第三十二訓 いい事と悪い事の比率は、悪い事の方が多い気がする。
トタトタ
「...ふぅ(今日はこのまま晴れてくれたらいいんだけど...)」
「あ、おはようございます朔夜さん」
「朔夜さん、お洗濯終わったの?今日秋晴れだって!」
「!空覇、近藤の旦那...それに二人も...揃ってニュース?」
煉獄関の事件から数日経ち、近藤の旦那が出張から戻ってきた。
そんなある日の朝、洗濯物を干し終わりカラの籠を持って廊下を歩いているとテレビのある広間に、空覇に歯磨きをする近藤の旦那とトシ、総悟君がいた。
そして声をかけ覗き込んで見れば、銀時がファンだとこの前言っていた結野アナのブラック星座占いが始まったところだった。
『――今日一番ツイてない方は......乙女座のアナタです。今日は何をやってもうまくいきません』
「なんだよ〜朝からテンションさがるな〜」
「あはは、まあ占いですし...」
『特に乙女座で顎鬚をたくわえ、今歯を磨いてる方。今日死にます』
「え゛え゛え゛え゛え゛え゛!!」
あ、この占いあたるかもしれない。
『幸運を切り開くラッキーカラーは赤。何か赤いもので血にまみれた身体を隠しましょう』
「どんなラッキー!?何にも切り開けてねーよ!!」
『それでは楽しい週末を〜』
「送れるかァァァ!!」
「(確かにね...)」
結野アナのさわやかな笑顔が、逆にシュールな占いであった。
ていうかさわやかに死刑宣告を朝からかますって...凄いな...でも赤いもの持ってたかな...
そう思い服の中をごそごそしていると、文句を言いながら近藤の旦那がテレビを切った。
「バカらしい、こんなものあたるわけがない。世の中の乙女座が全て消えてみろ。世の中オッさんだらけになるぞ...な、総悟?」
「ハイコレ、俺がガキの頃使ってた赤褌。大丈夫、洗いやしたから」
そう言って赤褌を渡し、去っていく総悟君。
その態度に不安そうになる近藤の旦那
「大丈夫って...何が大丈夫なんだよ。総悟の奴め、意外と心配性な奴だな。なァ、トシ?」
「...コレ、俺が昔使ってた赤マフラー」
そして赤マフラーを渡し、去っていくトシ。
「え?や、やだなおい...そ、そんなわけないよな〜空覇ちゃ...」
「あ、近藤さん!僕赤いのこれくらいしか持ってなかったから...はい、イチゴ飴!」
そしてにっこりと無邪気な笑顔で近藤の旦那にいちご飴を渡し、「僕これからお仕事だから〜」と言って去っていく空覇。
「......あの、朔夜さ...」
「どうぞ、赤いタオルがあったので...失礼しま...」
ガシッ
「ちょっ、やめてよ朔夜さんまで!」
「いえ、失礼します。腕を離してください。ごめんなさい」
「何?!何なの!?俺が出張中に何かあったんじゃないですよね!?」
「いえ私は何も存じておりません」
「よそよそしいでしょ明らかに!何そのしゃべり方!」
巻き込まれるフラグ立ってるんで離れたい。と思った時だった。
廊下をバタバタと走る音が聞こえてきたと思った瞬間――
「この腐れゴリラァァァァァ!!そしてお朔、いや朔夜ちゃんから手ェ離せェェェェ!!!」
ドゴォン!
「!!」
障子を蹴破って、近藤の旦那の後頭部を思い切り蹴り飛ばした、グラサンの相変わらず一見ヤクザのような男性、松平の旦那がとびこんできた。
すると小生の腕を思わず離して吹っ飛ばされ、部屋の中の襖にぶつかった近藤の旦那も振り返り、誰に蹴られたか気付いた。
「!!まっ松平のとっつァん!!」
「朔夜ちゃんゴリラに腕掴まれて折れてねーか?大丈夫か?」
「え、いや、あのはい...(いや折れるって...リアルゴリラじゃないですから一応)」
「そうか。なら良いが...近藤(ゴリラ)立てコノヤロー。三秒以内に立たねーと頭ブチ抜く」
そう言って小生の隣で銃を構える松平の旦那。
「ハイ1...」
ドォン
「(早っ!!)」
「2と3はァァァ!!」
「しらねーな、そんな数字。男はなァ1だけ覚えとけば生きていけるんだよ」
イヤそういう話じゃないです。
「さっき自分で3秒って言ったじゃねーか!!なんなんだよ!!いくら警察のトップだからってやってイイことと悪いことがあるぞ!!」
当然の抗議を近藤の旦那がすれば、松平の旦那が静かに言った。
「何言ってやがんでェ。お前のせいでなァ...オジさんは...オジさんは首が飛ぶかもしれねーんだよ」
「はァ!?何の話?」
「(あー...やばい系だねコレ。確実にこの前のだ)」
「路頭に迷うてめーらを拾ってやったのがアレ...何年前だっけ?
