銀魂連載 | ナノ
第七十二訓 1日局長に気をつけロッテンマイヤーさん。一日マスコットもつらインターナショナル




「――ふぅ...」

「お疲れ様です『イバラ』さん!」

「はい、お疲れ様」


芸能関係の仕事を終え、疲れを感じつつ、首を伝う汗をタオルで拭いていると

そこに、小生のマネージャーである梶原景代がやってきた。


「よっオツカレさん、朔夜」

「景代...公の場で普通に本名呼ばないでおくれよ。小生のこの仕事周りにばれたくないんだから...」

「悪い悪い。それより、お前にお願いがあるってお通ちゃん来てるぜ?」

「お通ちゃんが...?」


人気アイドルに返り咲いたとは聞いていたけど...何の用だろう

そう思いながら彼女に会えば、一つのお願いをされた。

そのお願いは――



「今度、真選組のイメージアップのために一日局長をやるんですが、それを是非手伝ってください!」

「.........え」


滅茶苦茶断りたかったが、妹分的存在のお通ちゃんがどうしてもというので、小生は仕方なく頷いたのだった。

絶対バレるよなァ...銀時達にもお願いしてるらしいし...うっわぁ、隠し通してたのにな...

......敵前逃亡したいわ〜...


***


そして当日になり、小生は真選組のメンツに一切顔を見せず、挨拶もしないで、控えていた。

なのに――


「それじゃ一曲聞いてください――と行きたいところですが、今日は特別ゲストを招いているので呼んじゃいます!」


その言葉に、今まで真選組の皆にばれないようずっと一言も話さず控えていた小生も扇で顔を隠したまま車両の上のお通ちゃんの隣に立つ。


「お、お通ちゃん、本当にしょう...『私』も顔出なきゃ駄目かい?」

「あたり前じゃないですかットフルーツ!皆ー今日のゲストは、私も尊敬してる中々表に出てくれないすごい人だよーグルト!」

「(うぅ...仕方ないね...)」


そして覚悟を決めて、扇をシャッと畳んで顔を晒した。

そして小生の顔を確認すると、隣の近藤さんや後ろのトシを筆頭に真選組のメンツが目を丸くするのが見えた。

その顔に気づいて嫌になりつつ、仕事の自分を作る。


「――皆〜『私』は誰かわかるかな?巷で噂の茨の森で眠る姫のように、滅多に顔を出さない歌姫、そんな私の名前は...――」

「「「#サクーヤ#☆イバラーーー!!」

「嬉しい!皆大正解!そう、私が通称、皆の『イバラ姫』だよー!(いっそ殺せェェェェ!!!)」

「えぇぇぇぇぇぇ!?(これ、あの朔夜さんだよねェェェェ!!!!???)」


真選組の皆の戸惑う声とファンの熱狂的な歓声を聞きつつ、内心絶叫しながら、

お通ちゃんと共に彼女の曲である『ポリ公なんざクソくらえ!!』をヤケクソになりつつ歌う事に全神経を向けることにした。


***


「今日仕事出れないって言ってたのに、何やってんの朔夜さァァァん!!?」

「アイドルですけど何か?」

「いやそんな死んだ目で即答されても!しかも絶対的な距離を感じる!!」


歌い終わった後、一旦小生達は家康公像の前に戻ってきた。

そして、小生は現在、お通ちゃんに渡されたミニスカの婦警の衣装を着て、近藤の旦那とトシに質問攻めされている。

空覇とお通ちゃんは楽しそうに話している。仲良くなれたみたいでよかった。

けどなんだろう、この温度差。


「なんでんなアイドルなんてしてんだ!?」

「いや、したいわけではないんだよ...実は江戸に来てまだ間もないころにね...仕事もなかなか無くてさ...」


***


「(寒い...お腹すいた...お金、早く稼がなきゃ...お金欲しい...)」


いつまでもお登勢さんに頼るわけには...でも、どこも雇ってくれない...

早く、仕事見つけて...生活を安定させなきゃ...

もういっそ、モノ好きが買ってくれるかもしれないし...もう身売りでもしようかな...

このままじゃ、小生の身体がもたない...

降り止まない雪を肩に積らせながら、路地裏のゴミ置き場でうずくまって、ぼーっと考えていると

急に上に影がかかった。


「おいお嬢ちゃん、大丈夫か?

