第六十一訓 理想の彼女は南ちゃん。でも理想の彼氏は人それぞれ
〜♪
「?...大江戸病院?」
仕事の休憩中に携帯に病院から電話がかかってきた。
画面に表示された病院名に電話に出れば、それは最近よく銀時と共に世話になっている医者からだった。
そして告げられた台詞に思わず声を上げた。
「バイクが爆発して、銀時が地上30メートルから川に落下したァ!?なに?どういう事ですかソレ!?」
『理由は知らないけどね...まぁ、とりあえず入院してる事教えといた方がいいかなと思って』
「そ、そうですか...(何がどうしたらそうなるんだか...)」
そう思いつつ電話を切り、病院に様子を見に行こうと、早退の旨を店長に伝えに行った。
***
例のごとく買ったフルーツ籠を持って病院につき、教えてもらった病室の近くまで来たら、銀時の叫び声にも似た大声が聞こえてきた。
「――なんでよりによって動けねー時にアツアツのオデン!?それもガンモ!?」
「!銀時、また何やって...」
「あっ!朔夜ァァ助けてくれェェ!!」
「...ほんとに、何?この状況」
慌てて病室に入ってみれば、ベッドに座っている銀時の足の上に跨り
おでんのがんもを食べさせようとしているナースの恰好のあやめちゃん、そしてその隣のベッドには全蔵がいた。
「あら朔夜さん、一足遅かったわね。ぎっちゃんはもう私のものよ」
「は?え?(ぎっちゃん?ていうか何の話?)」
「朔夜に何言ってくれてんだお前!?違うからね朔夜!」
「照れるんじゃないんだゾv」
「照れてねーし!つーかがんも食わせようとすんな!!」
「家庭的な味にうえてると思ったんだゾv」
「(え、もしかして小生お邪魔?)」
「ゾの使い方がおかしくなってきてんぞ!」
「他の患者さんには内緒だゾv」
すると全蔵が、軽くからかうとあやめちゃんによって肛門にちくわを挿され、倒れていた。
「(ぜ、全蔵...痔なのに...)」
「朔夜さんはそこでぎっちゃんが私の者になっていくのを待っていればいいわ!」
「は?だ、だから全然意味が...」
「それじゃぎっちゃん、ちょっと横になってくれる?」
小生の言葉を全く聞かず、銀時の包帯を変えようとして、自分を亀甲縛りにしてから
今度は銀時をSM式に縛り上げ、何故かろうそく片手に天井につるそうとしだした。
「いだだだだだだ!!何しやがるんだァァァァナース長ォォ朔夜ァァ助けてくれェェェ!!」
「あ、あやめちゃん!そんなにしたら銀時が...!」
「貴女は私のぎっちゃんへの愛の介護に口を出さないで」
「ええ!?し、しかしだね...」
そんなやり取りを見て、全蔵がナース長を呼ぼうとナースコールを押そうとすれば、今度はちくわの代わりにろうそくを挿されていた。
「(か、可哀想すぎる...)」
思わず全蔵のベッドに近寄り、ポンポンと背中をさすった。
「朔夜...す、すまねェ...」
「気にしないで...むしろ大丈夫?」
「おう...なんとかな...(相変わらず優しい女だぜ...)」
そして、さっちゃんはサンデーを買いに病室を出て行った。
その後ろ姿を3人で眺めると、銀時が静かに口を開いた。
「......お前らさァ、『ミザリー』って映画しってる?」
「...ケガして動けない作家が、看病と称してオバちゃんにボコボコにされるのでしょ」
「アレ恐かったよなーオバちゃんの演技がスゴクて...」
その途端二人が慌ててベッドから降りようとしだした。
「あっ二人とも、危ないって!」
「ここにいた方が危ねーよ!!」
「ちょっ...ちょっ待ってくれ!」
ガシッ
「ふあっ?!」
「朔夜!」
ドサッ
腕を掴まれて引かれ、思わずベッドに仰向けに倒れ、必死の形相の全蔵に上にかぶさられた。
「な、なにす...」
「コレどっちかろうそく抜いてくれ!!」
「えぇ!?」
「んなの朔夜の上からどいて、てめーで抜けや!なんで俺達が!」
「ダメだ、痛くて抜いたら何か大切なものも抜けていってしまいそうな気がする!」
「オメーは肛門に夢や希望までもつまってんのかァ!!ったく俺が抜くから、抜いたら朔夜の上からどけよ!」
「と、とりあえずどい...」
その時――
「銀ちゃーん!元気にしてるアルかァァ!!」
「お見舞いにきましたよォ!!」
「「「...」」」
見舞いに訪れたらしい新八君、神楽、長谷川さん、お登勢さん、キャサリンの姿に、
思わず小生は全蔵に押し倒されているようにしか見えない姿、全蔵と銀時は相手から見たらSМしてるようにしか見えない姿のまま止まる。
そして次の瞬間
「マミーと銀ちゃんのばかー!!」
バタバタ
「いや...あの、悪かったな。神楽ちゃんにはそういう世界があることも伝えとくから」
