銀魂連載 | ナノ
A




「松平様」


さっちゃんが、目を細めて銃の銃口を自分に向けて見つめながら松平の旦那を呼んだ。


「なんスかコレ?よく見えない」

「オイ危ない危ない!」

「あっ仁丹入れ?眠気も防げるし、口臭も防げるしいいですよね」

「違うよ!?口臭が治る以前に息止まっちゃうよ?!」


何考えてるのこの子!?本職の殺し屋だよね!?

しかし人の話を聞いていないのか、引き金を3回も引き、後ろのフロントガラスを割った。

それに近藤の旦那が止める。


「止めろォォォ仁丹よりいいものあげるから」

「止めてェェさわらないで。私には心に決めた人がいるんだから」

「もうこの車降りたいです旦那!」

「朔夜ちゃん、近藤耐えろ。もうすぐ城だ」

「何しに来たのこの人ォォ!!」

「もうどこからどうつっこめと!?」


このカオスな空間に耐えきれず叫んでいると、車の目の前に見覚えのある白い生き物がいた。


「!!止まっ...」

「あっあぶねェェェ!!」


ガッ

ドシャァ

しかし停止の言葉は届かず思い切り白い生き物、エリーを撥ね飛ばした松平の旦那。


「とっつァァァァん!今なんかひいたよ!!今なんか飛んでったよ!!」

「旦那ァァ!!それでも警察ですか長官ですか!!エリーがァァ!!」


窓から顔を出し、遠くなっていく流血しているエリーを見ながらつっこむ。

あぁ!エリーほんとなんかごめんよ!死なないで!!


「あぁ、アレも殺し屋だから」

「ウソつくんじゃねェ、明らかに後付けだろ!朔夜さんの顔見知りみたいだし!!」

「人は皆何かの犠牲の上に生きる殺し屋よ」

「オメーは黙ってろ!!」

「(絶対これが終わったらお見舞い行こう...)」


そう心に決めて車に再び身体を戻した時、小生とは反対側の方にトラックが通り、その後ろに僧の恰好の小太郎がくっついていた。


「!」

「!?(あれ何してるの!?)」

「俺のペットを傷つけおって、無事ではすまさんぞ」


そう言って小生に気付いていないのか、爆弾を車の後部座席に投げ入れて去って行ってしまった。


「ちょっ!?(気持ちは分かるけど小太郎のバカァァ!!小生まで殺す気なのかァァ!!!)」

「うわァァァァ爆弾だァァァ!!」

「早く外投げて!!」


しかしさっちゃんはそれを仁丹と勘違いして膝の上にのせた。

その姿に近藤の旦那があせる。


「爆弾だって!早く投げろって」

「いやメガネが...メガネメガネ」

「いいからその前に投げてェェ!!」


そしてやっと眼鏡を見つけたらしく、眼鏡をかけて爆弾を投げるためにかまえた。


「行くわよ、みんな伏せてェェ!!」


しかしその時だった。

さっちゃんの真横の窓に、鼻をほじりながら原付を運転する銀時が通りかかった。


「!!」

「!(今度は銀時!?)」


銀時も真横のさっちゃんに気付いたらしく二人の視線が合った。

斜め前の小生には気付いてないらしい。いつも注意力散漫だから。


「ん、アレ?お前」


するとさっちゃんの動きが止まり、車の中に爆弾が落ちた。


「「「「あ」」」」


ドゴォン

そして見事に爆発した。

...もう帰りたい。つっきー君抱きしめたい。疲れた...っていうかほとんど松平の旦那のせいじゃない?

