銀魂連載 | ナノ
第四十五訓 娘の彼氏はとりあえず殴っとけ。娘にお父さんの馬鹿って言われるかもしれないけど




「うがァァァァ!!」

「!!神楽ァァ!!」


前回、錯乱した神楽ちゃんの、銀時への華麗なアッパーカットで出てこれた小生と銀時は

飛び出した衝撃で、口に入ったえいりあんの臓物やらをぺっぺっと吐き出した。


「うえっ...口に入って気持ち悪っ...!」

「ペペッ!お前のは無茶した罰だろ...!」

「あーでもしなきゃ、助けられないでしょ...!ぺっ!」

「(こ、こいつら...本当に...)」


そして驚愕した表情でこっちを見てくる星海坊主の旦那を二人でニッと笑って見た。


「やぁ、先程ぶりだね。まさか酢昆布で出て来れるとは思わなかったよ」

「ったく食い意地はったガキだよ。親の顔が見てみてーな、オイ」


そして小生達はそれぞれの得物を構えなおし、立ちあがって星海坊主の旦那に近づいた。

すると旦那は冷や汗を流しながらも同じように笑った。


「......俺も見てみてーよ。お前らのような無茶苦茶な女と男の親の顔を」

「――ははっ、やだなァ...女の一人立ちなんて男より早いんだよ」

「男だって下の毛が生えたら、もう自分(てめー)で自分(てめー)を育てて行くもんだ」

「クク、ちげーねェ」


そして三人で横に並んで立つ。


「ふふ...さぁ舞台も大詰めのようじゃないか。残りの肉弾戦は任せたよ」

「わかった、じゃぁここは任せるぜ...…さて、そろそろ」

「しまいにしようか」


ニヤ、と二人で笑みを浮かべ、一気に核を攻め落とそうと踏み出した。


「じゃぁいくぜェェェ!!お父さん!」

「誰がお父さんだァァァァ!!」


...さて...小生は、小生にできることをしようかな


そして暴れ回る神楽ちゃんと、今にもこちらに撃ち込まれそうな軍艦のエネルギー体を見た


...かなりヤバイ状態だね...

その時、ドゴォンという強い音。


「!(えいりあん達が...!)」


二人が核に攻撃したことにより、えいりあんの動きは鈍くなった。

だが、今にも撃ちこまれそうなエネルギー砲の準備は終わっていなかった。

しかも逃げずに巻き込まれても一切責任は取らないと、なんとも無責任なことを松平の旦那から言われる。

さっさと撃とうとした理由は、娘さんが例の彼氏さんのうちで二人で誕生日を祝うからとか言う理由なのに。

本当にあの人が警察庁長官でいいのだろうか?

