第五十訓 月は何でも知っている。でも何もしやしない
「侵入者だァァ!!」
「...(やれやれ...)」
説明しよう!奉行所に忍び込んだまでは良かったが、
銀時、さっちゃんに、新八、神楽、桂が我先にと隠密行動を捨てて戦闘を始めてしまったため、
朔夜もそれに倣い、戦うことになってしまったのであった。
そして仕方ないので、朔夜は此方に走ってくる奉行所の男達の前に、闇夜の中から姿を見せた。
いつもより多めに詰めてるらしい、煙管の濃厚な甘い花の香りが辺りに香る。
「...こんばんわ、旦那方...」
「娘!?」
「貴様も仲間か!?」
「そんな恐ろしいものを向けないでおくれよ...」
刀や武器を構えてくる男達を、できるだけ悲しげな目で見る。
すると、男達の武器に迷いが現れた。
「...女に優しい男(ヒト)達は、大好きだよ」
少し卑怯だけど、お互いのためにさ
「眠ってくれるかい?」
なるたけ優しく微笑んだ瞬間、目の前の男達はばたばたと倒れ、地面に転がったままいびきを立てだした。
「...ふぅ、油断大敵だよ。おやすみ」
そう呟き、月下のもとで今だ赤く燃える煙管の中の燃えカスを地に落とした、ゴニンジャー+αニンジャーの一人、
『ニンジャーロリータ』こと、吉田朔夜なのであった。
因みに十八番は『魅了の劇薬』である。
本人はどちらも凄く嫌がっていたようだが、それはもはや関係ない。
エリザベス奪還作戦は始まりを告げたのだから!
***
「はぁ...はぁ...」
「大丈夫かよ朔夜?」
「も、問題ないよ...ぜぇ...」
しばらく走り回り、小生達は銀時が一人で用意してたニューヨークっぽい壁の後ろに隠れようとしていた。
「というか銀ちゃん!もっとつめてヨ、私肩出てるヨ。やられる!肩もっていかれる!!」
「俺にいたってはまる出しだぞ。やられる!全部もっていかれる!!」
「出ていけお前ら!朔夜はほそっこいから入ったけどなぁ、これは一人用なんだよ。俺が俺のためにつくったんだぞ!!」
「よく持ってこれたね...ぜぇ...」
「ってかなんでレンガ作り!?ここはニューヨークじゃねーんだよ!!」
「文句があるなら出ていきなさい。私は銀サンと一緒ならドブ河でも住みます」
「うるせーよ、お前も邪魔だ。ていうか朔夜以外邪魔だから!」
そして銀時たちがぎゃいぎゃいやっていると、小太郎がいつの間にかいないことに気づいた。
「あれ?小太郎は...!」
すると横の松のところで、両手にカレーを持って片足で立って隠れているつもりらしい小太郎がいた。
「ヅラぁぁぁ!なにやってんだテメー!」
「ヅラじゃない、松だ」
「いや無理だよ!!無理だって!ほとんど丸出しだもの!!」
その時――
「ん...銀ちゃん、マミー!アレ見て」
神楽が指差した方向を見れば、エリザベスがいた。
「!アレ...」
「エリザベス!!」
「っ小太郎ダメ!!」「ヅラ待てェ!!」
小太郎が一直線に走っていってしまい、それが奉行所の人間達に見つかり、小生達までついでに見つかって逃げることになってしまった。
「ぎゃああああ!!」
「少しは考えて行動してよ小太郎!!」
「ヅラァァァァてめェェ何してくれてんだァァ!!」
二人で前を行く小太郎に叫べば、凄く嬉しそうな顔で振り返ってきた。
「ロリータ!ホワイト!みんな!一緒に来てくれるのか!?」
「本気でその名前で呼ばないで!!」
「つーかてめーのせいでバレたんだよ!殺すぞホント!!」
そしてさっちゃんがこのままでは全滅してしまうと、まきびしを取り出し、その際にこけた衝撃で足元にバラまいてしまった。
しかしまきびしサークルなるもので足止めに成功し、そのすきに小生達は、エリザベスが連れて行かれた方向へと走ったのだった。
***
「確かここに入っていったはず」
そして小太郎と小生と銀時が中に入ろうとした時、さっちゃんに止められた。
「みんなちょっと待って。妙だわ、追手が誰もこない」
「!まさか罠?」
「その可能性は大だわ」
さっちゃんと新八君の会話に、ずいずい進んでいた小生達は振り向いた。
「あー何寝ボケたこといってんだてめーら」
「そんな単純明快な罠が、このご時世にもはやあるわけないよ」
「そうそう。それにおけつに入らずんば虎児を得ずというだろ」
「虎穴だ。案ずることはない、俺達を誰だと思っている。貴様らとはくぐってきた修羅場の数が違うんだ。くだらぬ罠などにはまるものか」
その瞬間入ってきた入口が、降りてきた鉄格子でガシャンと閉じられた。
「おいィィィィィィ!!おもっくそ罠じゃないすか!閉じこめられちゃった!!」
「バカちげーよ。オートロックなんだよ、しらねーのお前?」
「まったく落ち着きなよ新八君。ただのオートロックなんだから」
「朔夜さんまでボケに!!」
「何度も言わせるな。朔夜の仕掛けた罠を長年見てきた俺達が、そんなバカな策にハマるわけがあるまい」
「そうだよ。小生もこれくらいのオートロックつけてるよ」
「いやーウチもつけようかなオートロック」
「なんだ貴様、おくれてるな。ウチはもう厠もオートロック...」
三人で、腕を組んでオートロックについて話していると、壁の掛け軸が巻きあがり、テレビが現れ、電源がついた。
そこには、親玉だと思われる男が映っていた。
『ガハハハ、よく来てくれたな、桂とゆかいな仲間達!我がカラクリ屋敷へ!
