銀魂連載 | ナノ
第三十八訓 公園は子供達のものだから、大人は早く社会に戻れ




"――○月△日

今日生まれて初めて、親父に殴られた。

重い拳だった。それは己の背中一つで、俺達家族や、様々な重責を背負って生きてきた男の拳だった。

自分の拳がひどく小さく見えた。

仕事をやめ二年と三か月、ゲーム機のコントローラーしか握ってこなかった負け犬の拳だ。


『別になァ、上手に生きなくたっていいんだよ。

恥をかこうが、泥にまみれようがいいじゃねーか。

最高の酒の肴だバカヤロー』


そう吐き捨てて仕事に出かけた親父の背中は、いつもより大きく見えた。

今からでも、俺は親父のようになれるだろうか...初めて親父に興味をもった。

二年ぶりに外に出た。しぜんと親父を追う俺の足。

マムシの蛮蔵、それが親父のもう一つの名前。

悪党共をふるえあがらせる同心マムシ...彼の顔が見たかった。

働くということがどういうことなのか、彼を通して知ろうと思った。


――――マムシは、ワンカップ片手に一日中公園でうなだれていた...

マムシは一か月前にリストラ..."


「い゛や゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」

「(悲惨か)」

「お前らにわかるかァァ!!マムシの気持ちがァァ息子の日記にこんな事書かれたかわいそうなマムシの気持ちがァァ!!」


だが知らんよ、そんな私情。

全員の前で息子の日記を読み、自らの恥を泣きながら暴露して日記帳を引き裂いた、自分達を捕えている男を見てそう思う。

というか真選組の皆来てたんだ。

大筒の覗く穴から外がちらっと見えた時、見慣れた黒い服が見え、冷静にそう思った。


***


「もう少しだ!!あとちょっとで息子も更生できたのにリストラはねーだろ!

おかげでお前息子はひきもりからやーさんに転職だよ!北極から南極だよお前」

「「最高の酒の肴じゃねーか/ないかい」」


遠くにいるトシも同じことを思ってたのか、突っ込みが被る。

だがどうや向こうには小生の声は聞こえなかったらしく、此方が見えないしで、向こうは気付かない。


「飲み込めるかァァ!!デカすぎて胃がもたれるわァ!!」


じゃぁどう言えってんだい。


「こちとら三十年も幕府(おかみ)のために滅私奉公してきたってのに、幕府も家族もあっさり俺をポイ捨てだぜェ!!

間違ってる!こんな世の中間違ってる!だから俺が変える!!十年かけてつくりあげたこの『蝮Z』で、腐った国をブッ壊して革命起こしてやるのよ!」

「(理不尽さへの怒りは理解できるがね、自分勝手すぎるよ)」


そう思い口を開こうとすれば、トシの声が聞こえた。


「腐った国だろうが、そこに暮らしてる連中がいるのを忘れてもらっちゃ困る。

革命なら国に起こす前に、まず自分に起こしたらどうだ?その方が安上がりだぜ」


その通りだ!