そんなことを疑問に思いつつ、松平の旦那の言葉に慌てだす周囲を見やる。

というかなんでいつの間にか新八君と、この前のハタ皇子と爺がいるんだろう。


「逃げろったってどこに逃げろっての!?」

「メガネメガネメガネ」

「下は無理だ上だ上!!」

「あたふたしすぎだって...」


その時、上にぼろうとしていた銀時が、錯乱したままの神楽ちゃんに酢昆布返せと、思い切り蹴られた。

そしてそのままマウントポジションを取られ、殴られる。


「うがーー!」

「神楽ァァ!!」

「しっかりして神楽ちゃん!出血が酷いから駄目だよ!」


星海坊主の旦那が、後ろから羽交い絞めにし引き離した神楽ちゃんに呼び掛ける。


「神楽ちゃん!」

「(意識が定まってねェ。こんな状態で核をブチ破ってきたってのか...この二人の声が、神楽の意識の底にまでとどいたってのか)」


その時、半目の神楽ちゃんが星海坊主の旦那を見た。


「あー酢昆布だ。マミー用意してくれたアルカ」

「「?」」


ブチン

思い切り星海坊主の旦那のバーコードな髪を引きちぎった。

一拍置いて、旦那が頭を抱えて叫び声をあげた。


「ぎゃああああああ何すんのォォォォ!!お父さんの大事な昆布がァァ!!」


しかしその叫びを無視して、その引きちぎった髪をもっさもっさと食べだした。


「神楽ちゃん食べちゃ駄目ェェェ!!」

「おいィィ何食ってんだ!出せェェハゲるぞ!そんなもん食ったらハゲるぞ!」

「ハゲるかァ!お前ホント後で殺すからな!」

「そうだよ銀時!そういうのは遺伝なんだから、食べなくても既に神楽ちゃんは危ないんだよ!」

「アンタもそれどう言う意味だァァ!!俺は神楽にそんな悲しい宿命は背負わせねェ!」

「アンタらはこの非常時に何の話してんだァァァ!!!」


そして新八君のツッコミが入った時、ゴゴゴゴといういやーな音が辺りに響き、背後を全員で振り返れば

目と鼻の先には、大筒のエネルギー体が迫って来ていた。


「あれ?」

「やばい!」


ぎゅっ

無駄だと知りつつ、横の神楽ちゃんを守るように抱きしめ、そして銀時に神楽ちゃんごと抱きしめられるのを感じながら目を閉じた。



***



その頃下では――


「朔夜さんっ!!」


ダッ


「!空覇ちゃん!」


撃ち込まれた砲撃を見て、空覇が、周りの制止も聞かず人間には不可能な速さで走りだし、

軽やかな動きで、力尽きたえいりあん達を伝って船の方に向かいだしていた。


***


「・・・?」


小生は、痛くない身体を不思議に思いながら、そっと目を開けた。


すると目の前には、小生と眠ってしまった神楽ちゃんを抱きしめる銀時の横顔のドアップがあり

その視線の先をたどれば、傘を開いて仁王立ちした、あちこち焼け焦げた星海坊主の旦那がいた。


「!だ、旦那...!(まさかあの砲撃を傘一本で...!?)」

「クク...俺も焼きがまわったようだ」

「いや、髪の毛も焼きがまわってるけど」

「他人を護って、くたばるなんざ」


そして、その場にドシャァアと倒れた。

一拍遅れて、全員で駆け寄る。


「お...おい!」

「旦那!このままじゃまずい!」

「坊主さん!」

「ハゲッ!おいハゲ!」

「ハッ...じゃない坊主さん!」

「そう髪の毛がもう死...!って違うからァァァ!!!」

「ハゲェェ!!右側だけハゲェェェェェ!!」

「だから違うからァァァ!!今そんなボケかましてる場合じゃないんだよッ...ケホッ...!!」


叫んで、毒に荒らされた喉が痛み咽るが

旦那が危篤状態だから!!今すぐ治療しないと!

そう思い、どうやって下におりるかと考えた時、びゅっと一つの影が小生達の前に降り立ち、小生にタックルをかますように抱きついてきた。


「うわっ!?」

「朔夜さん生きてたっ!!よかったァァ...!」


ぎゅぅぅと強く抱きしめられるというより、抱きつぶされる。

く、苦しい...!


「空覇!なぜここまで来て...危ないだろう?」

「朔夜さんが心配だったから...」

「...そう...ありがとうね」


少し、心配掛けさせすぎたかな...

しゅんとした空覇に少し罪悪感がわいて、頭をなでて礼を述べる。

すると空覇はいつものように笑ってくれた。

そして思い出したようにいった。


「あ!そうだ、朔夜さん、ここから早く降りよう?皆心配してるから」

「あー...!じゃぁ小生より先に星海坊主の旦那を頼めるかい?医者を呼んでもらってくれ!」

「!わかったよ!じゃぁ後で迎えに来る...」

「小生は自分で戻れるから大丈夫...心配には及ばな...ゴホッ...!」

「!朔夜さん大丈夫?!無理しないで!」

「だ、大丈夫だよ...ゲホッ...疲れただけさ...」


昔からの自分の戦闘方法で毒への耐性があるといえど、数年ぶりに、しかも大量に吸ったためか、煙管で自らも取り込んだ数種の毒がじわじわと体を侵食してきているようで、

咳と共に僅かに霧状の血が掌に付着したが、誰にも見られるまいとあわてて掌を握った。

幸い体も擦り傷だらけだし、微量な血には誰も気づかれなかった。

しかし空覇の心配そうな表情が消えないので、にこりといつも通り笑った。


「...小生は大丈夫だから...一番重症な旦那を連れて行ってあげなさい。」

「...わかったよ、朔夜さん!」


そして空覇は、星海坊主の旦那を担ぎあげ、軽く跳ねて、あっという間に背は遠くなった。


「ほんと、凄い身体能力...」

「つーかありえねーだろ...」

「ま、天人なら、あるんじゃない...?...っけほ、こほっ...(クソ...肺熱い...喉痛い...ざっと10年ぶりだから抗体が30パーセントも機能してないのか...)」

「?...お前、なんか咳ばっかりしてねェか?」

「!そんなこと...ゴホッ...ないよ...(気付いたら、無理するなって絶対怒る...)」


窺う様に覗きこむ瞳から視線をそらし、笑う。


「ウソついてねーな...?」

「大丈夫...すぐ、直るから...ッゴフ...そ、それより下降りよう」


早く降りて、見えない場所で血清を...抵抗力が足りない...


「わかった。降りるぞ」

「う、ん...」


これは...もう一回、毒煙管のワクチン全部体に入れなおさなきゃ駄目だな...

