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「女より気高く、男より逞しく...それがママの口癖」
しばらくして小生たち三人はあずみと一緒に買い出しに行かされた。
そして店への帰り道、小太郎が飲み物を飲み、銀時がアイスを食べながら歩いていると
あずみが西郷の奥方のことを語り出した。
「私達みたいな中途半端な存在は、それぐらいの気位がないと世の中わたっていけない。
オカマは誰よりも何よりも強くなきゃいけないの」
「...すごいねェ」
「それじゃあアゴ美も強いの?アゴ美のアゴは何でもくだけるの?」
「なんでアゴ限定の強さなんだよ」
「(銀時、卿はどれだけあずみのアゴを押してくるんだい?確かにすごいアゴだけども)」
すると小太郎が西郷の奥方のことを、ただ者ではないだろうとあずみに聞いた。
ていうかまだ、あの人が誰か気づいてなかったんだね、この二人。
西郷の奥方の昔のことを聞いた時の二人の反応にそう思うが
まぁ別に支障もないし、小太郎は引っかかってるみたいだし、そのうち気づくだろう、と語らないことにした。
その時、下の道の方から二人の子供が、一人の子をいじめてる声が聞こえてきた。
それに気付いて、銀時と小太郎が手摺の方に行き、二人のいじめっ子の頭に、それぞれ口にしていたものを上から吹きかけた。
そしてそれによって子供たちが逃げていった所で、あずみと小生は下の道に行き、いじめられていた子に声をかけた。
「ボク、大丈夫?」
「怪我はない...って...」
「「てっ、てる君!!」」
「?朔夜、そのガキ知り合いかァ?」
「知り合いも何も、この子は西郷の奥方の息子さんだよ!」
「「!」」
上から銀時の声がかかり、見上げてそう返せば二人は驚いたようだった。
そして、とりあえずこのままにしておく訳にもいかないということで、てる君を店に連れ帰ることにした。
***
「てる彦ォォ!!」
「お、奥方...落ち着いて」
店に戻ってきて、かすり傷を負ったてる君を見せた瞬間、恐い顔で西郷の奥方は叫んだ。
「コレが落ち着いてられるわけないでしょ!何があったの〜こんな大ケガして!病院よ!早く病院にいかなきゃ!赤ひげよ!赤ひげを呼んでェェ!!」
「青ひげならいっぱいいますけどね」
「てめーらなんてお呼びじゃねーんだよ消えろ!」
というか一応小生も医者なんだけど...忘れてるね・...
そう思っていると、てる君が若干自分の母親(?)の勢いに引きつつ言葉を発した。
「大丈夫だよ父ちゃん、朔夜先生もかすり傷って言って...」
ガバッ
「ぐぼっ」
「父ちゃんじゃねェ母ちゃんと呼べェェ!!」
「(えぇぇぇ...)」
てる君の胸ぐらをつかみあげそう言う奥方。
いいのだろうか、アレ
そう思っていると、奥方はてる君を下ろし、塾で何をやっているのかと問う。
しかしてる君は、チャンバラごっこをしてるだけだと答え、走って外に出て行った。
「...(ま、絶対言えないよねェ...てる君は親想いだから)」
西郷の奥方がオカマさんだからいじめられてるなんて、絶対あの子にゃ言えないね。
そう思っていると、いつの間にか近くにいた小太郎が消えていた。
...てる君のところにでも行ったのかな?
そっちに気を取られていると、西郷の奥方が鬼嫁を持ってきて、いきなり席でラッパ飲みしだした。
「ちょっママ!?」
「どうしたのよ?」
「...」
するとそれを見て銀時まで、何故か奥方の隣の席で飲みだした。
「パー子?」
「朔夜、お前も付き合え」
「...分かった」
そして銀時の隣に座り、小生も飲みだした。
少しすると、止めてもやめない小生たちに他のオカマたちは呆れたようにして去って行った。
すると、西郷の奥方が重々しく口を開いた。
「...あの子にはホントに申し訳ないと思ってる」
「「!」」
「こんな親父をもってバカにされない方がおかしいものね。全部私のせいだわ」
「...なんだ知ってたのか。だったら話が早ェや...」
そしてコトっと御猪口をおき、西郷の奥方の前に行き、親父カツラをかぶせた...って、は?