エリザベス君を追って、わざわざここまでご苦労だったな。だが、残念ながら君たちは私のワ...』
ドガゴ
無言で銀時の飛び蹴り、小太郎のストレート、小生の采配により、テレビを思い切り破壊した。
「あぁ、手が滑ったね」
「今明らかにワナだって言おうとしてましたよね」
「え、違うよ新八君。『君達は私のワイフをどう思いますか?』と言おうとしたんだよ」
「英語の教科書!?(この人ボケで誤魔化そうとしてる!)」
テレビの破片を采配から振り落としながら笑顔で言っていると、今度は後ろの壁の掛け軸が巻きあがり、同じテレビが現れた。
『人の話は最後まで聞けェェ!!普通あそこで壊すかァ!?とりあえず話全部きいてから壊すんじゃねーの!?こっちはなァ、このために原稿用紙4枚分の...』
ドォン
再び、銀時の飛び蹴り、小太郎のストレート、小生の采配が、テレビへと決まり、破壊した。
そしてそのまま二人は並んでテレビに正拳突きを始め、小生も二人の掛け声とともに采配をテレビにゴスゴスと突きさした。
「是が非でも認めないつもりだよ(朔夜さんまでだし...)」
「なんて負けず嫌いな人達なの」
そんな事を、小生達を見ていた二人が言っていたことはしらない。
***
そして仕切りなおすようにさっちゃんが注意を呼び掛けた。
「とにかく、これは絶対に罠だわ。先に進むにしても慎重に...」
その時神楽ちゃんが話を聞かずガララと扉を開けた。
すると天井につるされていた丸太が此方に向かって振り子の原理で向かってきた。
「うわっ丸太が!!」
カッ ドゴン シュパッ
瞬間3人とも瞳孔を開き、銀時と小太郎が丸太をたたき割って、小生はその吊るしてある紐をメスで切り落とした。
ゴォワシャと音を立て、バラバラになった丸太が落ちる。
「...すごい」
「銀時、朔夜...これしきのものは断じて罠とは言わんな」
「勿論。罠ってなら、小生はもっとえぐいの考えるよ。それに天才の小生がいるのに、こんなものにひっかかるはずないだろう」
「だよな。これはアレだ...」
「「「いたずらだァァ!!」」」
ダッ
そして銀時と小太郎に片手ずつひかれながら、走り出した。
そして次々現れる罠を二人にリードされて避けながら、会話をかわす。
「大人は子供のいたずらに付き合ってやる義務がある。なァ銀時、朔夜!」
「おおよ!わざとだから!コレわざとひっかかってやってるワケだから!」
「その通りだよ!子供が必死で頭を使って考えたいたずらだからね!小生もよくやったしね!」
「そう!頭を使って考えたいたずらが成功することによって味をしめた子供達は頭を使うことが好きになる!
結果!朔夜のように発想力及び、応用力に長けた頭のいい子供ができあがるわけだ!なァ銀時、朔夜!」
ガキィィン
余裕の表情で手裏剣をはじき返した。
「そうだ!俺達のように罠になんてかからない大人になるわけだ!」
ズバッ
飛んできた矢を笑みを浮かべながら叩き斬る。
「だから人間は立派で頭のいい大人になれるんだからね!」
グンッ
小生に向かって飛んできたクナイを、二人に宙に軽く体を投げられて避ける。
そして罠の全てを通り抜け、ザンと地に三人で降りたち、決める。
「「「...」」」
「全くこんなもんかい」
「フン」
「ちょろいも...」
そして立ち上がった瞬間――
ズゴゴ
「!」
ガゴン
頭上から天井が落ちてきた。
「うわっ!!」
「「いだだだだだ!!」」
二人より身長が低いため、二人がつっかえ棒になり小生の頭に当たらずすんだが、ほんのちょっとだけこれには驚いた。
「なんだ...これで終わりかい」
「まったく...」
「可愛いいたずらだぜ」
「......ホントかわいい人達ね」
さっちゃんの声が、やたら静かになった廊下に響いたのだった。
***
そして、廊下を抜ければ広い場所についた。
部屋の中には縛られたエリーがいた。それを見てすぐさま小太郎が駆け寄っていく。
「エリザベス!!無事だったか!?」
「ダメ、近寄っちゃ...」
言い終わる間もなく、エリザベスの中から無数のクナイが飛んできた。
そしてその場に伏せて、クナイが飛んでこなくなったのを音で確認し、顔をあげれば、ボロボロのエリザベスの中から
少し前に知り合ったばかりの男が現れた。
「クク...エリザベスちゃんはここにはいないよ」
「!(あの男...)」
「なっ!お前は!」
「......クク...久しぶりだな、猿飛あやめ」
「全蔵!」
「(!彼...忍者だったんだ...)」
そしてさっちゃんの説明を聞けば、彼もさっちゃんと同じお庭番衆で、お庭番衆随一の忍術使いだったらしい。
「(ただのジャンプ好きな痔の人じゃなかったんだ...)」
「今はフリーでここの旦那に雇われててね。悪いが元同僚とはいえ、そっちにつくなら容赦はしねェ。
ゴニンジャー+αレンジャーだかなんだかしらねーが、にわか忍者じゃ、本物の忍者には勝てねーよ。
いや、たとえ侍でもな。」
その言葉と共に柱の陰から出てきた、敵であろう4人の黒ずくめの顔が見えない者たちを見て、小生達の間に緊張感が走る。
「俺達が、最強の五忍だ」
全蔵の言葉が静かに響いた。
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