「うるせェェ!!てめーに俺の気持ちがわかってたまるかァァ!!」


逆切れして叫び、真選組が大砲を用意している間にマムシが小生達を看板のところにそれぞれ縛り付けた。

すると向こうもこちらに気付いたようだった。



「副長ォ!!アっ...アレ!!」

「局長ォ!!山崎ィ!!アレ!?なんでアイツと...」

「朔夜さん!?」


・・・まーた子供の空覇をこんな所に連れてきて・・・


「クク、こいつらがてめーらの仲間だってことはわかってる。俺達を止めたくば撃つがいい。こいつらもこっぱみじんだがな」


瞬間、ドゴォンという発砲音。


「え、」


愕然とする暇もなく、こっちに思い切り大砲が飛んできた。

なんとか弾は外れたが殺す気かと耳を澄ませば向こうの会話が聞こえてきた。


「総悟ォォォォォ!!」

「わぁ!!朔夜さんが!!」

「昔近藤さんがねェ、もし俺が敵につかまる事があったら迷わず俺を撃てって、言ってたような言わなかったような」

「そんなアバウトな理由で撃ったんかィ!!つーか一般人の朔夜もいんだぞ!」

「朔夜さんが真選組で働きだした時にねェ

『小生の存在が卿らの弱みになったり邪魔になる時や、卿らの足を引っ張る時は、まず最初に斬り捨てなさい』と言われた気がするんでィ」

「え、そうなの?流石朔夜さんだね〜かっこいい!」

「いや気だけだろォォ!!」


いや似たようなことは言ったけどさ...少しばかり速い。決断が速い。もう少し迷って。

すると衝撃で看板が外れたのか、山崎君が看板を背負った姿で信じられないと言ったように叫んだ。


「撃ったァァァァァ!撃ちやがったよアイツらァァ!」

「なんですかァァあの人達!!ホントにあなた達の仲間なんですかァ!?」

「仲間じゃねーよあんなん!局長俺もうやめますから真選組なんて...アレ?局長は?」

「オウ、ここだ。みんなケガはないか。大丈夫か?」

「大丈夫さ...って近藤の旦那頭ァ!!」

「局長ォォォォォアンタが大丈夫ですかァァ!?」


視線の先には、頭に木材の破片が深々と刺さり頭から血を噴き出す、縄が解けたらしい近藤の旦那がいた。

あれ、大丈夫なんだろうか。どうやら記憶は戻ったみたいだが。


「まるで永い夢でも見ていたようだ」

「局長、まさか記憶が...ていうか頭...」

「あぁ、まるで心の霧が晴れたようなすがすがしい気分だよ。山崎、色々迷惑かけたみたいだな」

「いえ...ていうか局長...頭...」

「とにもかくにも今は逃げるのが先決だ。行くぞ」

「局長待ってください、まだ旦那と朔夜さんが!」

「僕はいい。朔夜さんだけ連れて行ってくれ、ジミー、ゴリさん。早くしないと連中がくるぞ」

「何言ってんの。銀時が残るなら、小生も残る。それに小生がいたら二人の足手まといだしね」

「!何言って...」

「銀時と小生は命を預け合える関係なんだよ。そんなことももう思い出せない?いや...思い出す気もないかい?」


しっかりと横に縛られたままの銀時の目を見据えてそう言えば、目を気まずげにそらされた。


「こっちを見なよ」

「...いやです...貴女の、その真っ直ぐな目が苦手なんです...」

「...そう、分かった。そんなに思い出したくないなら勝手にしな」

「!え...」

「...こっちも勝手に卿に思い出させようとするから」

「!...(なんでこの人はそんなに...)」

「...というわけで近藤の旦那。早く行きなよ、卿らはほおって」

「いえ、そんなことはできません!それに普段のコイツなら放っておきますが坂田サンに罪はない!」


そして近藤の旦那は、ガッと小生と銀時がくくりつけられてる看板を外そうと、両方に手をかけ引っ張り出した。


「記憶が戻ったら何かおごれよテメー」

「ゴリさん」「近藤の旦那...」


その時、戻ってきたらしいマムシの配下の奴にバレた。

しかしそれと同時に銀時と小生の看板が外れた。

そしてその衝撃で、屋根から落ちていき、退も飛び降りた。


「おわァァァァァ!!」

「くっ!!(やばい体勢が...ここまでか...!)」


そうおもい目を閉じた時


「朔夜さん!!」


ガシッ


「ん...?って空覇!?」

「朔夜さん大丈夫!?」


何時の間にここまで来ていたのか、空覇に抱きとめられた。

相変わらず、人間では考えられない運動能力だ。

けど、何にせよ助かった。


「あぁ、ありがとう空覇...とりあえずここにいたらやばそうだから、コレ外してくれるかい?」

「うん、わかったよ」


ブチブチ


そして縄と看板をいとも簡単に外して、小生を下ろしてくれた。

その間に、真選組がマムシ達に大砲を撃ちこんでいく。

それを見て小生達も銀時達3人と逃げ出す。

するとその後ろから、マムシ達が撃ってきた。


「うおわァァァァァァ!!」

「ったくバカばっかりか!空覇は戻りな!!」

「朔夜さんといる!」

「!はぁ...アンタね...(巻き込まれたらどうすんだい)」


何かあったら、彼女の母親に合わせる顔が無いよ。

そう思いながら走るがやはり追いつかれそうになる。


「やば...」

「クソ!」


もうダメかなと思った時、近藤の旦那が小生達を4人を蝮Zの軌道の外に押しやった。


「!!」

「!旦那!!」

「局長ォォ!!」

「近藤さーん!」



そして一瞬まばゆい光が走り、再び目を開ければ

目の前には抉れた大地が広がっていて、退が倒れている近藤の旦那の名前を呼んでいた。


「...これは...(だから兵器は...こういうバカがいるから嫌なんだ)」


あまりの惨い光景に転がる銀時の隣で座り込んでいるとマムシの笑い声が聞こえてきた


「フハハハ。見たか蝮Zの威力を!これがあれば江戸なんぞあっという間に焦土と化す。

止められるものなら止めてみろォォ時代に迎合したお前ら軟弱な侍に止められるものならよォ」

「(迎合した軟弱な侍か...なら苦しい現実から逃避した卿はなんなんだろうね)」

「さァ来いよ!早くしないと次撃っちまうよ。みんなの江戸が焼け野原だ!

