銀魂連載 | ナノ
第四十四訓 お父さんは娘を愛してくれてるのだから、娘もお父さんを大切にしてあげて




「だらァァァ!!」


ガザッ、と銀時がえいりあんの触手を次々と両断していく。


「つァァァァァ!!」


そして近くでは星海坊主の旦那が傘でえいりあんを同じように倒していく。

そこから少し離れた場所で、小生は触手の攻撃をかすめつつ避けて、煙管から甘い薄紫の煙をくゆらし『待って』いた。


「(8...9...10!)」


ゴパァッと後ろから小生を襲うとしていたえいりあん数匹がどろどろの体液を大量に吐きだし、苦しむようにして倒れた。


「――ふふ、カッチリ10秒。体内を溶かす毒煙管のお味はどうだった?」


にっこりと残骸に笑い、煙管の中の燃えカスを地に落とし、踏み消した。


「(次の毒を...)っ...ケホッ...!」


今のえいりあん達を倒した、戦闘時の見に使う有毒性の刻み煙草の影響で荒れた肺と喉がが痛み少しだけ咽る。

しかし、えいりあんの量が多い...毒耐性があるからってこっちも吸いすぎた――終わったら血清打たないと...

そんな事を頭の片隅で考えつつ、平気な顔を創りなおし、別の効力のある有毒刻み煙草に手をかけた。


***


三人が戦っている頃――下では、真選組の面々がその戦いを遠めに見ていた。


「あれが星海坊主...まるで化け物じゃねーか」

「いやいや、旦那も負けてませんし...朔夜さんもなかなかですぜ」

「(大丈夫かな朔夜さん...)」

「しかし、アレじゃあこちらもうかつに手が出せん。奴等や朔夜さんまで巻きこ...」


ゴゥンゴゥン


「!」


空から響いた音に全員がそちらを見る。

するとそこには幕府の軍艦が数席飛んで来ていた。

その先端には、警察庁長官の松平が立っていた。


「とっつァんだ!!松平のとっつァんだ!!」

「破壊神、松平片栗虎だよ!」

「ヤバイって!あのオッさんが通った後はチリも残らねーぞ!!ターミナルも消しかねねーよ!!」


***


そう下に別の緊迫感が走っていた頃、船の上は大体のエイリアンを殲滅し、それぞれ背中あわせに立っていた。


「はぁ...はぁ...」

「おーおー今頃うるせーのがブンブンたかってきたよ」

「!(ありゃ...松平の旦那じゃないかい...まずいね)」

「もうほとんどカタついたんじゃねーのか...にしてもてめーら地球人にしちゃあ、やるな」

「はは...卿が、それをいうか...っはぁ...」

「てめーに言われても嬉しくねーよ化け物め。片腕でよくここまで暴れられたもんだぜ」

「てめーも片腕じゃねーか。しかもこっちも、しらねーうちに満身創痍みてーだしな」


そして血が流れる銀時の片腕と、息を荒くし、恐らく自らの毒のせいで青くなっているのであろう小生の顔を見てきた。


「悪いこたァ言わねー帰れ。死ぬぞ」

「帰りてーけどどっから帰りゃいいんだ?」

「非常口もないようなんだが?」

「...てめーらのハラが読めねー。神楽を突き放しておきながら、自分で選べと言っておきながら、なんでここにいる、なんでここまでやる?」

「...さぁねぇ...わかんないよ」

「俺がききてーくらいだよ。なんで朔夜まで連れてこんな所に来ちまったかな俺ァ」

「お前ら...」

「安心しなよ。小生のわがままで無理やり連れ戻しにきた訳じゃないから」

「そうだ。あんなうるせーガキ連れ戻そうなんてハラはねー」

「勿論、死ぬつもりも小生達はない......けどね」

「「あいつ/神楽ちゃんを死なせるつもりもねーよ/ないよ」」


僅かに笑みを含み、二人でそう答えた。

すると星海坊主の旦那も笑った。


「クク...面白ェ、面白ェよお前ら。神楽が気に入るのもわかった気がする」

「あはは、そりゃよかった」

「だが、腕一本と満身創痍でなにができるよ?」

「アンタも一本だろ」

「そっちもお疲れじゃないかい」

「いやいや」


そして、またやってきた一匹のえいりあんの首に向かって三人でザッと踏み込んだ。


「合わせりゃ二本だし、まだまだやれるぜ」


ガザン

そしてそのえいりあんの目を小生がメスで潰し、二人が真っ二つにした。


「胸クソワリーが神楽助けるまでは協力してやるよ!」

