第三十五訓 すねに傷がある奴ほどよく喋り、そしてしくじる。
ある日、闇医者稼業を頼まれて、常連の女性のところに診療に向かった時のこと...
「――はい、とりあえず今日のところは問題ないね。順調に治っってるみたいだし...前の薬を出しておこうね」
「ありがとう朔夜先生。ところで、一つ相談があるんだけど...」
「ん?なんだい?」
「実は私の友達なんだけど...最近出回ってる宗教団体に貯金を全部持ってかれてしまったらしくて...」
「えぇ?!あ、まさか...最近急速に信者を集めてるっていうインチキ宗教団体の夢幻教かい?」
随分タチが悪いって噂だったね。
「えぇ、そうなの!流石朔夜先生は情報通ね」
「はは、変わった知り合いが多いだけだよ...で、それで小生にどうしてほしいんだい?」
「なんとかして友達のお金を取り返したいんだけど...朔夜先生の力でなんとかできないかしら?」
「...なるほどね...分かったよ。患者さんの頼みだからね、ちょっと探りを入れてみるさ。そのお友達には少し待っていなよと伝えときな」
「!ありがとう朔夜先生」
「気にしないでおくれ。こういうことが好きなだけだからさ」
...さて、早速入信して探ってみるか...虎穴入らずんば虎児を得ずというしね
そして小生は、夢幻教の総本山へと向かったのだった。
***
「(ふむ...教祖の斗夢がお布施はやはり握っているね...どうやって奪うか...)」
「あ、朔夜さーん。今日は新しい信者がくるからついてきて」
「あ、はーい。分かりましたハム...斗夢様ー」
「今ハムって言った!?」
「気のせいでーす(やれやれ...まさか側近にされるとは...困った)」
夢幻教の総本山に来てから数日がたった。
何故か小生はハム...じゃなかった斗夢に気に入られて、入ってすぐに側近にされた。
おかげでとても動きにくいが、色々タネやらも分かった...
さっさと事を暴いて、金をくすねて帰りたいんだが...どうにもタイミングがない。
だいたいあんな毛の生えた黒子つけて、あんなアホみたいな掛け声かけただけで全ての夢が叶うはずないだろうに...
「(それでも信じてしまうのは...人の心の弱さの一つなのかもねェ)」
そう思いながら斗夢のあとをついて行き、信者達が見下ろせる高台へやってきた。
そして斗夢がしゃべりだしてしばらくして...
「えーと、今日はね。ダンサー志望の花子ちゃんが、新しい夢追い人をつれてきてくれました。みんなに紹介して朔夜さん」
「はーい。みなさ〜ん、夢見て、ますかァァァァっ!?(全員知り合いィィ!!?)」
「「「「「見まくってまーす!(って、え?あれ?あの人朔夜ァァァ!?/お朔さァァァん!?/朔夜さァァァん!?)」」」」」
何してるんだとお互いに衝撃を受けた表情をつくる。
しかし斗夢は気付かないのか先に進めていく。
「志村妙さん、アナタの夢はなんですか?」
「あ、え、ち、父の道場を復興させることです(なんでお朔さんまで...)」
「花子ちゃん君の夢は言わずとしれたァ?」
「い、インチキ宗教団体から金をとりもど...」
パン
後ろの二人に、最近キャバクラで働きだした花子ちゃんがとんでもないことを言いかけて銀時と妙ちゃんに頭をはたかれた。
しかしそういうことかい...皆が来た理由が分かったよ...
