銀魂連載 | ナノ
B



ガゥンッ――ブシュッ!


「っ、え...!!」

「「!!?」」


上から急に響いた銃声が耳に届いた瞬間、右肩にのけぞるほどの衝撃が走り、次の瞬間血が噴き出した。

一瞬訳がわからなかったが、それを確認して尻もちをついた瞬間、焼けるような熱さと痛みが肩に走り

思わず眉をしかめて、肩を左手で押さえる。


「っぁ...う゛...!!(撃たれた...!?)」

「朔夜!お前肩...!!」

「俺達がいながらお前の身体に...!!」

「っこんくらい...だい、じょ...ぶ...!(敵の中に銃はいなかったのにどこから...!!)」


撃ってきたと思われる方角を見上げれば、そこには、死ぬまでにもう二度と見ることはないと思っていた人物と、姿がよく重なる冷たい笑顔の男が見えた。


「!う、そ...」

「どうした朔夜!?(身体の震えが尋常じゃねェ...!)」


"「朔夜・・・お前みたいな誰からも必要とされないゴミ、なんで産まれてきたんだろうね?」"


もう、蓋をして久しい記憶が甦る。

何故、ここに...こんな場所にいるんだ...!?

抑えきれない過去に植えつけられた恐怖と悲しみに、痛みも忘れ身体が震える。


「...よ...に...え...ま...」

「朔夜...!?」

「...こよ、み...あに、うえさ、ま...!!」

「「!?(朔夜の兄...?!)」」


絞り出した小生の言葉に、小生を片腕で抱き上げて立ち上がらせてくれた銀時と、傍まで来て護ってくれてる小太郎がその方向を見た。


***


「ふふ...アレも少しは丈夫になったみたいだね」

「(この男...!)」

「てめェ...俺のもんになにしやがる」

「!おや...鬼兵隊総督君のおでましか...」


暦が嗤いながら銃を撃った時、ちょうど高杉が甲板に現れたようだった。


「質問に答えろ...俺は『茨姫』の首までやるたァ言ってねェぞ!」

「...ふふ...これは俺の個人的な話だよ。総督君」

「個人的だ...?」

「そう...あの愚妹、吉田朔夜...もとい常盤朔夜の実兄、常盤暦としてのね」

「!(朔夜の家の...!?)」

「(...複雑な家事情そうでござるな)」


***


「(あの狐目野郎が朔夜の...!!)朔夜、大丈夫だ...お前はもうアイツとは無関係だろ?!」

「!...むかん、けい...?」

「そうだ...もうお前が虐げられる日はこない!だから落ち着け!!」

「っ...そうだね...も、小生は...『常盤』じゃない...『吉田』...吉田朔夜だよね...?」


お義父さんの、義娘...義娘...小生はそれ以上でもそれ以下でもない...もう、あの家と関係ない...

そう考えると息がすっと楽になった。


「そうだ...お前は、吉田朔夜でいいんだ...他の誰でもねーんだ...」

「そ、だよね...あり、がと...もう大丈夫だか――」


その時、安堵した様子の銀時の背後から天人が斬りかかってくるのが見えた。


「――!銀時どいてっ!!」


どんっ!


