銀魂連載 | ナノ
第三十一訓 刀じゃ斬れないものがある。それを知らないのは弱者である。




「さぁて、久しぶりの大仕事だね」

「ったく…お前ほんとに大丈夫なのかよ」


滅茶苦茶俺心配なんだけど。ほんとに脆いし弱いからよ。

俺の斜め後ろをついてくる朔夜を振り返る。

だが、朔夜は俺の気持ちなんかそっちのけでいつも通り笑っていた。


「問題ないさ。あの程度の輩にやられるほど小生は弱くなどないからね」

「まぁ…ここまできちまったしな…だが、俺の守れる範囲内にいろよ?絶対な?約束しろよ」

「分かった分かった。約束するよ…無茶はしない」


これでいいだろう?

そう言って、呆れたように笑う朔夜。

呆れたいのはこっちだっての…

そう思いながらも、その笑顔を見ると守ってやらなきゃならない気になるのは

きっと惚れた弱みってやつだ。あー…くそ…


「…なんかタチの悪い女にひっかかったよな、俺も…」

「は?」

「…いや、なんでもねーよ。とりあえず、お前は俺の後ろにいろな」

「え?あ、うん…?」


こいつだけは、俺が何があっても守る。

そうして俺達はそれぞれ手にしていたものを被り、闘技場の中へと足を踏み出した。


***


闘技場の中に、銀時は道信の鬼の面、小生は買った鬼の面を被り足を踏み入れれば会場が沸き立ち、真ん中には鬼の顔をした天人らしき男が、金棒を持って立っていた。


「!(コイツァ、傭兵部族『茶吉尼』かね…大戦でほとんどいなくなったはずなんだけど…)」

「…貴様何故ここにいる?貴様は確かにわしが殺したはず…しかも何故女を連れて…」

「てめーか?俺達を殺したのは、イライラして眠れなくて起きてきちゃったじゃねーか。どーしてくれんだコノヤロー」

「本当だよ。よくも殺してくれたねェ。痛いったらありゃしない…しかも何故女を連れてだって?そりゃ二人で一つの魂だからさ」


カシャン、と折りたたみ采配を引き延ばし、茶吉尼を見据え先端を向けた。


「…ここはもう貴様らの居場所じゃない、わしの舞台じゃ。消えされ」

「「消えねーさ/ないよ」」

「まっすぐに生きたバカの魂はな」

「たとえその身が滅ぼうとも…未来永劫、消えやしないんだ」


道信の魂は、卿如きに消されるほど甘っちょろくない。

そういう意を込めて、鬼の面の奥から睨みつけた。

すると相手の雰囲気が変わったのがわかった。


「ほう、ならばその魂…」

「(来る…っ)」

「今ここでかき消してくれる!!」


ガキィィィン


「っ…ふぅ…スリル満点だよ。ほんと」


小生が避けるためにしゃがみ込んだ刹那、銀時と茶吉尼の得物が交わる音が響いた。

二人を見れば、銀時の面の片方の角が折れ、茶吉尼の額からは血が噴き出していた。


「(痛み分け・・・って、あ!)っ銀時後ろ!ドス!!」

「!」


ザン

小生の声に、茶吉尼の方を振り返った銀時の鬼の面の中心にドスが深く突き刺さる。

しかしそれは仮面だけにであった。


「よし流石っ!」

「っこの女!!」


ブンッ


「!っと…あっ、ぶないねェ…殺す気かい?」

「貴様…」

「!(アイツ久々に瞳孔開いてやがる・・・)」


自分の上に金棒が振り下ろされるのを見て飛びのき、金棒の上に着地した。

そのさいに仮面を止めている紐をかすめ千切れたのか仮面が外れ、地面におちた。

米神が切れたのを感じるが、それよりも戦闘に全神経が集中していくのがわかる。

というか、集中しないと普通に今ので死んでるしね…。

まぁ、今はこっち――


「銀時!今だ!!」

「!」


茶吉尼が小生の言葉に銀時の方を振り向いた。

その瞬間、ニタッと笑みを浮かべ銀時が木刀を振りきった。

だが、それは茶吉尼の篭手で止められた。


「!ぎんっ――」

「っそこ離れろ朔夜!!」

「っ!!」


銀時の言葉にダンッと金棒を蹴り、宙に跳ね飛ぶ。

その瞬間、金棒が動き、鈍い音と共に銀時のわき腹を見事にとらえた。

