第三十訓 男はみんなロマンティスト。女だってわりとそう。
廃寺から戻った翌日、銀時と共に沖田君と空覇にファミレスに呼び出されれば、そこには何故かトシまでいた。
そして現在に至る。
「まぁまぁ、遠慮せずに食べなさいよ」
「あのトシ…(これはその…別に食べたくないんだけどな…)」
「…何コレ?」
それぞれの目の前におかれた、マヨネーズがこれでもかというほどにかけられたカツ丼を見て、銀時と共に突っ込む。
あのさ…トシのマヨラーは知ってるけど…人のにまでかけないで…
というか、食べること自体が苦痛で食の細い、拒食症の身としてはキツイ…
前にちょっと食べたこともあるが…食べれない味ではないけど…あの日ほど、あまり食べれないことに感謝した日はない。
……よし、手をつけないでおこう。
「旦那、朔夜さん、すまねェ。全部ばれちゃいやした」
「イヤイヤそうじゃなくて、何コレ?マヨネーズに恨みでもあんの?」
「逆だよ銀時。トシはマヨネーズ大好きなの。愛してるの」
「カツ丼土方スペシャルだ」
自信満々にそう言うトシ。コレに関しては言いたい。どこからそんな自信が生まれてくるの?
「こんなスペシャル誰も必要としてねーんだよ。朔夜にも出しやがって。朔夜の拒食症が進行するだろーが」
「んなわけあるか」
「んなわけあるっての…オイ姉ちゃん、チョコレートパフェ一つ!」
「お前は一生糖分とってろどうだ総悟、空覇、ウメーだろ?」
「え、あ…うーん…ざんしん、です?」
「スゲーや土方さん。カツ丼を犬の餌に昇華できるとは」
口にした二人がそう言う。
「…何だコレ?おごってやったのにこの敗北感…まぁいい。本筋の話をしよう」
そして真剣な顔つきになり、小生と銀時に忘れてくれと言いだした。
「あそこまで聞かせといてかい?」
「んだオイ、都合のいい話だな。その感じじゃテメーもあそこで何が行われてるのか知ってんじゃねーの?
大層な役人さんだよ。目の前で犯罪がおきてるってのにしらんぷりたァ」
そして自分の前の土方スペシャルに鼻くそをいれる銀時。というかそれは流石に酷いよ。
「いずれ真選組(ウチ)が潰すさ。だがまだ早ェ、腐った実は時が経てば自ら地に落ちるもんだ。
…てゆーかオメー土方スペシャルに鼻クソ入れたろ。謝れコノヤロー。
大体テメーら小物が数人はむかったところでどうこうなる連中じゃねェ。下手すりゃウチも潰されかねねーんだよ」
「…もしかしてトシ、卿はあの場所のこと全部知って…」
「…近藤さんには言わねーでくれよ。あの人に知れたらなりふり構わず無茶しかねねェ」
随分と知ったようにいうトシに問いかければ肯定ととれる返事が返ってきた。
「天導衆って奴ら知ってるか?」
「!天導衆っていや…将軍様を傀儡にして、この国を好き勝手に作り変えてる事実上の最高権力者の奴らのことだろ?…!っもしかしてあの場所・・・」
行き着いた結論に目を丸くすれば、目の前のトシは頷いた。
「あぁ…あの趣味の悪い闘技場は、その天導衆の遊び場なんだよ」
「…」
まさかそんなところまで関わってるヤマとはね…でも首突っ込んだら、最後まで突っ込むよ。道信のことも気になるし。
「分かったら手を引け」
「…(一芝居うつかね)」
「…(りょーかい)」
銀時と顔を見合わせ、瞬時にアイコンタクトを送ると小生は席からガタッと立ち上がった。
「?朔夜、どうし…」
「――わかったよ…トシの言うとおり、小生は手を引くよ。天導衆まで関わってるんじゃ、手も足も出せないしね」
「…そうしてくれ。お前は物分りが良くて助かるぜ」
