銀魂連載 | ナノ
第十八訓 音楽聞きながらだって勉強できるよ!俺には俺のやり方があるんだから黙っててくれ母ちゃん!



「誰だ?」


江戸のある橋の上で、僧の恰好をして座っていれば、横に男がやってきたのを感じた。


「...ククク、ヅラぁ。相変わらず幕府から逃げまわってるよーだな」


!この声は...


「ヅラじゃない桂だ。なんで貴様がここにいる?幕府の追跡を逃れて京に身をひそめているときいたが」


まさか、朔夜の情報を聞きつけたのか...?


「祭りがあるって聞いてよォ...いてもたってもいられなくなって来ちまったよ」

「祭り好きも大概にするがいい。貴様は俺以上に幕府から嫌われているんだ。死ぬぞ」



祭りの方か...だが、どちらにせよコイツが死ねば朔夜が知った時、きっと昔のように一人で声を殺して泣くのだろう。そんな姿は見たくはない。


「よもや天下の将軍様が参られる祭りに参加しないわけにはいくまい」

「!お前、何故それを?まさか...」


将軍を...


「クク、てめーの考えているようなだいそれたことをするつもりはねーよ。だがしかし、面白ェだろーな。祭りの最中将軍の首が飛ぶようなことがあったら、幕府も世の中もひっくり返るぜ」


そして奴は狂ったように笑ったあと、俺が最も危惧していた台詞を吐いた。


「...それに、聞いたぜ?俺達の『茨姫』も生きてたらしいじゃねーか」

「!...朔夜に何をする気だ」


やはり、知っていたか...


「...俺が朔夜に何をしようが、てめェには関係ねぇだろう」

「いや、関係あるな...朔夜はもう、生きている。泣かせるような真似だけはするな」

「ハッ...約束はできねーな」

「...」

「じゃあな、ヅラ」

「...ヅラじゃない、桂だ」


そして奴は去って行った。



朔夜、もうお前の覚えてるアイツはいないのかもしれない...できれば奴と、会わないでくれ。

嫌な予感がする。



***



「コラぁぁぁぁぁ!!クソジジイぃぃぃ!!平賀テメッ、出て来いコノヤロォォォォォ!!」


今日小生は、万事屋の仕事と言うことで、平賀源外という江戸一番の発明家とされる男のお宅に

平賀ってどこかで聞き覚えがあるな...と思いつつ来ていた。

ものすごいガシャコンガシャコンという音が聞こえてくる。

一人の発明家兼科学者としては何をしているか実に興味深いが、個人的に言えばうるさくも感じる。

どうやらこの音がご近所迷惑になっているらしく、音を止めるために呼ばれたようだ。


「江戸一番の発明家だかなんだかしらねーが、ガラクタばっかつくりやがって...

私らかぶき町町内会一同も我慢の限界だ。今日こそ決着つけてやる。オイ、ヤローどもやっちまいな!!」


ザッ

お登勢さんに呼ばれてカラオケセットを持つ銀時たちの後についていく。

やれやれ、本当にこんなやり方が通用するのだろうか?

そう思っている間にカラオケのセットは出来上がり、新八君が一礼して歌い出した。

その歌声は、言葉にできないほど酷かった。


「ぎ、銀時コレさらに被害が...!!」

「おいィィィィィ!!ちょーちょーちょーストップストップストップ!」


耳を押さえて、銀時にお登勢さんと一緒に詰め寄る。


「オイ止めろコラ。てめっ何してんだコラ、私は騒音止めてくれって言ったんだよ!なんだコレ?増してるじゃねーか。二つの騒音がハーモニー奏でてるじゃねーか!」

「殴られたこともない奴は人の痛みなんてわかりゃしねーんだよ」

「分かってないのは銀時だよォ!!」

「こっちゃ鼓膜が破れそーなんだよ!!」

「何言ってんだ朔夜、バーさん。一番痛いのは新八だ。公衆の面前で音痴晒してんだから」

「「なんか気持ちよさそーだけど!!」」


全然痛そうじゃないから!

そう思いながらそっちを見ると、神楽ちゃんが新八君とマイクを奪い合いだした。


「ちょっと銀時...奪い合い始まってるんだけど。本来の目的忘れてるんだけど」

「あ〜〜あ、何やってんだあいつら。しょーがねーな。オイぃぃ!!次歌うのは俺だぞォ!!」

「おめーら一体何しに来てんだァ!!」


そしてお登勢さんも混じり、マイクの取り合いが激化しだしたとき

平賀さんのお宅のシャッターが開き、大きなカラクリが現れた。

...って、すごい!なにアレかっこいい!開発者の努力とロマンを感じるよ!!

