第二十五訓 暴走ばっかりしてたら止まれなくなるよ
『舞流独愚』と乱戦が始まってしばらくして、他のメンツより戦闘力の弱いことがばれたのか
やたら狙われるようになり捌き切れなくなってきた。
だが、皆の足手まといになりたくない一心で戦闘を続ける。
「...っく、まだまだァ!」
ダッ ぐいっ
「うあっ!?」
向かってくる男達にさらに走り出そうとすれば、小生を守るようにして近くで戦ってくれる銀時が腕を掴んで引っ張ってきた。
「朔夜お前っ、マジで俺から勝手に離れてくなァ!!頼むから一人でガンガン行こうぜ選択すんのはやめろ!
お前見た目そんなんだからさっきから狙われまくってるだろうが!!」
「小生だって護身できるくらいは戦える!無理だと思ったら引ける!」
「お前そう言ってあんなことになっただろ!!(今度こそずっと俺が守ってやんだ!!)」
「っ!あれとはまた状況が違う!!集中力切れること言うんじゃないよ!」
「一緒だボケェ!!もういっそ集中力なんか切れろ!」
「何だとバカァ!!集中力で身体能力引き上げて戦ってる人間にそんなこと言うな!」
ギャーギャー言い合いながら、お互いの怒りをぶつけるように敵を倒していく。
そしてさらに戦い続けていると、男の怒声が響いた。
「てめーら何してんだァァ!!」
「!っ...ぜぇ...ぜぇ」
男達の動きが止まったので、小生たちも手を止める。すると集中力が切れ、疲れがどっときて、息がすぐに荒くなる。
それを気にせずそちらをみれば、カツラなのであろうか、あきらかに髪の位置がずれた男がいた。
「なんでも暴力で解決すんなって言ったろーがァァ!少年漫画かお前ら!!なんだこりゃあ!何があった!?」
「総長、総長の頭も何があったんですか?」
それは確かに聞きたい...でもどうせ、若いころに色入れたりパーマ掛けたりして毛根を苛めすぎたんだろうな。
「江戸で最強最速をほこるチーム『舞流独愚』をたった4人で...てめーら何者だ?」
「あん?俺達はあのアレだコルァ。特攻部隊...えー...何だっけコルァ」
「...特攻部隊...ポ...『保女羅尼暗』じゃなかったかしらコルァ」
「あーなんかそんなんだ。それでいくかコルァ」
「チームの名前くらい覚えとけよ」
「ぜぇ...はぁ...ま、『魔流血頭』だよ・・・」
息を整えつつ、見兼ねて口を出す。
「あっ!そーだマルチーズ!『魔流血頭』だコルァ!!なめんなよ!」
「...いや、マルチーズなめんなって言われてもな...」
......よく考えたらその通りだ。
「『魔流血頭』なんてチームきいたことねェぜ。一体何の用だ!?」
「えーと......俺ら何しに来たんだコルァ!わかんねーよ」
「こっちがききたいわ!!」
いまいちしまらないよね。あれだけ前回決めたのに。
「タカチンを引きとりに来た。もう僕の友達に万引きなんてさせない!」
「タカチンコ?ウチのチームにそんな奴いたか」
「ええ、こないだ入った高屋のことです」
「それで?その高屋は?」
「アレです」
ガッ ゴッ ガッ
高屋君...いや、タカチン君は神楽ちゃんにマウントポジションを取られ、ぼこぼこにされていた。
「おいィィィ!!何してんだァァァ!!」
「それがタカチン君だよ神楽ちゃん!」
「え?これがタカチンコ?間違えちゃったぜ、ざけんじゃねーヨ」
「間違えちゃったぜじゃないっつーの!一体何しに来たんだよ!!」
「だって皆頭にフランスパンつけてて見分けつかないアルよ」
それリーゼントね!確かにフランスパンっぽいけど違うよ!
