第二十九訓 夢は拳で掴め。夢を叶えてくれるのは自分自身なのだから。
ワァァァ!ワァァァア!!
観客達の沸き立つ声が響く。
「赤コーナー!主婦業に嫌気がさし〜結婚生活を捨て、戦場に居場所見つけた女〜鬼子母神、春菜ァァ!!」
「...」
「青コーナー!人気アイドルからスキャンダルを経て殴り屋に転身!『でも私!歌うことは止めません!!』」
「戦う歌姫!ダイナマイトお通ぅぅぅ!!」
「...お通ちゃん...」
目の前のリングに立つ彼女は、この前スキャンダル騒動になった芸能界の小生の後輩の子だった。
しばらく姿を見かけず心配してたのだが、数日前にメールが届いたので読んでみれば
ここに今日、自分の晴れ舞台を見に来てほしいと書いてあったので、足を運んで見れば、彼女は殴り屋としてリングに上がっていた。
「...(どうしてそっちに行ったんだい...)」
色んな意味でぶっとんだ人生送ってる子だな...と、彼女の戦う姿に遠い眼になる。
そんなお通ちゃんの雄姿を見つつ、観客達の人間観察をしていると、お通ちゃんのファンクラブの寺門通親衛隊の姿が見えた。
そういえば新八君隊長だったな...と思いつつ捜すように眺めれば
そこには思った通り新八君と...その後ろに、なぜか銀時がいた。
「(...ほんと、よく会うな)」
そう思いつつ声をかけようとそちらに向かいだすと、リングから知っている声がした。
「えー、夢とはいかなるものか。持っていても辛いし無くても悲しい。
しかしそんな茨の道さえ己の拳で切り開こうとするお前の姿...感動したぞォォ!!」
「...」
...神楽ちゃん...ごめん、今日は知らないふりをさせてもらうよ。
そしてリングから目をそらすと、こそこそと観客席からおりて隅の方に行き、離す銀時たちの背に小さく声をかけた。
「――子供の性格は三歳までに決まるらしーよ」
「銀時、新八君」
「「うおわっ!!?」」
「驚きすぎだよ...」
「!朔夜!?お前なんでここに...」
「お通ちゃんに呼ばれてね。友達でお姉ちゃんみたいなもんだから」
「お通ちゃんと友達なんですか!?」
「ん?あぁ、芸能関係の仕事でちょっとね...」
CM出てることなら言えるけど、この年でアイドルしてるとかの方は言えないよ
「言ってくださいよ!」
「いや聞かれなかったから」
「そういう問題じゃないです!」
「諦めろ新八、朔夜はこう言う奴だ」
「なんかひっかかる言い...」
文句を言おうとしたその時だった。
「何やってんだァァ!ひっこめェェチャイナ娘ェ、目ェつぶせ!目ェつぶせ!
春菜ァァ!何やってんだァ、何のために主婦やめたんだ、刺激が欲しかったんじゃないの!?」
「頑張れー!」
「「「...」」」
この声は...
三人で黙って横を向けば、私服姿の総悟君とその隣に空覇が野次と声援を飛ばしつつ立っていた。
すると向こうもこちらに気付いたらしく、こっちを見てきて、視線がかちあう。
「「「「...」」」」
「あ、朔夜さん達だ〜」
...何してるんだい総悟君...しかも空覇まで連れ出して...
***
「いやー、奇遇ですねィ」
しばらくして競技が終わり、鳥居のある石段のところで話すこととなった。
空覇が後ろから小生に抱きついているので、小生は万事屋3人のように石段に座らず、立って聞いていた。
「今日はオフでやることもねーし、大好きな格闘技を空覇の社会見学も兼ねて見に来てたんでさァ」
しかし旦那方や、朔夜さんも格闘技がお好きだったとは...」
いや呼ばれたから来ただけで、あんまり好きじゃないんだけど...
っていうか空覇にどんな社会勉強させてるんだい?小生の知らない間に...