「うぉ!?」


小生を立たせるように抱いてくれていた銀時の、大きな身体を力の限り突き飛ばす。

次の瞬間、自分の脇腹から久しぶりにリアルな肉が裂かれる音がした。


「っぐ...!!」

「朔夜さん!!」

「朔夜!?っ貴様よくも!!」


小太郎が激昂して、小生の脇腹を裂いた相手を斬り、それを見つつ、よろけた足を必死で踏ん張り、倒れるのだけは避ける。

痛いなと変に冷静に思いながら、辺りを見回せば、銀時が慌てて立ち上がるのが見えた。


「朔夜!!何してんだ!!」

「朔夜さんしっかりして!!」

「っ...つい、銀時が...あぶな、かったから...それ以上、傷おったら...っ死んじゃ、う...から...」

「一番死んじまいそうな奴が何言ってんだバカ野郎...!!(俺より自分を心配しろよ...!!)」


銀時の震えた怒鳴り声の中にある優しさに、思わず笑みが零れる。


「っふ...ひ、ど...それ、より...3人...とも...そろそろ、この船おり、よ...」

「「!」」

「でも...」

「こたろ、は...いつもの、で...小生と、空覇は...別の用意...ある、から...ね?」

「っ...」

「...わかった」

「朔夜さんが言うなら...」

「よし...」


その時、逃げようとしているのに感づいたのか、天人達が襲ってきた。

それを見て、銀時が小生の身体を片手で抱えあげ、小太郎と空覇とともに片手で剣をふるい、天人をなぎ倒しだした。

その中で小生は、消えそうな意識をつなぎとめながら、その用意を呼ぶため指笛を二回鳴らした。


***


「っ朔夜、銀時ィ!!」

「あ?」「っ、なに...!?」


敵を斬り倒しだして少しして、小太郎が斬りながら口をひらいた。


「世の事というのは、中々思い通りに行かぬものだな!国どころか、友一人変える事もままならんわ!」

「!こた、ろ...(気にしてたんだ...)」

「ヅラぁお前に友達なんていたのか!?そいつぁ勘違いだ!」

「斬り殺されたいのか貴様は!!」


そして銀時が、ちょっと手ごわい天人を斬り捨てたあと、二人は背中合わせになって、小生も二人の身体によりかかるようにして立つ。

ちなみに空覇はまだ一人で天人達と別の場所で戦っている。

そんな中、全員息を切らしながら背中合わせになったまま小太郎が、再び声を張り上げた。


「銀時ィィ!!」

「あ゛あ゛!?」

「お前は、変わってくれるなよ」

「!...」

「お前を斬るのは、骨が入りそうだ。それに、朔夜が大泣きするだろうからな...まっぴらごめんこうむる」

「ヅラ、お前が変わった時は...朔夜を泣かせる前に、俺が真っ先に叩き斬ってやらァ」

「二人、とも...」


言葉の真意に、絆はほつれてしまったことがわかり、少し悲しくなる。

だが、そんな小生に二人は穏やかに笑いかけてきた。


「...だが俺達は心配ねェか...」

「ふっ...そうだな」

「...?」

「俺達が、変わらないでいられる理由がここにしっかりいるからよ...」

「ずっと変わらないで、俺達を迎えてくれる存在がいるからな...」

「!...なら、小生は...いつまでも、変わらない、よ...」


変わらない事...それで、絆をつないだままでいられるなら、小生はずっと変わらないでここにいるよ

そして血濡れた肩とどくどくと血の溢れる脇腹を押さえたまま笑い返せば、

二人も呆れたような顔をしてから、目の前の春雨の艦の甲板に立ち、煙管を吸って此方を見る晋助に刀を向けた。

小生も晋助の姿を見つめる。


「高杉ィィィ!!そういうことだ!!」

「俺達ゃ次会った時は仲間もクソも関係ねェ!!」

「「全力で、貴様/テメェをぶった斬る!!」」

「せいぜい町でバッタリ会わねーよう気をつけるこった!」


そして小生も痛む傷口と、くらくらとしだした意識をとどめ、叫んだ。


「晋助の...っわからず屋!馬鹿!頑固者!中2ポエマー!っでも...小生は絶対、諦めないから!!空覇、っ行くよ!!」

「!うん!!」


そしてあっという間に此方に走ってきた空覇とも合流し、4人で一気に船から飛び降りた。

その際、とても冷たい笑顔の暦兄上様と、なんか見覚えのあるグラサンの男が立っているのが見えたが、

そんなのを気にする暇もなく、小生は小太郎がパラシュートを開いたのを横目に空中を落下しながら叫んだ。


「っ...カーラスおいで!」

「「カァー!」」


港の方から愛しい赤い眼にまっ黒い体の二体の発明品達が飛んでくるのが見え、小生の左腕を9号が掴み、

10号が同じように落ちていた空覇の腕を掴んだ。

そしれにより落ちるのが止まり、小太郎と小太郎にしがみついていると銀時に高度を合わせて、砲弾が上から降っていく中を飛ぶ。


「これすごいよ朔夜さん!」

「はぁ...なかなかのスリルだったね...」

「つーかお前、別の用意があるってそいつらかよ...懐かしいな」

「はぁ...っカーラス達は情報収集用に、江戸中に飛ばしてるから...この付近のカーラス二体を、呼んだんだ...」

「用意周到なこって、ルパンかお前らは」

「ルパンじゃないヅラだ。あっ、間違った桂だ。伊達に今まで真選組の追跡をかわしてきたわけではない」


そういって小太郎が、胸元から教科書を取りだした。


「しかし、まさか奴もまだコイツを持っていたとはな...」

「...小生達の始まりは、同じ場所だったのにね...」


そして小太郎とともに頭上の戦艦を見上げる。


「あぁ...なのに、ずいぶんと遠くへ離れてしまったものだな。銀時...お前も覚えているかコイツを」

「あぁ――、ラーメンこぼして捨てた」

「ふふ、っ...いたた...」


銀時らしい言葉に笑うと、意外に脇腹に深くきてた様で、滅茶苦茶痛い事に気づく。


「!朔夜大丈夫か?!」

「あー...うん...落ち着いてきたら、肩も痛くなってきた...それにちょっと血が足りないかも...」

「どこがちょっとだ!!」

「よく見たらお前血ィだらっだらじゃねーか!!早く帰るぞ!!」

「おー...体内の毒ばらまいてるみたいなもんだしね...やばいやばい。でも銀時達のほうが重しょ...」

「「お前より丈夫だからいい!!」」

「...はいはい」


そして小生達はすごく長く感じられた戦いを終え、家路へとつくのだった。



でも、晋助...小生は何度でも卿の手をこっちまで引っ張るから...絶対諦めないよ。

だって、お義父さんの死をまだ悲しんでる晋助が中にいるんだろう?

ちょっと傷つけられたくらいで、信じるのを諦めるのは小生じゃないだろう?

だから、またチャンスがあるのなら、何度でもこの声で、小生は卿の名を呼ぶよ...


...にしても一つだけ気になる...どうして、どうして...暦兄上様が、あそこに...

......いや、考えてはいけない気がする。言葉にしてはいけない気がする。


「(『常盤』なんて...もう忘れてしまえ...)」


小生の父は吉田松陽...この世で唯一人なのだから

そして、暦兄上様の事を胸の底にしまった。

...あ、そういえば煙管早急に買いなおさなきゃ。


***


その頃――


「...さっきの話は本当だろうな」

「あぁ、勿論だ総督君。俺としても、朔夜に自由にされていたら面倒になる...だから俺に協力してくれたら、朔夜の束縛に協力しよう」


そんな、黒い会話が交わされている事などまだ知らずに。


〜第五章 End〜

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