銀魂連載 | ナノ
第五十三訓 似てるふたりは喧嘩する。巻き込まれる身にもなってよね




ここ最近、大きな事件続きで、実は狛神(いぬがみ)だったらしい定春が覚醒して暴れたり、

キャバクラで、妙ちゃんと巫女の亜音ちゃんの壮絶な売り上げの戦いがあったりして、ごたごたしていたが

最近ようやく落ち着いた日々が戻って来ていた。


「よいせっ...(これで今日の仕事は終わり...)」


洗濯かごをおき、息を吐きだした時だった。


「おい、朔夜いるか?」

「!おや、トシ...どうしたんだい?今日は非番だろう?」


後ろから、私服らしいまっ黒な着流しを着たトシに声をかけられた。


「あぁ、お前も今日はもう仕事ねーだろ?だから暇だったら...その、一緒に出かけねぇか?」

「!珍しいね...トシがそんなこといってくるなんて」

「う、うるせぇな。一応同じ場所で働く仲間なわけだしよ...たまにはと思ってだな...って、んなことより結局行くのか、行かねぇのか?」

「ふふ、勿論。ご一緒させてもらうよ」


こうして小生は、トシと出かけることになったのだった。


***


「親父、いつもの頼む」

「小生も、いつものをお願い」

「へい」


お互いがよくいってる定食屋へとやってきた小生達は並んで座り、お互いいつも頼むものを頼んだ。


「アラ、土方さんが制服着てないところ初めて見たわ。それに朔夜先生と一緒に来るのも」

「今日はオフだ。お互い一人モンだからやることもねーし、たまにはと思ってな」

「うん、おごってくれるというしね。この後暇だったし、いいかなぁと思ってさ」

「なんだ、付き合ってるわけじゃないのね」

「!あっ、当たりま...」

「勿論だよ。当然じゃないか」

「...(そんな綺麗にバッサリ言わなくても...いや、確かにそうなんだが...)」


そしてカウンター越しの奥さんと店の旦那と会話していると、料理ができたようだった。


「へい!4分の1日替わり定食!!」

「お、ありがとう」

「お前相変わらず食わねぇな...拒食症って言ってたが...」

「あはは...これでも子供のころより食べれるようにはなってるんだけどね...(昔は口に物入れた瞬間吐いてたからな...)」


小生が受け取った盆の上の量を見たトシに突っ込まれるが、へらっと笑って返す。


「これでか?体とか大丈夫なのかよ?だから細いんじゃねーのか?」

「まぁ、大丈夫だよ。少しずつ食べるようにリハビリしているし...」

「そうか...まぁ、んな病早く治すんだな...お前が完全に治ったら、何か良いもん食わせてやるからよ」

「!...ありがとうね、トシ」

「っ別に大したことじゃねーよ」


優しい言葉に嬉しくなり微笑みかけたら僅かに頬を染めて横を向いたトシに、ほんのりと心が温かくなる。


「ふふっ、照れてるのかい?」

「照れてねェ...(くそっ...俺らしくもねェ)」


そんな風に軽口をたたき合ってると、トシの頼んだ料理も出てきた。


「へい!土方スペシャル一丁!!」

「(わぁ、ていうか本当に見た目きっついなぁ)」


トシの前に置かれたのは、読者のみんなもお察しの通りだろうが、マヨネーズが大量にかかったご飯だった。

そしてそれを食べるトシの姿を眺めていた時――


「へい!宇治銀時丼一丁!!」

「「ん」」

「あれ、銀時かい?」


一人の知らない男を挟んだ隣には、小豆が大量にかかったよく目立つ銀髪が見えた。


「!朔夜っ!?まさかこんなとこで会えるなんてなァ、昼飯か?」

「あぁ、そうだよ。トシと食べに来ててね」

「そいつと!?なに土方君、デートのつもりかよ?」


小生から視線をずらし、銀時がトシを恐い顔で睨む。

それに対し、トシも銀時に睨み返す。


「あ、あの二人と...」

「てめーに、飯食うのに俺が誰誘おうと関係ねーだろ」

「あぁ、ねーよ。でも朔夜なら話は別ってやつだ...俺が蝶よ花よと護ってきた、可愛い可愛い朔夜にちょっかいかけやがって」

「てめーは朔夜の親父かなんかかよ。つーか、メシ食いに誘っただけだろーが」

「男と二人で出かけさせるのがありえねーんだよ。つーか、マヨネーズの方は席外してもらえねーか?

そんなモン朔夜の横で食われたら、すでにあんまりない食欲がさらに失せるわ。ねっ、おじさん」

「え?俺?」

「(全く関係ない人に話ふった!!)」

「朔夜の病を心配すんだったら、テメーが席外した方が得策じゃねーのか?