「俺ァとくに女子格闘技が好きでしてねィ。女どもがみにくい表情でつかみ合ってるトコなんて爆笑もんでさァ」
「なんちゅーサディスティックな楽しみ方してんの!?」
「(年中無休のドSかい...!!)」
そんなことを思っていると総悟君が石段を下りて、声をかけてきた。
「それより旦那方、朔夜さん。暇ならちょいとつき合いませんか?もっと面白ェ見せ物が見れるトコがあるんですがねィ」
「面白い見せ物?」
「なんだいそりゃ?」
「まァ付いてくらァわかりまさァ」
いまいちよくわからないが、小生達はとりあえず総悟君についていくことにした。
***
しばらくついていくと、町並みは様変わりし、地下の底にある裏社会の町にやってきた。
「...(闇医者稼業でごく稀にここの入口程度にはくるけど、やっぱり好かないね...というかこの場所の見せ物っていや...)」
「オイオイ、どこだよココ?悪の組織のアジトじゃねェのか?」
「アジトじゃねェよ、旦那。裏世界の住人達の社交場でさァ」
そして一つの入口があり、その中に入っていく。
「(やっぱりここは間違いない...噂で聞いた...)」
「...(嫌な感じがするよ...)」
ぎゅっ、と小生に抱きつく空覇の腕の力が不安なのか強くなった。
「!...(空覇にゃ...ちょいと刺激が強すぎるよ...)」
「ここでは表の連中は決して目にすることができねェ、面白ェ見せ物が行われてんでさァ」
そして開けた場所に出た。
「こいつァ...地下闘技場?」
「...やっぱり、煉獄関...」
嫌なとこに来ちゃったよ。
眼前に広がる景色を、小生は冷えた心で見下ろした。
「...なんでィ、朔夜さん知ってやしたんですか」
「ちょっと裏社会知ってる知り合いからね...煉獄関、そこで行われてるのは正真正銘の殺し合い...ってさ」
下の方の闘技場で刀を持った浪士と鬼の仮面の男がたちあい
鬼の方が、手にした鉄のこん棒を一振りし、浪士の命をかき消した。
赤いしぶきが飛び散るのが見え、『勝者、鬼道丸!!』の声に会場が一気にわく。
「こんなことが...」
「賭け試合か...」
「話が本当だったとはね」
「(この場所イヤだ...)」
ぎゅっ...
再び空覇の自分を抱きしめる腕の力が強まるのを感じる。
...まだ無垢なこの子には、見せられたもんじゃない。
「空覇、少し目を閉じていなさい。こんなもの、見ない方が良い」
「...うん...」
そしてすりすりと小生の髪に顔を埋める空覇。
そんな姿を見つつも、総悟君は続けた。
「こんな時代だ。侍は稼ぎ口を捜すのも容易じゃねェ。命知らずの浪人どもが、金ほしさに斬り合いを演じるわけでさァ」
「真剣の斬り合いなんて今じゃ中々見れないし、そこに賭けまで絡むと来たら、当然飛びつくってわけかい...」
とんでもない話だけれど、遥か古代よりその理論は変わらない。
人間の動物的本能が持つ残虐さと残酷さが、うかがい知れるというものだ。
「趣味の良い見せ物だな、オイ」
「楽しすぎて、反吐が出るねェ」
そう言えば、神楽ちゃんは総悟君の胸ぐらをつかみあげた。
「胸クソ悪いモン見せやがって寝れなくなったらどーするつもりだコノヤロー!」
「明らかに違法じゃないですか。沖田さん、アンタそれでも役人ですか?」
「役人だからこそ手が出せねェ。ここで動く金は莫大だ。残念ながら人間の欲ってのは権力の大きさに比例するもんでさァ」
「幕府(おかみ)も絡んでるっていうのかよ」
「ヘタに動けば真選組(ウチ)潰されかねないんでね。これだから組織ってのは面倒でいけねェ...自由なアンタや朔夜さんがうらやましーや」
「...一応、真選組の女中として、名前は割れてるんだけど...」
「それでも幕府に縛られず、裏にも表にも、色んなところに通じてんじゃねーですかィ」
「そうだけどさ...」
あんまり幕府がらみのことで派手に動きすぎるとね...
「......言っとくがな。俺ァてめーらのために働くなんざ御免だぜ」
「小生もこの件に関しちゃちょいとね...」
「おかしーな。アンタらは俺と同種だと思ってやしたぜ。こういうモンは虫唾が走るほど嫌いなタチだと...アレを見て下せェ」
そして闘技場の真ん中に立つ、先ほどの鬼の仮面の男をさす。
「煉獄関最強の闘士、鬼道丸...今まで何人もの挑戦者をあの金棒で潰してきた無敵の帝王でさァ。まずは奴をさぐりァ、何か出てくるかもしれませんぜ」
「オイ」
「ちょっと、総悟君...」
「心配いりませんよ。こいつァ俺の個人的な頼みで真選組は関わっちゃいねー。ここの所在は俺しかしらねーんでさァ。
だからどーかこのことは、近藤さんや土方さんには内密に...」
「「...」」
...ここまで聞かされちゃ、仕方ないな...ていうか今、近藤の旦那って出張中なのに、こんな暗躍していいのかね...
お互いに悪いことにならなきゃいいけど...