「ありがと。それじゃ、小生はこれから別のバイトだから失礼するよ」
嘘ついてごめんね、トシ。でも小生にも譲れないものがあるんだよ。
そう心の中で謝罪しつつ、ひらひらと手を振って、その場を後にする。
…さて、新八君や神楽ちゃんたちと合流しようかな…
そう思い、廃寺で張り込んでいるだろう二人の下へと行くため歩き出した。
***
廃寺で張り込んでいた神楽ちゃんと新八君に合流し、草陰で待機していると時間はたち、月がぽっかりと闇夜に浮かぶ時間になった。
すると神楽ちゃんがアンパンを買ってきて新八君をパスタ刑事(デカ)とか呼び出した。
そして自分の設定をいじり、山本神楽が本名で、これから山さんと呼べとか言い出した。
またドラマの影響なんだろうな…
そう思いながらアンパンを食べだした二人をほほえましい気持ちで見ていると神楽ちゃんが本件を切り出してきた。
「それより奴さんはどーだパスタ?それに副ボス」
「あ、小生は副ボスなんだ」
何かはよく分からないが、まぁなんか仲間になれた気がして嬉しいので突っ込まない。
「それで、どうなんだ?」
「全く動きナシだよ神…山さん。銀さんはニ、三日中に動きを見せるって言ってたけど…っていうか銀さんは何やってんの?」
「銀時なら、トシたちと昼間はいたけど…」
どうなったんだろう。
「ボスはあのムセー連中に目ェつけられて動きがとれん。俺達がやるしかないんだパスタ」
「取調べでも受けてるのかな。取調べといえばカツ丼……いいな〜もうあんパンはあきたよ。パスタとか食べたい…あっ!パスタ刑事じゃん」
「成長したなパスタ。俺と副ボスの背中は頼むぞ」
「ハイ山さん」
「スイマセン。背中ががら空きですが」
「ギャアアアアア!」
「落ち着けパスタァ、確保だ確保ォ!ゲホッ!あんパンがのどに!」
「山さん落ち着いてっ!」
後ろから声がかかりおもわず3人で驚きのあまり飛びのけば、後ろには道信がいた。
「!」
「道信、卿は…」
「このまま江戸を出るつもりです。貴女たちがどういうつもりで私を張っていたかは知りませんが、見逃してほしい」
「…そうかい」
「…勝手なのはわかっています。今まで散々人を殺めてきた私が……でも、もうこれ以上殺しはしたくない。
何年かかるか分からない。でも、あの子たちに胸を張って、父親だと言える男になりたい…」
「……道信さん」
「しッ!!」
「!!」
神楽ちゃんの声に振り返り見れば、明らかにヤバそうな男達がいた。
「煉獄関の連中か!」
「道信、何ぼーっとしてるんだい」
「…早く行くヨロシ」
「!」
「ウチのボスは、目的も何も告げずにただアナタを見張っとけって…
この副ボスも何も助言してくれないし、何考えてんだか。だから僕らも好きにやります。
何が正しくて、何が間違ってるのかなんてわかんないけど。銀さんならきっとこうすると思うから…ですよね?」
「…そうだね…道信。もっと早く卿と知り合って、友達になりたかったよ。お子さん達を、大事にね」
「…すまない!」
ザッ
道信が草陰に姿を消し、馬車へ戻って馬を走り出させる。
しかしそれはやはりすぐに煉獄関の連中に見つかった。
「!!鬼道丸、野郎ォォ!」
「追え、逃がすな!始末するんだァァ!」
そう言ってこちらに向かってくる奴らを神楽ちゃんと新八君が茂みの陰から傘と木刀でなぎ払った。
「!!」
「行くぞォォパスタァァ!!」
「おう山さん!!」
ここは大丈夫そうだね…
二人の頼もしい姿を見て小生は、折りたたみ式に最近改造した采配を取り出し
走っていく既に遠い小さく見える馬車の後を、隠していた『ハシッテーヨ君』で追いかけた。
