銀魂連載 | ナノ
第四十三訓 ミミズにオシッコをかけると腫れるんだよね。




「――朔夜は強いアルな」

「え?」


いつだったか、二人で定春の散歩をしてベンチで休んでたときに、朔夜にずっと思ってたことを言ってみた。


「朔夜は弱いのに、強いネ」

「...おかしなことを言うね」


小生は、とても弱い人間だよ。

驚いたような顔をした後、笑いながらそう返してきた朔夜に、私は首降る。


「すごく強いアルヨ!いつも自分の中の弱さと戦ってるネ!」

「!...神楽ちゃん...」

「私...朔夜みたいな強さが欲しかったヨ...」


自分に負けない、朔夜みたいな強さをもった人になりたいネ...

そう言ったら、朔夜が私の肩を抱き寄せて、優しい顔で頭を撫でてくれた。


「ありがとう神楽ちゃん...でも神楽ちゃんだって、もう十分心の強い子だよ...」


弱さを認め、戦う努力をしてるじゃないか...

そう言って私に向けてきた朔夜の笑顔は、とても綺麗で暖かかく、安心できた。


「(やっぱり朔夜は優しくて、温かくて、強いヨ・・・)」


この江戸にいれば、朔夜みたいになれる気がしてたアル――


***



「ったく、真っ暗で右も左もわかんねーよ!」

「んなこと言ったって、呑まれちまったんだから仕方ないじゃないかい!

でもこのえいりあんの形態上、体は全てつながってるはずだから、別の口から出れるはずだよ!」

「お前んなこと言ったって...」

「消化されたくなかったら、可能性にかけるしかないんだからガタガタ言わない!」


体内にのみこまれた小生達は、細長いえいりあんの身体の中を、定春に乗ったまま走り回っていた。

そして後ろに乗る銀時と言い合いながら、前を見つめていると僅かな光が見えた。


「!銀時、あった!!あそこだ!」

「!分かった...伏せとけよ」

「勿論・・・定春っ、全速前進!」

「ワンッ」


そして、スピードを上げた定春に姿勢を低くしてしがみついた。

そして光が大きくなっていき、外が見えた。

するとそこには今にも食べれられそうなボロボロの神楽ちゃんの姿が僅かに見えた。


「「!」」


その次の瞬間、銀時が木刀を思い切り横に薙いで、えいりあんの開けられた口を、内側から飛び出すと同時に引き裂いた。


「「神楽ァァァァァ!!/神楽ちゃァァん!!」」


そして捕まっている神楽ちゃんに二人で手を伸ばす。


「(銀ちゃん...朔夜...)ぎっ...銀ちゃ...朔...」


だが僅かにお互いの手が届かないのをいち早く読み取り

タンッと定春の背から飛び出し、神楽ちゃんを捕まえるえいりあんの触手に采配をつきさしてしがみつき

触手ごと神楽ちゃんの体を強く抱きしめる。

そして遅れて飛び出した銀時は、触手の下の方にしがみついていた。



「!朔...」

「はっ...はぁ...!神楽ちゃん、頑張ったね...偉いよ(ぎりぎり届いた!)」

「っ朔夜ァ...!」


ふりおとされないようにしつつ、神楽ちゃんを抱きしめ、頭をなでて安心させるために微笑んだ。

すると神楽ちゃんは小生を見て目を潤ました。


「ほら、泣かない泣かない。まだ終わってないんだから...」

「うん」

「...後は、小生達に任せてね」


そして神楽ちゃんから離れ、采配をえいりあんの身体を刺しながら銀時の近くにおりていくと、

いつのまにか傘を突き刺し銀時の横でしがみついている星海坊主の旦那がいた。


「!星海坊主の旦那...」

「よォ、今更何をしに来た若造共...どのツラさげてここに来れたんだてめーらは?」

「祭りごとが好きでねェ。火事と喧嘩とえいりあんは江戸の華ってな、しらねーかィ?」

「しるかァァァ!えいりあん以上に不快な野郎だ、失せやがれ!!」

「うるせェェお前腕取れてるぞォ!病院行けェ!!」

「お前が行けェ!!カゼをひけェお前はカゼをこじらせろ!」

「お前がこじらせろォ!!学校を二、三日休んで休み明けにちやほやされろ!お前みたいな奴は!」


えいりあんが暴れ狂う中、しがみついたまま銀時と旦那が言い合いを続けしばらくして、星海坊主の旦那が小生を見た。


「だいたいなんでアンタみてーな、ひ弱な女までいんだ!さっさと帰れ!!」

「はんっやなこった!弱くたってね...できることはあるんだよ!旦那こそ帰ったらどうだい!?」

「ふざけんなァ!アンタみてーな戦えない奴にできることなんざねーよ!足手まといだ!!」

「っ確かに小生は、弱いさ!卿に比べれば弱くて弱くて、足手まといかもしれない...!だが卿のような強者にはない弱者の強さは持ってる!

