第二十六訓 オカマは男のバカさも女のズルさも知っているなんて、ある意味究極の生命体
――昼を一緒に食べようと誘われたので小太郎とエリーと二人と一匹で蕎麦屋に行った日のことだった。
「オイ親父、天そばはまだか?」
「ヘイ、少々お待ちくだせェ」
「少々だと?これだけ時間があればカップラーメン何個作れると思っているんだ?」
ガタッ、とエリーまで苛立って立ち上がろうとするので、小太郎とエリーの間に座っている小生が流石に止めに入る。
「落ち着きなよ小太郎、それにエリーも。最近は浪士の取り締まり厳しいんだから...そんな目立つ真似したら即お縄だよ」
その時、店主が小生たちと同じカウンター席の別の客にそばを渡した。
すると刀に手をかけて、湯呑を倒して小太郎が立ち上がった。
「ちょっ、こた...」
「貴様ァァァァ!!その者より俺達の方が先に注文を頼んだのを忘れたかァァ!!」
「お侍様勘弁してくだせェ、この方は特別な...」
「...ん?(というかあの人...)」
その客をよく見れば、ものすごく見覚えのある人だった。
そして同時に喧嘩を売ってはいけない人であるのも思い出した。
「やばっ、ちょっ小太郎駄目!」
「少し黙っていろ朔夜...いかなる客に対しても平等に接するのが貴様らの道であろう。そこになおれ。成敗してやる」
そして刀を引き抜く小太郎に、その人は声をかけた。
「いやね〜お侍さん。こんな事でムキにならないでよ〜ホラ、私のあげるから」
「化け物はだまっていろ」
「!っバカこた...」
ゴッ ズシャァァァ
小太郎がその人に殴られ、吹っ飛ぶ。
あぁもう、言わんこっちゃない!
「オイ、誰が化け物だって...って、おや、朔夜じゃないかい」
「...どうも、西郷のだん...奥方」
「なんだ...アンタのツレだったのかい。だが、私を化け物呼ばわりしたからには落とし前つけさせてもらうからね、コイツは預かるよ」
「どーぞお好きに...」
そうして小太郎はかぶき町四天王が一人、通称、マドマーゼル西郷さんに連れて行かれたのだった。
それからその日以来小生は、ちょくちょく小太郎...否、ヅラ子の様子を見に
今まで以上にカマッ娘倶楽部へと足を運んでいるのだ。
そして今日もまた、開店前のお店に顔パスで入る。
これでもかぶき町では顔が広いから、基本色んなところに簡単には入れるからね。
「どうもーヅラ子いるかい?」
「あら、朔夜先生いらっしゃい」
「...また来たのか、朔夜...」
「はァ?朔夜だァ?」
そして小生の名前を呼んで、振り向いた銀髪の男は...
「銀時...何してるの?」
「...違います〜パー子です〜」
「...厳しいよ、それ...」
「そんな目で俺を見ないで!お前にそんな目で見られたら通常の百万倍傷つくから!!」
...ていうかほんとに何やってんの?
***
「卿も...ほんとバカだね」
「うるせェ!寝起きだったんだよ!つーかこんなことになるとは思わなかったんだよ!」
「だろうよ、パー子だもの。可愛いけど」
「言っとくけど頭パーのパーじゃねーよ!?そして可愛い言うな!!」
あれからまだ開店には時間があったので、銀時がオカマでここにいる理由を問いただした。
そうして聞いて見れば、小太郎と同じ西郷の奥方にたてつくという愚行を犯したとのことだった。
流石の小生もテーブルに肘をついて、目の前に座る無駄に女装が似合っているバカな幼馴染み二人に額を押さえる。
この二人は揃いも揃って...
すると、西郷の奥方が話しかけてきた。
「なんだい。パー子も朔夜、アンタの知り合いだったのかい?」
「え、あぁ、そうなんですよ...馬鹿二人がほんっとすいません」
「...そう思うなら朔夜、アンタも手伝ってくかい?」
「「!」」
「え...?いや小生もとから女...」
「知ってるよ。でもアンタならコイツらより良い仕事してくれるだろうし、ちゃんとバイト代も出すから
全然やる気出さないコイツらに付き合ってやってくれないかい?」
「え、いやちょっ...」
「「それはいい考えだ(こうなりゃ朔夜も道連れだ)」」
「はっ!?なにいっ...」
「「やるよな?(逃がすか)」」
「...…分かったよ」
こうして小生まで化粧をさせられて、綺麗な着物に着せかえられ、かまっ娘倶楽部に入ることになった。
......オカマでもオナベでもないんだけどね...
***
そしてしばらくして店が開き、小生たちは3人で踊り子をやることになった。
そして舞台で踊りながら、3人で話し出す。
「(なんで小生まで...)」
「つーか、そういやなんでヅラまでここいんだよ?」
「あぁ、実はな...」
小太郎がそば屋での出来事を話し出す。
「...ということだ。以来なんとか脱け出す機会をうかがっているんだが、朔夜は手伝ってくれないしな、オイそこもっと腰を振れェェ!!」
「...と言った感じで、日に日にこの子ったら染まっていっちまっててねェ」
「ヅラ、長くここの空気を吸いすぎたな。お前はシャバに戻るのはもう無理だ」
「ふざけるな、俺には国を救うという大仕事があるんだ。こんな所でこんな事をしている暇はない」
「「こんな所でノリノリで踊ってる奴/男に国も救われたくねー/ないだろうよ」」
すると隣で三味線を弾く、顔見知りのあずみが話しかけてきたので、小生たちも踊りをやめてあずみを見る。
「ちょっとォ〜、朔夜先生・・・いえお朔もヅラ子もパー子もノリが悪いわよォ。そんなんじゃお客様気分悪くしちゃうでしょ」
「あぁ、ごめんよ。パー子の気だるさがうつったみたいで」
「何言ってんのよ、アゴ美にお朔。この気だるさが私の売りなのよ」
「誰がアゴ美だコルァァ!!」
「パー子、さっき紹介しただろう?この人はアゴ代だ」
「違うわァ!!あずみだボケェェ!!」
「(ほんとにこの二人は...)」
すると酒を片手に持ったすだれ頭の男が、こっちに向かって野次を飛ばしてきた。
「オイオイ何やってんだよ!」
「「「!」」」
「グダグダじゃねーかよ!こっちはオメー、てめーらみてーなゲテモノわざわざ笑いに来てやってんだからよォ
もっとバカなことやってみろよ化け物どもよォ!!」
「何だとこのすだれジジイ。てめェその残り少ない希望を全て引き抜いてやろーか!?」
「誰に向かって口きいてんだい?この飲んだくれが!」
「止せパー子、お朔」
流石にイラッときて銀時と共に、男に暴言を吐く。
するとその男は、小生をじろじろと見てニヤニヤと笑った。
「なんだ...踊ってて顔がよく見えなかったがツラの良い奴もいるじゃねーか。おい、アンタはこっちきて酌しろ」
「「!!」」
「はぁ!?願い下げだね。小生はアンタ如き愚物に酒を注ぐほど安かないんだよ」
「!んだとてめー...」
その時――
ガッ
「!」
「お客様、舞台上の踊り子に触れたり汚いヤジを飛ばすのは禁止と言いましたよね?オカマなめんじゃねェェェ!!」
そして西郷の奥方は、頭を掴んだままのすだれの飲んだくれを放り投げた。
...流石だな...
すると隣の二人も驚いた顔で西郷の奥方を見ていた。
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