銀魂連載 | ナノ
第三訓 約束を破ったらしっかりと謝ろう




どうも、誤解でバイト先一個クビになった朔夜だよ。

あのあと長々と取調べを受けて、朝方ようやく解放されたんだよ。

今日はバイトがあるっていうのに...やれやれ。

それだけでも十分だというのに、それだけじゃ終わらないのが世の常であるわけだ。

小生は成り行きで、銀時と神楽ちゃん(新八君は帰った)とともに、脱獄犯の脱獄を手伝うことになり

なぜだろうか、アイドルお通ちゃんのライブ会場へと連れてこられた。

まったく・・・・・小生の時間を返してくれ


***


小生は暑苦しい会場から出ると携帯で、バイト仲間の一人に電話をかけた。


「あー、すみません。今日のバイトなんですけど、シフト入れ替わってもらっていいですか、長谷川さん。...あ、有難うございます。そのうち埋め合わせはしますよ。それじゃ」


ピッ

携帯を斬ると会場のほうから、一度見たことがあるお通ちゃんのお母さん兼マネージャーの女性と

(小生まで巻き込んで)脱獄した脱獄犯が出てきたのが見えて、とっさに柱の陰に隠れた。


***


小生は柱の陰で話をすべて聞いていた。

お通ちゃんの母親がいなくなると小生は男に近づいた。

反対側から銀時が近づくのが見える。

・・・あの様子だと、同じようにすべて聞いていたようだ。

小生は、銀時と逆の男の左側に行き、壁に背を預けて立った。


「ガム食べる?」「キャラメルでも如何かな?」

「んなガキみてーなもん食えるか」

「人生を楽しく生きるコツは童心を忘れねーことだよ」

「それに、娘さんの晴れ舞台を見るために脱獄などとは、子供のような愚か者でないとできないかい?」


皮肉るような笑みを浮かべて、からかうように言う銀時と小生に男は口を開き、十三年前の話をしだした。


***


過去の話を終え、渡すはずだった約束の薔薇も買ってこなかったからと

男は帰ろうとしていたが、そこに神楽ちゃんが走ってやって来た。

どうやら客の中にいた食恋族という天人のせいで会場が面倒なことになっているらしい。


「やれやれ...銀時といるとなぜこうも計ったように、面倒事に巻き込まれるのか...」


話を聞いてすぐ男は娘の元に飛んで行き、小生たちは三人であとを追っている。


「それはあれだ、運命の赤い糸」

「誰かその糸を消し炭にしてくれる良い方はいないだろうかね」

「酷っ!!え、今の結構来たよ!?銀さんグサッと来た」

「朔夜、私に任せるネ。

その糸私が引きちぎるヨ、それで私が貰ってあげるネ」

「ははは、神楽ちゃんなら小生は喜んでもらわれるよ」

「無視!?何これイジメ?イジメなのかコノヤロー。

というか朔夜!お前ら女同士じゃね?そんな不毛な恋愛、銀さんは認めないよ!?」

「うるさいねぇ。女同士の戯れを邪魔しないでくれないかい?」

「そうヨ。女同士の話に立ち入るなんて無粋ヨ」

「泣いていいかな?泣いていいよね?」

「慰めなくてもいいならね...と、着いたようだ」


小生は、銀時と神楽ちゃんに先ほど手折ったタンポポを持たせ、中に押し込むと

扉を閉めて、少し離れた場所のベンチに座った。

小生は窓の外の青空を見上げた。


「しかし、銀時たちに生きて会うことは二度とないと思っていたんだがね・・・・

全く不思議なものだ」


いま小生は、久々に穏やかな表情を浮かべているのだろうな。

こんな穏やかな気持ちはいつ以来か・・・


「フッ・・・らしくもないね」

「ほんとにな」

「・・なんだ、終わったのかい?早かったねェ」


隣に座った銀時の方を見ず、軽い調子で小生は話しかけた。


「まーな、それより今さらだけどよォ・・生きてたんだな、朔夜」

「何とかね...ところでさっきの二人はどうしたんだい?姿がないが...」

「あいつらは先に帰った」

「そう...追いかけなくてもいいのかな?」

「今はお前と居てェからいいんだよ」

「フフ、卿は変わらないねェ...」


銀時の変わらない性格に思わず笑みを零す。


「そういうお前も全然変わってねェだろーがよ」

