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あの後、また銀時に甘えてしまいそうだったので万事屋に戻る気にもなれず
小生はそのままバイトの入っていた真選組へやってきて、今は庭の掃き掃除をしている。
***
「――ふぅん、三郎は発明家なんだね」
目の前でカラクリの大砲をいじる三郎を見ながら、近くに腰掛けて話しかける小生。
これが小生と三郎の最初の出会いだった。
「あぁ。アンタは参謀さんだろ。聞いてるよ。アンタは女だてらに、って有名だからな」
「へぇ、まぁ今は参謀だけど、ほんとは学者であり、卿と同じ発明家でもあるんだよ」
「へぇ、そうなのか!」
「刀って名前が付くもんは、昔からからっきし駄目でね」
「俺も同じさ。剣はからっきしでよ」
「!そうなのかい?似てるね、小生と卿は」
「あぁ、本当にな。じゃぁ似てるついでに、仲良くしようぜ?」
「ははっ、かまわないよ。でも剣も使えないのによく、こんな泥沼の戦争に参加したね」
それは小生にもいえるけど、普通は剣もできないのに
こんな殺し合いの地になどわざわざ来たりしない。
「ん?あぁ...俺は別にここに戦争しに来たわけじゃねーのさ」
「?じゃぁ、卿はこんな命掛けの場所に何をしにきたんだい?」
「実は俺はな、親父と親子喧嘩しにきたんだよ」
「...親子喧嘩ァ?それでわざわざ戦場まで?」
「あぁ、おかしいか?」
「おかしいってか...変わってるねェ」
「俺からしてみりゃ、アンタの方が変わってるけどな」
「失敬な。まぁ――」
***
「(さっさと喧嘩終わらせて、生きてるうちに親父さんとこ帰りなよ...って言ったのに)」
結局、最後まで平賀の旦那と仲直りできなかった...帰れなかったんだね
...幕府に、殺されちまったんだもんね...三郎...
「馬鹿な奴だね...」
あんな良い親父さん悲しませて...こんな早く死んじまうなんて...
「...ほんとに、馬鹿...」
――こんなことにさせたくなかったから、早く帰れと言ったのに
ポタポタと地面にいくつかの染みができ、自然と箒を掃く手が止まって、せり上がる悲しみに体が震えた。
そのときだった。
「朔夜...?」
「!」
声を掛けられ振り返れば、そこにはトシがいた。
「何して...って、おまッ何泣いてんだ!?」
「っい、いや...ちょっと目に埃が入って、痛くてね...」
最悪だ。泣いてるのを人に見られた。
慌てて言い訳をして笑みをつくり、ごしごしと目をこすれば、その腕を掴まれ、止められた。
「...そんなにこすったら腫れるぞ?(...らしくもねー下手な嘘つきやがって)」
「あ...う、うん。そうだね...」
良かった...気づかれてはいないようだね...
「で、もう埃は取れたのか?」
「あ、うん...もう流れたみたいだから大丈夫...掃除続けるね」
「いや、ちょっと待て。言っときてーことがある」
「?」
「お前、3日後の祭りいくか?」
「え?あぁ、行くけど...お祭り好きだしね」
「そうか...なら気をつけろ。今回の祭りは過激攘夷派の高杉晋助が来る可能性がある」
「!?」
京都に潜んでた晋助が...祭りに来る...?
その言葉に少しだけ、気分が晴れた。
だが続けられた言葉に再び心が沈んだ。
「あの男は過激攘夷派の中でも、最も過激で危険な男だ。この前幕吏十数人が皆殺しされた事件もおそらく奴の仕業...細心の注意を払え。見たら逃げろ」
「え...うん...」
逃げろなんてそんな...
晋助は、会いたい最後の一人なのに...
それに小生が知ってる晋助は...確かに激情家なところはあったけど、そんな非道な男ではなかった。
少なくとも、そんな危険な男じゃなかった。
「――前も言ったが...お前は特例の真選組女中してるし目を付けられてる可能性も高ェから...って、オイ、聞いてるか?」
「あ...うん、聞いてるよ。心配してくれてありがとうね。うん...気をつけるから」
「...そうか。ならいい(何か様子変だな...)」
「うん...」
「じゃぁ、俺は仕事があるから行くぜ。掃除頼むぞ」
「分かってる」
そして、トシは小生を残し部屋へ戻っていった。
――ごめん、トシ。言うこと聞けないや。
だって、小生が江戸まで来たのは...小生がここにいるのは...かつての愛しい仲間に会うためだから...
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