そう思っていると神楽ちゃんがマイクを持って自ら夢を主張しだした。
「私の夢はァ、ご飯一膳に『ごはんですよ』全部まるまるかけて食べることです。でもォ夢は叶うとさびしいからずっと胸にしまっておこうと思います」
「(いや、それくらい小生がさせてあげるよ!?)」
「ハイ、そーですか」
「(やっぱり冷たい反応だ、ハム)」
「君は...目がよくなりたいとかそんなんだろどうせ、いいや」
「オイちゃんときけやァァァ!!」
「(酷い。流石にそれは酷いよハム)」
そして最後に手摺に凭れかかり遠くを見る銀時の方を見た。
「君の夢は?」
「夢?そんなもん遠い昔に落っことしてきちまったぜ」
「お前何しに来たんだァァァ!!」
「(確かに!!)」
「んなこと言われてもねーもんはねーんだって」
「なんかサラサラヘアーになりたいとかそんなんでいいんじゃないんスか」
「じゃ、サラサラヘアーで」
「帰れェェェ!!」
「(まぁそうなるだろうな...)」
そんなことを思っていると、銀時がハムの神通力を見せたら信じると言い出した。
その発言に、盲目的な信者達が怒りだし、消えろコールが起こる。
「(やれやれ...)」
「ククク、面白い。私の力が見たいと?」
「ここは夢を叶えることのできる理想郷。ここで修練をつめば君達も
私のように夢を叶える力を得ることができるようになることを教えてあげよう」
そしてハムは構え、叫んだ。
「ドッーリームキャッチャアー!!」
「...(相変わらずアホみたいだな...)」
「......何やってんの?」
「君...ものっそいサラサラヘアーになりたいっていってたよね?頭をごらんよ」
「!!」
そして銀時の頭に全員の視線がいくと、そこには...
「バッ、バカな銀さんの天パが...サラッサラッヘアーに...」
「っていうかその髪型似合わなッッ!!」
あまりの銀時のサラサラおかっぱの気持ち悪さと衝撃に思わず叫んだ。
しかし銀時はサラサラになれたのがよほど嬉しいのか、喜んではしゃぎ出した。
「(あんな銀時やだ、変。くるくる天然パーマだから銀時なのに...しかもあのヘアースタイル超変)」
「アッハッハッハッー見たかいこれがドリームキャッチャーだ!!夢幻教を信じる者はこ力が手に入るんだよ!!みんな夢が叶うんだよ!!」
「(...はぁ...)」
だんだん面倒になってきた。
そう思っていると、銀時がハムに忠誠を誓いだした。
「(何しに来たんだよ、卿は)」
すると今度はハムに神楽ちゃんがつっかかった。
しかし、望んでいたご飯一膳に『ごはんですよ』全部まるまるかけたものを出されて、あっという間に懐柔されてしまった。
そして結局全員入信することになったのだった。
やれやれ...あとでハムの目を盗んで接触を図るかな...
そう思いつつ、中々離れる機会がないまま時間は経ち
小生は今ハムの持っているワイングラスにワインを注いでいた。
かなり屈辱的だが、今問題は起こせない。
「まったく愚かな連中よ」
「(ピクッ...)」
「あれしきの奇術も見ぬけぬとは...奴等の目はフシ穴か?なぁ、卿もそうは思わないか?」
「(本当の愚者は、幸福を求める心を踏みにじるお前だ...)――そうですね」
「だろう?夢は人を盲目にする。奴らを誑かすなんぞ赤子の手をひねるより容易なことだ。おかげで私はボロもうけ、まったく教祖様はやめられないねーあ、勿論卿にも分け前は上げるよ」
「(いらないよ、そういう金は)...ありがとうございます」
そう言えばハムは満足そうにし、次に天井を見上げた。
「これも卿の力のおかげだよ。どうだ?たまには一緒に飲まないか?」
メキメキメキと、天井が軋んだ。
「オイ、そこにいるんだろ?ちょっときいて...」
バキバキバキ
「ぎゃあああああ!!」
「「!!」」
凄まじい音を立てて、新八君、妙ちゃん、花子ちゃんが天井から落ちてきた。
「あいたたた」
「ちょっとォォ!花子さんがじたばた暴れるから」
「何してんの君達?」
「「...」」
新八君と妙ちゃんがハムの台詞に、思わず冷や汗を流す。
...やばいなこれは。
「...はぁ...もはや誤魔化しきれないね」
「「!(朔夜さん/お朔さん)」」
三人を護るように立つ。
「?朔夜さん??」
「実は、ハム様〜小生は入信しに来たんじゃなくて、友達のお金返して貰いにきたんですよ〜」
「な!?」
「黙っててすいませんでした」
「っ裏切り者め!!騙していたのか!」
「人を騙す詐欺師が何言ってんだい。それに言うだろ?騙される方が悪い、ってさ」
ニッと笑ってそう言えば、ハムは他の幹部達を呼びだし、小生達を拘束させだした。
そして新八君はなんとか逃がしたが、小生と妙ちゃんと花子ちゃんは捕まった。
...やれやれ、もっと計画的に行くつもりだったのに銀時がくると計画が狂うよ...
