銀魂連載 | ナノ
第五十八訓 渡る世間はオバケばかり。そんな世界じゃ怖くて生きていけない




「わぁ〜賑やかだね朔夜さん!」

「そうだねェ」


今日はかぶき町内の夏祭りで、神社の石段の下の方にずらりと出店が並び、人が溢れて賑わっていた。

そこに小生と空覇は、万事屋が今年の肝試し担当と言うので、

冷やかしと空覇の社会見学も兼ねて浴衣を着て祭りへと来ていた。

纏紅草の煙を煙管から燻らしながら、屋台を見て目を輝かせる子供らしい空覇に、小生は少しだけ頬を緩めた。


***


「朔夜さんって金魚すくい上手いんだね〜」

「ん?縁日が大好きだからね...子供ん時からよくやったんだよ」


肝試しに行く前にと、目にとまった金魚すくいで久々に少し遊ぼうと思いやったら、思いのほか燃えて、

金魚をお椀何杯分もすくってしまい、店主に泣いて金魚蜂も付けるからもうやめて!と止められ、数匹だけ貰って帰る事にした。

屯所にでもおいといたら、民間人の恐怖感も少しはよくなるだろうし、隊士達も多分癒されるだろう。

近藤の旦那は、多分喜んで置かせてくれるな。

トシが少し眉間に眉を寄せそうだけど・...まぁなんだかんだ優しいから、多分赦してくれる。

でも餌代わりにマヨネーズ浮かせないよう言っとかないと。ほっといたら、野良ネコにもマヨネーズあげ出す男だし。

そんな今の日常の一コマと化した平和に緩んだ思考に、少しだけ温かい気持ちになりながら、肝試しへ向かうため、石段を登る。


***


たどり着いた鳥居の所には、受付役らしい顔を知っている町人の男がいた。


「あっ、朔夜先生!」

「やァ、今年は友達がオバケ役なんでね...冷やかしに来たよ」

「そうでしたか。あ、じゃあまた今年も中には入らないんですか?」

「そのつもりだけど...」

「ねぇねぇ朔夜さん!肝試しって何?」

「そうだね、体験してみようか...この子が興味あるみたいだから中に入るよ(脅かし役は銀時達だからぐずぐずだろうし、平気かな...)」

「そうですか、わかりました。じゃぁどうぞいってらっしゃいませ」

「ありがとう」


そして小生達は、奥へと入って行ったのだった。


***


暗い神社中を提灯片手に進んでいく。


「空覇、足元暗いから気をつけるんだよ(雰囲気あるな...)」

「う、うん...なんかオバケでそうだね...」

「肝試しだからね。でも脅かし役はぎん...」


その時――

ガサッ


「朔夜!」

「(!この声は...)ぎんと...」

「やあァァァァァァ!!オバケー!!」


バキィ!


「ぐぼっ!!」

「えっちょ、空覇!?」


草陰から出てきたドラキュラに扮した銀時を、空覇が泣きながら思い切り殴り飛ばし

一人で目にもとまらぬ速さで走っていってしまった。


「...いつの間にかあんなに恐がりに...」


後日、話を聞けば、総悟君にその手の本やらを沢山見せられて完全に恐くなってしまったらしい。

だがまぁ、その話は今は置いといて、若干伸びている銀時と

飛び出してきた神楽と新八君に別れを告げて、小生は再び空覇の走り去ったほうに歩き出したのだった。


***


「ごめんね空覇。そんなに怯えるなんて思わなくて」

「うぅ...オバケ恐いよ...」


しばらくして、肝試しの出入り口で泣いていた空覇と合流したが、いまだ怯えが抜け切れていないようなので、屯所に迎えを頼んだ。

なので小生達は今、祭りの入口で待っている。


「そろそろ迎えが来るからさ」

「うん...」

「(あぁ、完全にオバケ嫌いになっちゃったねコレ)」



そうして待っていると、一台のパトカーが目の前で止まり、運転席の窓から一人の見知った男が顔をだした。


「あ、土方さん!」

「おや、トシとは意外な人選」

「俺で悪かったな。他の奴がたまたま空いてなかったんだよ」

「卿じゃ嫌なんて言ってないよ。ただ意外でびっくりしたんだよ。むしろ急に迎えを頼んで悪かったね」

「いや...気にすんな。いくら空覇が強くても女二人じゃあぶねーしな...まァ、とりあえず乗れよ(今日は浴衣なのか...)」

「うん、ありがとうね」


そしていそいそとパトカーに乗り込んだ。


***


「...本当は仕事終わってないのに来てくれたんだろう?」

「...藪から棒に何言ってんだ。んなわけあるか。とっくに終わらせて一服してからきた」

「――ふふ、そうだね。ごめんね(その割には煙草の匂いより、墨の匂いの方が濃いよ)」


後部座席で眠ってしまった空覇を気にしつつ、運転するトシの横顔を見て小さめの声で話す。


「だがお前...浴衣なんて着るんだな」

「え?あ、あぁ...たまにはね。折角のお祭りだしさ」

「そうか...新鮮で、良いんじゃねぇか?(それに、やっぱこいつ綺麗だな...)」

「!そうかい...?ありがとうね」

「た、たいしたことじゃねーよ」

「...あ、そうだ。一つお願いがあるんだけど」

「?なんだよ?」

「この金魚なんだけど、屯所で飼っちゃ駄目かな?」


そして赤い金魚が中でゆらゆらと泳いでいるビニールを見せる。


「また急な...つーか屯所で金魚ってお前...」


あ、予想通り渋った。

だんだん小生もトシのこともわかってきたなぁ...

そんなことを思いながら続ける。


「ほら、民間人からの恐いってイメージも少しは緩和する助けになるかなって、それに隊士達の癒しになりそうじゃない?

世話はちゃんと小生と、小生がいけない時は空覇がするからさ」

「まァ、一理あるな......分かった。玄関辺りで飼っていいぞ」

「よかった!ありがとうトシ」

「別に...そこまで強く断る理由もねェしな」

「ふふっ、でも嬉しいよ」

「そうかよ」

「うん、だからお礼ね」

「あ?礼?」


持っていたビニール袋からマヨネーズをたっぷりかけてもらったたこ焼きを取りだし、ミラー越しに見せた。


「!朔夜お前...」

「コレ頼むの結構恥ずかしかったんだからね」

「恥ずかしいってのはわからねーが...俺に?」

「他にコレを誰に上げるってんだい」

「なんでまた...」

「それは、いつも仕事を人一倍頑張ってるから労いだよ。あと、さっきも言った通り金魚のお礼」

「...」

「貰ってくれるかい?」

「...あぁ、勿論だぜ。ありがとな」

「いえいえ。こっちこそ、いつもありがとうね」


そしてトシは、ネオンの中を少し速度を上げて車を屯所に走らせるのだった。


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