「だ、れ...?」


見上げればダークグリーンのボサボサ髪の男と目が合った。


「!?顔真っ赤じゃねぇか、熱ありそうだな...ちょっとこい!」

「!(誰なんだこの男...でも別に...もうこの際、誰でもいいか...)」




「――で、その後家でしばらく療養させてもらって、その窮地を救ってくれた景代に芸能界入らないかって誘われて

中々伸び悩んでるしがないマネージャーだって言うし、ギャラも仕事が来れば即払うって言うし

アイドルがなにかわかんなかったから、じゃぁ助けてくれた恩返しに、小生アイドルやって売れてみせるよ、って言っちゃったんだよ」


そしたらなんか、あれよあれよという間にこうなっちゃったんだよね。

遠い眼でそう言えば、トシは微妙そうな顔をして、近藤の旦那は何故か涙ぐんでいた。


「そうかそうか、朔夜さんも苦労したんだなァ...!」

「いや旦那、別に泣く所じゃないんだけど」

「とりあえず事情は分かった!じゃぁ今日はアイドルの『#サクーヤ#☆イバラ』さんとして接すればいいんだな!」

「いや、もういつも通りで良いから旦那。これお通ちゃんに頼まれただけだし」


しかし、小生の言葉は伝わったのか伝わらなかったのかわからないが、近藤の旦那はそのまま涙をぬぐうと、隊士を纏めにいった。

その背を見送っていると、トシが微妙な顔のまま声をかけてきた


「...つーかお前、年齢は何も言われなかったのか?(確かに違和感が全くないほど似合ってたけどよ...なんであの路線?)」

「あぁ...それは景代が、小生を10代ぐらいと勘違いしててね...」

「...なるほどな...(朔夜の童顔さ加減はすごいからな...)」



こんな微妙な空気を産みつつも仕事は始まったのだった。


***


「いいかァァー!今回の特別警戒の目的は、正月でたるみきった江戸市民に、テロの警戒を呼びかけると共に

諸君も知っての通り、最近急落してきた、我等、真選組の信用を回復することにある!!」

「(元々結構低かったけどね)」


決して口に出せないことを思いつつ眼鏡のブリッジを押し上げ、お通ちゃんの隣で近藤の旦那の演説を聞く。


「こうしてアイドルの寺門通ちゃんに一日局長を、朔夜さんに協力してもらうことになったのも、ひとえにイメージアップのためだ!