そう思いながら、小生達はなんとかかんとか下に降りたのであった。


***


「っ・・・はぁ・・・(さすが小生の薬だね・・・凄い効き目・・・もう楽になってきた)」


――空が橙色に染まり始めた頃、心配したんスよー!!と集まっていた近藤の旦那や真選組の隊士達、そして怒鳴ってくる心配症のトシと抱きついてくる空覇、それに他の皆からも離れ

小生は一人陰に隠れて、数種の毒を中和するためそれぞれの毒の血清を自分の血管に注射で入れていた。


「...はぁ...はぁ...っ、よし...」


もう、大丈夫だ...心配ない...

肺を襲っていた焼けるような熱さと、喉の爛れるような痛みから解放され、刺していた注射針をしまった。

我ながらえぐい劇薬を作ったな...でも、これで守れたわけだから...まだ作っといてよかった。

そして小生は、体力がほとんど残っていないため、疲れから訪れる強烈な眠気と倦怠感に襲われる重たい身体を動かし、

気を落ち着かせるため、普段吸う無害な刻み煙草を詰め、煙管から上がる木立瑠璃草の香りのする煙を吸いつつ、陰から出た。

行く先には並んで立つ銀時と、完全にスキンになってしまった星海坊主の旦那がいた。

どんどん近づいて銀時と旦那の横で立ち止まった。

すると、旦那が銀時に話しているのが聞こえた。

話していたのは片腕を失った理由だった。

なんでも、神楽ちゃんの兄貴に『夜兎』の古い風習、『親殺し』を実行された時に失ったらしかった。


「...(兄貴っていうのも、ほんとロクでもないね...)」


兄貴って...なんなんだろうな...


くゆらした煙を眺めながら過去を僅かに思っている間にも、しゃがみ込んだ星海坊主の旦那は自分の中にあった不安や恐怖、弱さを吐露していった。


「――俺は結局自分しか見ちゃいなかった。自分を見て、神楽を見たつもりでいた。俺と神楽は違う...アイツは...

朔夜、アンタが言ったようにアイツは、俺なんかよりずっと強い奴なんだよ」

「そうかい...」

「...」

「それを俺って奴は...完全に父親失格だ...いや、親父と思ってるのは俺だけで、アイツは俺みてーな奴のこと、親父とさえ思ってねーかもしれねーな」


そして勝手に娘の気持ちを重い込み、自嘲の笑みを浮かべる星海坊主の旦那に僅かにイラッとし、小生もしゃがんでジト目でいった。


「...勝手に神楽ちゃんの気持ち決めつけるんじゃないよ。それを決めるのは神楽ちゃん自身の気持ちに問いかけてからにしな」

「んなのできね...」


その時、銀時が同じようにしゃがみ、小生の目の前を通して、例の手紙を星海坊主の旦那に渡した。


「!」

「手紙、なんかいつもコソコソ書いてたぜ」

「ま、旦那は住所不定で届かなくて、戻って来ていたらしいがね」

「渡す機会があるかもって内緒で全部押し入れにとってあるが...今はコレしかねーや」

「あぁ、中身を見るような野暮ったい真似はしてないから安心しなよ」

「ついでにアンタも、これ見てグダグダ言う程野暮じゃねーよな」


そして小生と銀時はほぼ同時に立ちあがって旦那に背を向け、振り返らず片手をあげた。


「「じゃーな/それじゃ」」

「!!オイ!」


呼びとめられ、去ろうとした足を止める。

そして銀時が口を開いた。


「細けーことはよくわからねーや。けど自分を思ってくれる親がいて、他に何がいるよ」

「(銀時...)」


自分の横にいる穏やかな笑みを浮かべた銀時の言葉に、小生も表情を緩ませた。


「俺も朔夜も欲しかったよ。アンタみてーな...」

「『本当』の、家族ってやつがね」

「お前ら...」


そして再びゆっくりと歩き出した


「皮肉な話だよ...ホントに大事なモノっていうのはさ――」

「もってる奴より、もってない奴の方が知ってるもんさ」


だから人は、いつだって失くしてから失くした存在の尊さに気付くんだ。


「...だからさァ、神楽ちゃんのこと、大事にしてあげてよね」


そして小生達は、一切振り返らず、夕暮れの道を歩いていこうとした時――。


「おい、朔夜」

「なんだい、旦那?」

「あの空覇とかいうガキだが...『扱い』にゃ、気をつけろよ」

「?理由は分からないが心に留めておくよ...それじゃあね」


そして今度こそ、小生は銀時と歩き出した。

すると後ろから、小生達を追い越すように泣いている新八君が歩いてきた。

その姿に、思わず足を止める。


「言っとくけどねェ、僕はずっと万事屋にいますからね。家族と思ってくれて、いいですからね」


そう言いすてて、ずんずんと進んでいった。


「...ふふっ、だってさ銀時」

「――やめるとか言ってなかったっけ...」


そして小生達は、帰路への道を歩くのだった...神楽ちゃんがいないのは寂しいけれど

神楽ちゃんが選ぶ道ならば、仕方ないからね...

でもマミーと呼ばれて、少し嬉しかったな...


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