銀時が苦しそうに血を吐きだす背中が降りた目の前にある。

その姿に、自分が目を見開いていくのがわかった。


「ぎ、銀時ィ!!」

「…ククク」

「!」

「…銀時…(無事か…木刀をクッションにしたんだね…)」


銀時の方から聞こえた喉の奥で笑う声に少しほっとする。

だが、今はそれどころじゃないとキッと再び視線を鋭くし銀時の横に走り、茶吉尼を見据えた。

すると銀時が口を開いた。


「オイ、デカブツ。こんなもんじゃ、俺達の魂は折れねーよ」


そう言って木刀を振り、大柄の茶吉尼を飛ばした銀時の目は、小生が大好きな、強い光のともった侍の目をしていた。

そして茶吉尼は地に沈み、一瞬静まりかえっていた闘技場は再び沸き立った。


「銀時…!わき腹と内臓大丈夫かい?」

「あぁ、問題ねェよ。それよりお前も米神から血が出てるし、今は戻ったがまた瞳孔開いてたぜ…大丈夫か?」

「!…卿の怪我より、大丈夫だよ。それに昔より体力付いたんだから、そんな数分がんばったくらいじゃ倒れないよ、バカだねェ」

「バカってなんだよ!?俺は心配してだな…」

「ふふ…分かってるよ銀時。ありがとうね」


小生の肩を掴んで、自分の怪我より優先して心配そうに聞いてくる銀時に思わず呆れて笑ってしまう。

少しは自分の心配すりゃいいのにさ。


***


「てめーら、なんてことしてくれやがる」


二人で闘技場の中で話していると、後ろからここのボスらしき眼帯の男と配下の沢山の男達が出てきた。

それを見て、銀時が小生を背に庇う様に前に出た。


「俺達のショウを台無しにしやがって、ここがどこだかわかってるのか?一体どういうつもりだ。てめーらは何者だ?」


そしてその問いに銀時と二人、薄く笑みを浮かべた時――

ズガガガガという凄まじい音と共に男達の足元にどこからともなく弾が撃ち込まれた。


「!(誰が!?)」

「なんだァ!?」


撃ってきた方向を銀時と二人で振り返れば、そこには驚いたことに鬼の仮面をかぶった新八君と神楽ちゃんがいた。


「!?(あの二人…!)」

「なっ何者だアイツら!?」


周りが動揺する中、二人が此方に向かって客席から下りてきて、新八君が鬼の面をとりつつ口を開いた。


「ひとーつ!人の世の生き血をすすり」


そして次に神楽ちゃんが面を取り、続けた。


「ふたーつ!!不埒な悪行三昧」


「「みぃーっつ!!」」


そう言って今度は銀時を指してきた。

それに頭をかきつつ応える。


「…ったく、えーみーっつ、み…みみ、みだらな朔夜を…」

「違うわァァァァ!!」「セクハラッ!!」


バキッ ゴンッ


「げばァ!」


銀時のふざけた台詞に、ここまで到着した新八君が銀時の顔に蹴りをいれ、小生は采配でその頭を殴った。

鼻血を出していたが知らない。今のは銀時が悪い。

すると神楽ちゃんが訂正してきた。


「銀ちゃん、みーっつミルキーはパパの味よ」

「ママの味だァァ!!違う違う!みーっつ醜い浮世の鬼を!!」


そして新八君が言った後、三人がこっちを見てきた。


「…あれ、小生もなの?」

「当たり前アル」

「そうですよ。早く言っちゃってください」

「…お前も万事屋だろーが」


その3人の言葉に嬉しくなり、笑みがこぼれる。


「…ふふっ、なんかリズム感悪いけど分かったよ。よーっつ、世のため人のため」

「「「「退治してくれよう、万事屋銀ちゃん見参!!」」」」


そう高らかに4人で決めると、時が止まっていたボスっぽい男が部下を差し向けてきた。

それを見て、それぞれ迎え撃う。


「やれやれ、まさか来てしまうとはね」


こちらに向かってきた相手を采配でいなし、避けつつ、たまに殴りながら言う。

このチンピラ程度なら、まだ大丈夫。


「死んでもしらねーぜ!こんな所までついてきやがって」

「まだ今月の給料ももらってないのに死なせませんよ!!」

「今月だけじゃないネ先月もアル」