いいかァ、お前ら今日はくれぐれも暴れるなよ!そして...お通ちゃんと朔夜さん...いや、局長達を敬い、人心をとらえる術を習え!」


そう言い終わった途端、隊士達がサイン色紙を持って駆け寄ってきたが、近藤の旦那に浮かれるなと殴りとばされていた。

しかし、そんな近藤の旦那の隊服の背には、お通ちゃんのサインがしっかり書かれていて、隊士達の反感を買って、リンチされだした。


「皆楽しそ〜」

「楽しくないから真似しちゃ駄目だよ空覇」

「いや〜すっかり士気があがっちまって」

「「士気があがってんじゃねーよ/ないよ!!舞いあがってるんだよ」」


そしてそんなアホな光景から目を逸らし、お通ちゃんと小生に総悟君が日程スケジュールを渡した。


「寺門さん、朔夜さん、こいつが今日のスケジュールでさァ」

「あ、ハイ」

「了解したよ」

「まァ、アンタと朔夜は何もしないで笑って立っててくれりゃいいから、気楽に」


そのトシの言葉に、お通ちゃんが中途半端な仕事をしたくないと反論し、いまだ、リンチしていた隊士達に怒った。


「そんな喧嘩ばかりしてるからあなた達は評判が悪いの!なんでも暴力で解決するなんてサイテーだよ!」

「(いやあれは自業自得)」

「もう今日は暴力禁止!その腰の刀も外して!!朔夜さんもその太股の武器も外してください!」

「え、ちょっお通ちゃん!刀外させるのはマズイって!それに小生の采配も外しちゃ...」


慌てて止めるが、聞いてくれない。


「朔夜さん、私を信じてください!」

「いやそういう問題じゃなくて!対テロリスト用の警察が刀外したら取り締まれないからね!?それに小生のは自衛のための...」

「オイオイ、小娘がすっかり親玉気どりか?そいつらはそんじょそこらの奴に指揮れる連中じゃねーんだよ。

それに朔夜の言うとおり武器なしで取り締まりなんてできるわけねーだろ。刀は武士の魂...」


ガチャガチャ


「「「「「「「すいませんでした局長ォォ!!」」」」」」」

「転職でもするか」

「頭痛がしてきた...」


トシと総悟君以外の全員が刀を外し、敬礼をお通ちゃんに向けた。


「トシぃぃ!!総悟ぉぉ!!何をやってんだァ!お前達も早く武装解除せんか!朔夜さんもホラぁぁ!!」

「「近藤さん/近藤の旦那、アンタ/卿は頭をもう少し武装する必要がある」」


武装解除する武装警察がどこの世界にいんだい。

呆れながら言えば、一日イメージアップに尽力するためだと反論された。



「(確かにお通ちゃんは、返り咲いてきたアイドルだけどさー...)」


そう思っていると、お通ちゃんが話を進めていて、局中法度の『士道に背くまじきこと、これを犯した者、切腹』という規則を改善をしていた。


「今日からこれでいきましょうが焼き」


『語尾になにかカワイイ言葉を付ける(お通語)ことこれを犯した者、切腹』


「......いや、可愛くないよお通ちゃん。それに、もっとも物騒な単語丸々残ってるから」

「それは侍らしさを表現するには、削れないからくだのコブ」

「侍らしさなんて、最早微塵も残ってねームーミン」

「そーそーそういうカンジ」

「うるせーよ!!」

「土方さん、仕方ありませんぜ。今日一日我慢しましょう油を1飲んで死ね土方コノヤロー」

「お前が使うとより憎たらしさが増すんだけど!!」

「わーコレ楽しいぬの尻尾!」

「...まぁ空覇が楽しいならいいけどさっぽろラーメン...」


このイメージアップ上手くいくのかな...

そう思いながら周りを眺めていれば、お通ちゃんがもう一つの作戦を提示してきた。


「あと、例え朔夜さんと空覇ちゃんがいてもムサいイメージが拭えないから、

親しみやすさのあるマスコット的キャラが必要だと思うのり弁」

「...(あー...銀時達に頼んだとか言ってたな...)」

「で、私なりに考えてみたんだけどメスティックバイオレンス。一つはつんぽさんが提案してくれた、市民皆の癒しと、

真選組の恐さの緩和になってくれそうな朔夜さんに、その婦警服を着てもらうってことで・・・」

「(この服を小生がきて、誰が癒されるのでしょうかお通ちゃん...しかもつんぽって...

あのヘッドフォンだよね?あれだよね?この前見るはずない所で見ちゃった人だよね?

何変な入れ知恵してんのあのヘッドフォン!やっぱ色々話をつける必要があるね...)」

「もう一つは...あ、こっちこっち」


そして現れたのは――


「真選組マスコットキャラ、誠ちゃん」


背中に、矢の刺さった少女の死体を乗せた安っぽいケンタウロスの紛いモノのような、弓矢を構えたモノがでてきた。


「だから全然カワイクないよ!コレ真選組と何のつながりがあんだい!?」

「なんで死体背負ってんだ!?どっちだ!?どっちが誠ちゃんだ!?」

「馬の方だようかん」

「こんな哀しげな瞳をしたマスコット見たことねーよ!カワイイどころかお前っ...うっすら悲劇性が見え隠れしてるじゃねーか!」

「あーやっちゃったなー」

「やっちゃったって言ったよ?!何を?そういう事なの?!」


トシと二人で突っ込みを繰り広げると、近藤さんがフォローに入った。


「トシ、朔夜さん。今の時代ストレートにカワイイだけじゃ通用しないんだよーグルト。よく見てみろ、なかなかキモカワ...」


パン

しかし誠ちゃんに殴られ、喧嘩が始まった。

それをもはや止める気力もなく、視線をそらせば、茂みの向こうのベンチに座る知っている後ろ姿が見えた。


「!...(あれは...)」

「?朔夜さん、あの向こうの人知り合い?」

「...いや、なんでもないよ。気のせいだった。(あれは、つんぽ...いや、本当は違うんだろうね――おそらく...)」


小生が芸能業界に入った時に初めて知り合った男...その時からずっと今までつんぽとして付き合ってきたけど...

