第二十二訓 ベルトコンベアには気をつけろって言われてもなかなか見る機会もないよね
ひょこ
「おや...またやられたのかい?」
「あ!朔夜さん!」
「!...朔夜...あぁ、また例のやつだよ」
「やっぱり...急に一体なんだってんだか...」
「俺たちが一番聞きてーよ」
女中仕事に来て道場を覗けば、ここ数日ずっと床に寝かせられた苦しそうな隊士たちと
真選組のスリートップと空覇が居た。
――誤解が解けて数日、夏もまっ盛りの最近...屯所内で幽霊騒ぎが起こっている。
なんでも赤い着物の女という幽霊にやられてるらしい。
今日で18人目がやられ、隊士の半分以上がダウンしたそうだ。
最初の頃はそんなバカなと思ったが、ここまでくるとそうも言ってられない。
「...(しかし、本当に幽霊が屯所に...)」
......騒ぎが収まるまで有給取ろうかな...っていや、別に幽霊が怖いとかそんなんじゃないからね!皆!
違うから!ただ小生はそう言う非科学的なものは嫌いって言うか...受けつけないって言うか...
とにかく怖い訳じゃないんだよ!
「みんなうわ言のように赤い着物を着た女と言ってるんですが、稲山さんが話してた怪談のアレかな?」
「かいだん?」
「幽霊話のことだよ...でもそんなことしてたのかい?」
「このまえ夏の風物詩ってことで空覇は寝ちまってて知りませんが、夜中にしたんでさァ。その時に稲山さんが赤い着物の女の話をしてましてねィ」
「...そんなバカらしい」
「そうだバカヤロー。幽霊なんざいてたまるか」
「『ゆうれい』はいないの?」
「そうだよ空覇。少なくとも小生は信じないよ」
そ、そんなこわ...いやいや、非科学的なもの。
道場から屯所の一室に戻ってきた小生たちで、その事件のことについて話し合っていたら、そんな話題になった。
トシと二人で軽くあしらえば、近藤の旦那が口を開いた。
「霊を甘く見たらとんでもない事になるぞトシ、朔夜さん。この屋敷は呪われてるんだ。
きっととんでもない霊にとり憑かれてるんだよ」
「...なにをバカな...」
「...?トシ??」
「!いや...ナイナイ」
「?」
動きを止めたトシを不審げに声をかければ、若干汗をかいていたが、すぐにまた手の煙草を吸いだした。
何だったんだ?
するとその時――
「局長!連れてきました」
「あ、山崎さんだ」
「オウ山崎ご苦労!」
「あ、退。仕事だったのかい?お疲れ様」
廊下に出て、退に笑いかける。
「!朔夜さん!ありがとうございます!」
「いやいや...ところで、その後ろの三人は...」
「あ、彼らは街で捜してきました拝み屋です」
「どうも(!朔夜今日シフトだったのか...こうも上手く会えるなんてやっぱ俺たち運命だわ)」
そう言った包帯を顔に巻いた陰陽師みたいな男を筆頭に、僧みたいな姿の眼鏡をかけた男と
中華服に中華帽の丸グラサンをかけた子がそこには居た。
怪しさ爆発じゃないか?と見ていると、トシも立って部屋から出て、その三人を見た。
「何だコイツらは...サーカスでもやるのか?」
「さーかす?面白いの朔夜さん?」
「サーカスは人を楽しませる集団だよ。そうなのかい近藤の旦那?」
「いや、霊をはらってもらおうと思いましてね」
「!本気かい?」
「オイオイ冗談だろ。こんなうさん臭い連中...」
「あらっ、お兄さん背中に...」
「!」
おもわず、トシのなにもいないはずの背の方を見る...やっぱり何もないよね?そうだよね?
そして再びその三人方を視線を向ける。
「なんだよ...背中になんだよ」
「ププッ、ありゃもう駄目だな」
「なにコイツら斬ってイイ?斬ってイイ?」
「落ち着きなよトシー」
陰陽師っぽいのと中華服の人のバカにしてるような会話に青筋を立てているトシの隊服の裾を引っ張り止める。
すると縁側に座っていた近藤の旦那が立ちあがり、その拝み屋の前に立った。
「先生、なんとかなりませんかね?このままじゃ恐くて一人で厠にも行けんのですよ」
「任せるネ、ゴリラ」
「アレ、今ゴリラって言った?ゴリラって言ったよね」
「...」
というか今の中華服の人のしゃべり方...いや、気のせいかな?
