第五十六訓 人に会う時はアポを。人ん家に入る時は手土産を
「ここが橋田屋か...」
目の前の巨大ビルを見て銀時が呟く。
「とりあえずノリで来ちゃったけど、一応相手社長だから会えるかね?」
「社長だろーが同じ人間だろ。神は人の上に人を作らないってどっかの誰かも言ってたし問題ねーよ。ほら行くぞ」
スタスタ
「あ、ちょっと待ってよ!もうー」
そして小生達はビルに足を踏み入れた。
***
「だから社長に会わせてくれっていってんの」
「なんとかならないかなァ?一応手土産もあるんだけど」
ビルに入り、受付嬢に声をかけ、手に提げたフルーツ籠をみせた。
「失礼ですが、アポの方はとられていらっしゃいますか?」
「なんだアポって。あっ、アレ?北国のフルーツ?社長好きなの?青森アポォ。それフルーツ籠の中入ってたっけ?」
「appleじゃないし、なんでそこだけ英語?appointmentの事だよ」
「もっと意味わかんねーし。なんなんだよアポとかコボちゃんとかよォ。こっちは社長に会いてーだけだっつーのな」
「あぽっ」
「まぁ確かに面倒くさいよね」
「そーだよ。最近の日本はな、なにをするにも色々手続きが面倒でフットワークが悪い時代なんだよ。
あ゛ーあ゛!一体日本はどこへ行こうとしてるのかねェー!!」
「ばぶー!!」
「すいません、あんまり騒がないで頂けます?」
「あーうちのものが悪いねェ...」
その時、一人の受付嬢が銀時に背負われた赤ん坊を見て何か引っかかったような顔をした。
「......アラ?ちょっと待って、その子ひょっとして社長の...」
ドォォン
「「!」」
上の方から大きな音が響いた。その音に受付嬢たちが混乱している間に、エレベーターへと向かった。
「あー!ちょっと勝手に入っちゃ困ります!!ちょっとォ!!」
ウィーン
「あぽ」
「なぽ」
「appleで赦しとくれ〜」
そして、フルーツ籠から赤く熟れたりんごをとって見せて笑えば、エレベーターの扉は閉じられた。
「なんだアポォ入ってんじゃねーか。これでいいだろ」
ひょいと、小生の手からりんごをとる銀時。
「だから違うって言ってんのに...」
「ぶぶー」
「坊やも間違いって分かるよねー...でも、まぁ今回はいいよ、これで」
そして籠に二つ入っていたりんごの、とっていなかったもう一つの方を小生は掴んだ。
「これで、十分さ」
***
少ししてエレベーターはチンと音を立てて止まって、扉が開いた。
なんとなく扉の向こうの騒がしさに、小生達はりんごを握ったままお互いに視線を交わし、開いた扉から足を踏み出した。
勿論フルーツ籠は置いて。
「おーう、社長室はここかィ?」
「間違ってたら笑いものだねェ」
「なっ!なにィ?!」
その場にいた全員の視線が小生達に集まり、恐らく橋田屋賀兵衛と思われる男から驚いたような声が上がった。
「おや、社長さんがいたから大丈夫そうだ」
「そりゃぁよかった。ならこれで面会してくれるよな?」
しゃり
銀時が自分の手の中のりんごをかじる。
「アポはとってなかったから、今回はかわりにこれってことで」
チュッ
小生は手中のりんごに軽くキスを落とした。
「アポォ」
「なぽぉ」
「appleだってば」
そしてりんごを、橋田屋賀兵衛に見せつけた。
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