第二十八訓 結婚なんてしてしまったもん勝ち
「ぎ、銀時ィ...!アレだけ飲みすぎないっでって言ったでしょ...もう!」
「お〜?そうだっけ?」
「(この酔っ払い!)」
久しぶりに銀時と飲みに行った帰り――
あんまり酒に強くないくせに飲みすぎて、完全に酔い切ってる銀時に肩を貸し歩いて来て、万事屋へと何とかたどり着く。
意外とコイツ筋肉付いてるから重いし...割と近い場所で飲んでいて正解だったよ。
そう思いつつ家の中に入り、ソファに銀時を置くと、和室に布団を敷いてきた。
「ほら銀時、今布団敷いてきたから向こうで寝て。小生もほろ酔いで眠いんだから(今日はもうここのソファーで眠ろう...)」
ぐいぐい
「ん〜?」
ぐいっ
「おぅっ!?」
どさっ ぎゅっ
銀時の腕を引っ張り立たせようとしたが、逆にひっぱられて銀時に抱きつく形になり、離れようとすれば抱きしめられる。
「ちょっ、銀時っ!」
「朔夜〜...朔夜はほんといい匂いだよな〜...たまに喰っちまいたくなる...」
「卿はどこのエロ親父だい...?ったく、冗談は良いから布団は和室だよ。さっさと寝てきなさい」
抱きしめたまま、小生の髪にしみついた煙管の匂いを嗅いでそう言う銀時の背をぽんぽんと叩いてそう促す。
そうすれば銀時は小生を子供を抱くようにして抱いたまま立ちあがった。
「...銀時、おろしてよ」
「いやだ...またどっかいくだろ...このまま一緒に寝ようぜ...今日は喰わねーから」
「今日はっていうか...喰われたことないし...卿はいくつの成人男性ですかー...(どこもいかないよ...飲みすぎだな完璧に)」
明日にゃ忘れてんだろうな、と思いながら銀時を見るも離す気がない様子なので大人しく和室に連れて行かれ、一緒に布団に入った。
するとすぐにいびきが聞こえてきたので、小生は、ゆるくなった腕を解かせ、もぞもぞと布団から出る。
「...やれやれ...(よほど小生がいなくなったのがいやだったのかな...)」
銀時は優しいから...
そう思いつつも、一緒に寝たら明日新八君と神楽ちゃんに勘違いされそうだと思い、ソファーに向かい、丸まって眠った。
***
日も昇ったころ―
ガラッ
「おはよーございます」
「あ、おはよう新八君」
朝食の準備を終え、三角斤とエプロンをつけたままソファーで寝転がる定春を撫でて、もふもふしていると新八君がやってきた。
「アレ?朔夜さん、今日は朝からですか?」
「あ、うん。まあね、昨日銀時と飲みに行って、そのまま泊ったんだよ。」
「......その、大丈夫ですか?何か間違いは...」
「あ、大丈夫大丈夫。酔ってアイツ寝ちゃったから。それに銀時は小生にそんなことしないし」
「(いや、隙あらばしますよ。あの人)...なら良いんですけど、気を付けてくださいね?」
「勿論だよ(新八君も心配性だねェ)」
グータラな連中だといいながら押し入れを開けて神楽ちゃんを起こし、銀時の寝ている和室へ行く新八君を見ながらそう思う。
すると和室に続く襖を開けた新八君が凄い顔をして、静かに再び襖を閉めた。
「?新八君」
「何やってるアルか新八」
「来るなァァァ!!朔夜さんも来ないでください!」
起き出してきた神楽ちゃんに俯いたままそう叫び、小生にもそう言ってきた。
しかし、銀時に何かあったのかなと気になり、神楽ちゃんと一緒に襖の方へ向かった。
「銀ちゃんに何かあったアルか?ストパーか!ストパーになってたアルか!!」
「おかしいな、昨日帰ってきたときは別に何もなかったのに...」
「止めろォォ!!あっちにはうす汚れた世界しかひろがってねーぞ!」
新八君のよく分からない制止もむなしく、神楽ちゃんが勢いよく襖をあけた。
「う〜ん」
そこには布団でだらし無く寝ている銀時と、その上にかぶさるように寝ている、くの一っぽい綺麗な女性の姿があった。
「ぇ...えっ!?」
「ん?」
状況が理解できず思わず声を上げれば銀時が目を開けた。
「...は...?」
「ぎ、銀時...」
「!っ朔夜!ちょっ、これ何だ...」
「あの後いつ連れ込んだの!?(連れ帰ってあげたのに、実は余裕あったってこと!?)」
人が重い思いして運んであげたってのに!!
