、忘れるよね)」
「……リン?顔色悪くないか?」
「…いえ、大丈夫ですよ。でも、私はまだ将来は考えてません。シンラはどうなんですか?」

嫌な約束の記憶を頭の中から払って、シンラに話を振る。するとシンラは、にぃっとギザっ歯を見せて胸を張ってみせた。

「俺?俺は決まってる!ヒーロー!」
「ヒーロー……?でも、それって職業ですか?」
「だから特殊消防隊に入って、ヒーローになるんだよ!」
「とくしゅ、しょうぼうたい……?」

首をかしげたら、シンラは焔人と戦い、鎮魂する青い線が入った消防隊だと教えてくれた。

「(ああ、私が火事を起こした時にみた青い光の人たち……あの人たちがそうだったんだ)」

途中で倒れてしまったから、あまり覚えていなかった。でも、そうか。私もその人たちに助けられたのか。

「……シンラにも、たしかにきっと人を助ける仕事は似合うでしょうね」
「!…そんなこと言ってくれるのリンくらいだ。ありがとうな。そこ行くと、リンはシスターとか似合いそうだと思うぜ」
「シスターですか……そんな仕事もあるんですね。たしかに人の役に立てそうです」
「そしたら、いつか一緒に仕事できるかもしれないしな」
「ふふ、それってとても素敵です」

ラートム、って祈るんですよね。
握っていた杖を少し横に立てかけて、試しに手を合わせてみたら、シンラもそうだと一緒に合わせてくれた。
ずっと、こんな幸せな時間が続いたらいいのに。

***

それから2年ほどの月日が、あっという間に過ぎた。
その間に、悲しいことか黒野お兄さんとの戦いのおかげか能力の使い方は点数は少し上がった。けれど、それでも些細なものだった。でも、別にいい。私は別にここで生きていく訳では無いのだから。

「(ここを出て、シスターになるんですから)」

私は能力者だけど、シンラと同じ特殊消防官になるには、身体能力が不安だ。だから祈ることで人の役に立てるなら、私はそれがいい。

「がんばらないと……」
「何を頑張るつもりなんだ」
「それは…………、え?」

背筋が凍る、穏やかな声。嘘。そんなはずがない。
研究所の遊戯室の一室の窓から覗く、爽やかな風が吹く青い空から視線をはずし、そっと振り返れば、いた。

「リン、約束通りに迎えに来たぞ」

私を散々なぶって、いたぶって、大人になったら結婚しようとキスをした人。
どうして、またここに。しかも、あの頃のような拘束服ではなく、しっかりしたスーツを着て。
汗が、頬を伝って落ちていった。

「く、ろの…おにい、さん……」
「待たせたのは悪かったが、頑張るなんて馬鹿なことを言う、悪い子になったのか?」

next?
08
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