そう思いつつ、この仕事を承諾するのであった。
***
ガラララ
「えっさほいさ」
「えっさほいさ」
空覇を連れて行くのは忍びないと沖田君に預け、小生たちは一人乗り用の駕籠に四人で乗って、鬼道丸の後を追うことになった。
「あの人も意外に真面目なトコあるんスね、不正が許せないなんて。ああ見えて直参ですから報酬も期待できるかも...」
「私アイツ嫌いヨ。しかも殺し屋絡みの仕事なんてあまりのらないアル」
「のらねーならこの仕事おりた方が身のタメだぜ。そーゆー中途半端な心構えだと思わぬケガすんだよ。
朔夜もお前、こういうの嫌いだし、女中だろ?ツラまで割れたらやばいんじゃねーのか?」
「まぁね...でも個人で動いてるし...小生の口八丁手八丁でいざとなったらなんとかするよ。危険も銀時が守ってくれるんだろうから、大丈夫だし...」
「まぁな...ただ、狭いから...(いや、朔夜に密着しても文句いわれねーから、そこはいいけど)」
それは確かに...なんか銀時の膝の上にいるのも気恥ずかしいし...
「銀さんと朔夜さんがいくなら僕たちもいきますよ」
「私達四人で一人ヨ。銀ちゃん左手、朔夜頭、新八左足、私白血球ネ」
「一人の固体も出来てないよそれ」
「全然完成してねーじゃん。何だよ白血球って。一生身体揃わねーよ...オイ!何ちんたら走ってんだ。標的見失ったらどーすんだ!!」
そう駕籠屋の男に文句を銀時が言えば、文句を返され、
いつものように論点がずれ、軽いギャグの言い合いになっていると追っていた少し遠い前方の駕籠が止まり、鬼道丸が出てきた。
「ちょっと皆、アイツ止まったよ!」
「行くぞ、後を追うぞ!」
バッ ガンッ
出るときに狭かったため、銀時が勢いよく外に出た新八と神楽ちゃんに思い切り頭を踏まれた。
「いだだだ!!踏んでる踏んでる」
「オイちょっと待て代金!!」
「!」
そういえばそうだと思い、財布を出そうとしたら銀時がばっと走り出して「つけとけ!」と叫んだ。
っていうかつけるの!?
「つけるってどこに!?」
「お前の思い出に!」
つけられないよ!無銭乗車する気か!!
そしてやっぱり小生が払うことで場を収めるのだった。
普通ここは割り勘だと思ったのに...
***
そんなこんなで鬼道丸のあとを追えば、そこにはひとつの廃寺があった。
草陰から四人でそこを伺っていると、中からギャアアアという声が聞こえてきた。
「今なんか、叫び声みたいなの聞こえませんでした?」
「...ちょっといって来るよ」
「...お前らはここで待ってろ」
ザッ
「朔夜さん!銀さん!!」
茂みからでて、廃寺に近づけば、ギャアアやひぃぃぃという声が聞こえてくるので、そろっと銀時が襖を開けた。
そして二人で中をのぞくと、そこにはそれぞれ好きなように遊ぶたくさんの子供たちがいた。
「え?」
「これは一体...」
「どろぼォォォ!!」
ズドン
「!?」
あっけにとられて中を見ていると、後ろから大声が上がったので振り返れば一人の和尚らしき男がいて、銀時にカンチョウを食らわせていた。
「...え?」
呆然とするなか、銀時が悶絶してその場に倒れたのは数秒後だった。
***
「申し訳ない。これはすまぬことを致した。あまりにも怪しげなケツだったのでついグッサリと...」
とりあえず尻を押さえている銀時を復活させ、新八君や神楽ちゃんも呼んで寺の一室に上げてもらい、泥棒ではないことを説明すればそう返された。
ちなみに神楽ちゃんは隣室で、今は子供達とあそんでいるので話には参加していない。
「バカヤロー人間にある穴はすべて急所...アレッ?ヤベッ!ケツまっ二つに割れてんじゃん」
「銀さん落ち着いてください。元からです」
「だがそちらにも落ち度があろう。あんな所で人の家をのぞきこんでいては...」
「すまないねェ。ちょっと探し人がね...」
「探し人?」
和尚の問いかけに新八君が答え、鬼の仮面をかぶった男を見てないかと聞いた。
「鬼?これはまた面妖な。ではあなた方はさしずめ鬼を退治しに来た桃太郎というわけですかな」
「三下の鬼なんざ興味ねーよ。狙いは大将首。立派な宝でももってるなら別だがな」
すると和尚がいきなり何かかぶった。
「宝ですか...しいて言うならあの子達でしょうか」
かぶったものは鬼道丸のしていた鬼の面で、思わず小生たちは一瞬時間が止まった。