「ん〜これじゃあ今度は親父がヤクザっていじめられそーだな。もっとダメっぽい親父に...額にウンコでも描いとくか」
ゴッ
「何やってんだてめェ!」
思い切り銀時が殴り飛ばされる。当然の結果だと思う。
「...てる彦がもの心つく前につく前に母親が死んで、それからは私が母親代わりもしなきゃいけないって
それが行き過ぎてこうなっちまったけど、今まで一度だってそれを後悔したことはないし、これからだってするつもりはない。
確かに、このみにくい姿を見て笑う奴もいるけどね。この魂だけは、男よりも女よりも美しいつもりだからさ」
「...(相変わらず魂の気高い人だな...)」
再び酒を片っ端から飲みだした西郷の旦那を見てそう思う。
性別なんかより大事なものが山ほどあると、いつも教えてくれる人だ。
外見より中身って、本当だと思う。
しばらくして西郷の奥方は酔って眠ってしまった。
そこに小太郎も帰ってきた。
「朔夜、銀時」
「おう、良いところに帰ってきたな」
「あ、小太郎...てる君のところでも行ってたのかい?」
「!やっぱりお前に隠し事はできないな...」
「ふふ...ところで銀時、良いところに帰ってきたってどういうこと?」
「決まってるだろ...今のうちに逃げるんだよ」
「......は?」
***
「(流されてしまった...)」
あの後抗議するも銀時になんか流されて、小太郎と小生も逃げることになった。
そして今路地裏に隠れつつ逃走中である。
なんとなく自己嫌悪に陥っていると、小太郎が戻ると言い出した。
「...どうにもあの親子のことが気になってな」
「お前、これ以上オカマシンクロ率が上昇したら本物になっちまうぞ」
「(それはそれで似合うから良いけど...小生も戻ろうかな...)」
「化け物は酔っぱらって寝てるし、今しかチャンスはねーんだって」
「というか二人は自分でまいた種じゃん...小生も気になるからやっぱり残るよ」
「うるせーそこは突っ込むな。つーかお前までバカなこと言い出しやがって...とにかく俺は今逃げる」
「逃げるならいつでもできる。だが今しかやれんこともある」
「その通りだよ」
「頑張ってヅラ子、お朔。私陰から応援してるわ」
そう言って塀を乗り越えて勝手に一人で行こうとする銀時の片足を掴んで引きとめる。
「「待て/待ちなよパー子」」
「いだだだだだだオカマになる!ホンモノになる!んだよテメーらは!若干腹立つけど二人でやりゃいいだろーが!!」
「何言ってんだいパー子」
「私達三人スリートップで今まで頑張ってきたじゃない」
「しるかァァ!!」
「まずい飯ではあるが西郷殿にはしばらく食わせてもらった身だろ...降りるぞ朔夜」
ザッ
「ありがとう小太郎...それに小生は武士じゃないけど、恩を返すのは武士として当然の道理じゃないのかい?」
小太郎に横抱きにされて、塀を超えれば、続いて銀時も塀を超えてくる。
「お前らさっきからいちゃつくな。つーか武士がガキの喧嘩にクビつっこむってのか?」
その時、目の前をさっきてる君をいじめていた子供...
この辺のガキ大将のよっちゃんともう一人が慌てた様子で通り過ぎていった。
それを見て、小生たち3人はそれぞれ目を合わせた。
そして――
「んだよはなせよォ!オカマがうつるだろ!キショいんだよてめーら!朔夜先生も何すんだよ!」
「人にいじわるする方が悪いんだよ」
何か知ってそうだということでよっちゃんたちを捕まえ、てる君のことを聞くことにした。
「ヅラ子キショいって!」
「何言ってんだ貴様のことだぞパー子」
「オメーだよ青白い顔しやがって、外で遊べ!」
「貴様こそ貧乏丸出しの顔してるぞ。盗んだ給食費を返せ」
「小学生かい卿らは」
二人の相変わらずな言い合いにため息を吐き出す。
するとよっちゃんたちが話しかけてきた。
「朔夜先生!言っとくけど俺達悪くねーからな」
「俺達は止めたのにアイツ勝手に...」
「?どういうことだい?」
「要領をえねーな。ハッキリ言えよハッキリ。スポーツ刈りにするぞ」
銀時が脅すようにヴィーンと、どこからか出したバリカンを起動させると
よっちゃんが自分たちの間で流行っている度胸試しだと言った。
そしてそこに案内してもらうと、そこには大きなひびの入った、穴のあいた塀があった。
「「......空き家?」」
「空き家なんかじゃねーよ。ここにはいるんだ。こないだも得体のしれねー獣みたいな鳴き声きいたし、なんか絶対いんだって」
「...化け物屋敷って奴か」
その間に小太郎が穴から、塀の内側へ入り、小生も後に続いて中に入り込む、そして最後に銀時が穴を通過しようとする。
「オイ、朔夜は分かるがヅラ、おめースゲーな。よくこんなせまいトコ...」
ガッ
「!!」
「...ちょっと銀時...」
今の音まさか...ひっかかった...?
そう思い視線を向ける
「アレ?ウソアレ?マジでか?マジでか?」
「何をしているんだ貴様は...」
「いや、前にも後ろにも動かなくなっちゃった」
「...やっぱり」
「...パー子、だからお前はパー子なんだ」
「なんだコノヤロー。パー子のパーは頭パーのパーじゃねーって言ってんだろ!」
「頭がパーだから髪の毛もそんな歪んでるんだよ」
「お朔の言うとおりだぞ。ホラ、力を抜け」
そして小太郎と二人で銀時を引っ張るが、抜けない。
「いででででで、ダメだ!もうほっといてくれ、俺もうここで暮らすわ!」
「何バカなこと...」
その時――
ザッ
「「!!」」
すぐ近くの草の陰から物音がした。
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