第二十七訓 何であっても可愛いだけで終われないものである。
ガサゴソと音が近づいてくる。
そして小生たちの頭に同じ言葉がよぎる。
"ここにはいるんだ、得体のしれねーもんが..."
「...て、てるくーん...?」
「てる彦くんだよな...てる彦くんだと言ってくれ」
しかし返事は帰ってこない。
小生たちの間に重たい沈黙が下り、それぞれの額から冷たい汗が流れおちた瞬間
小生と小太郎は逃げようと走り出そうとしたが、穴にはさまったままの銀時に小太郎が足を掴まれ、小太郎に小生は腕を掴まれた。
「てめェら、普通この状態の俺置いてくか?」
「貴様ここに住むと言っていたではないか、なァ朔夜」
「そうだよ銀時。引越しおめでとう!新築だねェ素敵だよ。ちょっと引越しそば買ってくるから。すぐ買ってくるから」
「輝く笑顔でボケんな!」
「心配するな。スグ戻ってくる。俺はカステラ買ってくる。カステラだから」
「カステラなんか何に使うつもりだよ!お朔、ヅラ子ォォ!私達スリートップで今まで頑張ってきたじゃない」
「しるか」「さよなら」
「わかった!あのアレだ!昔お前らがほしがってた、背中に『侍』って書いてあるのと『天才』って書いてあった革ジャンやるから!」
「「誰が着るかァァそんなセンスの悪い革ジャン!!」」
んなの欲しがってた記憶もないよ!
その時――
「......何をやっとるんだ、おぬし達」
テレビで何回か見たことのある、ハタ皇子とそのお付きの人がいた。
***
「ほうほう。ではその子供がここに入ったきり戻ってこんと。おぬしらはそれを捜しに来たわけじゃな」
銀時を穴から出すのを手伝ってもらった後、ことのあらましを説明すればそう返ってきた。
どうやら最近この屋敷は子供たちの遊び場にされているらしい。
しかしバカ...いや、ハタ皇子がここにいるということは...
そう思っていると、小太郎がハタ皇子に問いかけた。
「それではこの庭は貴様のものなのか?ちっちゃいオッさん」
「(いや相手一応皇子様なんだけど)」
「誰に向かって口きいとんじゃワレェ!このちっちゃいオッさんがどなたと心得るワレェェ!!」
「よさんかじい。星は違えども美人は手厚く遇せと父上がおっしゃっていたのを忘れたか?」
「皇子騙されてはなりませんぞ。なんやかんやでお父上は結局ブサイクと結婚しておられるではありませんか」
「オイ!それ母上のことか?母上のことかァァ!!」
すっごい口のきき方だな...まぁ公式でバカ皇子だしね...
そう思いながら目の前のやり取りを見てると、ハタ皇子が銀時を目にとめ、声をかけた。
それにビクッと肩をはねさせる銀時...何かやらかした過去でもあるのかな...?
「...おぬしどこぞで会ったかの?」
「いやだ〜キモーい、縄文式のナンパ?そんなんじゃ江戸っ娘はひっかからないぞハゲ死ねば?」
「...」
キャラを捨て去りきゃるーんとした感じで言う銀時に何があったんだと本気で思う。
「そうか...どこぞで会った気がするのじゃが...しかし、そちらの女子」
「?あ、あぁ、小生かい?」
「おぬしは滅多に見ないほどの美人じゃの〜」
「そりゃどうも」
褒められて悪い気はしない。
「しかし地球にもこんな美人がいたとは、驚きじゃ」
「あはは、そんな大げさな」
「「(いやお前は昔から万星共通で超美人。しかも性格可愛い。変人だけどな)」」
「こんな美人が困っているのにほうっておくわけにもいくまい。この方らの人捜し手伝ってしんぜよう。のうじい?」
「あ、俺パス。四時からゲートボール大会あるから」
「クソジジー地獄のゲートをくぐらせてやろーか」
「(態度悪いねェ...)」
すると、ここに化け物が棲みついているのかという噂の真偽を小太郎が問いただそうとした時
ギャォオオスという鳴き声が聞こえた。
その声に思わず小太郎と銀時の袖を掴む。
「何だ?今の鳴き声」
ザザザザザザザ
「何か来る!今度こそ来る!」
ガサッ
「ギャオ〜ス」
茂みから出てきたのはとても可愛らしい大きな犬っぽい生き物だった。
その犬をポチと呼びハタ皇子は近づきほおずりする。
「化け物とはコレのことか?」
「ポチは化け物なんかじゃないぞよ」
そしてここはポチ君のために朽ち果てた武家屋敷を購入し、用意した庭だとハタ皇子は説明しだした。
そしてポチ君は子供に危害を加えたりしないと...しかし可愛いね。
そう思っていると、小太郎が頬を染めてポチ君に近づいた。
「...スイマセン、僕達もちょっと触らせてもらっていいですか?」
「僕『達』?」
「なんだ朔夜、ああいう動物お前も好きだろ。だから配慮だ」
「あぁ...ありがとうね」
じゃぁ甘えようかなと小太郎と二人でその子に触れる。
あ、もふもふしてる...!