「...え...」
「うおわァァァァァァ!!てっ...ててててめーどーゆうつもりだ?」
「アナタ方こそどーゆーつもりですか?闘技場から私をつけてきたでしょう」
「じゃあホントに卿が...」
「私が煉獄関の闘士、鬼道丸こと...道信と申します」
その言葉に、思わず小生たちから毒気が抜かれ、お茶をいただくこととなった。
***
縁側にすわり、お茶を飲みながら、庭で遊ぶ子供達と神楽ちゃんを見る。
「いいのかい?どこの誰かも分からない、鬼退治にきた桃太郎かもしれない小生たちにお茶なんか出して」
「あなた方もいいのですか?血生臭い鬼と茶なんぞ飲んで」
「こんなたくさんの子供たちに囲まれてる奴が鬼だなんて思えねーよ。一体この子たちは?」
「みんな私の子供たちですよ」
「あらま〜若い頃随分と遊んだのね〜」
「いえ、そういう事では...みんな捨て子だったのです」
「孤児...」
「卿はまさか、この子達を養うためにあんなことを...」
それなら説明が付く。しかし道信は静かに否定してきた。
「私がそんな立派な人間に見えますか?この血にまみれた私が...」
「...卿は...」「...アンタ一体」
「今も昔も変わらず、私は人斬りの鬼です」
そう言って道信は昔語りをはじめた。それによれば彼は昔人斬りで、獄につながれ処刑を待つ身だったが
煉獄関の連中に腕を買われ、獄から出され、闘士になったらしかった。
「...あなた方は煉獄関を潰すおつもりのようだ。悪いことは言わない、やめておきなさい。幕府をも動かす連中だ。関わらぬ方が身のため」
「鬼の餌食になるってか?」
「それはそれで面白そうだね...」
「宝に触れぬ限り、鬼は手を出しませんよ。あの子たちを護るためなら何でもやりますがね」
「ハハハハ」「ふふっ...」
「?」
「鬼がそんなこと言うかよ...」
「卿はもう鬼なんかじゃない。立派な人の親さ」
よってきた赤ん坊を銀時が持ち上げてあやすのを見る。
意外と銀時子供好きなんだよね。
「汚い金で子を育てて立派な親といえますか...」
「だが今は悔やんでる...違うかい?」
「...最初に子供を拾ったことだって、慈悲だとかそういう美しい心からではなかった。心にもたげた自分の罪悪感を少しでもぬぐいたかっただけなんだ」
「...そんな感情だけで、ここまで面倒見られるわけないだろう」
「...そんなもんだけでやっていけるほど、子を育てるってのはヤワじゃねーよ。なァ?クソガキ...」
銀時が高く持ち上げたかわいらしい赤ん坊を、銀時に寄りかかり横から見上げる。
だからその時の道信の顔は見えなかった。
すると、一人の少年が新八君の眼鏡をかけて、無邪気によってきた。
「先生コレ!どう似合う?ねェきいてる?」
それでも顔を伏せ、黙っている道信。
「先生?先生どうしたの!?オイお前ら!先生に何言った!いじめたら許さねーぞ」
「おや、ごめんよ」
「そいつァすまなかった。こいつァ詫びだ。何かあったらウチに来い...サービスするぜ」
そして銀時が少年の額に名刺を、軽く叩きつけた。
「ふふ...少年、おじさんが嫌だったら小生でも構わないからね。何かあったら言いなさい。あのおじさんと一緒のところだから」
「誰がおじさんだコラ...オイ、帰るぞ」
そして遊んでいる神楽ちゃんにも声をかけ、4人一緒にその廃寺を後にした。
***
一方その頃――
ドシャ
一人のぼろぼろの男が気絶し、地面に崩れ落ちる。
「総悟ーこっちも何もしゃべってくれなかったよー?」
「そうかィ。なかなか敵さんも尻尾を出さねーな(ていうか空覇、強かったのか...朔夜さんは知って...いや、知らなさそうでさァ)」
「そうだねー?(よく分からないけど...これ総悟のお手伝いになってるからいっか!)」
「ザコをやったところで何も出てこねーや...しかしちっと暴れすぎたかな」
気絶した人の山の上に座り込み、辺りを見回しそう呟くと、後ろで足音がした。
その音に沖田が振り向いた。
「(げっ)」
「空覇まで連れ出して、オフの日まで仕事とは御苦労だな。お前がそんな働き者だとは知らなかったよ...」
そこには、上司である土方が壁にもたれかかり立っていた。
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