第六十訓 一分の虫にも五分の魂。みんなみんな生きてるんだよ
「よいしょ...」
あの喧嘩のあと、真選組と別れ森も暗くなってきた頃、小生は先に夕飯のカレーを食べていてと銀時達から少し離れ、持ってきていたネットをひそかに森の木にしかけにでかけていた。
そして最後のネットをしかけ、3人の所に戻ってみれば――
「...何やってるの?3人とも」
「「「!朔夜/朔夜さん/マミー!!」」」
カレーを鍋ごとひっくり返したまま喧嘩をしている3人がいた。
「...とりあえず三人とも、正座してくれるかな?」
そうして並んで正座する三人に説教をしたのはいうまでもない。
小生まだ何も食べてないのに...はぁ...
***
「「「...」」」
「(食べなくても精神的には平気だけど...やっぱり胃がちょっと気持ち悪いな...)」
説教を終えて仕方なくそれぞれ寝袋、小生は寝袋が苦手なので、ブランケットにくるまって寝ることになったが、全員意識があるままのようだ。
そんな中、新八君が口をひらいた。
「おなかすいて寝れないんですけど」
「気のせいだ」
「気のせいなんかじゃないネ!純然たる事実アル!」
「てめーは一皿たいらげてただろ」
「一杯じゃなくて、いっぱい食べたかったネ!マミーの作ったカレーだったのに!」
「鍋ひっくり返したのはお前も同罪だ。つーか俺だって朔夜のカレーもっと食いたかったわ」
「知らないアル。あーあ、詩織ちゃんちはカレーおかわりし放題なのになァ〜いいなァ〜」
「ヨソはヨソ!ウチはウチ!」
「...いいからさ、寝ないかな?」
「「「ゴメンナサイ」」」
その時、何か香ばしい匂いがしてきて、隣の神楽ちゃんが体を起こしたのに続いて、体を起して全員でそちらを見れば
少し離れた所で、楽しそうにバーベキューをする真選組の皆と空覇が見えた。
「!」
「おや...」
「うめェェェェ!!やっぱキャンプにはバーベキューだよな!」
「カレーなんて家でも食えるしィ!福神漬もってくるのめんどくせーしィ!(すいません朔夜さん!そんなこと思ってませんからッッ!)」
「(カレーはそんな風に思われてたのか...)」
退の言葉にちょっと落ち込みながらも、バーベキューを楽しむ皆を見ていた。
横では3人が寝袋でみの虫になったまま、見事によだれを垂らしている。
その姿に呆れ、悲しくなっていると、総悟君が数歩先までやってきた。
「よォ、旦那方まだいたんですかィ?」
「(うわぁ...これ見よがしにきたよ)」
「そんな粗末なテントで寝てたら蚊に刺されますよ」
その時総悟君がわざとらしく食べていた串を落とし、食べても良いですよと言って去っていった。
それにいらついたらしい三人は寝袋から出ると、対抗するように焚火で酢昆布を焼いて食べだした。
若干目が病んでいる3人に痛々しさが増す。
「ワハハ、キャンプにはやっぱり酢昆布だよな〜」
「バーベキューだって!恥ずかしくない?ベタじゃない?ダサくない?シティー派は酢昆布アルヨネ」
「(そんな状態で意地の張り合いしなくても...というかそこまでお腹すいてたの3人とも...)」
そんな風に思いながら張り合いを見ていると、空覇が寄ってきて、小生に一本の串を差し出した。
「はい、朔夜さん!」
「空覇...でもこれは...」
「土方さんがね、朔夜さんなら別にあげても良いって言ってくれたから」
「!トシが...」
驚いてトシの方に視線を向ければ、丁度此方をうかがっていたらしいトシと視線があったが、
不意打ちを食らったような顔をして、トシはぱっと目を逸らした。
そんな姿と不器用な気づかいが嬉しくて、思わず微笑がこぼれる。
「空覇、ありがとうね。トシにも礼を伝えておいておくれ」
「うん、わかった!」
そして空覇は真選組の方に戻って行った。
その姿を見送った後、少しだけ串に刺さった野菜を齧った。
「ん、おいしいなあ...」
ありがとね、空覇。それに、トシ。
心の中で感謝しつつ、神楽が真選組の所に行って嫌がらせに吐いているのもしらず、皆に背を向けて、バーベキューをほおばった。
でも、真選組はなんの職務についてるんだろうか?