ご飯に小豆かけて食うような、いかれた味覚の奴に定食屋に来る資格はねェ。ねっ、おじさん」

「いや...あの...」

「(真ん中の人、なんて不遇な...)」


完全に巻き込まれてるよ...


「太古の昔から炭水化物と甘い物は合うとされているのをしらねーのか?あんパンしかり、ケーキしかりよォ。ねっ、おじさん」

「え?いやしらないけど」


それ銀時だけの持論だから


「何を味わうにもまず、それをひき立てるイレギュラーさが必要だというのがわからんのか?

塩気、酸味をきかせることで元ある食材の味が、より引き立つんだ。つまり、マヨネーズだ。ねっ、おじさん」

「いや...もう、ちょっと俺にふらないでくれない。関係ないから。そこのお嬢ちゃんにふりなよ」

「?!(えっ、そうきた?!)」

「「あァ?朔夜は理解して受け止めてくれてるから良いんだよ」」


いや、二人の行きすぎた嗜好は何一つも理解してないけど。

しかし、そんなことはこの熱くなっている味覚のおかしい二人には言えない。

だって、巻き込まれたくないから。


「大体俺の宇治銀時丼を、お前の犬のエサと一緒にするなよ。

これはな、昔デザートと飯をバラバラに食うのがたるかったサンドイッチ将軍がつくり出した由緒正しい食べ物なんだよ。ねっ、おじさん」


一体誰だその将軍!


「サンドイッチ将軍って、サンドイッチじゃないじゃん、それご飯じゃん」

「それをいうなら俺のだってなァ、飯とマヨネーズをバラバラに食うのがたるかったバルバロッサ将軍が...」


だから誰だいその将軍たち!?


「マヨネーズなんて別に必ずとらなきゃいけないものじゃないし!」


すると二人が『どっちが優れてるか食べ比べてみるか?』『上等だ』と、何故か真ん中のおじさんにどんぶりを渡した。


「待てェェェ!全然上等じゃないから!!何ィィ!?俺が食べる感じになってんの!?あっ、そ、それこそそっちのお嬢ちゃんでも...」

「公正な判断は赤の他人じゃねーと下せんだろう。朔夜は俺の味方にしかならねーからダメだ。そーいうことで、ねっ、おじさん」

「んなわけあるか、朔夜は前に食べて俺の美味いって言ったんだよ。だから頼むわ、ネおじさん」

「ネおじさんって何!?なんか名前みたいに・・・うごっ...もが...」


無理矢理押し込んだこの二人!


「どうだ、ネおじさん。俺のがうまいだろ?」

「アレ?ネおじさん?」


ガタン


「あっ倒れたァァ!!倒れちゃったよ!!」

「「「ネおじさァァァん!!」」」


そしてとりあえず、ネおじさん(仮)を座敷席に置き、小生達は外に出たのだった。


***


「...で、昼食い終わったんだし?朔夜を俺に返せよてめー」

「あぁ?俺は昼飯食うだけじゃなくて出かける約束してきたんだよ。だからお前が帰れ」

「やなこった。なぁ朔夜、銀さんのがいいよな?」

「いや...今日はトシと約束してるから、トシと行くけど」

「はぁ!?本気かよ!」

「え、勿論だよ」


当たり前じゃん。


「まぁだろうな...」

「(んだよ...でも最後はいつも俺の所に帰ってくるし、彼氏でも無いのに束縛しすぎたらなぁ...)

...わぁったよ。でも夕飯作りにきてくんね?神楽が食いたがってっしよ」

「!」

「あぁ、りょーかい。帰りに行くよ」

「あぁ、じゃーな(俺の所に戻ってくるなら、まぁ少しは離してやらねーとな)」


そして銀時は去って行った。


「(あの野郎...一体朔夜のなんだってんだ)」

「(夕飯何がいいかな...)」


***


「トシ、大丈夫?」

「あぁ...大丈夫だ、気にすんな。それより良い映画やってると良いな」

「そうだね...(銀時と会ってからまだいらいらしてるけど...)」


小生は機嫌を損ねたトシが映画でも見て気分を変えようと思ったのか、映画館へと向かった。

すると映画館は『となりのペドロ』という子供向け映画がやっていた。


「ガキ向けか...」

「ま、まぁ、今は子供向けでもいい映画多いし、見てみようよ」


そう言って笑いかければ、『お前が見たいなら』と承諾してくれたので、映画館の中に入った。


***


そして上映が始まってしばらくして――


『ペドロォォォお願い力を貸してェェ!!お静が...妹が迷子になって...あの子、きっと一人で泣いてるわ!!

