銀魂連載 | ナノ
第三十七訓 人生はベルトコンベアのように流れるが、その流れに逆らってみるから人生は楽しい




「――ふむ、この住所の工場に白髪の侍が?」

「あぁ、どうにもそうらしいぜ朔夜先生」

「なるほど...ありがとうね。助かったよ」


そして裏町の顔なじみの情報屋から受け取ったメモの中身を記憶し、煙管でジジッと、火をつけ灰にした。


「しかし白髪の侍って、最近先生がよく一緒にいる男だろ?なんだ、まさかコレかィ?」


そして親指を立てる情報屋の男に、んなわけあるかい、と笑う。


「そりゃよかった。先生に男ができたら江戸中の馴染みの男が泣く羽目になるだろうからね」

「大げさなこと言わないでおくれよ。それに小生は、今のところ誰のものにもなるわけにはいかないからね」

「ならいいがね。ま、先生は別嬪さんだから、その男所帯に行くなら気ぃつけな...それにそこの噂が噂だからな」

「ふふ、御心配ありがとよ」


そして小生はその工場に向かって歩き出した。


***


「...」


もくもく


「...」


件の工場に来て数日――

工場長のマムシに泣き落しをかけて工場内に職員として潜り込み、銀時の記憶を戻す機会をうかがっているが

もう思い出す気はないし、万事屋も解散したと初日に言われ、どうにも動けずにいる。


「(...こういうのは銀時自身のやる気も大事だからな...)」


そう思いつつ、もくもくと小生の一つ前で流れ作業をする銀時の背をちらっと見る。


「(やっぱり別人みたいな背中だな...)」


小生が追いかけたあの背は、いつももっと広かった気がする。

こんな頼り無い感じでは無くて、もっと...

絶対に守ってくれる、と確信できる雰囲気があったのに


「(面影ないなー)」


過去が人をつくるって本当だね。

小さくため息を吐き出し、作業に再び集中しだしたとき――


「おーいみんなー新入りだぞー」

「!はーい」

「うぃーす」


マムシの旦那の言葉にそちらを見れば、そこには信じられない様子でこっちを見る退がいた。


「い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛!!万屋屋の旦那に朔夜さん!?なんでこんな所に!?」

「?」

「(さ、退!?まさかここの例の黒い噂について調べに...)」


そう思っていると退がこっちに近づいて小声で銀時に話しかけてきた。


「俺ですよ俺。真選組の山崎です。実は訳あって潜入捜査でここにもぐり込んだんですがね...」

「オイ、言っとくけどそいつ、記憶喪失で昔のことなんも覚えてねーぞ」

「記憶喪失!?本当なんスか朔夜さん!」

「本当だよ...面倒なことにね...」

「...そういうことなんで、スイマセン。旧知のようですが僕は覚えてないんで。えーと、真選組の真ちゃんとか呼べばいいかな」

「ちょっとォォ潜入捜査って言ってるでしょ...あ゛っ!!言っちゃった」

「なにやってるのさ...聞かれたらどうするんだい」


そしてアホなやり取りを一通り終えて、退も銀時の空気の違和感に気付いたらしい。


「そーいやキャラもいつもと違う。目も死んでないし」

「だから言ってるじゃん。じゃないとこんなとこ銀時こないよ」

「まぁ...ですよね。でも万事屋は?他の連中はどうしたんですか」

「...」

「万事屋は...解散したんです」

「!?」

「...もうこれ以上離しても無駄だよ、退。こんな腑抜け、銀時じゃない」

「!(この前僕をはたいたと同じ、悲しい眼だ...)」

「え、ですが...」

「それより仕事しないと怪しまれるよ」

「!わかりました...」


そしてそれぞれ怪しまれないうちに仕事に戻った。


***


しばらくして――


「オイぃぃぃテメっ何やってんだァ!?こういう流れ作業は一人がミスったらラインが全部止まっちまうんだよ!」

「ス...スイマセン」

「(またか)」


再び退の方に視線をやる。


「スイマセンじゃねーよテメーよォ。何度も同じこと言わせやがって。簡単だろーがこんなモンよォォ。コレをここに乗せ、コイツを立てればいいだけだろーがァ!!」


そしてマムシの手によって出来上がったのは、小生達が作らされている

どこか寂しげにみえなくもないジャスタウェイというもの。

ぶっちゃけ何のために作ってるかは知らない。

ここに首を突っ込んでもロクなことにはならなさそうだし...

