銀魂連載 | ナノ
第四十訓 何か一つ嫌なことが起きるとピタゴラスイッチ的に連鎖する。




年も無事に明け、半壊していた万事屋も何か色々あったようだが直ったようだし

小生が数週間会わない間に、小太郎が幾松ちゃんのラーメン屋に逃げ込んだり、万事屋は花火師さんのとこでお仕事があったみたいだ。

ほんと、銀時の周りは色んなこと起きるよなぁ…

そんなことを思いつつ、真選組屯所の台所で、今さっき屯所に来たお客様、星海(うみ)坊主の旦那に出すためにトポトポとお茶をいれる。


「(しかし宇宙一のエイリアンハンター星海坊主か…)」


噂にゃ聞いたことはあるけど、そんな人が地球に来るなんてね…


「(また何か面倒事がおきそうだね…)」


やれやれ、銀時達が関らなければいいんだけど…関ったら何か必ず大事になるから。

そして淹れたお茶をお盆に載せ、近藤の旦那と星海坊主の旦那のもとに向かった。


***


スッ


「近藤局長、お茶をお持ちいたしました」

「お持ちしました!」


客人がいるので仕事モードになり、手伝いに連れてきた空覇と、礼儀にのっとって静かに襖を開け

床に三つ指をついて頭を下げれば、空覇も真似して下げる。


「!(こんな場所に若い女と…『アイツ』に似てる...?)」

「おう、朔夜さんと空覇ちゃん、ありがとうよ。入ってくれ」

「はい。失礼いたします」


そして顔を上げて立ち上がり、お盆を持って中に入る。

別の方の襖から、沖田君や他の隊士達の気配がするが、今は職務に努めよう。

そして二人の前にお茶を置く。


「どうぞ」

「あ、あぁ有り難うな嬢ちゃん...しかし、こんな所にアンタみたいな若い女が?」

「えぇ、まぁここで働いています女中ですので」

「他にはいるのか?」

「(女中は)いません。ここは本来女人禁制ですので...小生はいろいろな事情がありまして、特例で真選組でお勤めをさせていただかせております」

「なるほどな...けどよ、そっちの奴はまぁ、いてもおかしくないが...か弱そうな女のアンタがこんな危険な職場にいて大丈夫なのか?」

「(ぴく)...えぇ、出来る範囲の仕事をしておりますし、ここの方々には全幅の信頼を置いておりますから...それに危険は元より覚悟の上で、勤めておりますので」


か弱くても、問題ありません。

真っ直ぐに星海坊主の旦那を見てにこりと笑い、そう告げる。


「(こっちの女、ただの地球人の女ってわけでもなさそうだな...)」

「...なんて、小生のどうでもいい話が長くなってしまいましたね。では小生は職務に戻らせていただきますので...ごゆっくり」


そして一礼し部屋をでた。


「(...しかし、あの青い髪の...)」


星海坊主の旦那がそんなことを考えていたとは知らずに。

そして空覇とはやってきた総悟君と一緒に遊ぶといって別れて、しばらく歩いたところで一人小生は立ち止まった。


「ふぅ...(すごい、空気...)」


戦いに身を置く男の空気を纏っていた。


「(流石は宇宙最強のエイリアンバスター殿だね...)」


隠しきれない孤高と、戦場の匂いがした。


「(...まぁ、小生にはもう縁はない話かな...)」


それに彼は、そんなに深くかかわる人種でもないだろう。

そう思い、仕事をしなければと再び歩き出した。


***


しばらくして洗濯物を干していると――


「朔夜さん!」

「!あぁ、空覇。どうかしたのかい?」


くるりと掛けられた声に振り向けば、空覇が走ってきて小生の前で立ち止まった


「あのね!エイリアンが銀行強盗に入ったんだって!」

「へぇ...そりゃまた難儀な話だね...」


エイリアンが銀行強盗って...時代は変わったねェ

