銀魂連載 | ナノ
第二十三訓 コンプレックスがでかいからこそ、人はそれを乗り越えようとするんだ!




外が随分暗くなってしまったころ――


「ふむ...」

「――どうだ朔夜?」

「...とりあえず蚊に食われた後だけで、襲われたとかの怪我は無かったけど...」


ちらっ


「う...あ...あ、赤い着物の女が...う...う、来る。こっちに来るよ...うぐっ!」

「近藤さん大丈夫?」

「近藤さ〜〜ん、しっかりしてくだせぇ。いい年こいてみっともないですぜ、寝言なんざ」

「...さっきからの見ての通りでね」


カチャリと遠視用眼鏡をはずし、小生たちの前で寝込んでうなされている近藤の旦那をため息を吐き出して見る。


「...まさか本当に...」

「んなわけねーだろ。学者がなに言ってんだ...これはアレだ。昔泣かした女の幻覚でも見たんだろ」

「近藤さんは女に泣かされても泣かしたことはねェ」


確かにそう思う。女泣かす人じゃないし。


「じゃあアレだ。オメーが昔泣かした女が嫌がらせしにきてんだ」

「そんなタチの悪い女を相手にした覚えはねェ」

「じゃあ何?」

「しるか。ただこの屋敷に得体のしれねーもんがいるのは確かだ」

「(というか近藤の旦那、幽霊より総悟君に殺されそうなんだけど。首しまってるよ)」


沈黙が降りた微妙な空気の中、新八君が口を開いた。


「...やっぱり幽霊ですか」

「あ〜?俺ァなァ、幽霊なんて非科学的なモンは断固信じねェ。ムー大陸はあると信じてるがな」


ゴシゴシ


「?」

「...女の子に何やってんの銀時...おいで、神楽ちゃん」


銀時が、鼻をほじった手を自分の頭にこすりつけているのを気付いていない神楽ちゃんを呼んで

ハンカチで頭を拭いてやれば、何をされていたか気付いたらしく、銀時に向かって怒りだした。


「乙女に何してくれるアルかァ!!」

「ほんとだね...よし、綺麗になったよ」

「ありがとアル〜!やっぱり朔夜は私の2番目のマミーネ〜」


ぎゅうぅっ


「おやおや...また子供が増えちゃったねェ」


やっぱり、神楽ちゃんや空覇みたいな天人の子も、人間の子と何ら変わらないね...

腰元に抱きついてきた神楽ちゃんの頭をなでると、そんな事を思った。

見目や姿かたちはどれだけ違っていても、その血肉の奥には、五分の魂があるのだろう。

そこにはやはり、天人も人間も差など無いのだ。


そんな事をぼんやりと考えながら撫でていると、銀時が少しだけ不機嫌そうに立ちあがり

座っている小生の手を握って引っ張り立たせた。

そのさい、神楽ちゃんも小生の開いてる片手を握り立ちあがる。


「っ銀時...?」

「――アホらし、付き合い切れねーや。オイ、てめーら帰るぞ。朔夜もな」


すると新八君が少しの沈黙の後、銀時に声をかけた。


「銀さん...何ですかコレ?」

「なんだコラ。てめーらが恐いだろうと思って気ィ使ってやってんだろーが」

「...銀時、手が汗ばんでて嫌なんだけど...(それに恐いのは銀時でしょ)」

「なっ!?嫌とか言うなって朔...」


――その時


「あっ、赤い着物の女!!」


ガシャン

総悟君の急な言葉に心臓が飛び跳ね、銀時と二人で押し入れの下段に飛び込む。


「...何やってんスか銀さん、朔夜さん?」

「そこ押し入れだよ朔夜さん?」

「いやあの、ムー大陸の入口が...」「いやあの、アトランティスへの道が...」


そして総悟君の嘘だと分かって、慌てて二人で這い出る。


「旦那、朔夜さん、アンタらもしかして幽霊が...」

「「なんだよ/なにさ」」


べ、別に違うよ!そんな君が思ってるようなことじゃないんだからね!


