第七十一訓 鍋は人生の縮図っていうか戦争の縮図
ぐつぐつ
「っよし!良い感じ」
「わぁ、今日はすき焼きなんだ!おいしそうだね朔夜さん」
「ふふ、隊士の皆を呼んで来ておくれ空覇。今日は、皆で仲良くすき焼きパーティーと洒落こもう」
「はーい!」
とてとて〜
「...ふぅ」
まぁ...大体、男所帯ですき焼きや鍋がうまくいったためしはないが...皆大人だし大丈夫だろう。うん。
自分の分を確保する秘策もあるし。
そして目の前のいくつもの鍋を大広間に運ぶために、食堂の入口で、小生のことをずっと覗いていた一部の隊士たちに声をかけた。
***
そして――
「いただきます」
「いただきま〜す」
「「「「「「「......…」」」」」」
「(あぁ、これはやっぱり...)」
隊長格、平隊員関係なく隊士達が全員、箸を構えて、幾つもおかれている中の自分の一番近い場所に置かれている鍋をガン見している。
小生と空覇まで非常にとりにくい空気だ。
「...ちょっと、皆...今日年末なんだけど。楽しくやろうって企画したんだけど」
「「「「「「「わかってます、朔夜さん!!」」」」」」」
「いや分かってないよね!?ガチだもん!目がガチだもん!!楽しむどころか戦をしにいく男の目だもん!!」
「?朔夜さん、皆どうしたの?」
「はー...ただの意地の張り合いだよ。ったく、もう...」
箸を置いて、足を崩して周りを見やる。
「朔夜、今は黙ってろ。これは負けられねェ男の勝負だ」
「鍋に勝ち負けがあるの?ないよね?」
「女子供にはわからねぇんでィ。鍋奉行になり、鍋を支配するのは一種の天下取りでさァ」
「鍋の天下って何?鍋奉行ってそんなエライっけ?」
「鍋奉行はこの戦局を自由にできる存在なんです!」
「あれ?鍋って戦争?」
「「「だからこれだけは譲れねェ!!」」」
「...はぁ...もう勝手にしなよ」
そして小生は、傍観に回る事にした。
***
しばらくして
「...土方さん、ここは若いもんに譲りましょうや」
「ナマ言ってんじゃねーぞ、ここは上司に譲れや」
「じゃぁトシ、ここは俺に...」
「「それはダメでさァ/ダメだ」」
「なんで!?」
バチバチと火花があちこちで散る。
「(...いつまでやってるんだろ...)」
「朔夜さん、食べないの?」
「あー、今手ェだしたらおこられ...って、あれ?空覇何食べてるの?」
「ん?白滝だよ?」
「へぇ、白滝...え...空覇...鍋に手ェつけちゃったの?」
「え?うん、皆食べないからさっきから食べちゃってるよ?ほら」
そしてぽんぽんぽんと、睨み合う隊士達の下にある空になっているいくつもの鍋を指していく。
「...まさかの空覇が、鍋将軍か...(しかも全員周りへ牽制しすぎてて気付いてないし...)」
「なべしょーぐん...?」
「...ううん、気にしなくて良いよ。もう食べたいだけ食べちゃっていいからね。小生はちょっと出てくるから」
「?はーい」
そして立ち上がり部屋を出て廊下を歩いていると、少しして広間の方から、大騒ぎが聞こえてきた。
「(ようやく気づいたんだね...いやでも自業自得だよ...)」
そう思いながら、食堂の方に一人足を進めた。
***
そして――
「ふぅ...自分用にもう一つ作っといて良かった」
あんなのに巻き込まれたら食べれないし。
そう思いながら席について、箸をとって手を合わせる。
「いただきます」
「ほ〜...道理であんなに落ち着いてたんだな」
ガシッ
「と、トシ!?それに卿ら...!」
「自分の分はちゃっかり確保ってわけですかィ。さっすが朔夜さん。穏やかな顔でやってくれますねィ」
「い、いや...喧嘩は卿らの勝手...」
立ち上がり振り返って見えた黒い笑顔に慌てて弁明する。
「女中のお前だって、ここの仲間なわけだからなぁ?付き合う義務があるだろ」
「えぇ!?んな無茶苦茶な...」
「すまん朔夜さん!だが空覇ちゃんに食べられて俺達も腹が減ってんです...!」
「いや、だからって...」
「総員鍋を確保しなせェェ!!!」
「「「「「「おおおおおおお!!」」」」」
「ひみゃあァァァッ!!」
――こうして、小生は二度と男所帯で鍋物をやるものかと心に誓ったのであった。
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