私どうしていいかわからないの!!』

『アレ...警察とか電話したかお前』

『お願いペドロ!!』

『ウチ今電話とめられてるからなァ』

『お願いペドロ!!』

『お前らでもアレだな。困った時だけペドロペドロってさァ、調子いいよね。

こないださァ、ウチ、ピンポンダッシュしてったろ?おじさんしってんだからな、全部』

『だまれペドロ!!』

『コラ!!大人に何てこというんだ!コラッ!!』


小生とトシは揃って泣いていた。


「やられたよ。大人の鑑賞にもたえうる映画だ、いや大人にこそ見てほしい映画だ...朔夜の言うとおり、ガキ向けもバカにできねーな・・・」

「だろう?まさかこんなに心に訴えかけてくるとは思わなかったけど...」


そして泣きながら見ていると、トシの二つ後ろの席から声をかけられた。


「オイ、オイそこの!」

「!(あれ、この声...?)」

「グスグスグスグスうるせーよ、全然きこえねーよ。今ペドロなんつったんだ。ピンポンダッシュが何?」


そして謝ろうと二人で振り返れば、そこにはポップコーンを食べる銀時がいた。


「銀時!?」

「まァァァたテメーかァァァ!!なんだテメェェ!俺達の行く所行く所現れやがって!!まさかアレか!?朔夜のストーカーか!?」

「んなことするかァ!!つーか前半はこっちのセリフだボケェ!なんだ?友達になりたいのか?友達になりたいのか?」

「アホかァァ!!なーんか後ろでポップコーンもっさもっさうるせー奴がいると思ったら!出て行け!スグ出て行け!!」

「ちょ、二人ともここえいがか...」

「うるせェェェ!!歯の裏側についたポップコーンとるのに夢中になってたらなァ、もう映画の内容についていけなくなってたんだよ!

もう俺にはポップコーンしかねーんだよォ!!」


パラッ パラッ

ポップコーンをトシに向かって投げつける。

真ん中ではさまれ巻き込まれている全く知らない編笠の人が可哀想すぎる。


「侍のくせに、んなうわついたモン食ってるからそんな事になんだ、バカかテメーは!ポップコーンみてーな頭しやがって!はじけるのは頭だけにしとけ!」


そして飛んでくるポップコーンをはらう様にトシが手を振ったことで、編笠の人に平手打ちのするかのように手が当たった。

ごめんよ編笠の人!

二人の喧嘩はさらにヒートアップし、間の編笠の人を踏みつけ、胸ぐらをつかみ合ってののしり合いだした。


「銀時!トシ!やめ...」


止めようとしたが、その言葉は怒りだしたほかの観客達の怒声で遮られた。

そして二人は反省することなく、他の観客を罵り、あげく編笠の人のせいにした。

その言葉に観客達もついにキレて、乱闘が始まった。

小生は巻き込まれるのも、闘うのも嫌なのでしゃがみ込み、椅子に身を隠し、その様子を見ていた。


「(もう、普通に出かけたはずなのに、どうしてこうなるのかな)」


思わず目を伏せ、小さくため息を吐きだした時――

スクリーンの方からドゴォ!と凄い音がした。

思わず体を上げてスクリーンを見れば、そこには編笠の人と思われる人が叩きつけられたようにめり込んでいた。

他の全ての人間がその姿に固まっている。

たった一人を除いて...


「みなさーん」

「!」


ふりむけばそこには屁怒絽さんがいた。


「映画は、静かに見ましょう」


その言葉に、観客達がいっせいに近くの席に正座で座り、全員無言で泣きだした。

...なんだかよくわからないけどよかった



そしてなんとかこうとか、映画は無事にフィナーレを迎えたのであった。


「良い映画だったねー」

「「...泣けるね、この映画」」


***



その後、『こんなに偶然会うなんて運命だからこのまま俺とデートしねぇ?』とか言ってくる銀時をなんとか言いくるめて別れ、再び街の中を歩き出した。


「...トシ、顔が疲れてるって言ってるけど...大丈夫かい?」

「あぁ...誘っといて、ロクに楽しませてやれねー上に、色々悪ぃな...」

「そんなこと気にしないで構わないよ。トシに誘われて二人で一緒に出かけられただけでも初めてで楽しいから」

「!朔夜...」


今までトシからの出かける誘いなんてしてくれなかったから、それだけでも充分嬉しい。

少しずつでも、仲間として信頼されていっているのだろうかと思えるから...