もしかしたらしつこい敵がいるかもしれないから、ギリギリまで奪われないよう見届けないと…
たとえどれだけ血に濡れていようが、子供にゃ自分を愛してくれる親が必要なんだから。
「(あの子たちから、親は奪わせやしない・・・!)」
ブロロロとエンジン音を響かせ、馬車の手綱を引く道信に近づく。
「!道しっ…!?」
「…」
そこには手綱を持っていない片手で大量の血が溢れている自分の胸元を押さえて、涙を流したまま死んでいる道信がいた。
その姿に言葉を失い、目が釘付けになるが、慌てて意識を引き戻し、荷台の中を覗きこめば何もわかっていない子供たちが乗っていた。
「あ、この前先生のところに来たお姉さんだー。どうしたの?なんでここにいるの?」
「っ(遅かった…!)」
その無邪気で無知な姿にこみ上げるものを無理矢理押さえ、バッと発明品から馬車に飛び乗り、
もう返事を返さない道信のかわりに手綱を引いて、馬車を止めた。
「え?どうして止めちゃったのお姉さん?」
「先生もさっきから何もしゃべってくれないし・・・」
「…っ…皆、先生がね。今日はもう遅いから眠りなさいって言ってるよ…先生はもう、疲れて寝ちゃったみたいだ。居眠り運転なんていけないから、今日はここで泊まろうね」
こみ上げる熱いものを押さえつけ、振り返ってにこりと笑えば子供達は少し戸惑ったようだったが、大人しく頷いて目を閉じた。
しばらくして聞こえてきた安らかな寝息に、小生の目から押さえていた熱いものが溢れだした。
「く、そっ…!」
ぽたぽたと雫が落ちる。
この何の罪もない子たちから、奪わせてしまった。
大切な…大切な父親を、守ってあげられなかった。
「どう、して・・・いつもっ・・・」
涙を止めた頃、走って新八君と神楽ちゃんがやってきた。
そして真選組に子供たちを保護させるため、携帯電話で呼び出した。
小生達も同じように保護されたが・・・朝方、万事屋へと帰ることになった。
空の天気は、誰かが泣いているかのような雨だった。
***
「あ〜嫌な雨だ。何もこんな日にそんな湿っぽい話持ち込んでこなくてもいいじゃねーか…」
「そいつァすまねェ。一応知らせとかねーとと思いましてね」
総悟君と空覇も連れ立って帰ってきた小生達は、銀時にあったことを話した。
「…情けない話、何も出来なかったよ…」
「ゴメン銀ちゃん」
「僕らが最後まで見とどけていれば…」
「オメーらのせいじゃねーよ。野郎も人斬りだ。自分でもロクな死に方できねーのくらい覚悟してたさ」
…そうだろうけど…やはりやりきれない…
やるせない気持ちを抱えたまま黙せば、総悟君が子供たちの引き取り手は真選組で捜すと言い
これ以上かかわってもロクなことは無いし、この話はこれきりにしようと言ったその時、ガラッと襖が開く音がした。
そちらを見れば、暗い顔をした子供たちがいた。
「!皆…」
「!テメーら、ココには来るなって言ったろィ?」
子供たちの姿に、外を見ていた銀時が椅子ごと振り向く。
「…に、兄ちゃん。姉ちゃん。兄ちゃん達に頼めば何でもしてくれるんだよね、何でもしてくれる万事屋なんだよね?」
「――…そうだよ」
「お願い!先生の敵討ってよォ!」
静かに優しく肯定すれば、そう言って子供たちが泣きだした。
そして一人の子が銀時の前の卓上に、宝物だと言って一枚のドッキリマンシールを差し出したのを皮切りに
風呂敷を持っていた子が、それをテーブルの上に広げた。
中からは沢山のおもちゃが転がり出てきた。
「これは…」