「オイ!止めとけ!しかも朔夜まで巻き込むなって!」
「何をそんなにおびえている?確かに図体はデカいがこんなに愛らしい動物が人に危害を加えるわけなかろう。天使だ天使」
「そうだよ。よしよし...可愛いねェ」
すると小太郎が声を上げた。
それにつられて上を見れば、撫でている顔より上に鬼のような顔があった。
「え...」
「オイぃぃぃぃぃぃぃ!天使とヤクザが同棲してるじゃねーかァァ!!」
「天使とヤクザがチークダンスを踊ってるぅぅ!!」
慌てて小太郎に手を引かれ離れれば、ハタ皇子が自慢げに話しだした。
「ポチは辺境の星で発見した珍種での〜。下は擬態で、コレに寄せつけられたエサを上の本体が食らうという大変よくできた生物なのじゃ」
「まさに今の俺達じゃねーか!!」
「早く説明しておくれよ!食べられるとこだったよ!!」
「大丈夫だって。サラミしか食べないもんな、ポチは」
ガブ
「!」
ハタ皇子の触角が食われる。
「...あ、あの触角...」
「いやコレはアレだよ。じゃれてるだけだから、いやマジで」
「んなわけあるかァァ!!人体の一部が欠損してるじゃねーか!お前何かァ!?コイツに金でも借りてんのか!?」
しかしなお大丈夫だと言い張るハタ皇子を後ろからポチ君が襲った。
「ぎゃああああ!!」
「うおわァァ!ヤバイシャレにならん!」
「舌をかむなよ朔夜!」
「うっうん!!」
そして小太郎が小生を抱き上げ、全員逃げるために走り出す。
だが、やはりポチ君の方が早くすぐに全員追いつかれ、そこで意識が途切れた。
***
「お姉ちゃん、朔夜先生。しっかりしてよ!お姉ちゃん!朔夜先生!」
「「「ん」」」
誰かの呼びかけに目を開ければ、目の前にはてる君がいた。
「おや...てる君、無事かい?」
「...よォ、元気だったか?坊主」
「まったく心配かけおってケガはないか?」
「そのセリフそのままバットで打ち返すよ」
そう言われ、それぞれのとんでもない姿に気づく。
「...朔夜、ヅラ。お前らエライことになってるぞ。体どこやった?」
「お前も生首になってるぞ、ナムアミダブツ」
「こんな死に方はキツイなーって、あ、空覇にお別れ言えてない。空覇、最後まで面倒みられなくてごめんねェェ」
「あ、俺もだ。新八ィィ神楽ァァ定春ゥゥさようならァァ」
「落ち着いてよ、3人とも埋められてるだけだって!」
「あ、なるほど。だから首しかなくてしゃべれるのか」
よかった〜生きてた。この二人に付き合って死ぬのは嫌だ。
「そうか、もう心配いらん。助けに来た、ていうか助けてくれ」
「何しに来たんだよお姉ちゃん...」
「それよりお前よく無事だったな」
「確かに...どうやってやり過ごしたんだい?」
そう聞けば木の上に隠れていて、降りるに降りられないでいたら、小生たちが運ばれてきたと言った。
少し離れた場所で、皇子と付き人が諦めた様に死ぬんだとか騒ぎ出した。
それを聞いて、助けようと銀時の周りの土を掘っていたてる君が泣きそうな顔でしゃべりだした。
「グス...みんなご免。僕のせいでこんなことになっちゃって」
「!てる君...」
「何やってんだろ僕...こんなたくさんの人、それに朔夜先生にまで迷惑かけて...何が男の証拠を見せてやるだよ。