「っはぁ...!ありがたく思いなよ、お父さん!!」

「そーかイ、そいつァありがとよォ!!」


そして星海坊主の旦那が船の床に向けて傘の銃を撃つと、中から巨大なグロテスクな塊が現れた。


「!これは...」

「核だ」

「...なるほどね。コレがこいつの中枢って訳かい」

「あぁ、ターミナルのエネルギー吸収して肥大化し、船底を破っちまったようだ」

「なるほど...(ここを叩けばいいのか)」


そう思い旦那の話を聞きながら観察していれば、

小生の目に一つの信じられないものが止まり、考えるよりも早く、ダンッと核に向かって飛び降りた。


「!朔夜っ!?」


銀時の言葉に振り返ることなく、飛び降り一目散にその場所に向かった。

すると上二人も気付いたらしく叫んだ。


「アイツなにして...!」

「かっ...神楽ァァァァァァァ!!」

「神楽ちゃん!!駄目だ!!目を覚ましなさい!!」


えいりあんの核に引きずり込まれていく神楽ちゃんの身体を、引き戻すように抱きしめ

体に残ったままの毒で痛む喉と肺を押して叫んで呼びかけても

神楽ちゃんは完全に意識を絶っていて起きず、小生の体にまで核から出てきた触手に絡みとられ、引きずり込まれだした。

ずぶずぶとあっという間に体が核に埋まっていく中で、神楽ちゃんだけは離すまいと抱きしめる。


「くっ...!神楽ちゃ...!!」

「朔夜!!」

「!ぎ、ぎん...と...!!」


ずぶん

小生の名を呼ぶ銀時の声が聞こえ、答えようとした瞬間、神楽ちゃんを抱きしめたまま、小生の身体も中にのみこまれ、意識も闇へと消えた。


***


「あ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛!!!朔夜さんまでェェェ!!?」

「!また食べられちゃった・・!(朔夜さんと神楽ちゃんが・・・!!)」


二人が中に取り込まれたのを見て、真選組一同が叫んだとき

軍艦から松平の警告が響いた。


『えっ、えー、ターミナル周辺にとどまっている民間人に告ぐ!ただちにターミナルから離れなさい!』


それは今から一斉射撃をしかけるとの警告だった。

それを聞いて近藤が、松平に無線で連絡を取る。


『とっつァん待て!!ターミナルに残っていた民間人は西口から避難させたが、ガキと朔夜さんが、えいりあんにとりこまれてる!』

『!朔夜ちゃんもか...だが近藤、ガキと女の二つの命を江戸と同じ秤にかけるつもりか?人を救うってことはな、人を殺める以上の度胸が必要なんでィ』

『!だがアンタは朔夜さんをあんなに目にかけて...』

『あぁ、気に入っている。それは朔夜ちゃんが、一人の命を救う間に百人の命を救えるなら、

迷いなく百人の命を救う方を取る。そういう、自分の大義を見失わない度胸のある目をした女だからだ』

『!...』

「松平さん!朔夜さんを死なせないで!」


空覇が近藤の隣から無線に呼び掛ける。


『空覇ちゃんの頼みでもこればっかりは駄目だ...』

「そんな...!」

『とっつァん!少し待つくらい...』

『大義を見失えば、救える者も救えなくなるぞ。甘ったれてんじゃないよ』

『しかしとっつァん――』


さらに続けようとした時、沈静化していたえいりあんが再び活動を始めた。

それを見て松平が再び言葉を発した。


『ホーラ見ろ、オジさんのいうこときかないから。なっ?オジさんの言うことは大体正しいんだよ。オジさんの80%は正しさでできています。

そーゆことだからさァ、お前らもウチに帰りなさい!邪魔だから!』


最後のセリフは、銀時と星海坊主に向かって告げられた。

そして、外がそんな危機的状況になっているとはしらず、朔夜は神楽を抱きしめたまま、深い眠りに落ち、夢を見ていた。


***

――青いはずの空を、闇夜のように黒い雲がどこまでも覆い、

折れたり、血濡れた刀が人や天人の死体と共に山のように辺りに転がる、無数の生き血を吸った黒ずんだ大地

そこで小生は一人、昔の姿で、かつて助けることができなかった者達の治療を泥や血に濡れた白衣で続けていた。



「...ご、めん...」


“――け、て...助けて...朔夜ァ...!”