立ち向かう覚悟や、この体の中にある魂は、誰よりも強いつもりだ!見せてあげるよ!」


そして、懐からいくつも丸薬のはいった小瓶を取り出し、キュポッと口でふたを開けた。


「!朔夜お前まだそんなもん...!」

「常に携帯してるからね」

「?んだそりゃぁ?」

「ん?特製毒薬」

「はぁ?!」

「さァて...来てるね」

「「ん?」」


小生の発した言葉に二人も周りを見た。

そこには此方に大口開けて向かってくるいくつものえいりあんの頭があった。


「「うおわァァァァァ!!」」

「――そんなに食べたきゃ、こっち食べてな」


そして全てに入るように、丸薬を振りまいた。

それぞれの口に入るのを確認した瞬間、銀時に身体を片腕で抱かれて、そこから飛び降りた。

すると毒を食べた顔達が地に伏すのが見えた。


「よし...」


そして他の触手やらを避けつつ、走りながら話しかけられた。


「アンタ、絶対ただの女じゃねーだろ...何者だ」

「なんでもない...ただの学者さ」

「朔夜!それ何の毒喰わせたんだよ?!」

「弛緩作用のある毒だよ。相手がこの大きさだと、一時的なものになってしまうがね。卿らの補助くらいにはなるだろう」


量の少なくなった小瓶を懐にしまいながらそう告げる。


「またお前えげつねーもんを...」

「この世の中何が起こるか分かんないからね。それより降ろしてくれて大丈夫だよ。銀時は戦いに専念して」

「っ...わかった。怪我すんなよ」

「ん。努力する」


そして素早く小生を下ろし、銀時は再び星海坊主の旦那と走り出した。

その後を采配を構え直して、別の毒の入った小瓶をもって追う。



その頃――


ドォン


「止めろォォォ!なんとしてもここで食い止めるんだァ!奴らを江戸の街に入れるなァァァ!!」


バキャァッ


「朔夜さん達を吐きだせー!!」


ターミナルの下では真選組が、えいりあん相手に大筒で戦っていた。

そしてそれと共闘するように、空覇がえいりあんを強烈な蹴りや拳で叩きのめしていた。


「副長ォォ!ターミナルの設備がもうメチャクチャなんですが!空覇ちゃんも止められないんスけどォォ!!」

「大丈夫なんですかァ!コレ責任問題になりませんかァ!?」

「しるか。全部あの化物が壊したことにするぞ。空覇は、下手に止めたらこっちが巻き沿いを食いそうだから

とりあえず様子みとけ(つーか朔夜の奴無事だろうな!)」

『テレビの前の皆さん、ききましたでしょうか?我々は今目の前で不正が起こる瞬間を...』


そのリポーターの言葉をさえぎるように、土方がドガッ、ガッ、ゴッ、と、無言でリポーターを足蹴にした。

するとほぼ同時に、急にえいりあんが退きだした。


「やったァァ!!俺達の勝ちだァァ!!」

「いや、違う」


喜んでいた隊士達が土方の冷静な言葉に、えいりあんの退いていく方を見れば

えいりあんはターミナルに突っ込んだままの船の中心に向かっていっていた。


『何が起こっているのでありましょうか?あそこに一体何が...あっ』


リポーターが何か見つけたと同時に、隊士達も叫ぶ。


「見ろォォ誰かいるぞォ!!」

「あああ!!えいりあんの中心......」

「えいりあんの中心でなんか叫んでる!なんか叫んでるよ!」


そしてえいりあんの中心で何事か叫ぶ者たちを目を凝らして見る。


「星海坊主!?ありゃあ星海坊主だァ!!それに野郎と...」

「朔夜さんだ!」

「(何危ない事してんのあの人ォォ!!!)」


そう隊士達の心が一つになった頃――話題の人物達はえいりあんを必死で相手取っていた。


「「どけェェェ!!小便かけんぞォォ!!」」

「(ミミズにかけて腫れるのは迷信じゃないってのに...)」



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