「そうかい?死にかけてから、ちょっとは生まれ変わった気持ちでいたんだが...」

「どの辺が生まれ変わったと思ってたの?ねぇ?」

「いや、人を小馬鹿にした態度は慎むようになったかと...」

「いや、全然変わってないから」


――そこまで否定されると落ち込むなぁ・・・

そんな空気が伝わったのか銀時が頭をかきながらこちらを見ず言った。


「――まぁ、お前らしいままでいいんじゃねーか」

「銀時・・」

「お前のその性格が変わってる方が俺は嫌だしな。お前が遠くに行っちまったみてーで...」


少しだけ暗くなった銀時の言葉の裏を読んだ小生は

過去のあの日を思い出した。


***


――戦場――


「っ囲まれた...天人も馬鹿ではなかったということか...」


親指の爪を苛立たしげに噛む、今よりも幼い朔夜。


「おいおい、朔夜」

「まさかお前の策が通じぬ日がこようとはな」

「このままじゃ全滅だぜ?どーすんだ、天才軍師さんよォ」


朔夜を中心に守るような形で、三人の男たちが刀を自分たちを囲む敵に向けている。


「...卿等、3時の方向と6時の方向に、一部手薄な場所があるのが分かるかい?」

「あぁ」


小太郎が視線を動かし、頷く。


「卿等は、3時の方向に突っ込んでここを抜け、拠点に一時退去をしてくれ。体制の立て直しができたら、小太郎、卿が戦闘指揮を」

「了解した」

「朔夜はどうすんだ?」

「...小生は、6時の方向から単騎で抜けて、生存者と戦況の確認をしてから戻る。軍師である小生にはその責任があるからね」

「ひとりで行かなくてもいいだろ!?」

「いや、今回は小生の読みが甘かったがための負け戦だ。卿等まで付き合う必要はないよ」

「だがしかし...」

「ちゃんと帰る、だから大丈夫だよ...それに、悩んでる時間もないようだしね」


殺気だった天人達の方を見て冷静につぶやく朔夜。


「――わかった。だが一度態勢を立て直した時、お前が戻ってこなかったら迎えに行く。それまで、死ぬなよ?」

「ふふん、小生は天才だぞ?凡人如きに後れを取りはしないさ。そっちこそ帰る途中でザクッとか、惨めなことにならないように頼むぞ」

「バァカ、誰がなるかよ」

「それじゃぁ、行くぞっ!!」


3人の青年と1人の少女は別の方向に駆けだした。


***


「...悪かったね、あの時は」

「謝る必要なんかねェ。お前は生きてる。それだけで、俺ァ十分だよ...俺こそ約束も、お前も守れなくて悪かった」


強く、銀時に抱きしめられた。


「...卿等も生きていて良かった。近隣に住んでいた者に助けられ、奇跡的に一命を取り留めた後、卿等のことだけが心配だったよ。

何せ、小生のような天才の頭脳を失ったから、無理な戦をしていないかとね」

「――...はっ、やっぱお前は変わってねーよ」

「だが、このままの小生が良いんだろう?」


銀時の胸から顔をあげ、笑みを浮かべて覗き込む。

すると銀時と目が合い、何故か銀時の頬が赤く染まったのが見えた。


「?銀時、どうかしたのかい?」

「な!?こっち見んなっ!!(すっげー今の可愛いかったんですけど!)」

「??」


銀時が勝手に悶絶し始めた...何なんだ?


***


「それじゃぁ、小生はそろそろ帰るよ」

「あー...朔夜」

「何かな、銀時」

「お前アルバイターなんだよな?」

「あぁ、そうだよ。池田屋をクビになってしまったから、また新たなバイトを探すつもりだけどね」

「ならよー、俺のとこでバイトしねーか?」

「卿のところ?」

「あぁ、万事屋やってんだけどな」

「ふむ...再会したのも何かの縁、世話になってやろう」

「...マジでか」

「誘っといて何をいってるんだ」


銀時のあっけにとられた顔に思わず苦笑する。


「それで、いつ行けばいい?」

「あぁ、これる日に来てくれりゃいいから」

「分かった。それじゃぁね」


今度こそ小生は銀時と別れた。

その別れは、あの日の別れとは違いとても幸せなものに感じた。


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