そう思って言えば、銀時が女性を上からどかして立ち上がった。
「はっ!?ち、違うって俺はしらねーぞ!!マジだから!!」
「ウソつかないでよ!!どこの店の人連れてきたの!?小生だけならまだしも神楽ちゃんもいるってのに!!」
「まだしもじゃねーよ!!俺がお前と飲んだ日にそんなことするかァァ!!っつーかマジ昨日の記憶ねーんだけど!?
いったん落ち着こうぜ!そしてちょっとこの女も交えて事情きこう!!俺何もしてないって分かるから!」
「あぁそうしよう!じゃぁじっくり話聞かせてよ!朝餉の準備もうできてるし、冷めないうちに食べながら!!」
「わーい、今日の朝ごはんは朔夜の料理アルか?何ネ?」
「味噌汁と漬物、ご飯、あと納豆だよ〜神楽ちゃん。ほら、今持ってくるからソファーで待っててね。
新八君と...銀時もその女性起こしてソファーに座って待て」
「は、はい...(なんか少し怒ってね?!まさか嫉妬!?それならそれですげー嬉しいんだけど)」
「...(朔夜さん、なんか完全に万事屋の母ですね...)」
そして新八君を除いた4人で朝食を食べる。
小生は神楽ちゃんと新八君の間に座り、目の前に座る銀時と、納豆を練るくの一の女性を見る。
...なんか、大好きな兄の連れてきた彼女を初めて見る妹の気分ってこんな感じなのかな...
複雑な心境に陥って、二人を見ていると銀時がようやく口を開いた。
「...で、この人誰?」
「「卿/アンタが連れこんだんでしょ/しょーが」
新八君と共に即答する。
「おい、ちげーっていってんだろ...昨日は......あ、ダメだ。朔夜と飲みに行ったトコまでしか思い出せねェ」
「ベロンベロンに酔った卿を連れて帰ってきてあげて、布団に寝かせて、小生はソファーで寝たんだよ。
それなのにまさか...人の眠りが深いからって...どうせ、少しして起き出して出張風俗嬢に電話でもかけたんじゃないの?」
「絶対ねーよ!お前が同じ屋根の下で寝てるなら、俺は迷わず顔もしらねー女よりお前を選択するわ」
「またそういうセクハラまがいの冗談...いつまでその人のこと認めないつもりだい?」
「(銀さんのは冗談じゃないですよ多分...でも、)...忍者のコスプレまでしてとぼけないでくださいよ。くの一か?くの一プレーか?」
「イイ加減にしろよ。んな事するワケねーだろ!どっちかっていうとナースの方がイイ」
「新八、朔夜。男は若いうちに遊んでた方がいいのヨ。じゃないとイイ年こいてから若い女に騙されたり、変な遊びにハマったりするってマミーが言ってたよ」
「お前のマミーも苦労したんだな」
「神楽ちゃん、小生はそこを怒ってるんじゃないんだよ。遊んだのを潔く認知しないのを怒ってるの」
「だからやってねーって、多分...あの〜俺何も覚えてないんスけど、何か変な事しました?」
「いえ、何も」
そして、銀時が自信なさげに隣の納豆を練る女性に聞けばそう返ってきた。
すると銀時は安堵したようだった。
「そーかそーか、よかった。俺ァてっきり酒の勢いで何か間違いを起こしたのかと」
「夫婦の間に間違いなんてないわ。どんなマニアックな要望にも私は応えるわ」
...え...夫婦?
「さっアナタ、納豆がホラッこんなにネバネバに練れましたよ。はいアーン」
そして銀時の目に納豆をとった箸を近づける彼女...っていうか嫁さん...?