わずかな違和感を抱くも気にせずに、霊をはらうために屋敷を案内することになった。
***
しばらくして、小生たちは屋敷の一室に集まった。
「拝み屋さん...いかがでした?(いないと言っておくれ!)」
「ざっと屋敷を見させてもらいましたがね、こりゃ相当強力な霊の波動を感じますなゴリラ」
「あ、今確実にゴリラって言ったよね」
「(そんなことよりやっぱり霊はいるのか...っいやいや!いる訳ナイナイ!信じないぞ小生はァ!!)」
「まァ、とりあえず除霊してみますかね。こりゃ料金も相当高くなるゴリよ」
「オイオイなんか口ぐせ見たくなってるぞ」
「して霊はいかようなものゴリか?」
「うつった!!」
「僕も知りたい、ゴリ...?」
「空覇、無理してゴリつけなくていいからね」
すると中華服が少しの間の後、『工場長』と言い出し、それを横の陰陽師っぽいのが中華服の頭を思い切りはたいた。
中華服が頭を押さえてうずくまると、陰陽師っぽいのが『ベルトコンベアにはさまって死んだ工場長の霊』とか言い出した。
...というかなんか気付かなかったけど、この陰陽師っぽい奴の声にも聞きおぼえがある気が...って、気のせいだよね。
こんなよく分からないのは知り合いにいないし。
そう自己完結するともう一つ気になったことを口にした。
「あのすみませんが、隊士の皆が見たと言ってるのは女の霊なんですけどね...」
「すいません間違えました。ベルトコンベアにはさまって死んだ工場長に似てるって言われて自殺した女の霊です(朔夜さん不審がられたらばれる!)」
「はい!?」
「なげーよ!工場長のくだりいるかァァ!?」
というかどんな霊?!
そう思って不審がっていると、部屋の入口の方に座っていた退に陰陽師っぽいのが話しかけ、拝み屋3人が立ちあがり近づいた。
「とりあえず(朔夜の笑顔に見惚れてた)お前、山崎とか言ったか...」
「え?」
「お前の体に霊を降ろして除霊するから」
「え...ちょっ、除霊ってどーやるんですか?」
「お前ごとしばく(腹立つから)」
「なんだァそれ!誰でもできるじゃねーか...」
ドムッ!
「ぐは!」
「退!?」
「ハイ!今コレ入りました。霊はいりましたよ〜コレ」
「霊っつーかボディブローが入ったように見えたんですけど」
「ドムって音がしたし・・・」
「違うよ。私入りました。えー皆さん今日でこの工場は潰れますが責任は全て私・・・」
「オイィィ!工場長じゃねーか!!」
「結局最初の工場長の霊に立ち戻ってるじゃないかい!」
ベルトコンベアにはさまって死んだ工場長に似てると言われて自殺した女の霊はどこいったの!?
すると拝み屋3人は丸くなって話しあいだした。
「アレ?なんだっけ」
「バカお前、ベルトコンベアにはさまれて死んだ女だよ」
「ベルトコンベアにはさまれる女なんているわけないでしょ。ベルトコンベアに...アレ?」
このよく知ってるようなアホなやりとり・の仕方・・
「もういいから普通の女やれや!」
「無理ヨ!普通に生きるっていうのが簡単そーで一番難しいの!」
「誰もそんなリアリティ求めてねーんだよ!」
「うるさいミイラ男!お前の恰好にリアリティがなさすぎネ!」
「なんだァ!!こんなんしてた方がミステリアスだろーが!」
「ああもうやめろやァ!!仕事中ですよ!!ちょっときいてんの!二人とも!」
...この3人の声...まさか...
その時3人が殴り合い、中華服の被ってた帽子、陰陽師っぽい奴の笠、僧っぽい奴の眼鏡がとれ、その顔があらわになった。
「「「あ」」
「あ、銀さんたちだー!あれ?でも銀さんたちって万事屋じゃ...?」
「......何やってんだい、銀時...」
そしてこの後、真選組の3トップにより万事屋3人がとっ捕まり、庭先の木に仲良く逆さ吊りされた。
馬鹿すぎるよ...ていうか銀時、アンタ幽霊苦手じゃなかったっけ?