あーてめーらみてーのを支配下に置いたのが間違いだった。やり直してェ。ゼロからやり直してェ」
いや、近藤の旦那は何も関ってないし...ぶっちゃけ思いっきりやらかしたの小生と銀時だしね!
ごめんなさい。反省はしてるけど後悔はしてません。
心の中で二人に謝る。
「言ったはずだ、無茶はするなと。前からバカな連中とは思っていたがまさか煉獄関に手ェ出すたーよ〜」
「は?看護婦さん?看護婦さんは好きだが手を出した覚えはないぞ!」
「いや違うよ近藤の旦那(ていうか好きだったんだ)」
「看護婦さんじゃねーよ。看護婦さんならオジさんだって大好きさ!!」
何言ってんだろうこの人たち...
思わずそう思った小生は悪くないだろう。
「あーもうまだマイホームのローンも残ってるのによォォォォ!!娘の留学も全部パーじゃねーか!どうしてくれんだァ!!!」
パンパンパン
「ぎゃあああ!!」
「と、とりあえず、松平の旦那、落ち着いてください。文句言いに来ただけじゃないでしょう?」
そういってなんとか宥め、銃をさげさせる。
「っち...近藤お前、朔夜ちゃんに感謝しろよ。いなかったらここで殺してたからな」
「ありがとう朔夜さん!!!!」
「い、いや...そんな全力で感謝しなくていいですから...ところで、結局本題はなんなんですか?」
「あぁ...実はだよ、上から俺たち三人お呼びがかかった」
「「は?」」
3人?この場にいるのは松平の旦那と...近藤の旦那と...小生...
「...あのそれって、小生も...ってことですか...?」
「あぁ、なんでも女人禁制の真選組で唯一特例の女中やってる女っていう珍しさから、ついでに見てみたいらしい」
「(絶対それ名目だ...!)」
適当さにじんでるもん!百パーセント煉獄関がらみだ!!うわぁいい年してはしゃぐもんじゃないね!
ていうか死亡フラグだよ...断りたい...
しかし上からということで断ることもできず、ロクな説明もなく車に乗せられて城に向かうことになった。
...乙女座じゃないのに今日が命日なのかな...
***
「え゛っ!?天導衆!?」
「(あぁぁ久々のシリアスパートだからってかっこつけるんじゃなかった!調子乗るんじゃなかった!)」
車が走り出し、詳しい話を聞けば、やはり天導衆からの呼び出しであった。
まぁさっき煉獄関って言ってたしね...予想付いてたけど...降りたい。
そう思い、肩身の狭い思いをしつつ助手席に座って二人の会話を聞く。
「天導衆が関ってるヤマに、ウチが関わったっていうんですか?」
「しらじらしい。とぼけちゃってさ〜撃っちゃおーかな〜オジさん撃っちゃおーかな〜」
「あ...あいつら...俺のいない間に...」
「(ほんと今回はごめんよ近藤の旦那)」
後ろでつぶやく近藤の旦那にはほんとに申し訳ない事をしたね。
「...で、とっつァん。俺達にお呼びがかかったってことは...処罰されるのか?」
「俺達が目ざわりなのは間違いねーだろうが、そりゃねーだろ。朔夜ちゃんも連れてこいとのお達しだし、公にそんな真似すりゃ、煉獄関と関っていたことを自ら語るようなもんだ」
...確かにそうですね...よかった...そう思い、ひそかに胸をなでおろした時、松平の旦那が口を再び開いた。
「むしろ危険なのは今...」
「!」
「城に来いとはただの名目で、民間人の朔夜ちゃんを連れてくるよう言って油断させて、俺達が二人揃ったところを隠れて『ズドン』なんてこともありえる...」
するとその言葉に、近藤の旦那の頭に何かよぎったのか、いきなり走る車のドアを開け飛び出そうとしだした。
それを松平の旦那が羽交い絞めにして止める。
「なっ...何やってんだてめェェェ!!」
「ちょっ!?近藤の旦那!!?」
「いやだァァ!!こんなオッさんの隣で死ぬのは嫌だーー!死ぬならお妙さんの膝元か、今日死ぬならせめて朔夜さんの隣で死ぬぅぅ...!!」
「バカヤロー武士道とは死ぬことと見つけなさいよォ!!」
「近藤の旦那!そこ二人で力を合わせれば大丈夫だって!城までたどり着けるよ!(大体まだ二人で『ズドン』か決まってないし!)」