自ら関ってもイイことはないなと思い、そう返せば空覇はさらに続けた。


「それでね、それを聞いて星海坊主さんが先に向かってさ、今から真選組の皆と僕も一緒に行ってくるね!」

「そう...って、行くのかい!?」

「うん!だから行ってきまーす!」


そして制止の言葉も言わせず、空覇はあっという間にいなくなってしまった。


「...はぁ...(だが...空覇の並はずれた身体能力なら大丈夫か...)」


どうにもエイリアンなんかのために出向く気にはなれず、ここ最近の空覇の身体能力を思いだし、そう思考に結論付けた。

そして、この後は暇だし、街中ぶらぶらしようかな...とか考えながら、洗濯物を干すことに集中することにしたのだった。


***


「――ふぅ...(今日は万事屋で夕飯食べようかなぁ。神楽ちゃん、小生の料理喜んでくれるし...)」


しばらくして女中の仕事が終わり、街を煙管片手に夕飯のことを考えながらぶらついていたその時――


「!?」


頭上で激しく何かが割れる音が響いた。

驚いて思わず見上げれば、自分に向かって降り落ちてくる無数のガラスの破片と、誰か二人の人影が見えた。


「っ!?」


とっさに白衣を脱ぎ、その脱いだ白衣をばっと破片から身を庇うようにふり、体を覆った。

そのさい、僅かに腕や頬の皮膚を薄く切ったらしく僅かに痛みが走ったが、それよりも気になったのは

ガラスを突き破って飛び出した二人の人影に見覚えがあったことだった。


「あ、れ...?(星海坊主の旦那に...神楽、ちゃん...?!)」


屋根から屋根へと伝い、戦いながら離れて行く二人を目を見開いて見つめ茫然と立っていると、後ろから急に肩を掴まれた。

思わず体を跳ねさせて振り返れば、そこに肩で息をする銀時がいた。


「大丈夫か朔夜...って、皮膚切ったのか?!」

「だ、大丈夫だよ。かすり傷だから...それより、なにアレ...どういうこと...?」


なんで神楽ちゃんとあの人が?

そう問いかけようとしたが、銀時は小生の傷の具合を確かめると話も聞かず『またあとでな』と頭をなで、

すでに姿は見えなくなった戦う二人の後を、小生を置いて走って行ってしまった。


「...(関係ないと捨て置いていたけれど...)」


銀時達が渦中にいるなら...飛び込まないとな...


「(まったく...ちゃんと説明してもらわなきゃ)」


そして銀時が走り去った方向に小生も走り出した。

走るのは好きじゃないんだけどな。ここのところ走ってばかりな気がする...

***


そして肺が痛くなりつつ走っていると、騒然としているボロボロになった駅についた。

そこには、親子をかばったのか逆さまの神楽ちゃんを抱きとめている銀時がいた。


「...ったく、何やってんだてめーら」

「っ銀時!神楽ちゃん!」

「朔夜...きたのか」

「!朔夜...」


神楽ちゃんを地面におろした銀時に近づいて、膝をつき、神楽ちゃん触れる。


「神楽ちゃん、平気かい?怪我はない?」

「う、うん。私は大丈夫ヨ!でも朔夜の頬と腕、血が...」

「あーこれは、うん。ちょっとすりむいてね...それより、一体どうしてこんなこと...」


そして、少し離れた場所にいる恐らく恰好と声から海星坊主の旦那だと思われる

バーコード的ハゲだったらしい旦那を見つめれば、彼が声を発した。


「なんのマネだ?親子喧嘩にクビつっこむなんざヤボだぞ」

「!(親子...!?なら、神楽ちゃんの父親!?)」


そうか...大方、神楽ちゃんを家に連れ戻しに来たってところなのかな。それに神楽ちゃんは反抗して...

夜兎同士の喧嘩だから、ここまで大事に...

