第五十二訓 ギャンブルのない人生なんてサビ抜きの寿司みてェなもんだ。人生がギャンブルみたいなもんだしね
「勝った!ストレートフラッシュだ!」
「ほう...」
久しぶりに会いたい友人がいたので、その友人の経営しているカジノ『江戸ベガス』に久しぶりに小生は来ていた。
そこで、今小生は知らない男に誘われ、ポーカーをしていた。
この男、小生をカモだと甘く見ている辺り、小生と賭けをしない方が身のためである事を知らないらしい。
でも、賭けの世界の厳しさを教えるには丁度いいかと、軽く承諾して、現在このような状況になっている
「俺の勝ちだ!さぁ...」
「おや、まだ勝負を決めるには早計だよ」
「なに!?」
「ふふ、ファイブカードだよ」
「なーっ!?」
「小生の勝ちだね、残念ながら」
そして小生は自分の荷物を持ち、賭け金を受け取ると茫然とした男に背を向け歩き出した。
「あ、賭けを続けるなら、あんまり人を見かけで判断するもんじゃないよ?」
勿論、そう言い残す事も忘れずに。
「...あの、幸運の女神に守られた朔夜さんを相手取ったのが運のつきだな...」
そう野次馬の誰かがこぼしていたのを、上機嫌で歩いていった小生は知らない。
とりあえず、久しぶりに彼女に会えるから楽しみだな!
***
「華陀〜遊びに来ちゃったよ〜...って、あれ?」
「朔夜か...久しぶりじゃな」
「朔夜!?」
「なっ、なんで朔夜さんがここに!?」
「朔夜嬢か...来てたんだな」
「銀時と長谷川さん!?それに勘兵衛の旦那...!?」
会いに来た友達である華陀の部屋へと、顔見知りの華陀のボディーガード達に案内されて行けば、そこには華陀と、よく見知った三人の男が縄に縛られて床に座っていた。
「なんじゃ、おぬしの知り合いかえ?」
「う、うん...」
「相変わらず朔夜は顔が広いのう...特にこの街で権力者というわけでもないのに」
「あはは...権力とかいらないし、そういうことで縁はつなぐものじゃないからねェ。赴くままに生きてたら自然と増えていくだけだよ」
力でつなぎとめる縁なんて、たかが知れてるしね。
それに縛られず、縛らず生きていたいし。
「...ふむ、理解しがたいが...おぬしのそういう何ものにも捕らわれない性格は嫌いではないぞ」
「あはは、ありがとう」
「っていうか朔夜何和んでんの!?その女と知り合いなわけ!?」
「黙れ。わしと朔夜は一応、友じゃ」
「一応って...けっこう華陀とは仲良い友達だと思ってるんだけどなぁ」
あんまり同性の友達って昔からいないから、友達になれて嬉しいのに。
「えェェェ!?朔夜お前見境なしか!」
「?別にいいじゃないかい。小生の交友関係は小生のものだし...それより、銀時達こそ華陀を怒らせるようなことしたのかい?」
銀時の前にしゃがみこんで問いかければ、華陀が自分の賭場でいかさまをしたのだと言ってきた。
「いかさまって...バカなんだから...」
「金が無かったんだよ。悪気も無かったんだよ」
「せめて悪気は持とうよ!?」
あっけからんとなに言ってるの!?
「しかたねーだろ。もう通帳の中身もないんだから」
「はぁ...でも華陀、命だけは助けてあげてくれないかい?」
「...朔夜、いくらおぬしの知り合いでも。それは嫌じゃ」
「...命を奪う以外ならなんでもいいから...こんなんでも、小生の大事な友達なんだよ」
「......朔夜がそこまで言うならば、ぬしらに最後のチャンスをやろう」
「「「!」」」
「!ありがとう華陀!」
その言葉に思わず華陀に抱きつけば、華陀は驚いた様子だったが振り払おうとはしなかった。
やっぱり華陀は優しいな...
「...ただし朔夜、ぬしにも参加してもらうぞ」
「え?」
「ぬしが言い出したこと。ならば己の運気で友を救ってみせよ」
「!...わかったよ。その勝負乗った」
そして小生達は、命を賭けたギャンブルをすることになったのだった。
***
『レディースアンドジェントルメーン!今宵も皆さんに最高のギャンブラー達が織りなす最高のショウをご覧いただきましょう!
