A
入ってきた人物たちを見た瞬間、小生はきっとそれはもう嫌な顔をしただろう。
「御用改めである。神妙にしろテロリストども!」
「しっ...真選組だぁっ!!」
「イカン逃げろォ!!」
「一人残らず討ち取れェェ!!」
一人の男の言葉とともにほかの男たちが動き出し、
小生達も銀時が蹴破った扉から逃げ出した。
「いやはや...これは随分とマズイことになった」
「なななななんなんですかあの人ら!?」
「武装警察『真選組』」
「反乱分子を即時処分する、対テロ用の特殊部隊だよ、少年。そして小生のバイト先の一つでもある」
「えェェェ!?ならなんでアンタまで追われてんの!?」
「私の存在に気づいてないようだな。やれやれ」
大げさな口調で言ってみる。
「まて朔夜!!聞き捨てならんぞ?!お前あんなところで働いているのか!なぜだ!?」
「なぜ?...決まっているじゃないか.........時給がいいから」
「金かよォォ!!散々タメといてそれェェ!?」
少年の突っ込みにカチンときて声を上げる。
「小生は敏腕アルバイターだよ!定職につけない奴の生活の苦しさをなめるなァ!!
真っ赤な通帳を見るたび、涙があふれるあの苦しさはシャレにならないんだよォォォ!!全国の無職さん及びフリーターさんに謝れェェ!!」
「知るかァァァ!!大体そんなこと話してる場合じゃないでしょうが!」
「...確かに、それもそうだね」
「だが、本当に厄介なのに捕まったな。どうしますボス?」
「だーれがボスだ!!お前が一番厄介なんだよ!!
「それは否定しない」
「ヅラ、ボスなら私に任せるヨロシ。善行でも悪行でも、やるからに大将やるのが私のモットーよ」
「オメーは黙ってろ!!何その戦国大名みてーなモットー!」
「ははは、なかなか将来有望な少女だ」
「ずれた突っ込み入れてねーで、知り合いなら何とかしろよォ!」
銀時は矛先を小生に変えて怒鳴ってきた。
「無理を言わないでくれないかい?先ほども言ったが、彼らは完全に小生に気づいてないからね。困ったものだね」
はははは、と貴公子スマイルを浮かべる。
「爽やかに笑いながら言ってんじゃねェェェ!!!え?じゃぁどうすんのこれ?マジでどうすんのォォ!?」
「何とかなるだろうよ。それより小生はこのホテルをクビになるのが痛いよ...」
「そっちのほうが何とかなりそうなんですけど!?」
銀時と言い合ってると、突如後ろから声がかかった。
「オイ」
「!!銀時!あとは任せたよ!」
短くそう告げると、隣を走っていた銀時を、迫る白刃のほうへと押した。
「ちょっ待てよォォォ!!!ぬを!!」
***
銀時を餌にして、小生たちは見事にその場から逃走し、桂たちとともに別の部屋にいた。
「ふぅ...見事なまでに上手くいったね」
「流石は朔夜だ」
「これぐらいの策、簡単なものだよ」
「あ、アンタなんてことしてんですかァ!!」
満足げに笑みを浮かべていたらつっこまれ、少年に向かって不満げな表情を浮かべた。
「いい加減アンタはやめてくれ、少年。朔夜でいい...君と彼女は?」
「神楽ネ」
「あ、どうも。僕は志村新八です...じゃなくてェェ!朔夜さん、さっき銀さん餌にしましたよね!?戦友じゃないんですか!?」
「あぁ、あれくらいで死ぬような男じゃないから、なぁ小太郎」
「そうだな、幾度となく囮にされても、いつも無事に帰ってきていた」
小太郎もうんうんと頷く。
「なんて惨いことしてんだァァァァ!!!それでもあんたら友達!?!?」
「友達だとも。ほら、きた」
小生の言葉とともに、部屋に何かが飛び込んできた。
「朔夜コルァァァ!また俺を餌に使いやがったな!
危なく死ぬ所じゃねーか!!」
「...」
「「「「「.........」」」」」
その場にいる者の視線はセリフより、銀時の頭に固定されていた。
神楽は髪をいじっている
外からは、真選組の声が聞こえる
「分かってるから何も言わないで、そんな目で俺を見ないで」
「...すまない、囮作戦はこれからはひかえるよ」
「謝るなよォ!おれが痛いでしょうがァァ!!」
「というか、髪増えてない?」
コントを繰り広げていると、小太郎が懐から丸いものを取り出した。
「?そりゃ何のまねだ」
「小太郎、ソレ...」
「時限爆弾だ」
小太郎が爆弾を使おうとしたとき銀時が胸ぐらをつかみ上げ
小生はスッと目を細め小太郎を見据える。
「...桂ァ、もうしまいにしようや」
「これ以上...小太郎が手を汚しても、何の意味もないのだよ」
「死んでった仲間は喜ばねーし、時代も変わらねェ
これ以上、うす汚れんな」
「うす汚れたのは貴様らだ、銀時、朔夜。時代が変わるとともにふわふわと変節しおって武士たるもの、己の信じた一念を貫き通すものだ」
小太郎の厳しい言葉に、小生はしばらく口を閉ざすことにした。
「お膳立てされた武士道貫いてどーするよ。そんなもんのためにまた大事な仲間を失うつもりか。
俺達ァそんなのもう御免だ。どうせ命張るなら、俺達は俺達の武士道を貫く。
俺達それぞれの美しいと思った生き方をし、俺達それぞれの護りてェもん護る」
銀時の言葉にはふっと笑みがこぼれる。
その時、神楽が声をかけた。
その手には時限爆弾。とても嫌な予感がした。
「銀ちゃん」
「?」
「コレ...いじくってたらスイッチ押しちゃったヨ」
一拍置いて銀時と神楽と新八が爆弾を持って、ふすまを蹴破り飛び出した。
***
部屋の外から、真選組が逃げる声と銀時たちが騒ぐ声が聞こえる。
「銀時、小生がいることを忘れているな」
小生にとって爆弾処理など明日の天気を見るより簡単なのに
朔夜は、桂たちに背を向けたままクスクスと笑った。
「言わないお前も意地が悪いな」
「ははは、違いない。...小太郎」
笑うのをやめ、名を呼んだ。
「行ったらどうかな?今なら簡単に逃げれるよ」
「しかしお前が...」
「小生のことは心配しなくていい、何とかなるものだ。
ほら行くといい」
シッシッと追い払うように手を振る。
「...すまない。助かる」
「構わないよ。また会おう」
「あぁ...そうだ、朔夜」
「?なんだい」
「...お前が生きていて、本当に良かった」
ギュッ
桂が朔夜の細い体を力強く抱きしめる。
「!...うん、ありがとう。心配かけたね...」
「いや...ではな」
そして体を離し、小太郎は仲間たちと足早に部屋から出て行った。
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