「そうだ!そうなりゃ俺達の勝ちだ!!そして近藤!お前に朔夜ちゃんの隣は一万年早い!!」
そしていったん扉を閉めて落ち着くも、またも不安そうに松平の旦那を見てきた。
「......とっつァん...とっつァんって何座?」
「あん、乙女座だけど」
そしてその答えに再び車のドアを開け、飛び出そうとした所を松平の旦那に羽交い絞めにされた。
「最悪だァァァ!!純度100%で死に向かってる!!もうダメだァ!!」
「大丈夫だって近藤の旦那!小生は山羊座だから!!純度100%じゃないから落ち着いて!」
「そうだ、おちつけェェ!!人は皆いずれ死ぬ!大事なのはどう生きるかだァ!!」
そして引き戻され、車のドアが閉められる。
そして二人が星座についてヤク座やらゴリラ座やら言い合いだしたとき、運転手が前を走るトラックに思い切りぶつけた。
お互いのぶつかった部分がひしゃげて酷い事になっている。
するとトラックの運転席から見知った人が顔を出したのがフロントガラスの向こうから見えた。
「オイオイオイオイ!ちょっとどこ見て走ってんのォ!?勘弁してよ〜」
「!(長谷川さんじゃないか...新しい就職先見つかったんだね...)」
そう思っていると、いつの間にか降りていたらしい松平の旦那に、長谷川さんが銃を突きつけられてるのが見えた...って何やってんのあの人!?
慌てて窓を開け、身を乗り出せば思い切り意味の分からない因縁をつけていた。
「てめー殺し屋だろ。殺し屋だよな?殺し屋と言ってみろ。ぜってー殺し屋だよ」
違いますから!!その人超一般人!!
そう思い声をかけようとすれば、長谷川さんが戸惑った声を上げた。
「なな何言ってんのアンタ!?俺は...」
パンパン ドォン
キャァァァ
「「...…!!!」」
ガソリンタンク撃って、トラック爆発させたよこの人!!!
思わず身を乗り出したまま、同じように顔を出した近藤の旦那と共に言葉を失った。
そんなことおかまいなしに松平の旦那は車に戻って来て、運転手に銃を向けた。
「田代、運転かわれ。こっからは戦場だ。お前は帰れ」
「ななな何しちゃってんですか松平の旦那ァァ!?(長谷川さんが爆破された!!生きてるのアレ!?)」
「とっつァァん!何やってんのォォ!!アレどー見ても一般人だろ」
車に顔を引っ込め、二人で突っ込む。
「バカヤローおめーアイツグラサンかけてたろ。殺し屋だ。グラサンかけてる奴はほとんどが殺し屋だ」
「オメーもかけてんだろーが!!」
「あの人小生の友人ですよ!?」
「殺し屋にも友人がいるのか。流石朔夜ちゃんだ。顔の広さは半端ねーな」
違う!いや殺し屋に知り合いいるけどね!!長谷川さん違うよ!?
「それからお前ら、これ絶対言うなよ。『歌っていいとも』のタモさんいるじゃん。アレも殺し屋だ...言うなよ」
「言えるかァァそんなオッさんのバカな妄想!!」
「何なんですかそのグラサン=殺し屋方程式!!見境なしですか!!」
車を走らせ出した松平の旦那に一通りつっこんでいると、急に女の人の声がかかった。
最近聞いた気がする声に顔を上げれば、そこには、銀時の婚姻騒動の時の殺し屋さっちゃんがいつのまにか近藤の旦那の隣、そして小生の真後ろに乗っていた。
「遅れちゃいました。ちょっとそこで眼鏡壊しちゃって。眼鏡が壊れちゃうともうなんにも見えない。明日も見えない」
「!(この前の...!)」
「誰ェェェアンタ!?」
そう突っ込んだ近藤さんを、相変わらず眼鏡がないと彼女はまったく見えないのかゴリラだと思い...
いや素でもゴリラ言われてるから何とも言えないけど、とりあえず本物のゴリラだと思い、運転手さんのペットだと思い撫でだした。
「安心しろ、コイツは味方だ。ホラさっちゃんお前もコイツ持っとけ」
そう言って松平の旦那が、彼女に銃を渡した。
「昔のなじみでな、始末屋さっちゃんだ。今はフリーの殺し屋だが、元お庭番衆のエリートよ。殺し屋には殺し屋ってわけよ」
いえ旦那、まだ一人も殺し屋きてませんから。
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