「メガネ...お前高屋のツレか?なるほど、友達更生させようと乗り込んだわけか。
メガネのくせにいい根性してるじゃねーか。気に入ったぜ、そんな小物つれていきたきゃつれていけ」
「しかし総長!」
「案外話の分かる男だね...」
「ただしその前にやってもらうことがある。俺達のチームでは、カタギに戻る前にある儀式をやることになってる。
だがそのザマじゃ高屋は無理...かわりにてめーらにやってもらおうか」
「儀式だァ?コルァ」
「面白そうじゃないか。いいよ」
「Σえぇ!?朔夜さん何そんなあっさり...」
「こういう時は向こうのやり方に乗るのも円滑な交渉術の一つだよ」
小さく新八君に耳打ちして、パチンッとウインクする。
すると総長が話しかけてきた。
「ふっ...そこの女は随分肝が据わってるな、気に入ったぜ」
「おや、あり難いね」
「しかもツラも良いと来てる...アンタ名前は?」
「吉田朔夜だよ、総長さん」
「朔夜か...俺の女にしてェもんだな」
「!」
「あはは、小生はモノにはなれないけど、卿とは是非とも友人として仲良くしたいね」
いろんな方面に顔が効いた方がこの街じゃ生きやすいしね。
「簡単に落ちねーのがますます気に入っ...」
「いいから儀式だろ。上等だ。ささっとしろよコラァ(朔夜に易々と話しかけんじゃねぇよ)」
何故か少し不機嫌そうな銀時の言葉にそれもそうだと頷く。
「じゃぁ総長さん、早く儀式を始めようか」
「お、おう...じゃあ行くぜ。(あの男、わざと遮りやがった!)」
こうして儀式をする場所に移動することになった。
***
そして小生たちは、ターミナルが見えるまだ工事途中のような場所に連れてこられた。
「ルールは簡単だ。バイクであそこに見えるターミナルまでつっ走って、俺達より先に着けば高屋のチーム脱退を許可してやる」
「なるほど、わかりやすいね」
「武器の使用、相手チームへの妨害、なんでもアリ。まァこんなカンジで一人が運転、一人が妨害工作にまわるのが妥当だな」
なんかすごく丁寧な説明してくれるね。
「ちなみにてめーらは一人余るが全員参加してもらうぞ。ウチも5人...あ、でも朔夜さんにはハンデつけて4人でいいぜ」
「おや、ありがとう」
舐められているが、まぁ貰えるハンデは貰っとこうか...
「...(何気安く名前呼んでんだ。毟るぞ)」
すると妙が声を上げた。
「スイマセーン、私たち原チャリ二台しかないんですけど貸してくれませんかコルァ」
「お前らホントに暴走族なのか?」
「あたりめーだコノヤロー。地球に優しい暴走族なんだよコルァ」
どんな暴走族?見たことないよ。
そう思いつつも原チャリに跨り、それぞれスタンバイし、エンジンをふかす。
というか総長さんバイクじゃないんだ。馬なんだ。
「それじゃいきますよ〜。にっちもさっちもど〜にもブルド〜グ」
パンッ
そして一斉に走り出す。
「...(さて、どうやって新八君を勝たせようかな...)」
そんな事を考えながら、『ハシッテーヨ君』を走らせていると、銀時と神楽ちゃんのバイクが横につけてきた。
「朔夜!お前は俺と神楽の後ろ走っとけ」
「何があってもばっちりガードするアルよ!」
「!...ほんと心配性だな...でも分かった。後ろ付いて走るね」
ただのレースのはずがないだろうし、と思って大人しく二人のバイクの後ろに着いて走る。
すると前を行く敵方のバイクから声が聞こえた。
「フハハ、バカどもが来た来た!このレース自体が裏切り者を制裁するための血の儀式ともしらねーで!てめーらはみんなここで死ぬんだよ。オイ今だおとせ!」
「!!」
そして上から大きなドラム缶が降ってきて、奴らの後ろを走っていた小生たち全員の方へ向かってくる。
「フハハハハ、ペシャンコに...」
「――神楽ちゃん、奴らに落し物返してあげな」
「ラジャー!」
バガン
神楽ちゃんが転がってきたドラム缶を傘で打ち返し、前を行く男の脳天に直撃させ、脱落させた。
「平蔵ォォォォ!!」
「よし、一機落ちたね」
「ブワハハハハハ誰が死ぬって?平蔵ちゃんよォォ」
「銀ちゃん、もうオシッコ限界」
「ええ?もうもらせもらせ、アッハッハッハッ」
その時
ズッ ズシャァァァァ
「い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛」
「!銀時っ、神楽ちゃんっ!!」
銀時たちが目の前でスリップして、ホームレスのダンボールハウスに凄い音を立てて突っ込んでいった。
それを見て反射的に付いているレバーを動かしてタイヤから針を出し、滑り防止スパイクタイヤモードに変え、二人のもとに走らせた。
「大丈夫かい二人とも!?」
「フハハハ特製ローションの威力を見たか!そこで一生へたばってな」
「野郎ォォ!!」
「よくも二人をっ!今に見て...」
瞬間――ブォン ガッ
「ぶっ!!」
「銀時ィ!?」
銀時の頭を踏み台に、妙ちゃんと新八君の乗ったバイクがローションの場所を超えて行った。
だがそれよりも銀時だ!今のはヤバイ!