今宵のショーはギャンブラー達が命を賭して行う、アゴヒゲ危機一発ぅぅ!!』
そして目の前の幕が開き、スーツを着た小生達と、樽の中に入った長谷川さんの姿が観客にさらされ、歓声がわきあがった。
そんな中、司会が、順番にあ何起爆装置に直結した穴に剣を刺したら爆発するという、物騒この上ないゲームの説明をしていく。
「...とんだ茶番だぜ」
「もう、そんなこといったってやるしかないだろう?」
「そうだ。成功すれば俺達を解放してくれるらしいからな」
「そうそう。まぁ、失敗したら、小生達の命は海の藻屑となるだろうけど」
「一体何考えてんだあの女(あま)?しかも朔夜はダチだろ?なのに...」
「まぁ...華陀は小生とする博打が好きだからね。こういうの今に始まったことじゃないし...それと、小生達の様子を見て楽しむつもりなんだと思うよ」
その時樽の中の長谷川さんが勘兵衛の旦那に話しかけてきた。
「オイ、なんでよりによって俺がこの役回りなんだ?」
「アゴヒゲ危機一発だからだ」
「アゴヒゲならアンタも生えてるだろ」
「朔夜嬢なら問題ないが、お前ら二人が剣を刺してみろ、一発でドカンだ」
「いや、それもそうだが...つーか、なんで朔夜さんは大丈夫なんだよ」
「そりゃ小生は勝負運強いからね」
ズゴズゴ ズゴズゴ
「マジでか!?って、オイぃぃぃ!!何予告もなしにぶっ刺し...って、オメーら五本も刺してんじゃねーかァァァ!!」
そう、小生は話しながらも銀時と一緒に適当に剣を刺していたのであった。
「こんなもん悩んだってしゃーねーんだからパッパといけばいいんだよ」
「そうそう。どうせ考えたって分かんないんだから。規則性あるものでもないし」
「ふざけんじゃねェェ!!五本刺したってことは、少なくとも俺は五回デッドオアアライブをさまよったということだぜ!!」
「長谷川さん、いい加減覚悟決めなよ...それにほら勘兵衛の旦那だって...」
「!!」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい。いやホントマジすみません」
「ってお前もかァァァァァァ!!不吉なこと言いながら刺すんじゃねーよ!!」
そしてワーギャー言われながら刺していっていると、銀時がある穴に刺した瞬間、カチッという音が耳に届いた。
「うおわァァァァ!!」
「!?」
「何!?」
しかし、樽は何も起こらなかった。
「てめェェェェ!ビックリさせんじゃねーよ、口から十二指腸が飛び出るかと思ったぞ!」
「うるせェェ!今なんかカチッて言ったんだよ!戻せ!十二指腸を元の位置に!」
「おちつけてめーら、博打において冷静さを失うことは絶対の禁忌だ。例え周りが炎に包まれようと、思考だけは冷たく凍てつかせておけ」
そういって剣を勘兵衛の旦那が穴に押し込んだ瞬間――プシュゥゥ
「!!あたぱァァァ!!」
ズザァァ
「「ぎゃああああ!!」
「びっくりするでしょう!?」
「てめェェェェなにが冷静だァ?あたぱーなんて叫び声なかなか出てこねーぞ!!」
「だってプシューはないだろう!プシューが出るとは思わないだろ!口からあぱたーも出るだろ!」
「ったく、これだから男ってのはいざというとき弱いんだよ!いいかい?焦って上手くいくものなんてないんだから、少しは落ち着きな。心が安定してないからそんな無様なことになるんだよ」
そして今度は小生が剣を押し込むと――プギャロォォォ
「み゛ゃァァァ!!」
「結局テメーもじゃねーか朔夜!!」
「だってプギャロォォォだよ!?プギャロォォォって何!?叫びたくもなるよ!?」
しばらくそういったトラップに戦々恐々しながら剣を刺していると、ただでさえ気はあまり長くない銀時がついにキレ、ヤケになった。
「くそだらァァァもうだまされねーぞ!!」
ズボォォ カチッ
「何がカチッだ!しるかァァボケェ、爆発するならしてみろ!!」
すると、タイミングよく樽から声が聞こえた。
『時限スイッチが作動しました。今から1分以内に、起爆スイッチ以外の穴を全て塞がなければ、この樽は爆発します』
「え゛え゛え゛え゛え゛え゛!!」
「おや...随分と急な展開だね」
「いやいやそうだけど突っ込みどころ違うよ朔夜さん!つーかおめー何してくれてんのォォ!!俺の命あと1分になっちゃったじゃねーかァ!!」
「1分だろーが50年だろーがよォ、一生懸命生きた奴の人生に価値の違いなんて無いと思う。オケラだってアメンボだって」
「こんな樽ん中で何を一生懸命やるの!?」
「はァー良い年したオッサン達が簡単に諦めるんじゃないよ」
「んなこと言ったって...」
「二択だよ」
「!」
「そうだ。このたくさんの穴から安全な穴を探そうなんて考えるな。今、自分(てめー)が向かいあっている穴が地獄に続く穴か否か、それだけ考えて刺すんだ」
「そういうこと。その二つ以外余計なこと考えるんじゃないよ、銀時。卿は運が無いんだから」
「一言余計じゃね?ったく...」
そして、三人でズコズコと刺していけば、残りの穴は二つとなった。
「ようやく最後二つだね...時間もないみたいだけど...どうする?」
そう樽を見たまま隣の二人に話しかければ、銀時が勘兵衛に向かって同じように樽を見たまま口を開いた。
「...なぁ、アンタに一つききたかったんだけどよ、アンタホントにその右目が見えた頃は、ツキって奴が見えたのかィ?」
「...…ツキが見えれば、片目になどにはなっちゃいねーさ。
ただ一つ言えることはよ、俺はいつだって、後悔しないような選択肢を選んできたってことだけだよ。
いつだって、自分がしたいようにやってきただけだよ。賭けでも人生でも...」
その言葉に、銀時が剣を片手に樽に近づきだし、右に狙いを決め、勢いよく突き刺そうとした時、足が滑ったらしく銀時の体が傾き、左の穴に剣が突き刺さった。
しかし、どうやらそちらの穴が正解だったらしく爆発することはなかった。
そのミラクルに思わず客たちが湧く。
『お見事ォォォ!ミラクル!まさにミラクルです!!』
「「...」」
「...ははっ、あーハラハラしたよ!」
「クク...そんなもんさ、人生」
こうして小生達の命は助かり、小生は華陀と飲みながら花札やらで一日遊んだのであった。
「はい、五光」
「勝利の女神とは言ったものじゃな...やはり、ぬしとの博打は楽しい」
「そう言ってくれると嬉しいなぁ」
いつまでも友達でいてほしいものだよ。小生にとって貴重な存在だから。
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