この前、見てしまったから...卿が晋助の横に立って此方を見ているのを...

やはり、近いうちに話さなきゃならないね...

どこか切なく思いながら小生は視線を外した。

その後すぐ、向こうが僅かに振り返り小生の姿を見ていた事を小生は知らなかった。


***


そして――カンカン


「テロ用心〜!!浪人一匹テロのもとうきびウンコ〜!!」

「テロ用心〜!」


こんな事を言いながら真選組一同は街中を歩いていく。

すると、前を歩く近藤の旦那とお通ちゃんが話しだした。

そして仲がいいのはわかるのだが、どこかぶっとばしたくなるバカップルみたいな会話を始めた時、

近藤の旦那斜め後ろを歩いていた、いつのまにか上半身が無い誠ちゃんの下半身から、腕が伸びて近藤の旦那の腕を掴んだ。


「てめェェェェェェェェェェェ!!何お通ちゃんといちゃついてんだァ!!」

「ぎゃあああああ!!」

「!」

「まこっちゃんがァァァ!まこっちゃんの中にもう一人のまこっちゃんがァァ!!」

「(いや今のは新八君の声...ということはやっぱりこの死体は神楽、上は...)」


そしていなくなった上半身部分を捜せば、すぐ近くの飲み屋から声が聞こえてきた。


「あ〜やっちゃったよ〜」

「!」

「(やっぱこの声銀時...)」

「やっちゃったなーオイ...やっちゃったよ〜。完全に猪かと思ったものな〜やっちゃったな〜」

「旦那、何が合ったかしらねーが、やっちゃったもんは仕方ねーよ。飲んで忘れちまいな」

「俺もさァ、反射的に矢を射ってしまったものな〜やっちゃったな〜オイ」

「「やっちゃったじゃねェェェェ/ないィィィ!!」」


ドゴォ、スパーンッ

トシの踵落としと、小生の平手を頭に入れる。


「お前何してんのォ!?マスコットだろ。なんでマスコットがこんな所で飲んだくれてんだよ」

「こんなマスコットは嫌だとかで例えられそうだよ!しかも真っ昼間から飲むな!」

「やっちゃったな〜まさか、あんな森の中で人間が出てくるとは思わないものな〜」

「ちょっとォォォ!なんか偶発的殺人事件の全貌が語られそう...」


その時、お通ちゃんが、集団下校の子供達に、誠ちゃんでいいイメージを植えつけようと誠ちゃんを呼んだ。

その呼びかけにこたえて走り出す、誠ちゃんっていうか銀時。

そして、間違って上半身を馬の身体に入れてしまい、『犬神家の墓』のようになって、走り出した。

やはり前は見えないらしく、その途中で死体の神楽ちゃんを落としたが、血糊を口から垂らした恐ろしい顔で神楽ちゃんは追う様に走り出した。




――結果、読者のご想像の通り、子供達は悲鳴を上げて逃げ去っていった。


「(あぁ...ですよねー)」


そして、誠ちゃんを銀時達だと気づいた真選組の皆が、銀時達万事屋3人をリンチするのを

お通ちゃんと(空覇は総悟君についていった)遠巻きに見ていると、後ろから急に口を押さえられ掴まれた。


「!?ーっ!!(敵!?)」


暴れようとするが、二人が掛かりで押さえつけられお通ちゃんとともに路地裏に引きずりこまれた。


「んぐーっ!!(くそっ!油断した!!)」

「っ暴れるな!」


ドスッ!


「がはっ!!」


鳩尾を殴られた衝撃で、眼鏡がカシャンと落ち、激痛に視界がぼやける。

ヤバイ、落ちる...


「その恰好でごまかしていたつもりだろうがやはりその顔...真選組女中の吉田朔夜!!」

「っ攘夷、浪士...か...」


うっわぁ...面倒くさいうことになった...

そう思いながら、小生は迫る暗闇に逆らう事も出来ず、隣で恐怖と不安で目を見開いて

小生を見ているお通ちゃんを、安心させようと笑いかけてからその闇に意識を沈めた。

でも、また皆に迷惑かけちゃうな...


〜Next〜

prev next