「いだだだだ。そこ口じゃないから。そこ口じゃないよ。目は口程にものを言うけど口じゃないよ。え?何?夫婦って(俺の嫁さんは朔夜だけなんですけど)」
「責任とってくれるんでしょ?あんなことしたんだから」
「あんなことって何だよ!何もしてねーよ俺は!」
「何言ってるの。この納豆のように絡み合った仲じゃない。いだだだだだ」
「だからそこ口じゃねーって言ってんだろ!」
...け、結婚...銀時が結婚...嬉しいけど...なんか...
ぐるぐると複雑な感情に整理をつけていると隣の二人が言葉を発した。
「銀さん、やっちゃったもんは仕方ないよ。認知しよう」
「結婚はホレるよりなれアルヨ。コレを機に朔夜のことはすっぱり諦めるネ」
「オメーラまで何言ってんの!みんなの銀さんが納豆女にとられちゃうよ!朔夜もなんとか言えよ!」
「えっ...あ...なんていうか...まだ整理つかないけど...お、お幸せに...」
「こんな時にテンパって何言ってくれてんの!?」
あわわわとグルグルする思考の中でそう言えばそう怒鳴られた。
でも仕方ないじゃん!それ以外言えないじゃん!
小生の返答に、肩を落としてぼやきだす銀時。
「冗談じゃねーよ。俺が何も覚えてねーのをイイことに騙そうとしてんだろ?な?大体僕らお互いの名前もしらないのにさ、結婚だなんて...」
「とぼけた顔して...身体は知ってるくせにさァ」
「!」
「イヤなこと朔夜の前で言うんじゃねーよ!この子信じるから!それからソレ銀さんじゃねーぞ!」
定春を見つめながら言うお嫁さん(?)に一通り突っ込む銀時。
それに対し眼鏡がないとダメだと言うお嫁さん(?)・・・目が凄く悪いみたいだね・・・
そう思いながら、かかってきた携帯電話に出るお嫁さん(?)の背を見つめる。
...ルックスは最高...普通に可愛いし...
ぶっちゃけ銀時にはもったいないぐらいだと思う...
......でもなんか、複雑なのは...
「(...昔からいつも一緒で、お兄ちゃんみたいだった銀時が、とられてしまう気がするからなんだろうな...)」
...自分勝手だ。銀時には銀時の幸せがあるのに...
というかなんだこれ?ブラコンか!小生はブラコンなのか!?
自分の思考と予想以上の依存度に顔が熱くなり、ぶんぶんと思わず振りはらう様に頭を振った。
そんな事をしている間に、銀時のさっちゃんというらしい、お嫁さん(?)は携帯を切っていて
いつの間にか銀時は正装をして立っていた。
「ぎ、銀時...そのかっこ...(やっぱり結婚するの?いや、まあこの場合しょうがないけど、でも...うー...)」
「(動揺してんな...やっぱ俺とられんのがそんな嫌なのか〜かわいー...帰ってきてからネタばれしてやるか...)
オイ...腹くくったよ、俺も男だ。記憶にねーとはいえ、あんなことこんなことしといて知らんぷりもできねー
こんな俺でよかったらもらってください」
「!!」
や、やっぱり銀時本気で結婚しちゃうんだね...!急だけどこれでいいんだ...これで...
少し妹分として複雑だけど...仕方ないよね...婚期逃せないよね...
妹分として、さっちゃんと仲良くできるよう頑張るから、これからも仲良しでいてね...
さっちゃんに手を引かれて万事屋をでていく銀時の背を見送りながら、苦楽を共にした竹馬の友の離れていく寂しさに、ちょっとだけ鼻をすすった。
その時――
「朔夜ァ!新八ィィ!」
「...…神楽ちゃん」
「...どしたの?」
「アレ」
和室の天井を指差す神楽ちゃんにそこを見ると、天上には綺麗な穴が開いて、青空が見えていた。
「...なんだいこの穴?」
「いつからあいてたの?」
「さっちゃん...空から落ちてきた天女かも」
...そんなまさか羽衣伝説じゃあるまいし...
でもそうだとしたら...銀時、何しちゃったんだい?!