そう思い退達のやり取りを横目に、制作続けていく。


「...っていうかコレ何をつくってんですか。この工場何を生産してるんですか?」

「アレだよお前、ジャスタウェイに決まってんだろーが!」

「だからジャスタウェイって何だって聞いてんだろーがァ!」

「ジャスタウェイはジャスタウェイ以外の何物でもない。それ以上でもそれ以下でもない!」

「ただのガラクタじゃないかァ!!労働意欲が失せるんだよ!なんかコレ見てると」

「(分かる気はする)」

「てめーらは無心にただひたすら手ェ動かしてればいいんだよ。見ろォ坂田と吉田さんを!!」


え、小生も?

そう思っていつつ手を動かしていると小生と銀時の方向に一斉に視線が向いた。

バッバッ


「うおおおお!スゲェェ速ェェ!」

「さすが坂田さんと吉田さんだ。ものスゴイ勢いでジャスタウェイが量産されてゆく!」

「次期工場長は奴らのどちらかしかいねーな。みんなも負けないように頑張れ!」

「そんなんで工場長決まるの?!おしまいだ!ココおしまいだよ!!」

「(ていうか早く辞めたい。街に戻りたいなァ...)」


さっさと銀時の頭直さないと。それにもう一人もな...


***


そして仕事を続けていけば、時間はお昼に。

銀時と退を誘い、空を見ながら縁側のような場所で弁当を食べる。

すると退が真選組に携帯で電話をかけた。


「ハイ......いや、こっちはまだ何もつかめてませんが。ハイ.........い゛っ!?マジすか!?わかりました。すぐ戻りますんで」


ピッ


「朔夜さん、旦那ァ、俺もうココひきあげます」

「え、どうかしたのかい?」

「あぁ、実はなんか局長が行方不明になってるらしくて」

「!そ、そのことなら――」

「ジミーアレくらいでへこたれるのかよ。誰だって最初はうまくいかない。人間なんでも慣れさ」


小生の台詞を遮り言う。


「ジミーって誰!?それはもしかして地味から来てるのか!?それから俺は密偵で来てるだけだから!!」

「ごめんよ退。記憶喪失になってさらに頭がパーになってしまったらしくて。前より扱いにくいんだ」

「いや朔夜さんが謝ることじゃないですよ...それより、朔夜さんと旦那も早いとこひき払った方がいいと思いますよ。ここの工場長、何かと黒い噂の絶えない野郎で...」

「――知ってるよ」

「え?」

「巷じゃ職にあぶれた浪人たちを雇う人情派で通ってるが、その実、攘夷浪士を囲い幕府を害そうと企む過激派テロリストって噂だろ?」


食後の一服にと、煙管の煙を吸い込んで菊花の香を吸い込み、空に吐きだした。


「知ってて来たんスか!?」

「他にも知ってるよ。この工場で裏じゃ攘夷浪士に武器を流してるとか、大量殺戮兵器でそのうち大規模テロを起こそうとしてるとかね」

「知っててなんつー危ない事してんスか!」

「小生だって好きで来てるんじゃないよ...」


そう言い苦笑をもらせば、退はため息をついた


「はぁ...ほんと、朔夜さんは...でもまぁ、そう言う噂のもんは俺が探しましたけど、こんなモンしか出てきませんでしたが、火のない所に煙はたたないというし...」


そしてジャスタウェイを見せる。


「まぁね...確かにテロリストの武器には見えないし...」


瞬間


「さっきからおやっさんがエロリストだと!いいがかりは止めろ」

「「テロリストね」」


エロリストは晋助だから


「おやっさんは僕を拾ってくれた恩人だぞ。それに僕は...朔夜さんには悪いが以前の堕落した自分は受け入れられない。生き直そうと心に決めたんだ」

「...」

「そうですか。ちょっと残念な気もしますが、アンタ確かに一見ただのチャランポランでしたがね。局長も沖田隊長も、朔夜さんも一目置いてるようだったので」


すると中から小生と銀時を呼ぶ声が聞こえ、そちらを見れば

同じようにつなぎを着た近藤の旦那がやってきた。


「(あー...来ちゃったよ)」

「坂田さん、朔夜さん。ちょっと僕のジャスタウェイ見てくれませんか?どうですかコレ」