「お金はないけど…みんなの宝物あげるから。だからお願いお兄ちゃん、お姉ちゃん」
すると、総悟君が一人の子に声をかけた。
「いい加減にしろ、お前ら。もう帰りな」
「…僕知ってるよ。先生…僕たちの知らないところで悪いことやってたんだろ?だから死んじゃったんだよね」
…子供ってのはやっぱりよく見てるね…
「でもね、僕達にとっては大好きな父ちゃん…立派な父ちゃんだったんだよ…」
…決まりだね。
銀時の顔をちらりと見て悟ると、薄く笑みを浮かべた。
「オイ、ガキ!」
「!」
「コレ今はやりのドッキリマンシールじゃねーか?」
そう言って自分の目の前に置かれたシールをとる銀時。
「そーだよ、レアモノだよ。なんで兄ちゃん知ってるの?」
「何でってオメー。俺も集めてんだ…ドッキリマンシール。コイツのためなら何でもやるぜ。後で返せっつってもおせーからな」
「兄ちゃん!」
そう言い立ち上がった銀時の姿に、小生もテーブルの上に広げられた玩具の中から、よく遊んでいた玩具のお手玉を取り上げた。
「――ああ、これ懐かしい玩具だ。よく遊んだよ」
「お姉ちゃんお手玉上手なの?」
「あぁ、得意だよ」
話しかけてきた女の子に、片手でぽーんぽーんと扱いながらそう言う。
「お手玉とっても好きだからさ。コレ貰うよ…ちょっと待ってな。帰って来て見せてあげるからさ」
「!お姉ちゃん…!」
悪戯っぽくウインクをしてみせ、出て行こうと歩き出した銀時に近づいた。
「お前は待ってろよ、朔夜」
「嫌だよ。銀時だけに行かせられるかい」
「ったく…だったら離れんなよ?」
「はいはい」
そして周りを放置し、外に出ようと歩きだいした。
「朔夜さん!」
「大丈夫だから、空覇は待ってなさい」
「ちょっ…旦那、朔夜さん」
「銀ちゃん、朔夜、本気アルか」
「酔狂な野郎だとは思っていたが」
「「!」」
「ここまで来るとバカだな…しかも朔夜、オメーまで…」
「トシ…」
いつの間にか入ってきたらしいトシが、廊下の壁に寄りかかり立っていた。
「小物が一人二人はむかったところで潰せる連中じゃねーと言ったはずだ…死ぬぜ」
「オイオイ何だ、どいつもこいつも人ん家にズカズカ入りやがって」
「トシ達には迷惑かけないから、そこどいて」
「そうだ、どけ」
そう真っ直ぐ見据えてそう言えば、トシもこっちを見据えて口を開いた。
「…朔夜は違うがな、別にテメーが死のうが構わんがただげせねー。わざわざ死にに行くってのか?」
「「行かなくても俺ァ/小生は、死ぬんだよ」」
「俺らにはなァ、心臓より大事な器官があるんだよ。そいつァ見えねーが、確かに俺らのどタマから股間をまっすぐブチ抜いて俺らの中に存在する」
「それがあるから、小生達はここにまっすぐ立っていられる。フラフラ色々してたって、真っ直ぐ自分の道ってやつを歩いていけるんだ」
「ここで立ち止まったら、そいつが折れちまうのさ」
「「魂が、折れちまう/てしまうんだよ」」
そう言い、トシの横をすり抜けた。
「身体の機能が全部止まってもね…そんなの、自分の魂腐らせてへし折ることより大したこっちゃないよ」
「心臓が止まるなんてことより、俺と朔夜にしたらそっちの方が一大事でね。こいつァ老いぼれて腰が曲がっても、まっすぐじゃなきゃいけねー」
「そう言う訳。だから、たとえ誰であろうと、この魂が選ぶ道は譲らせないし、邪魔させないよ」
そう言い残し、小生と銀時は万事屋を出て煉獄関への道を歩き出した。
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