トシは、誰よりも疑い深くて、慎重で、真面目で、堅物で

でも、それは大事なものが、譲れないものがあるあるからで

そんな自分の譲れないもののために生きれる強い人は、とても綺麗に見えるし、素敵で憧れる。

だから、そんなトシに、少しでも歩み寄ってもらえたと思える今日は、とても気分がいい。


「――だからほら、次の場所にいこう?トシ」

「...あぁ(朔夜の笑顔を見ると...全部どうでもよくなっちまうな...)」


こうして小生達は再び歩き出した。


***


しばらくして――


「(遅いなぁトシ...)」


小生達は健康ランドへと入って、それぞれ男湯と女湯に別れた。

数十分たって小生は上がって、イチゴ牛乳で喉を潤しながらトシを待つが、中々上がってこない。

一人で待つ少しの空しさと、孤独感が心にふりつもる。


「(...長風呂なのかな)ふぁぁ...」


日ごろの疲れと温泉に入った影響か、眠気が襲ってきた。


「...ね、む...(少しくらいなら、いいかな...)」


起こしてくれるよね...と、うとうととしていた意識を沈めた。



***



「...ぃ...おい朔夜!」

「何してんだ!」

「っ...ん...くろ...に、しろ...?」

「こんな所で寝てんなよ!あぶねーだろ!」


目をこすり、意識を戻せば目の前には、左右の肩に片方ずつ手を置いて、焦ったような表情で覗き込んでくる二人がいた。

二人の姿に心がほっこりとして嬉しくなり、きゅっ、と二人の袖を握った。


「おは、よう...」

「「!(か、可愛い・・・!)」」

「でも...また...ぎ、んとき...と、あった、んだね...」


眠りから覚めたばかりでうまく思考回路がまわらないまま、思ったことを口にする。


「あ、あぁ...嫌なことにな...(なんだ!?なんだこのいつもと違う変な色気は!?寝起きだからか!?)」

「つーか朔夜、お前また寝ぼけてんな(ほんっとコイツの寝起きと眠い時は3倍で可愛いな。

いや勿論、いつもだってそこらの女より全然可愛いんだけどよ。あーもうこのまま連れ帰って押し倒して喰っちまいてーよ)」

「ん...?ちが、うよ...あたま...ぽやぽや、してる...だけだよ...」

「それを寝ぼけてるっていうんだっての...ったくしょうがねぇなぁ〜(可愛すぎるだろォォ!!兵器だってコレ!!)」


そして銀時に横抱きで抱きあげられた。


「!っ万事屋!」

「?ぎん...?」

「どうせ後で夕飯作りにくんだろ?ならもう、疲れてるみてーだし俺の家でしっかり寝かせてやるからよ。じゃ、土方君そーゆーことで」

「ざけんなよ万事屋、俺が誘ったんだから、最後まで面倒みてやらァ。屯所で寝かせとく」


そしてトシが、小生の身体を銀時から奪い、横抱きで抱いた。


「!と、し...」

「(!軽すぎないか、こいつ...)」

「あんなむさっくるしい男所帯に朔夜を寝かせとけるか。危なくて任せられねーよ。返せ」

「お前に渡す方があぶねーだろ」

「んだと...」

「ぎん、とき...しょ、せい...あとで・・・いくから...」

「!」

「しょ、せいは...きょう、トシとでかけたん・・・だもの...」

「朔夜...」

「はぁ...わかったよ、待ってるぜ(あー変にきっちりしやがって...)」


銀時は小生の前髪をあげて、額に軽くこつんと額を合わせた。


「!?てめっ...」

「んじゃぁな、朔夜」


そして銀時は去って行った。


「(あの野郎...恋人ってわけでもねーくせに...)」

「とし...ご、めん...まってる、あいだに...ねむく、なって...ねむ、けに...しょ、せい...勝てな、いの...」

「!いや気にすんな...くだらねーことで待たせちまったのは俺だしな...」


そういって小生を椅子の上に座らせるように降ろし、目の前に目線を合わせるようにしゃがんできた。


「いい、よ...気にしない、で...まつの、は...なれてるから...」

「そうか...すぐ屯所帰って寝かせてやるからな」

「だいじょぶ...かくせぃ、してきたから...」


だんだんはっきりしてきた頭の中、もう一度目をこすった。


「......うん、もう大丈夫だ...」

「本当か?」

「うん、平気平気...けっこう寝てたから...」

「そうか...なんか、連れ出しといて悪いな...」

「...小生は、トシと出かけられて楽しかったから、いいんだよ。気にしないで、本当に」

「だが...」

「しつこい。気にしすぎだよ、トシ...小生はトシと出かけるという行為がとても楽しかったし、嬉しかったの。だから、それでいいのだよ」

「...」

「ね?分かったかい?」

「...あぁ、分かった」

「よし!」

「(やっぱりコイツには、ハマっちまいそうになるな...)」


トシのそんな思いなど気づきもせず、小生達は、また出かけようと約束し、その日は屯所へと帰ることにしたのだった。

その後しばらく、屯所で、トシと小生が付き合っているとか妙な噂が流れたのは言うまでもない。

小生は適当に流していたが、トシが、やたら過剰反応して隊士達にキレていたのは言うまでもない。

あんな反応したら、さらに勘違いされるのにね。


〜第三章 End〜


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