「土方さん、コイツは...アレ?」


先程まで座っていた場所にトシの姿はなく、ガタガタと音がするの気付き、そちらを見れば

トシは置物の壺の中に上半身を突っ込んでいた。


「土方さん、何をやってるんですかィ」

「いやあの、マヨネーズ王国への入口が...」

「「「...」」」

「すごい、そんなところあるの?!」

「空覇、そんなところ行ったら土方さんみたいな頭の痛い大人になっちまいやすから。行きますぜ」

「え?あ、うん...?」


ザッ

そして総悟君が空覇の手を引き、新八君と神楽ちゃんも踵を返して去ろうとする。


「待て待て待て!違う。コイツと朔夜はそうかもしれんが俺は違うぞ!」

「はぁ!?小生はビビってないよ!!ビビってんの二人です!!」

「びびってんのはオメーと朔夜だけだろ!俺はお前、ただ胎内回帰願望があるだけだ!!」

「わかったわかった。朔夜はまだ可愛いで済むアルが、そこの二人はムー大陸でもマヨネーズ王国でもどこでもいけよクソが」

「「なんだそのさげすんだ目はァァ!!」」

「と、というか別に怖くないよ!!」


すると神楽ちゃんが小生たちの後方を見て、何かに気づいたような驚いた顔をし、他の4人までがそんな顔をしだした。


「なんだオイ」

「驚かそうったってムダだぜ。同じ手は食うかよ」

「......ちょっとしつこいよ?」


すると4人が大声をあげて部屋から逃げ出した。


「あーあ、行っちゃったね...」

「ったく手の込んだ嫌がらせを」

「これだからガキは...」

「「「ひっかかるかってんだよ/ひっかかるわけないだろう」」」


そして3人で振り向けば、襖の隙間から天井にぶら下がる赤い着物の女がいた。


「こっ、こんばんは〜」

「「「ギャアアアアアアアア!!!」」」


そして銀時が小生を素早く横抱きして、トシと共に走り出した。


「「うおおおおおおお」」

「追いつかれるから銀時もっと早くゥゥ!!」

「これが限界だコノヤロォォ!!」


先に逃げた4人の後を追って銀時とトシが走り続ける。

しかし4人は一度こちらを見た後、またすぐ焦った様に逃げ出した。


「4人ともォォ!!」

「オイぃぃぃ何で逃げんだお前らァァ!!」


すると銀時がとんでもないことを言い出した。


「アレ?ちょっと待てオイ、なんか後ろ重くねーか?」

「や、やめてよ銀時恐ろしいこと言わないで!!」


見たくなくて、銀時に抱えられたまま、目を固く瞑る。


「オイぃコレ絶対なんか背中乗ってるってオイ!ちょっと見てくれオイ、なんか乗ってるだろ!」

「しらん!俺はしらん!」

「小生も分かんない!!」

「いや乗ってるって、だって重いもんコレ」

「うるせーな、自分で確認すればいいだろーが!」

「ほんとだよ!自分で見なって!!」

「お前らちょっとくらい見てくれてもいいんじゃねーの!?」


銀時の言葉にこう提案する。


「じゃあこうしようじゃないか!せーので同時に3人で振り向こう!」

「お前ら絶対見ろよ!裏切るなよ!絶対見ろよ!」

「じゃぁハイせーの...」


バッ


「...こ、こんばんは〜」

「「「ギャアアァァァァァ」」」


***


一方その頃、3人を置いて逃げた4人は倉庫の中に隠れていた。


「やられた、今度こそやられた」

「しめたぜ。これで副長の座は俺のもんだィ」

「言ってる場合か!」

「で、でも...あのこ、恐いのが『ゆうれい』なの?」


空覇が総悟に抱きつき震えながら言う。


「そうですぜィ。なんだ空覇、恐かったんですかィ?」

「う、うん!初めて見たけど、こ、恐いよ!『ゆうれい』嫌い...!!」

「(おもしれーの)そうですかィ...まぁ何か遊ぶ時使えるかもしれませんねィ」

「そ、総悟?」

「いや、何でもねーですぜィ。それより誰か明り持ってねーかィ?あっ!蚊とり線香あった」


そして上着の中から蚊とり線香を取り出す。


「なんだよアレ〜なんであんなんいんだよ〜」

「新八、銀ちゃんと朔夜死んじゃったアルか?ねェ死んじゃったアルか」


二人がそんな事を言っていると、総悟が話しだした。


「実は前に、土方さんを亡き者にするため、外法で妖魔を呼びだそうとしたことがあったんでィ。ありゃあもしかしたらそん時の...」

「アンタどれだけ腹の中まっ黒なんですか!?」

「元凶はお前アルか!おのれ銀ちゃんと朔夜の敵!!」

「あーもうせまいのにやめろっつーの!」

「(ゆうれい恐いゆうれい恐い...)」


そんな風にしていると、新八が扉の隙間から例の女が覗いているのに気付き、大声を上げて謝り倒しながら土下座しだした。

そしてしまいには、神楽と総悟の頭を掴んで床にたたきつけた。

そして顔を再び上げれば、そこにはもう女はいなくなっていた。


「アレェ...いない。な...なんで...?」


その時、気絶している総悟の持っている火のついた蚊とり線香が目に付いた。


「...(そういえば朔夜さんが...)」


"...とりあえず蚊にくわれた跡だけで...」"


「...!...もしかしたら...空覇ちゃん、僕ちょっと調べてくるからここで、二人のこと見ててくれる?」

「え、あ、うん、分かったよ...?」

「じゃあ頼んだよ」


そして新八は3人を残し倉庫から出た。


***


その頃蚊の羽音がうるさい庭

プ〜ン、プ〜ン、プ〜ン...