フハハハハ、どうした?体がこわばって動くこともできねーか情けねェ...」


マムシの三下の台詞にクッとおもわず口角が上がる。

立ちあがり、パチパチパチとバカにしたように拍手をして、転がる銀時の前に出た。


「?朔夜さん...?」

「!朔...」

「マムシの旦那、ご高説ありがとう。しかし本当に情けないのはどっちかねェ」

「あぁ?んだと吉田ァ!」

「この場で一番情けなくて軟弱な侍は卿だって言ってんだよ。

リストラと子供がやーさんになったくらいで一々国破壊してたら世話ないってんだ。

理不尽も不条理も生きてりゃ当たり前、いい年こいてガキじゃないんだから八つ当たりはいい加減にしな」

「なんだと!?テメェに何がわかる!!」

「わからないね。だって小生は卿じゃない。故に小生は絶対に卿の心境の真の理解などできないさ。

だが、卿の感情に共感し理解しようとする努力はしてるつもりだ。だが解せない。

その子供のような八つ当たりの感情は、ある程度押し隠すべきものだからね」


良い大人が表に出すなんてみっともない。

そう言ってバカにしたように笑ってやれば、どうやら蝮の逆鱗に触れたようだった。

まぁ逆鱗に触れるようなことを言ったのだから当たり前だが。


「テメェ江戸ごと今撃ち殺してやらァ!!」

「はっ、やってみろ。その程度のカラクリで小生達を殺せると思うでないよ」


その前にその出来損ない、解体してくれる。


ニヤッと挑発的に笑い、ジャキ、と小型ドライバーなどを構えたその時――


ザッ


「!」

「そうですよ。どうぞ撃ちたきゃ撃ってください」

「江戸が焼けようが煮られようが知ったこっちゃないネ」

「でもこの人らだけは撃っちゃ困りますよ」

「し、新八君...!神楽ちゃん...!」

「まさか朔夜さんも来てたなんて驚きましたよ」

「ついに銀ちゃんに愛想が尽きてしまったのかと思って心配してたアルヨ」


小生と銀時の前に出たのは、何時来たのか、新八君と神楽ちゃんだった。

するとその姿に銀時が声を上げた。


「な...なんで、なんでこんな所に...僕の事はもういいって...もう好きに生きて行こうって言ったじゃないか。

なんで、朔夜さんもだし...お二人もこんな所まで」


いった瞬間二人に頭を踏みつけられる銀時に、思わずため息が出る。


「...ほんっと、卿は馬鹿だね。まだ理解できてなかったのかい?」

「オメーに言われなくてもなァ、こちとらとっくに好きに生きてんだヨ」

「好きでここに来てんだよ」

「――わかったかい?パー頭」

「「「好きでアンタ/卿と一緒にいんだよ」」」


じゃなきゃ付き合い切れないよ。

振り返らずそう言った。


「(...なんで、どうしてだ。ちゃらんぽらんと呼ばれていながら朔夜さんに至っては傷つけて泣かせてしまったのに...なんで僕は、なんでみんな)」


そして三人で立っていると、ザッと空覇と真選組の面々が横一列に並んできた。


「!」

「ガキはすっこんでな。死にてーのか」

「あんだとてめーもガキだろ」

「なんなんスか一体」

「不本意だが仕事の都合上一般市民は護らなきゃいかんのでね。それにうちの女中が体張ってんのに警察が動かねーでどうするよ」

「朔夜さんと銀さんは撃たせないよ!」

「ふっ...ははは!ありがとうよ、皆(こんな皆だから、小生は大好きなんだ)」


そしてマムシ達の方を全員向く。


「そういうことで、マムシの旦那」

「撃ちたきゃ、俺達撃て。チン砲だかマン砲だかしらねーが毛ほどもきかねーよ」

「そうだ撃ってみろコラァ!」

「このリストラ侍が!」