こんなの男のすることじゃないよね...でも、やっぱり父ちゃんのことバカにされるのくやしくて
父ちゃんはあんなだけど、誰よりも男らしいの僕は知ってる。誰よりも心がキレイなのも僕は知ってる。
...でも、誰もそんなの見えないし見ようともしない。くやしい、僕くやしいよ」
...やっぱり本当に良い子だね。
「...お前」「てるく...」
その時、先程と同じ鳴き声が聞こえ、のそのそとポチ君が姿を現した。
その姿をみて、飼い主たちの方が騒ぐが、それを歯牙にもかけず、ポチ君はこっちに向かってきた。
「オイオイこっち来てんぞ!」
「ってる君!もう小生達はいいから、早く逃げなさい!てる君まで死んでしまうよ!」
そう言うが、てる君は動かず銀時の周りの土を掘り続けている。
「オイ、きーてんのか!?」
「うるさーい!僕は男だ!絶対逃げない!」
「そんな事を言ってる場合か、早く・・・!!」
ダッ
「てる君逃げなさいッッ!!!」
てる君の背後まで来たポチ君が、てる君に襲いかかった。
「「ふんごォォォ!!」」
ズボボッ
二人がふんばって片腕を土から抜いて、ポチ君の頭の横の両角をそれぞれ捕まえ、てる君に口が届かないように止めた。
「...!」
目を閉じて、頭を抱えていたてる君が目を開けそれに気づく。
「(やっぱり頼れるね、この二人は)...ねェ、てる君」
「...俺は男だって?」
「「「しってるよ。んなこたァ/そんなこと」」」
「てる君も、西郷の奥方も男だよ。誰も見てくれないって?バカ言っちゃいけないよ」
「見えてる奴には見えてるよ、んなもん」
「少なくとも、ここに三人いることだけは覚えておけ」
「せ、先生、お姉ちゃ...」
ザッ
「フン、生意気いいやがって」
そして次の瞬間ポチ君が真後ろに吹っ飛んで、木にぶつかった。
そして前を見れば、そこには白い褌一丁の西郷の奥方がいた。
「かっ...母ちゃん!!」
すると再び体勢を立てなおしたポチ君が西郷の奥方に飛びかかった。
その時、小太郎が思い出したように声を上げた。
ようやく分かったかな。
「......思い出したぞ、白フンの西郷...天人襲来の折、白フン一丁で敵の戦艦に乗り込み、
白い褌が敵の血で真っ赤に染まるまで暴れ回った伝説の男、鬼神、西郷特盛!」
その瞬間、西郷の奥方がポチ君の口に拳を叩きこみ、勝負は決した。
「小生達の大先輩にあたる人だねェ...」
そして、必死で謝りだそうとするてる君の頭を殴り気絶させると肩に担ぎあげ、こちらに声をかけてきた。
「テメーら二人はクビだ。朔夜ももうそのバカどもに付き合わなくていいよ。
いつまでたっても踊りは覚えねーし、ロクに役に立たねェ。今度私らを化け物なんて言ったら承知しねーからな。
それから...なんかあったらいつでも店に遊びに来な。たっぷりサービスするわよ」
そしてウインクをし、去って行った。
「...…恐いよ〜」
「どうやらいらない世話だったみたいだねェ」
「あぁ、奴らも侍と変わらんな。立派な求道者だよ」
その後なんとか3人で土から抜けだし、それぞれの日常へ帰った。
何か二人忘れてる気がするけど...気のせいだよね!
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