***
――そんなこんなで真選組の皆がなんやかんやで帰って行ったあと眠りにつき、翌日となった。
小生達万事屋は、今日こそカブトムシを見つけようと再び森を歩いていた。
「(見つからなかった時は、あとで仕掛けた所連れてってあげようかな...)」
そんな事を思っていると、ちょっと離れた場所から神楽の小生達を呼ぶ声が聞こえた。
「?どうしたんだい神楽」
「あ、マミー!見て見てアレ。あそこに変なのがいるアル」
「変なの?」
「あー?変なのってお前また毒キノコとかじゃねーだろうな。変なもんばっか見つけんだもんよ、お前」
「違う違う、アレ」
そして神楽が指差した先を見る。
「金ピカピンのカブトムシアル」
「おや...確かにカブトムシっぽいね...?」
その時、がさっと茂みから音がした気がしてそちらを見たが、別に何もなかったので
再びその金色のカブトムシ(?)に視線を戻した。
「うーん、しかし金色のカブトムシなんて初めて見るな...」
「オモチャかなんかじゃないんですか?」
「違げーよ。アレはアレだよ、銀蠅の一種だ。汚ねーから触るんじゃねーよ」
「それはないでしょ...」
「いや絶対そうだって」
「えーでもォ、カッケーアルヨ。キラキラしてて」
「ダメだって。ウンコにブンブンたかってるような連中だぞ。自然界でも人間界でも、あーいういやらしく着飾ってる奴にロクな奴はいねーんだよ」
「頭が銀色の人に言われたくありませんよ」
「確かに十分派手だよね」
「俺は違うよ。コレは白髪だから。それに生活も素朴だろ」
「ハイハイ」
そう言うと二人はさっさと行ってしまった。
「...」
「...神楽、小生達も後を追おうか」
「...うん。そうアルな」
手を握ってきた神楽の手を握り返し、小生達も後を追った。
そして追いついて歩いていると、神楽の頭に先程の銀蠅の一種が乗ってきた。
「あ...」
「うおっ汚ねっ!!お前頭に金蠅乗ってんぞ!!」
「え?」
「うわっ!!」
「ちょちょちょ動くな、動くなよ!朔夜も離れてろ!」
「う、うん」
小生が離れると、銀時が金蠅を追い払おうと神楽ちゃんの頭を何度もはたく。
「いたい!いたいアル!」
「ぎ、銀時!神楽も蠅も可哀想だよ!」
「仕方ねーだろ!金蠅だぞ金蠅!コイツは今ウンコと見なされてんだぞ!!」
「だからって...」
「待てェェェ!!待てェ待てェ!!」
「!(近藤の旦那に、トシ!?)」
大声に振り返れば、二人が走って来ていた。
「それヤバいんだって!!それっ...!!」
ガッ
ドゴォ
「ぶごォ!!」
「え゛え゛え゛え゛え゛!!」
何かに引っかかってこけたらしい近藤の旦那が、神楽の上の金蠅めがけてチョップした。
その衝撃で金蠅が神楽の頭から落ち、神楽が頭を痛そうに押さえて、金蠅を拾い上げる。
「いったいなァー!!ひどいヨみんな!!金蠅だって生きてるアルヨ!!かわいそーと思わないアルか!?ねっ、マミー!」
「神楽は優しいねェ」
「待てェェェ!!金蠅じゃないんだそれっ...それ実は...」
「この子私を慕って飛んできてくれたネ」
「おいちょっときいてる!?」
「この子こそ定春28号の後を継ぐ者ネ。今こそ先代の仇を討つ時アル!いくぜ定春29号!!」
そう言って走り出して行ってしまった神楽にトシが声を上げた。
「オイぃぃ!!待てェそれは将軍の...」
ぐい
銀時が無言でトシの襟を掴んで引っ張った。
「将軍の...何?」
そして、ニタリと企むようなS全開のような笑みを浮かべ、問いかけた。
そして、観念したらしく二人がカブトムシを取りにここにいる理由の真相を、神楽の後を追いながら話しだした。
***
「はァァァァァァァ!?将軍のペットぉぉ!?」
「そうだよ」
話を聞けば、あの金蠅だと思われていた虫は、将軍のペットであることが判明した。