***
「...つーわけだよ。分かったか?」
「なるほど...嘘だったんだね...」
「女は嘘をつく生き物アルからなー」
「けど良かったですね。違って」
それからしばらくして、額に怪我でもしたのか、不器用な手当てをした銀時が帰ってきたので
ソファーに座る銀時の隣に座って、事の詳細を聞いたところ、
さっちゃんのしたことは、万事屋である銀時を利用するための芝居だったらしかったことが判明した。
「おう、だから結婚はしねーよ」
「そっか...良い子そうだったのに残念だったね」
そう心の半分の本音を言えば、銀時は小生の目をじっと見てきた。
...この赤い目で見られると、いつも気持ちを隠せない気がする。
「なぁ...お前ちょっとアイツに嫉妬してたよな?」
「!し、嫉妬なんかしてないよ!!(確かにちょっとさみしかったけど!)」
「隠すなって〜そうか朔夜はそんなに銀さんが好きか〜(朔夜の嫉妬なんて初めてだぜ!)」
ひょいっ ぎゅぅ
「なっ!」
「ちょっと銀さん何してんですか!」
「銀ちゃん、私のマミーに何するネ!!」
「朔夜がお前のマミーなら、俺はパピーでいいだろ。あ、新八は家政夫な」
「絶対嫌アル!朔夜は、『しんぐるまざー』で良いネ!」
「ふざけんな朔夜には俺という心の支えが必要なんだって」
「私という可愛い娘がいれば十分ヨ!ロクに仕事もしないパピーなんてイヤヨ〜」
嬉しそうに小生を自分の膝の上に乗せて、抱きしめ、向かいに座る神楽ちゃんとぎゃいぎゃい言い合い出す。
...子供かいアンタは、と思うが、でも...こういう愉しそうで嬉しそうな銀時を見てると怒る気も失せてしまう。
「...(やっぱり小生はブラコンなのかね...)」
本気で銀時が結婚するってなった時、すごく置いて行かれそうでさみしくなった。
幸せになってほしいなぁと思う半面、大好きな兄が離れてく気がした。
「(重っ...やっぱ自分ブラコンだよコレ...)」
小生達はどれだけ仲良くても、他人は他人。所詮、真の理解などないし、人生を共有できない。
なのに、ずっとお互いを理解しあえる妹分で、幼馴染で、親友でいたい、なんて...
なんて、我儘で自分勝手で非合理的な願いだろうか...
そう思って、抱かれたまま銀時を見上げると、気付いたらしく視線がかちあった。
「?どーかしたか朔夜」
「...なんでもないよ。ただ、銀時が結婚なんてやっぱできないよねーって思って。マダオだもん」
ブラコンのような思考を悟られないようにそうからかって笑う。
「なっ!?嫉妬してたくせによく言うなお前!」
「嫉妬じゃないよ。なーに調子乗ったこと言ってんの」
ぺしっ
「いでっ!朔夜お前ありゃ絶対嫉妬だろ!銀さんが好きなんだろ?正直に言っちまえって!」
「好きだけど、嫉妬は違うって言ってるでしょー。(ブラコンみたいな嫉妬した、なんて恥ずかしくて言えるかい)」
怪我しているおでこを軽くはたいてやれば、痛みに腕の力が緩んだのでそのすきに逃げだした。
「おい朔夜!ごまかすなっ...ていうかどこ行くんだよ」
「昼ごはんと夕飯の買い出し行くだけだって。今日はここで食べてくからさ」
「!マジアルか!3食朔夜のご飯ネ〜!」
「あ、なら僕も今日は夕飯も食べて帰ります!」
「そうかい?分かったよ。じゃあ行って...」
「待て待て待て、俺も行くぜ。荷物お前だけじゃ持てないだろ。それに俺はお前の嫉妬がうれし...」
「じゃぁいってきまーす」
「って、おい!(ちゃんとお前の愛情に俺は応えてやれるのに!)」
「あははは」
そしてごまかすように笑って、小生はにぎやかな万事屋からでた。
...しかし、銀時の方が小生に依存してるんだとおもってたら...小生のブラコンもここまで進行してたとは...
でも、嫌な気もしないし、離れる気も起きないのは、やっぱり銀時に依存して、支えられながら生きてるからなんだろうな...
そう気持ちに決着をつけ、銀時と感情の行き違いが発生してるのに気付くことはなく、小生はスーパーへ向かった。
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