「ぎっ銀時しっかり!生きてるよね!?」
「お、おぉ...なんとかな...」
「神楽ちゃんは?」
「心配ないアル!」
「よかった...しかし、ここまでされたら...やり返すよ、銀時、神楽ちゃん」
「たりめーだ!」
「ぶっ飛ばすネ!」
「じゃあ行くよ...神楽ちゃんはあのリヤカーを、乗ってる武蔵さんごと引っ張って奴ら追って気を引いて。できるよね?」
「それくら大丈夫ヨ!分かったアル!」
そして神楽ちゃんがそのリヤカーを引っ張って、後を追って走っていく。
「銀時は小生とそれぞれの原チャリで、気付かれないように奴らおいかけるよ」
「あぁ...じゃあ行くか、参謀さん」
「うん!天才の策に謀り間違いは無いからね!」
そして二人同時にそれぞれの原チャリにまたがり、奴らの背を追った。
「うぐぐ、これじゃうまく運転できない!もうダメ...」
「新八ィィもう少しの辛抱アル気張りィィィ!!」
ガガガガ
「神楽ちゃん!」
「おおォォォ!!」
神楽ちゃんが総長の乗る馬に追いつく。
神楽ちゃんが気を引いている間に総長の馬の後ろに銀時と二人で原チャリを近付ける。
「(計算通り。流石神楽ちゃん)」
「なんじゃああこのガキぃぃケツにロケットブースターでも付いてんのか!?」
「ムハハハ暴走族がなんぼのもんじゃい!こちとら人生という道を暴走しとんのじゃい!格の違いを見せたれェ銀ちゃん!」
バッ
「!!」
リヤカーを覆っていた布が取れたら、中からカップ焼酎を片手にもった武蔵さんが出てきた。
完全に全員の視線がそちらに行く。
その間に銀時が原チャリから馬に飛び移り、総長の後ろに乗っていた男を蹴り落とし、気絶させ、かわりに総長の後ろにのった。
そして銀時が『ハシッテーヨ君』を運転する小生に伸ばしてきた手を掴んで、
小生も『ハシッテーヨ君』を乗りすて、馬の上に引き上げてもらい、銀時の後ろに座らせてもらいその腰に捕まる。
「(上出来だよ...これで布石は完成だ)」
「フハハハ、お前ら暴走族なんかより漫才師になった方が良いんじゃねーの?」
「そーかい」「そうかな?」
「お前の方はむいてそうだけどな!」
「その頭の飛び道具なんか最高に使えるねェ」
「銀さん!朔夜さん!」
嬉しそうに此方を見て名を呼んでくる、新八君に笑みを返す。
「...てめェ、あの娘はオトリか。注意を他に向けさせそのスキに...」
「俺には才色兼備な女房役が付いてるんでね」
「別に本当の女房じゃないけどね〜」
そこはしっかりと訂正しておきたい。
余計な勘違いはトラブルのもとになりかねない。
「(くそ...)...このまま必殺侍ジャーマンスープレックスきめて地獄に送ってやってもいいが、それじゃ新八の心意気に水をさす」
「だからここから先は正々堂々、小生たちの大将とやり合ってくれるかい?」
「新八、一丁キメてこい」
そして総長と新八君をゴールまで自分の足で走らせた。
結果は...無事にタカチン君が『寺門通親衛隊』に入ったと言えば、おわかりになるだろう。
それと勝負が決した後、その心意気に惚れたとかなんちゃらで
『舞流独愚』の総長やメンバーと仲良くなれたのはまた別の話かな?
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