そう思いながら小生は引っ立てられていったのだった。
***
「(実に面倒なことになった...)」
そして小生達は信者達が眼科に集まる中、並んで磔刑にされていた。
そしてハムが信者達に向かってしゃべりだした。
「みなさ〜ん、残念なお知らせがあります。私達の仲間から裏切り者が出ました。
彼らは私の部屋に忍びこみ、教団を運営していくために皆さんから寄付してもらったお布施を盗み出そうとしていました!
これを許すことができますか!?」
「ふざけんなァァ!死ねェェ!!」
そして小生達に向かって罵りと共に信者達が投げた石が飛んでくる。
ゴッガッ
「(騙されているからとはいえ...倫理観まで見失ったか...!)」
「いだっ!みなさーん目を覚まして下さい。みなさんこの男にだまされ...いだっ!」
「てめェェ今石投げたな。顔覚えとくかんなァ!!てめっ絶対後で殺すからな!」
「(一人ならまだ良いんだがこのままでは二人が酷い怪我を...)止せ!卿らはまだわから...」
「うるせェ!!早く死ね!!」
「そうだ殺せ!!」
ガツッ!
「っつ...!!」
「!お朔さん!!」
石の尖りが左の瞼の上をざっくりと切り、血が溢れ、ポタポタと伝う。
ズキズキと鈍痛が走るが、その間にも殺せという声は消えなかった。
聞いていると吐き気がする...気持ち悪い...
「...決まったな。君達は死刑だ」
「こざかしいわ!いい加減その戯けたことしか喋れない阿呆な口を全員閉じろ!!耳が腐る!!」
咆哮のようにこれ以上ない怒気と殺気を込めた声で叫び、下の愚民どもを睨みつければ、水を打ったように辺りが静かになった。
久しぶりに怒りが溢れた。もはや我慢の限界だ。
怒りに瞳孔を開かせ、さらに全員に聞こえるように叫ぶ。
「黙って聞いていれば、夢だ願いだ?それ自体は大いに結構!叶えるために励めばいい!!
だが、そんなことを吠えながら自らを向上させる努力も描きだす努力もせず
このクズに与えられた絵空事ばかり眺めて、自力で地を這うことをしないなど愚者の極み...!恥をしれ!
夢をかなえたいならば己で己を磨いて見せろ!!それでも貴様らは理性を使い、思考して動く唯一の生き物か!!
それともクズに良い様に飼われる獣となり果てたいのか!!」
「お朔さん...(こんな風に怒ったりするんだこの人...)」
「卿らのようなうつけ共が信じる宗教などに、小生達は殺されはしない!」
そこまで言い息を落ち着かせて口を閉じれば、驚いたらしく黙っていたハムが再び不敵に笑い、口をひらいた。
「ふ、フン、この期に及んで...その根拠のない自信はどこから来るのだね」
「ふははっ...小生達は、もっと確かなものを信じているからだよ」
「確かなもの?なんだそれ...」
その時信者達が上を見てざわつきだした。それを感じ小生は、ははっと笑った。
「――仲間だよ。ばーか」
「なっ...なんだァァ上に誰かいるぞォォ!!」
信者の声にハムが外を見ようと走りだしたとき、屋根から神楽ちゃんが顔を出し、天井のある一点に傘の銃を撃ち込んだ。
そして次の瞬間、天井から悶絶している忍者が落ちてきた。
「ちょっ服部さんアンタ困るよ。しっかり隠れててもらわないと。高い金はらってるのに!」
「も...もう無理、ケ...ケツにおもっくそなんか刺さった」
そしてハムと元御庭番衆らしい服部と言う忍者の言い合いが始まり、肛門が耐えられないとか言って、忍者は去って行った。
...痔なのかなあの忍者...かわいそ
まぁ、それで神通力の正体が忍者だったことが分かり、信者達は騙されていたことを知って、夢幻教は壊滅したのだった。
その後、小生のぱっくり裂けた瞼の傷を見て銀時に父親のように無茶するなとか危険なことするなとかくどくど説教されたけど...
しかし、久しぶりにあんなに瞳孔開かせて怒ったなぁ。すっきりしたけど
そして、患者の友達さんにもちゃんとお金を返して上げられたし、まぁ一件落着と言うことで
〜第二章 End〜
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