第六十三訓 災難は続けざまに降りかかる。できれば、平穏に過ごしたい。
不気味なまでに大きな月に照らされながら、港の辺りまで小生達は歩いて来ていた。
「見つからないね...(小太郎...早く安心させてくれ)」
「マミー、ヅラならきっと大丈夫アル。アイツがちょっとやそっとで死ぬわけないアル」
「...そうだね(神楽に気を使わせるなんて...小生がしっかりしなきゃ。小太郎がそう簡単にくたばるわけないんだから...)」
眠そうにしながらも、元気づけるように言ってくる神楽の頭をなでて微笑み、心を持ちなおす。
「だからマミーも今日は一旦帰って、明日また一緒に捜...定春?」
小太郎の匂いを追っていた定春が、急にとまっていた。
「どうしたんだい定春?小太郎の匂いでもするの?」
「ワン」
そして定春がじっと見つめている先には、大きな船があった。
「(危険な感じがする...)」
「なんだろあの船?」
***
船を観察するように見ていると、別の路地から三人の明らかに危なそうな浪人が歩いてくるのが見え、慌てて近くに転がっていたものの後ろに隠れた。
「どうだ?見つかったか」
「ダメだ。こりゃまた例の病気が出たな岡田さん...どこぞの浪人にやられてから、しばらく大人しかったってのに」
「!(岡田...)」
聞こえてきた名前に、目を細め、注意深く話を聞く。
「やっぱアブネーよあの人。こないだもあの桂を斬ったとか触れ回ってたが、あのひとならやりかねんよ」
「!(岡田似蔵が、小太郎を?まさか...)」
「どーすんだお前ら、ちょんと見張っとかねーから。アレの存在が明るみに出たら...」
「(アレ...?生きた刀って奴と関係あるのか...?)」
そして言い合いながら3人は去って行った。
小生がそれを息を殺して見送っていると、その間に神楽が一枚の地図を書いて、定春に渡した。
「定春、お前は銀ちゃん達の所へコレを届けるアル」
「!神楽、卿も帰りなさ...」
「マミーをここに残して帰ったら、私絶対後悔する気がするネ。だから、一緒に行くアル。マミーは私が守って見せるヨ!」
「神楽...だがね...」
「私は全然大丈夫アル!だから定春、もう行くネ!かわいいメス犬がいても寄り道しちゃダメだヨ」
「ワンッ」
「上に乗っかっちゃダメだヨ〜」
こうして定春は去って、小生達だけが残された。
「...よし、行くか」
「...はぁ...神楽、無理したらダメだよ?」
「わかってるアル。でもマミーも無理したらダメアルヨ?」
「ふぅ...仕方ない。分かったよ」
そして船へと向かって静かに走り出し、忍び込んだ。
その頃銀時達が、どんな状況なのかも知らないままに――
***
また別の場所では...
「(帰ってこねェ...)」
屯所の私室で、落ち着かず煙草の煙を吐いていた。
「(アイツに限って、勝手に仕事早退して、なんの連絡もせずに戻ってこねーなんてありえねェのに...)」
俺の手の中で握られた煙草の箱がくしゃりと潰れる。
「(まさか、もう高杉の野郎にまた...いやまだ決まった訳じゃねェ...くそっ...落ち着け俺!)」
頭によぎる嫌な思考に、祭りの時のシーンを思い出し、煙草の箱を放って、がしがしと頭をかく。
その時、スッと襖が開いた。
「――土方さん...」
「っ空覇か...どうした?」
明らかに落ち込んだ様子の空覇に問いかける。
「朔夜さん、今日バイト先も、行きそうな所も町中探したけど...家にも帰ってないし、どこにもいないんだ」
「!...なんだと?」
遠出とは言ってたが...江戸にいねェのか?
だったらますますおかしい...絶対何か言ってくはずだ。
「...僕、もっと朔夜さん捜してきます!」
ダッ
「!おい、空覇!!」
空覇は俺の言葉も聞かず、あっという間にいなくなった。
「チッ...!(だが空覇は並の戦闘能力じゃねーし...大丈夫か...)」
今更追いかけても追いつけないだろうと思い、再び畳の上に腰をおろし、煙草を大きく吸い込んで吐き出した。
「はぁ...何処行ったんだ朔夜...」
お前が俺の近くにいなかったら、守ってやれねェだろーが...
「(でも俺は、ここまで思ってても...探しにもいってやれねーんだな)」
そしてまだ長い煙草を、自嘲と煮え切れないような気持ちと共に、灰皿へと押し付けた。
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