爆発し、動きを止めた車の中で、心の底からそう思った。

だが城には行かねばならない。

ぼろぼろながらも奇跡的に全員無事だったので、とりあえず城に向かったのだった。

早く解放してほしい。


***


そしてなんとか城にたどり着き、天導衆のいる暗い部屋へやってきた。


「警察庁長官、松平片栗虎」

「真選組局長、近藤勲」

「真選組女中、吉田朔夜。参上仕りました」


すると小生達を中心に、地面に光が円状にともり、12の柱にそれぞれ一人ずつ笠を被った連中がいるのが見えた。


「うむ、よく来た」

「...(こいつらが天導衆...)」


目の前の柱の上から話し出した一人を、嫌悪を滲ませないようにしつつ、強い視線で見つめる。

するとそいつと一瞬目が合った。しかしすぐにそいつは松平の旦那と近藤の旦那に視線を向けた。


「...ところで今日ぬしら二人を呼びだしたのは先日の一件、違法賭闘技場、煉獄関について話があって......しかしぬしら3人、何かあったか?」

「「いえ、ドーナツ作りに失敗しまして」」

「ちょっと油に引火して爆発しまして」


3人そろって服が焦げたり千切れたりしていて、顔中すすだらけのぼろぼろの姿だ。

誰だって突っ込むだろうと思いつつそう返せば嘲笑うような言葉が返ってきた。


「ククク、またどこぞで暴れたのではないか?」

「お侍は大層勇敢でおられるからな〜」

「...(腹立つ)」


こういう人に対等に接しない連中が、人間でも天人でもやはりいつの時も好きになれないのだ。

わずかにイライラしつつ、小生は話し続ける天導衆の台詞を聞いていた。


「なんでもわずか三十数人で煉獄関を鎮圧したとか...近頃の侍ときたら腑抜けばかりだというのに立派なものだ」

「うむ...その働き見事。天人と地球人、双方のバランスがとれておるのも、ぬしらのおかげじゃ。ほめてつかわす...

しかし功に焦りすぎ、先走りはせぬことじゃ。正義感も結構だが、辺り構わずかみついていると

かみついた野良犬の尾が、狼の尾であったなどということにもなりかねん」

「(脅しかい。コレだから権力者ってのは...)」

「わかるな?あまり勝手に動いていると身を滅ぼすことになるぞ。もし長生きをしたいなら、利口に生きることも覚えよ」


そう言って、二人から視線を外し、再び小生に視線を向けた。


「して...おぬしが噂の女中か。男所帯の唯一の女と言うから

男のような女傑なのかと思えば、少々汚れているが輝くように美しいではないか。こうも美しい女は、宇宙にも中々いないな」

「...お褒めの言葉ありがとうございます」

「立ち振る舞いも凛としていて...気に入った。これからも己の職務に励め」

「はい...勿論でございます...(嫌な視線だ...しかし、なにかひとつ下卑たのと違う視線を感じる...?)」


ふと、少しだけ視線をさ迷わせるも、不思議な違和感を感じる視線の主が分からずすぐに目を伏せた。

なんとか小生達は、無事に解放されたのだった。


***


「...ふぅ...」


そして小生達は城を出て、それぞれの家に帰るため、土手へと来ていた。

秋の夕空はやはり綺麗だ。ぼろぼろの疲れた心身にしみる。

煙草をふかす松平の旦那の横で、煙管の煙を吐きだした。

お気に入りの梅の甘い匂いに、やはり煙がおいしいと思う。


「...なんとか生き残れたな」

「「とっつァん/松平の旦那、なんか最初から俺達/卿達勘違いしてたんじゃ」」

「すさまじい攻勢だったな。俺の人生ベスト5に入る死闘だった」

「「とっつぁん/松平の旦那...アンタ/旦那がいなきゃ何事もなく平和に城に行けた気がするんだが/ですが」」


しかし小生たちのツッコミを無視し続けた。


「こんなことはこれっきりにしてくれよな。オジさんだって家庭があんだよ。娘にギャル男の彼氏ができて大変なんだよ」

「おや、栗子ちゃんに?」

「そうなんだよ。朔夜ちゃん今度会って別れるよう説得してくれよ」

「説得って...まぁ話すだけ話してみますよ(多分別れさせられないと思いますけど...)」

「頼むよ。それから近藤、お前らだってこれが最後だぞ。次こんなことがありゃ、お前ら...」

「あぁ...わかってるよ。とっつァん、色々迷惑かけてすまなかった。次はバレないようにやるさ」

「!...ふふ(流石、近藤の旦那だね)」

「...フン、わかってりゃいいんだよ」


...やっぱりこの旦那方の性格、大好きだよ。

去っていく松平の旦那の背を見ながら、思わず口元が緩んだ。

すると近藤の旦那が声をかけてきた。


「朔夜さん、俺達も屯所に戻りましょうか」

「あぁ、そうだね...ってそういえば近藤の旦那。占いあたらなかったね」

「ん、そういや占いのこと忘れてました。ハハ...やっぱり出まかせだったようですね。何が乙女座は死ぬだよ...」


そして近藤の旦那と歩き出した方向の先には、妙ちゃんと神楽ちゃんが並んで楽しそうに歩いているのが見えた。


「!!」

「おや、あれは...」


すると言い終わる前に近藤の旦那が走り出した。


「お妙さァァん!!奇遇ですねェェ!」


しかし、近藤の旦那は足元の石につまずき思い切り、妙ちゃんの頭にチョップを食らわした。


「あ、(死亡フラグだ。占いはこれのこと言ってたのか)」


そう思って煙管をくわえたまま眺めていると、妙ちゃんはチョップをした近藤の手首をバキバキ変な音をさせながら握り、近藤の旦那を見下ろした。


「アラ、ホント奇遇ですこと」


そしてその後、夕空に近藤の旦那の悲鳴が響いたことは言うまでもない。

ま、とりあえず...小生は長谷川さんとエリーのお見舞い行こう。

絶対アレ入院ものの怪我してるし。



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