「ハゲ!リストラハゲ!」

「俺がいつハゲたァァ!!上等だァ江戸を消す前にてめーらから消してやるよ!」

「私達消す前にお前消してやるネ!」

「いけェェ!!」


そして全員でマムシ達に向かって走り出した。

それを小生は見送ると、足元の銀時を見て、工具をしまい、メスを構えてシャッと縄を手早く切った。


「さて...そろそろ目は覚めたかい?バカ銀時」

「あぁ...色々迷惑かけたな。朔夜」

「...戯け。今さら何言ってんだい。それより行くよ、ホラ」


そして返事も聞かず立ち上がった銀時に、小生はいつも通り笑ってメスをしまい、折り畳み采配を手にすると銀時に手を伸ばした。

すると銀時もニッと笑ってから小生の手を引き、片腕に抱きかかえて走り出した。

ようやくいつもの銀時だ。

そして銀時が小生を抱きかかえていない方の手で新八君から木刀を受け取ってあっという間に先頭に走り出る。


「工場長、すいませーん。今日で俺と...」

「小生は、仕事やめさせてもらいまーす」

「ぎっ...」

「銀さん!朔夜さん!!」

「ワリーが俺達ァ、やっぱり自由(こいつ)の方が向いてるらしい」

「あはは、まさしくその通りだ」


そして銀時は屋根へと小生と木刀を手に飛びあがった。

その小生達に砲口の照準を合わせるマムシ達。


「死ねェェェェ吉田に坂田ァァァ!!」

「「お世話になりました」」


ズゴッ


木刀と采配をエネルギーを放射しようとした蝮Zの口に突っ込む。

するとガピシ、と音を立てて期待にひびが入った。


「えっ」

「蓄えられたエネルギーが放出先を失うと、外へ別の場所から発散しようと働き自爆する...卿のストレスと同じだね、旦那」


そう言った瞬間、蝮Zは目の前で爆発した。

そして小生と銀時は地面に降り立ち、新八君と神楽ちゃんのもとに歩き出した。

小生も隣を歩きながら煙管に消えてしまった火をつけ直し、勿忘草の匂いのする煙を吐きだした。


「けーるぞ」

「さぁ帰ろう...あ、空覇は早めに屯所に帰るんだよ」

「はーい。あ、明日からまた来てね!」

「あぁ、もう暇はおしまいだからね。明日はちゃんと行くよ」


そして小生達は、後始末に追われるだろう隊士達をよそに帰るために歩き出した。


***


その帰り道...


「しかし面倒かけさせたみてェだなァ」

「本当ですよ」

「ありえないネ。しかも朔夜のことまで忘れるなんて愛が足りないアル」

「愛は知らないけど...次はないんだからね?」

「へいへい...でも、お前のことまで忘れたのはマジで謝る(泣かせちまったし...)」

「...別に終わったことだし...でも、二度と忘れないでよ」


誰かに存在を忘れられるってことは、その誰かの中の小生が死んだと等しいんだから

拗ねたようにそっぽを向いて言えば、ぽんぽんと頭をなでられた。


「悪かったな、朔夜(ほんと何俺ってば朔夜のことまで消し飛ばしてたんだよ)」

「ぷっ、やだな...まだ銀時じゃないみたいだ」


普段こんなに謝ったりしない癖に。


「もういいんだよ。二度と銀時が忘れなければ、それで小生はいいんだ」


にこりと笑いかけそう言えば、銀時に抱きしめられた。


「ほんとお前イイ女だよ〜...!!」

「はいはい」


ぽんぽん


「「(このマダオは本当に...)」」


そんなこんなで小生達は、辰馬によって壊されたらしい万事屋ではなく、新八君の家に帰っていくことになった。


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