「悪気は無かったんです...仕事も無かったんです。
夏だからオバケ退治なんて儲かるんじゃねーのって軽いノリで街ふれ回ってたら...ねェ銀さん?」
「そーだよ。俺昔から霊とか見えるからさ〜それを人の役に立てたくて」
「(めっちゃ嘘ついてるよ。幽霊嫌いなのに。ビビりなのに)」
ミーンミーンと蝉の声が響く庭先に未だ吊るされたままでこんなことをした理由をしゃべる3人と、その目の前でお茶を飲む総悟君。
そして話してるうちに総悟君のS心に火がついたのか
水を与えて解放しろという銀時の言葉を聞いて、銀時の鼻に入るようにお茶をかけたり
頭がパーンとしそうだという神楽ちゃんの言葉に、新連載のウソ予告までしだした。
「おいトシ、そろそろ降ろしてやれよ。いい加減にしないと総悟がSにめざめるぞ」
「いや、それはもう駄目だと思うよ旦那」
「そうだぜ。アイツはサディスティック星からやってきた王子だぞ。もう手遅れだ」
「さでぃす...?」
「あぁ、空覇にはまだ早い領域だよ〜」
「そうなの?」
「そうだよ」
「いや、そんなことありやせんぜ。今からしこめば良い犬に...」
「変な道に、無垢な空覇を引きずり込まないよ」
「チッ、お固いねィ」
「?」
「それより助けてェ朔夜ァァァ!!ヘルスミー!!」
助けてェェ、と小生に向かって叫んでくる三人にため息を思わず吐き出す。
「ヘルプミーね。Help me」
「発音とかどうでもいいからァ!!銀さんたち頭パーンってなっちゃうから!!」
「...うるさいから、降ろしてあげていいかい?」
「...仕方ねぇな」
「ありがとう」
そして三人を下ろしてあげれば、地面にぐったりと倒れた。
「あ〜気持ち悪いヨ」
「う゛ェ〜」
「朔夜〜」
「はいはい...バカなんだから」
伸ばしてきた銀時の手を掴み、引っ張り上げて上体を起こさせる。
いくつになっても子供染みてるんだから。
「...本来ならてめーらみんな叩き斬ってやるとこだが、生憎てめーらみてーのに関ってる程、今ァ俺達も暇じゃねーんだ。消えろや」
すると立ちあがった銀時と神楽ちゃんが、いつもの通り憎まれ口をたたきだす。
「あー幽霊恐くてもう何も手につかねーってか」
「かわいそーアルな。トイレ一緒についてってあげようか?」
さっきまでダウンしてたくせに、ほんとに元気だねェ。
そう思っていた矢先、どうやら幽霊が恐かったらしい近藤の旦那が神楽ちゃんの言葉に載って、連れ立ってトイレに向かっていった。
「...ホントに恐かったんだね...旦那」
「てめーら頼むからこの事は他言しねーでくれ。頭さげっから」
「...なんか相当大変みたいですね。大丈夫なんですか?」
いや大丈夫じゃないと思う。
「情けねーよ。まさか幽霊騒ぎ如きで隊がここまで乱れちまうたァ...相手に実体があるなら刀で何とでもするが
無しときちゃあ、こっちもどう出ればいいのか皆目見当もつかねェ」
...そんな事を言われると、本格的に帰りたくなるじゃないか。
すると銀時が片腕を押さえて馬鹿にした顔でからかいだした。
「え?なに?おたく幽霊なんて信じてるの。痛い痛い痛い痛い痛いよ〜お母さ〜ん。ここに頭怪我した人がいるよ〜!」
「お前いつか殺してやるからな」
「あはは...でも、トシがそんなこと言うなんて珍しいね...」
基本的に信じないのに。
「ん?あぁ...実は妙なもんの気配を感じてな...ありゃ、多分人間じゃねェ」
「!っそ、そんなわけ...」
「痛い痛い痛い痛い痛いよ〜お父さーん!」
「絆創膏もってきてェェ!!人一人包みこめるくらいの!」
「おめーら打ち合わせでもしたのか!!」
...ドS二人揃うと性質悪いねェ...
するとドSコンビの後ろから新八君が思い出したように『赤い着物の女』の怪談を話し始めた。
「夕暮れ刻にね、授業終わった生徒が寺子屋で遊んでるとね、もう誰もいないはずの校舎に...赤い着物きた女がいるんだって。
それで何してんだって聞くとね...」
「ぎゃあああああああああああ!!」
急に近藤の旦那の叫び声が響き渡り、一瞬の緊張の後、全員トイレに向かって走り出す。
***
ザッ
「神楽どーした!?」
「チャックに皮がはさまったアル」
トイレにたどり着けば、神楽ちゃんが中で個室の一つを叩いていた。
それを見てトシが中に入り、その個室のドアを蹴り開けた。
すると中には、何故か尻を丸出しにしたまま、便器に顔をつっこんで、気絶している近藤の旦那がいた。
「「「なんでそーなるの?」」」
思わず小生と銀時とトシの言葉が揃ったのだった。
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