そして長谷川さんの言葉を最後に、皆白けた目で帰って行った。
「おいィィィィ!」
「ちょ、ちょっと待ってェェェ!」
「違うから!俺達そーいうんじゃねーって!!」
「「そういう世界って何!?どーいう世界!?」」
必死で叫んだあと、二人で全蔵を見る。
「どーしてくれんの全蔵ォ!」
「お前コレ帰って説明しても絶対なんかフワフワしたカンジになっちまうよ!」
「悪かったな。俺も一緒に行って説明するわ」
「余計怪しまれるから来ないでくれ!今後俺達と同じコマに立つな!」
そしてとりあえずさっさと逃げようと、こそこそと病室を出ようとした時、見た事のない医者に会った。
「オヤオヤ坂田さん、服部さん。ダメですよ、ケガ人が勝手に動いちゃ」
医者は、二人に話す事があると銀時と全蔵を連れていった。
残された小生は違和感を覚えつつも仕方なく一服してから帰るかと、歩き出した。
***
一服を終えて、病院内を出ようと歩いていると近くの階段の方からガシャァンと凄い音がしてきた。
その音に驚いて、そちらへと向かってみれば医療用品を運ぶためのカートを倒したあやめちゃんが立っていた。
「!あやめちゃん」
「!...朔夜さん...」
「音がしてきてみたら、あやめちゃんだったとは...大丈夫かい?」
「私は大丈夫よ。それより私、仕事があるから...」
そういって小生の脇をすり抜けたあやめちゃんの目は殺し屋のものだった。
「...今回の標的は黒田とかいう男かい?」
「!...」
振り返らず言えば、あやめちゃんが足を止めたのがわかった
「確かに噂じゃ、イキの良い患者から臓器を奪っては売買している男だったかな...」
「...貴女は、本当に詳しいわね」
「まぁ噂や情報がよく入ってくるだけだよ...その医者の顔も知らないしね」
「そう...でもあまり裏に首を突っ込むと命取りよ?」
「...危険はいつでも承知の上さ」
振り返ったあやめちゃんの鋭い眼に、小生も振り返り、ただ笑い返しそう答えた。
「...本当に、酔狂な女(ヒト)ね」
「ふふ、そうかな...しかし、卿も随分急いでいるようだが...何か急がねばならない理由でも?」
「銀さん...ついでに全蔵が、次の標的なのよ」
「!二人が...なるほど、あの男がそうだったか」
あやめちゃんの言葉に一瞬驚くも、先程見た厭らしい顔で笑っていた医者の男を思い出し合点がいく。
「...だから私が、始末をつけてくるわ」
「ふむ、そうか...小生も一緒に、と言いたいが卿の仕事なわけだしね...今回は大人しく待っているよ」
相手は小物ほどの犯罪者...プロの始末屋のあやめちゃんなら任せて大丈夫だろう...
なにより、小生が立ち回るにはここは公共の場すぎるし...小生がいては狭い室内、やりにくくなること請け合いだろう。
「今頃二人は手術室...あやめちゃん、二人のことお願いね」
「...貴女に言われなくても私の銀さんは、私が助けるわ」
「ふふ、そうだね」
「貴女は大人しく、全蔵の帰りでも病室で待ってなさい」
「うん、そうするよ」
そしてあやめちゃんはダッと走り去って行った。
「はぁ...(小生もちゃんと戦えたらなァ...)」
そしたらこんな、もどかしい気持ちなどなくなるだろうに――。
「ほんと、まだまだダメだ...」
周りが向けてくる優しさと強さに甘えてる。
甘えるなんて、しちゃいけない...自分で、なんとかできるようにならなきゃ。
「(このままじゃ、また何も守れない...)」
もっと頑張って、頑張って、頑張って...小生は、強く生きてかなきゃ
「頑張らなきゃ、ね...」
小生の存在を認めてくれる人が、こんなにいてくれる...今の幸せを誰にも奪われないように
自分の魂とあの人に誓った言葉だけは――
この心に抱えた大切ないくつもの約束だけは――
「(けして...嘘に、しないように)生きてる限り、頑張るから――...お義父さん...」
ポツリと呟いて、階段の踊り場の壁に凭れかかり、窓から見える眩しいくらいの青い空に目を閉じた。
***
それから病室に戻って3人を待っていれば、3人は無事に戻ってきた。
黒田は逮捕され、銀時は一週間ほどで退院したのであった。
勿論、帰って全蔵とのあのことでなんとなくフワフワした感じになって、誤解が解けるまでひと騒動あったが、それは置いておく事にしよう。
でも、ほんと賑やか...でも、こんな馬鹿騒ぎの、いつも笑ってられる楽しい日々がこれからも続けばいいな...
そんな未来を願いながら、小生は騒ぐ皆のそばで、今日も笑った。
〜第四章 End〜
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