大体の経路を予想し、思わず神楽ちゃんをゆるく抱きしめ、その背中をさする。


「!(朔夜...?)」

「(父親の意思と自分の意思が違うなら、反抗したっていいんだよ。神楽ちゃんは、神楽ちゃんなんだから)」


何処となく不安そうにしていた神楽ちゃんを安心させようと、秘めた思いを乗せて何も言わずほほ笑んだ。

その時銀時が、辺りを見て静かに口をひらいた。


「...また派手に暴れやがったな。とんだ親子だ。蛙の子はやっぱり蛙だな。さっきのガラスで朔夜に怪我させやがるしよー」

「!?」

「!(銀時...!)」


銀時の突き放すような台詞に思わず顔を上げる。


「......帰れよ」

「え」

「...」


...銀時、家族の元に返すつもりなの...?


「お前にゃやっぱ地球は狭いんじゃねーの。いい機会だ。親父と一緒にいけよ。これでサヨナラとしよーや」

「え......なんで、なんでそんなこと言うネ」

「...朔夜、お前も帰るぞ...手当てしなきゃな」

「...先行ってて(銀時の考えに、口は出せない...そういう幸せも、確かにあるのであろうから...)」

「!朔...」

「分かった。すぐ来いよ」

「うん...」

「ちょっと待ってヨ!なんで、なんで、なんで...朔夜まで...!(二人目のマミーになってくれたのに!)」

「...神楽ちゃん...泣かないで」


うるんだ目で腕の中から必死で訴えかけてくる神楽ちゃんを強く抱きしめ、頭をあやすように撫でて、神楽ちゃんの耳元で小さく囁く。


「...ごめんね。小生は、家族とか、父親とか...何も神楽ちゃんに言ってあげられないし...言う気もない」

「!...」

「小生が言えるのは...自分の心のままに動きなさい、ということだけ」

「...?」

「何事も...いつも自分の気持ち次第で、いくらでも世界は変わる」


帰ってきたいなら帰ってきたっていいし、父親とこのまま行くならそれもまた一つの選択、好きにしなさい。


「――でもね、神楽ちゃんの人生の選択肢は、神楽ちゃん自身で選びなさい」


親は勿論、誰かの強制などで決めてはいけないよ。神楽ちゃんの人生は、神楽ちゃんだけの物なんだから。

小生はそれがどんな選択でも、受け止めて、何度でも抱きしめてあげるから――...

そして神楽ちゃんの耳元から顔を話し、一度だけ微笑んで、抱きしめた身体を離し立ちあがった。


「あ、朔夜...」

「お別れだね、神楽ちゃん」


そして小生は神楽ちゃんの横をすりぬけ海坊主の旦那に近づき、視線が合う。


「...まさかアンタが神楽と知り合いだったとはな」

「世界って狭いもんだね。まさか星海坊主の旦那が神楽ちゃんの父方とは驚きだよ」

「...神楽によくしてくれたみたいだな。名前だけは聞いておく」

「...吉田朔夜。下の名前で構わないよ」

「わかった。それじゃぁな、朔夜さんよ」

「――あぁ、そうだ一つ言っておくとしよう」

「?なんだ」


そして星海坊主の旦那にくすりと笑い、告げた。


「神楽ちゃんは、卿が思うよりもずっと強いよ。おそらく卿よりね」

「そりゃひ弱な人間からみたら...」

「違う、戦闘能力のことじゃない」

「!じゃぁ何が、」

「...気付けた時に、神楽ちゃんの気持ちがわかると思うよ」


だから、小生からは言わないよ。


そして小生は踵を返し、銀時の去った後を追ってその場を離れようとした時

今度は星海坊主の旦那に声をかけられた。


「おい待て...一つ聞きたい事がある」

「...なんだい」

「あの屯所にいた青髪の奴は何て名前だ?」

「?あの子は観音寺、空覇だよ」

「!...『観音寺』...(間違いねェ...アイツのガキ...!)」

「...もしや、空覇と知り合いなのかい?(ならば聞きたいことが山ほど...)」

「...いや、言うほどのことじゃねェ...」

「...そうかい。なら、今度こそサヨウナラ」


そして煙管に火をつけ、背を向けてひらひらと片手を振った。

キンセンカで作った刻みタバコの芳香が、痛む心をいやすよう、肺へと溶けていった。

...父親が、子供の人生まで決める権利持ってるなんて...小生は絶対に認めない...


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