「そうだね。もうちょっとここ気持ち上の方がいいかなゴリさん」


次の瞬間


「お前何してんのォォォォォ!!」

「ゴリさァァん!!」

「もしもーし...バカ発見しました...えぇ、すぐ連れて帰りますんで」


退が思い切り近藤の旦那をぶん殴ってふっ飛ばしたあと、再び電話をかけた。


「ゴリさんしっかりしろ!ジミー何て真似するんだ!ゴリさんはなァ、僕と同じように記憶を失っていて

頭はデリケートに扱ってやらないとスグ飛ぶんだ!!初期ファミコン並なんだぞ!」

「(スペック低すぎだよ)」


その言葉に退が、あまりの事実に携帯を握りつぶした。


「記憶喪失ぅ!?マジですか局長ォ!!アンタ、バカのくせに何ややこしい症状に見舞われてんのォォ!!バカのくせに!!」

「確かにね...もうバカばかりで疲れてきた」

「言いすぎだぞ、ジミーに朔夜さん。バカはバカなりにバカな悩み抱えてんだ!!」

「「うるせーよ、もうダリーよ!めんどくせーよ!お前ら」」


そして退が近藤の旦那を連れて帰ろうと引っ張るが、江戸一番のジャスタウェイ職人になるとか言い出して暴れたその時

一つの近藤の旦那が持っていたジャスタウェイが飛んでいき、地面に落ちて爆発した。


「「「「...」」」」


え、なにこれ?

呆然とする小生たちを置いて、ドォンドォンと誘爆していくジャスタウェイに考えるより早く走り出す。


「ぎゃあああああああ!」

「ったくなんなんだいコレェェ!!」

「ウソォォォォ!?ジャスタウェイがァァ!!」

「そんなァァ、僕ら爆弾を作らされてたってのか!?」

「なんてこった。まさかホントにおやっさんが。確かに幕府のせいでリストラされたとか、

あいつら皆殺しにしてやるとか、いつもグチってたけど...まさかおやっさんが...」

「まさかじゃねーよ!!」

「ぜぇ...ちょ、超一流の食材揃ってるじゃん!!はぁはぁ...ごっ豪華ディナーが出来上がるよ!!」


走りながら退と二人で突っ込みを入れていると、後ろから、マムシとその部下達が刀を持って追ってきた。


「てめーらかァァァァ!!よくも俺の計画台無しにしてくれたなァァ!スパイどもが血祭りじゃああ!!」

「げェッおやっさん来たぞォォォ!!」

「ジミーこっちだ」

「退早く!」


そして屋根の上に銀時の手を借りてよじ登り、後から上ってきた退に声をかける。


「おやっさんとはやり合えん。なんやかんや言っても恩がある」

「んな悠長な...」


そんな事を言ってる間に、上ってくる退にマムシが切りかかった...が――


ガゴン


「ぐがぱァァ」


銀時がドラム缶をマムシの上に落とし、その上、近藤の旦那が持っていたジャスタウェイを更に放り投げ大爆発が起こる。


「えぇぇぇ?!(死んだんじゃないアレ!)」

「おいィィィィィやり合えないんじゃなかったのかァァ!?おもっクソ殺っちゃったじゃないか!」

「そんな事言ったかゴリさん」

「ダメだ思い出せない。記憶喪失だから」

「「便利な記憶喪失だなオイ!!」」


すると爆炎の中から手が伸びてきて、小生の喉元にマムシの刀がつけられて、身動きが取れなくなる。


「!朔夜さん!」

「!!(やば...)」

「ククク...動くんじゃねーぞ。残念だったな。こう見えてもかつては同心として悪党を追い回し、マムシの蛮蔵と呼ばれてたのさ。しつこさには定評があってね」

「(くっ...また小生が足を引っ張ってる...)」

「やってくれたじゃねーか...まさかてめーらが幕府の犬だったとはな。てめーらのおかげで俺が長年かけて練ってきた計画も水の泡だ。

もう少しで幕府に目にもの見せることができたのに。だがこうなったらもう後へはひけねェ。準備万端とは言えねーが、やってやるぜ。腐った世の中ひっくり返してやらァ」


そして、小生達はマムシに捕まったのだった。


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