“もう...見捨て、ないで...くれぇ...!!”


「...ごめ、ん!(仕方なかったんだ...!)」


“ま、だ、戦える...!だから俺を先に...!”

“いや、俺を...早く...!”

“姫...俺を...!!”

“...茨姫...!”

“...朔夜...!”


忘れたことなどない、目の前で亡くなっていった者たちが小生に救いを求めるように手を伸ばしてくる。

小生はかつて、この手を見殺し、かわりに数百の命を救った。

戦場では普通と違い、軽傷の者がより優先される場所だから...



「...許して、とは...言えないね...(参謀として、戦場医として...卿らを優先できなかった。全て、言い訳にしかならないけれど...)」


弱弱しく助けを請う声と、伸ばされる手に、目を逸らしたくなる心を押さえつけ、眼前のその者達の姿を見つめる。

段々と体や首にのびてくる手にも抵抗をせずに、泣かないように見つめ続ける。


“お前が...見捨てたんだ...!”

“治療してくれれば...”

“見限らなかったら...”

“・・・助かった、のに・・・!!”


首にかつての仲間達の氷のようにひんやりとした手がかかっていく。

小生は、その首にかかった血濡れた手に触れた。


「ごめん...」


未来永劫、目的にすらたどり着けず悪戯に犠牲を増やしたことは赦されることなどないけれど――


「...ごめ、ん...ね...」


懺悔や後悔や色々な気持ちで、溢れてしまった涙を隠すように目を閉じ顔を覆ったその時――


「――朔...!」

「...?」


曇り空から声が聞こえ、空を見上げると雲と雲の間に切れ目が入っていた。


「...朔夜!帰ってこい!!」

「...ぎ、ん...とき...?」


そしてその薄暗い世界は、音もなく消え去り、小生の目の前には銀時がいて、まっ黒な世界で小生を横抱きしていた。


「!朔夜!!お前また無茶しやがって...!!俺いつか心臓止まるぞ!!」

「...はぁ...なんか、台無し...」

「台無し!?」

「...でも銀時、ありがとう...」


助かった...


「?...なんかよくわかんねぇが...まぁ、無事なら良かったぜ...」

「うん、小生は...って、神楽ちゃんは!?」


そして横を見れば、近くに神楽ちゃんがいた。


「今からやる。お前が抱きしめ続けてたからな...大丈夫だろ」


そして銀時が小生を下ろして、神楽ちゃんの横にしゃがみ込み話しかけた。

小生もそれに続く。


「――ら...神楽、起きろ」

「神楽ちゃん...起きなきゃだよ」

「(ぎ...銀ちゃん...朔夜...)」

「ほーら酢昆布食べちゃうぞ〜」

「え、酢昆布?」


銀時は本当に酢昆布を食べだした。

すると神楽ちゃんの目が薄く開き、次の瞬間起き上がり小生を抱きしめてきた。


「!神楽ちゃ...」

「...朔夜は、マミーアル...」

「え?」


しかし聞き返す間もなく、神楽ちゃんは離れ、小生の片手を握った。

そして――


「?かぐ...」

「それ、私の酢昆布ネェェェ!!」


ドォン


銀時に思い切りアッパーカットを決め、その衝撃で三人とも外へと出た。


「えぇぇ!?」

「ぐおぶ!」


するとなんだか人が増えていて、今の衝撃のせいか、星海坊主以外吹っ飛んでいた。

しかし、まさか酢昆布で状況を打破するなんて...計算外だよ...

そして錯乱したように暴れ回る神楽ちゃんを見ていた。


...そういえばさっきのマミーって...まぁ、いっか。


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