第四十六訓 子供を産んで母親になると女じゃなくなるらしいけど、それって実の子じゃなくても同じ?
キャバクラ『スマイル』
「ふぅ...」
チャイナ娘強化月間で、チャイナ服を着ていつものように働きながらも、小生は一つの事が気にかかっていた。
「(神楽ちゃんは、今頃星海坊主の旦那と一緒なのかな...)」
「あら、お朔さん。元気なさそうだけどどうかしたの?」
「あぁ...妙ちゃんか...」
そう言えば、妙ちゃんは知らないんだよね...
「いや...実はね、神楽ちゃんが...」
そして小生が事の詳細を話すと、妙ちゃんは、じゃぁ新ちゃん達も落ち込んでるでしょうからと酒をもって早引きしていった。
小生も誘われたが、断っておいた。
「(...だけど...ちょっとなんかありそうだな)」
...あとで様子を見に行ってみようか...
そう思いつつ、小生は気を取り直して、客達の方へと、笑顔を向けに行ったのであった。
***
妙ちゃんが早引きしてしばらくしてから、小生も早引きすることにした。
どうなったか気になるし...
そして足早に向かえば、お登勢さんの店へと赴いた。
ガラッ
「お登勢さーん、妙ちゃん来て...って...!」
そこには銀時、新八君、そして...
「か、神楽ちゃん...?」
「!っマミー!」
帰ったはずの神楽ちゃんの姿に驚き名前を呼べば、神楽ちゃんが思い切り抱きついてきた...って、ん?
「ま、マミー?」
「朔夜は私にマミーみたいに接してくたアル!だから、これからはマミーって呼ぶネ!」
私が朔夜の家族になってあげるヨ!
「!」
笑顔で言ってくる神楽ちゃんに、一瞬驚いたが、その優しい気持ちに、少しのせつなさと嬉しさに頬が緩んだ。
「...」
「?...駄目、アルか...?」
「違うよ...ありがとうね、神楽ちゃん。嬉しいよ...」
不安そうにしだした神楽ちゃんに、柔らかく微笑み返し、その温かい体を抱きしめ返した。
「ありがとう...」
「じゃぁこれからは私のマミーアルヨ!」
「ふふ...分かったよ――神楽」
家族に呼び捨てはおかしいよね。
すると新八君も近づいてきて小生の手を引いた。
「じゃぁこっちに来て一緒に飲みましょう」
「あ、うん。ありがとうね新八君」
そして銀時の隣に座り、神楽が小生の横に座った。
そして銀時の横に新八君が座った。
「あーもう、けっこう酒の匂いするよ銀時。だいぶ飲んでるんじゃない?」
「あー?酔いが一回冷めたんだよ...つーか朔夜、やっぱお前がヒロインだよ、うん。体型足りねーけど、お前普段からイイ女だけど、今はさらに滅茶苦茶イイ女に見えるよ」
「は?」
「...色々、あったんですよ...」
「そ、そう...(やっぱり妙ちゃんが何かしていったのだろうか?)」
沈んだ様に言う新八君に、若干詮索したい気持ちを抑えつつそう答えるにとどめておいた。
でも、この3人のいる万事屋はやっぱり温かいな...アットホームな空気がある。
居心地がよくって、安心できる。
それはどこにもない、ココだけにあふれる空気。
「(幸せ、だなぁ...本当の『家族』より、『家族』らしいこの空間が...)」
「?どーかしたかよ、朔夜」
「!いや...なんでもないよ」
「ならいいけどなァ...あ、そういや朔夜、もう傷とか大丈夫なのかよ?」
「あ、うん。それは全然平気。かすり傷みたいなものばっかりだったしね」
毒も体から抜けたし
最後は言葉には出さず、笑顔でそう答えた。
すると銀時は、酒片手に深いため息を吐きだした。
「何だい?そのため息は」
「いや...お前の無茶な行動はいつ治んだろうなと思ってよ」
「無茶なのは銀時達もでしょ。それに別に小生は、己の心の命ずるままに生きてるだけだよ」
「それが無茶だって言ってんだよ...お前はオレの後ろで待ってろよ」
「絶対嫌だ。お断りだよ」
きっぱりと言葉を放つ。
「朔夜...」
「銀時。小生は皆に護られるだけの無力な女でいるのは絶対嫌なの。知ってるだろう?」
護ってくれる友と肩を並べて戦いたい。小生を護ってくれる友の背を護りたいの
護ってくれる存在が、目の前で傷ついて、でも何もしてあげられず大人しくしてるなんて、小生には絶対できない。
それに――
「この体を支える魂が、赦さないんだよ」
「でもな...」
「わかってるよ。銀時が小生を心配して言ってくれてる事くらい」
でも、小生は銀時達が小生を護って傷つく姿を、黙って見ているだけなんて絶対に嫌だ。
「銀時達が小生を心配していつも護ってくれる...同じように小生も、銀時達を護りたいのだよ」
命は大事にしているから、護り護られる事を少し大目に見てくれたっていいじゃないか。
にっこりと笑ってそう言えば、銀時はまた一つため息をついた。
「はぁ...お前って奴ァ...(いっそ、閉じ込めちまいてェ...)」
「ふふ、これが小生の生き方なのだから仕方ないだろう?」
わかってて、銀時は小生といてくれているのだと思っていたが?
クスクスと笑いそう言えば、銀時に頭をわしゃわしゃと撫でられた。
「...わかった。だが、あんま俺に心配掛けさせんじゃねーぞ。お前見てたら銀さんの心臓がいつか止まるぜ」
「あはは、なら止まっても大丈夫なように傍にいないといけないね」
「行動を見直す気はねーのかよ...」
「ふふ、愚問」
「...」
「銀ちゃん!大丈夫アル!マミーは私が守るからマダオは引っ込んどくネ!!」
「マダオじゃねーし!つーかいーんだよお子様は引っ込んでて!」
「嫌アル!私のマミーは私が守るネ!」
「あ、僕もちゃんと護りますからね!朔夜さんは僕にとっても家族同然なんですから!」
「いらねーよ!大人同士の約束にガキンチョが入ってくんな!」
「あはは、いいじゃないか。頼もしいよ」
家族とはやはり...血のつながりだけで推し量れるものでは、けして無いのだろう
「(血がつながらなくても、本当の家族のようにいられる...そう、信じていたい)」
私は、この優しい居場所を『壊し』たりしない。
「(この、大切な自己の生きる世界を、小生なりに......今度こそ護りぬいてみせる...)」
今度はなにも間違えない。
三人の賑やかな会話に交じりながら、小生は一人、心の奥決意を固め直したのであった。
その時――
「(そういえば...)」
『空覇とかいう奴の、扱いには気をつけろよ』
「(星海坊主の旦那のあれは、どういう意味だったんだろうか...)」
僅かの疑問を胸中に浮かび上がらせたが、今はこの空間を楽しもうともう一度記憶へと、その言葉を埋没させた。
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