「ちょっと銀時、それは労働基準法違反だよ!」

「労働基準法も何もお前、先月は仕事なかったんだっての!」

「じゃあ今回はもらえるネ」


そして戦いに完全に集中し、こちらに向かってくるチンピラ達を倒し続けていると

いつの間にか真選組と空覇が来ていて、ボスたちを捕縛していた。

といっても空覇は捕縛と言うより、小生達にまじってその辺のチンピラ達を殴っていただけだったが…

っていうか空覇って、なんか滅茶苦茶強かったんだ。屍の山できてるよ。


そして真選組の姿に、観客達が逃げ出す。

小生はその逃げ出す声にようやく集中をといて、その場に采配を杖にしゃがみ込んだ。


「はぁ…(久々にこんな戦ったから・・・恐かった…)」


武器や殺気が迫る感覚…強がって見ても、やっぱり命のやり取りは苦手だ。

そう思いつつ、少しだけ震えている采配を持つ両手を、周りに震えが気づかれないように強く握った。

その時――


「おい、大丈夫か?朔夜」

「!あ、…だ、大丈夫…すこしばかり疲れただけだよ」


ふと上に影がかかり、見上げればそれはトシだった。

内心の恐怖を気付かれるのが嫌で、慌てて立ち上がり笑顔を浮かべる。


「ならいいがあんまり無理すんなよ?ココ切れてるしよ…痛くねーのか?」

「!か、かすり傷だから大したことないって」


心配してくれてるのか、切れた米神に触れようとしてくるトシの手を素早く掴んで笑みを零す。


「ったく、本当にここに来やがって・・・」

「あはは、結局それはトシ達もじゃないか」

「…まぁな」

「(クスクス)」


こうして煉獄関を潰すことに、小生達は成功したのであった。

しかし観客達が逃げ出した際、上の特別観覧席で――


「…チッ、猿どもが調子づきおって。まァよいわ。いずれしかるべく処置をとる。

今回は面白いものが二つも見れたしな…ククク(特にあの采配を振るう灰色の目の女、興味がわいた…)」


こんなことを天導衆の一人がいっていたことを、小生達は誰一人知らないのであった。


***


「朔夜さん、怪我大丈夫?」

「このくらい大丈夫だよ。アリガトウね、空覇(皆心配性だね…)」


ぎゅっと心配そうにしながら、後ろから抱きついている空覇に微笑んでそう返した。

事が終ったあと、小生、万事屋3人、空覇、総悟君、トシは屋上へと来ていた。

外は雨が上がり、綺麗な夕空が広がっていた。


「結局一番デカい魚は逃がしちまったよーで。悪い奴程よく眠るとはよく言ったもんで」

「ついでにテメェも眠ってくれや永遠に。人のこと散々利用してくれやがってよ」

「だから助けに来てあげたじゃないですか。ねェ?土方さん」

「しらん…てめーらなんざ助けに来た覚えはねェ。だが今回の件で真選組に火の粉がふりかかったらてめェらのせいだ。全員切腹だから」

「「「「え?」」」」

「せっぷく?」

「お腹自分で斬って死ぬことだよ。ていうかそんな苦しい死に方嫌だよ」

「ムリムリ!!あんなもん相当ノリノリの時じゃないと無理だから!」

「心配いりやせんぜ。俺が介錯してあげまさァ。チャイナ、てめーの時は手元が狂うかもしれねーが」

「コイツ絶対私のこと好きアルヨ、ウゼー」

「総悟、言っとくけどテメーもだぞ」

「マジでか」

「マジだ。おい、お前も行くぞ空覇」

「あ、はーい…じゃあね朔夜さん!」

「あぁ、また明日ね」


そして三人は、小生達を残し帰って行った。

その姿を見送り、新八君も帰りましょうと言った時、銀時は道信の鬼の面を取り出し放り投げた。


「こいつァもう必要ねーよな」


パカン

そして木刀で面をたたき割った。


「アンタにゃもう似合わねーよ。あの世じゃ笑って暮らせや」

「(道信、どうか安らかに…)」


小生は空を仰ぐ銀時の後ろで、目を伏せ静かに手を合わせた。



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