「俺達は幕府の命により、将軍様の愛玩ペット『瑠璃丸』を捕獲しにきたんだ」
「あらまぁ...随分な一大事だね」
「どうりでおかしいと思いましたよ」
「オイオイ、たかだか虫のためにこんな所まで来たの?大変ですね〜お役人様も」
馬鹿にしたように言う銀時の台詞にトシが青筋を立てつつ苛立たしげに鼻を鳴らした。
「だから言いたくなかったんだ」
「まァまァ、事ここまでにおよんだんだ。こいつらと朔夜さんにも協力してもらおう」
「協力?今そのロリ丸は俺達一派の手の内にあるんだぜ」
「瑠璃丸だ」
「こいつはとり引きだ。ポリ丸を返してほしいなら、それ相応の頼み方ってのがあんだろ」
「瑠璃丸だ」
「六割だ。そいつをつかまえた暁にはお前らも色々もらえんだろ?その内六割で手を打ってやる」
「...やれやれ(銀時らしいね)」
「だから言いたくなかったんだ」
「俺もそう思う」
そして銀時と新八君がしてやったりと高笑いしていると、切り立った崖が道を遮っていて、
その上を見れば、どうにも緊迫した空気の神楽と総悟君が対峙していた。
その近くには空覇がいて、なんだかワクワクしている様子だった。
「総悟!?」
「それに空覇も...」
「アレ?何やってんの?嫌な予感がするんですけど」
するとその嫌な予感は的中し、神楽と総悟君の二人はカブト相撲を始めようとしていた。
「ちょっとォォォ!!カブト相撲やるつもりですよっ!」
「ヤバイねェ...」
「神楽ァきけェ!そいつは将軍のペットだ!傷つけたらエライことになるぞ!切腹モンだよ!切腹モン!」
「トシィ!!」
「まァ待て。総悟が勝てば、労せず瑠璃丸が手に入る。ここは奴に任せよう」
「だがね...」
「総悟も全て計算ずくで話に乗ってるんだろう。手荒なマネはしねーよ。そこまでバカな奴じゃねェ」
トシの言葉にそれもそうかと思い、再び見上げれば総悟君は巨大カブト虫を登場させた。
「凶悪肉食怪虫カブトーンキング。サド丸22号に勝てるかな?」
「わ〜総悟のカブトムシすごい!」
「「「「「(そこまでバカなんですけどォォ!!)」」」」」
小生達の心が思わず一つになった。
そして上の二人に、銀時とトシが止めるように叫ぶが、火のついた二人はやはり止まらず、
直接止めるために崖の上まで登ろうとするが、ここでも銀時とトシの間で小競り合いが起こる。
「よし、お前が土台になれ!俺が登ってなんとかする!」
「ふざけるな、お前がなれ!」
「言ってる場合じゃねーだろ!今為すべき事を考えやがれ!大人になれ!俺は絶対土台なんてイヤだ!」
「銀時が大人になろう!」
そんな小競り合いをしている間に、二人の相撲が勃発してしまい、その瞬間侍4人の心が一つになり
3人が人間梯子を瞬時に作り上げ、銀時がそれを使って崖の上へ跳ねあがり、サド丸22号を蹴り飛ばした。
そして不満そうに銀時に反発してくる二人の頭を殴り、正座させた。
「バッキャロォォォ!喧嘩ってもんはなァ!てめーら自身で土俵に上がって、てめーの拳でやるもんです!
遊び半分で生き物の命弄ぶんじゃねーよ!殺すぞコノヤロー!!カブトだってミミズだってアメンボだって、みんなみんな...…」
その時――メキッ
銀時の足元で嫌な音がして、銀時が足をどけると、そこには潰れた瑠璃丸の屍があった
崖によじのぼってそれを見た、小生達の顔も思わずこわばる。
「...みんなみんな死んじゃったけど友達なんだ......だから連帯責任でお願いします」
「ばっ、馬鹿ァァァァ!!」
森に小生の声が思い切り響いた。
その後、何を言ったのかはしらないけれど、真選組が切腹の危機に晒されたようだが、何とか生き延びたようだった...よかった...
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