人生を楽しんで


どうしてだろう。

こんなはずじゃなかったのに。

私は昨日、彼から渡されたメモの場所に意を決して向かったの。

それでここにきたはずだし、住所だって間違ってない。

私を呼びつけた本人だってそこにいたわ。あのおかしな服じゃない、なんだか普通に、カジュアルな……ちょっとだけかっこいい格好で。

でも、そんな格好できたんですね、って口に出すより先に、私はその住所の場所であるカッフェに連れ込まれて、現在

にこにこしている彼の前で、私は勝手に頼まれた沢山のドルチェを消化すべくつついている。

おいしい。確かにとっても私好みの味だ。正直フォークを持つ手が止まらない。

でもこれは、まるで、そう。

間違ってもストーキング男とストーキングされてる私がするやつではなく

好きあってるカップルがするっていう、ただのデートってやつじゃあないのかな?


「絶対気に入るだろうなと思っていたんだ」

「はあ...そうなんですか...(なんでこんなことになってるんだろう…?)」

「それはラウラが俺のデートの誘いに応えたからじゃないかな」

「っこ、心でも読めるんですか!?」

「いいや、ラウラがわかりやすいんだ。そんなんじゃあヤバイやつに騙されるぜ?」


貴方よりヤバイ人はそうそういないと思う、と思わず口からこぼれそうになったが、なんとか口にいれた甘いケーキといっしょに喉奥に押し込んで本題を切り出す。


「それで?」

「それでって?」

「私にこんなにドルチェを食べさせてどうする気ですか」

「そうだなあ。まるまる太らせてから食べようかなって」

「か、帰ります!!」

「冗談だよ」


勢いよく椅子から立ち上がれば、目立ってるよと笑われて、仕方なくまたゆっくりと席に着く。


「ともかく本題に入ってください!私は貴方がメモを渡してきたとおり、ここにきただけで...」

「敬語なんてよしてくれよ。俺と君の仲じゃないか」

「別に貴方とはなんでもないですけど...」

「キスもした仲なのに?なんでもない?」

「!あ、あんなのノーカウントです!!」


じゃあもう一回しようか、と私の顎に指をかけてきた彼に今度こそ店内にもかかわらず悲鳴をあげた。

やっぱりのこのこと色欲まみれの変質者に逢いに来るんじゃなかった…!!


***


「ラウラ、かわいい俺のラウラ。機嫌をなおしなよ」

「貴方のじゃないしついてこないでください!」


いるのが恥ずかしくなったカッフェから走り出てきたのに、余裕の顔で真横を並走してくる彼は、ほんっとうに人を苛立たせる天才なのかもしれない。

人としてどうなのそれ。

というかなんで私に絡むの。


「頬をふくらませておこってるラウラもかわいいなあ。ぷくぷくだ」

「なんなんですか貴方はほんとに!!」


しまいには横から人の頬をつついてきた彼に思わず足を止めて、がーっと怒りをぶつければ、今更何をという顔で彼は言った。


「君のストーカー」

「そうでしたね!!!!でも私がいいたいのはそうじゃなくって!!!!」

「じゃあ恋人かな」

「びっくりするんで今の流れからありえない昇格させないでくれます?????!!!!!!」

「声が大きいよ」

「誰が大きくさせてると思って、」


ちう。

唇に押し当てられるやわらかい感触と、至近距離にきた顔に頭の中が真っ白になって、身体は時間が止められたように凍りつく。

そんな私の顔を見て、彼は満足したのか顔を離し、押し当ててきていた自分の唇を舐めた。


「落ち着いたかい?」

「なっ…な…!!」

「ちゃんと俺の用件はあるよ。俺は大好きな君の人生を素敵なものにしてあげたいんだ。俺の手でね」


素敵なものに?私の人生を?

セカンドキスさえもたやすく変質者に奪われたという衝撃で頭にあまり入ってこないけれど、これだけは言いたい。

なに言ってるんだこのストーカー。

抱きしめてくる腕は優しいけれど力強く、私を離そうとしない。

これがもしも大好きな人なら幸せだったかもしれないが、正直今の私には彼が自分勝手すぎて恐怖でしかない。

たしかに私の可能性を示唆してくれた人だが、自己申告してくるストーカーだということも私は忘れてはいけなかった。

私はとんでもない、悪魔みたいな人の言うことを信じてしまったかもしれない。

すすむべき道を、踏み外したのかもしれない。


「(そもそもこの人、私みたいなのをどうしてこんなに…)」

「ラウラ、聞いてくれよ。今日はね、本当は君に物件を見て欲しくて呼び出したんだ」

「ぶ、物件…?」

「君が新しい店を始めるための物件だよ。始めるには必要だろう?いくつか探してみたんだ」


だから、一緒にきてくれるよね。

柔らかくも、ここまでしたんだからきてくれるのは当たり前だと言わんばかりの有無を言わせない態度で手を差し出された。

きっと今、この手を跳ねのけるのは簡単だけれど、この手を取らなかったら私はどうなってしまうだろう。


「(...今は、この人を信じるしかない。神様がくれた、私に必要な人だったんだって)」

「ラウラとデートできるなんてディモールト最高な気分だよ」

「(でも神様、わがまま言うならもっと普通な人が良かったです)」


to be continue...
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