ガサッ ザパァ


「「うるせーって言ってんだよプンプンよォォ!!」」

「銀時もうるさ...って、トシ...」


頭に枝をつけた銀時と茂みに隠れていたが、銀時がイライラして叫んで立ち上がったので

小生も立ち上がれば、頭に葉を一枚乗せた池の中にずぶぬれのトシが立っているのが見えた。


「......てめェ、生きてやがったのか」

「お前こそ悪運の強い野郎だ」

「...そ、それよりアレはどこに...」


辺りを見回してトシに問いかける。


「しらねェ。他の連中の方に向かったんじゃねーか?」

「そ、そう...」

「逃げやがったか。実はよォ、さっき追いかけられてる時、俺ずーっとアイツにメンチきってたんだ。アレ効いたな〜」


ばればれの嘘だよ銀時。

急に強気になった銀時に心のツッコミを食らわす。


「ほざけよテメー。俺なんて追いかけられてる時ずーっと奴をつねってた。」


トシもそればればれだよ。

池から上がってしけた煙草に火をつけようとするトシに同じように心のツッコミを食らわす。

ていうかこの二人、変なところやっぱり似てるね。

そう思って二人の間でそのやり取りを見ていると、草葉の陰から急に音がし、今度は3人で池に飛び込んだ。

しかし、その音の正体はただの蛙であった。


「...なんで二人まで飛び込んでるの。平気じゃないの?」

「朔夜お前、これは戦前の禊ってやつよ。さ〜て水も浴びてスッキリしたし、そろそろ反撃といくかな」

「無理すんなよ。声が震えてるぜ。奴は俺がしとめる。ヘタレは家で屁たれてろ!」


ぎゃいぎゃい


「(...二人とも似てるし、負けず嫌いなんだよね)」


そして二人の言い合いが始まって少しした時、蚊の羽音が聞こえだした。


ぷ〜ん

「(また蚊の...)」

「「なんだうるせーな!!」」


そして空を見上げれば、こちらに向かって飛んでくる、先程の女がいた...っていうか飛んでる!?

そして避けるために、銀時に庇われるようにして地面に伏せる。

そして、通り過ぎた女を見て別方向に伏せたトシが動揺した声を上げた。


「ううう嘘!」

「オオオオオイあんなんありか!?ととと飛んでんじゃねーか!」

「ななな何おおおお前ひょっとしてびびってんの?」

「バババ馬鹿いうな。おおお俺を誰だと思ってんだテメェ」


すると銀時が上等だとか言いながら、トシにすべて押し付けて、小生を引っ張り逃げようとする。

そしてそれを引きとめようとトシが銀時をひっつかんで喧嘩が再び始まった。

その間に女は再び空から迫ってきた。


「!ちょっ二人と...」

「テメーだけ逃げようったってそうはいかねェ!」


ガッ


「オイオイ何してんだテメッ」


トシが銀時を後ろからがっちりと捕え、見事なバックドロップを決めた。

それがジャストミートで、女の頭と銀時の頭が当たって、二人とも沈んだ。


「銀時!」

「敵前逃亡は士道不覚悟だ。もっぺん侍道をやりなおすんだな」


すると沈んでるとおもっていた銀時が気絶している女を担ぎあげて、トシに向かって放り投げた。

それが見事にトシにあたり、今度はトシと女が地に倒れる。


「ちょっ、トシ!!」

「俺に侍道を説くなんざ、百年早いんだよ」


のびている女とトシを見ていると、一つの違和感に気付いた。


「...アレ?(実体あるし、羽...?)」


***


そして夜が明けた時、全ての謎は解けた。

どうやら彼女は蚊みたい天人で、上司との間に子供ができて一人で育てるためエネルギーが必要で血が必要だったらしい。

それでこの屯所が丁度いいえさ場で、ついやってしまったらしい。

子供のために強くなりたかったという気持ちはわからないでもないけれど...

今回の出来事で、どうやら空覇にトラウマが植えつけられたようで、幽霊嫌いになってしまったらしい。

...でもリアルに彼女が幽霊じゃなくて良かった。違って良かった。



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