銀時の頭を掴んだ、そのカラクリに思わず見入っていると

中からゴーグルをし、白いひげを蓄えた男が出てきた。

どうやら彼が平賀源外。平賀の旦那らしい。


「人んちの前でギャーギャー騒ぎやがってクソガキども。少しは近所の迷惑も考えんかァァァァァ!!」

「そりゃテメーだクソジジイ!てめーの奏でる騒音のおかげで、近所の奴はみんなガシャコンノイローゼなんだよ!!」

「ガシャコンなんて騒音奏でた覚えはねェ!『ガシャッウィーンガッシャン』だ!!」

「源外、アンタもいい年してんだから、いい加減静かに行きなさいよ。あんなワケのわからんもんばっかつくって、『カラクリ』に老後の面倒でも見てもらうつもりかイ」

「うっせーよババア!何度来よーが俺ァ工場はたたまねェ!!帰れ!」


確かにこれだけの技術を持ってるのに工場をたたむなんてもったいなさすぎる!

あぁ、中を見学したい...!

そう思いながら銀時を掴むカラクリを見つめていると

平賀の旦那が力ずくで追い出せという命令をその三朗と言うらしいカラクリに出した。

だがカラクリは、何故か掴んでいる銀時を平賀の旦那の方に投げつけ、旦那を昏倒させた。

そして今の間に、と引越しの準備をすすめることになったのだった。

悪い気も若干するが、中が見れるし、いっか。


***


「うわ〜、カラクリの山だ。コレ全部源内さんがつくったんですか?」


平賀の旦那を縛り、源外庵にはいってしばらくして万事屋三名は引越しの準備を進めていた。

小生はというと、中のカラクリに興味をそそられ、見続けていた。

しかし、この精巧な技術...魂を感じる作品ばかり...凡人にしてはやるね。


「てめーら何勝手に引越しの準備進めてんだァ!ちきしょオオ!!縄ほどけェェ脱糞するぞコノヤロォォ!!」


平賀の旦那が騒ぎ立てる中、銀時は三朗にお茶汲みをさせていたが

「ポンコツ君」と言ったため、熱いお茶を頭にこぼされていた。

言語理解の性能も付いているらしい。ますます見事だ。

同じ発明家としてぜひとも会話してみたい。

だがしかし、その後自分もポンコツと言って殴られていたのはバカだと思ったが。


「......お登勢サン、あの人ホントに江戸一番の発明家なんですか?」

「あん?なんかそーらしいよ。昔っから好き勝手、ワケのわからんモンつくってるだけなんだけどね。私らにゃただのガラクタにしか見えないね〜」

「お登勢さん、それは違いますよ」

「!朔夜...」

「ここにあるものはガラクタなんかじゃないです。天才科学者兼発明家の小生には分かります」


だよね、平賀の旦那?

そう問えば、旦那は呆気にとられていたようだったが、合点がいったらしく頷いた。


「そうか...嬢ちゃんも同業者か。どーりでわしのカラクリを熱心に見てたわけだ...その嬢ちゃんの言うとおりだ。ガラクタなんかじゃねェ。

ものを創るってのは自分(てめー)の魂を現世に具現化するようなもんよ。こいつらはみんな俺の大事な息子よ」

「その気持ちよく分かるよ、平賀の旦那」

「中々見込みある嬢ちゃんじゃねーか。名前は?」

「吉田朔夜だよ。よろしくね平賀の旦那」

「あぁ、じゃぁ朔の字ってよばせてもら...」

「おーい、息子さんあっちで不良にからまれてるよ」

「びゅ〜ん」

「神楽ちゃァァん!!」

「い゛や゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!」


そちらを見れば三朗を持ち上げてる神楽ちゃんが居た。


「ロケットパンチ発射アル!!」

「止めてェェ!!そんな機能ないから!腕もいでるだけだから!」

「駄目だよ大事なカラクリがー!!」


なんて恐ろしいことを!!


***


そんなこんなで引越しは完了し、河原にどさどさっと

バラバラにされてしまったカラクリ達が三人によって手荒く放り投げられた。

あぁ...コレだから価値が分からない子たちは...


「これでヨシと、ここなら幾ら騒いでも大丈夫だろ。好きなだけやりな」

「好きなだけって...これはひどいよ」

「みんなバラバラなんですけど...なんてことしてくれんだテメーら」

「大丈夫だヨ。サブは無事アル」

「御意」

「御意じゃねーよ!!なんか形違うぞ!!腕ねーじゃん!腕!!」


神楽ちゃん純粋ゆえに惨いよ...。

すると、平賀の旦那が祭りに間に合わないと言い出した。

その祭りとは、三日後にある鎖国解禁二十周年のターミナルで行われる祭典のことで

そこでカラクリ芸を披露するよう幕命を受けているとのことだった。


「どーすんだ。間に合わなかったら切腹モンだぞ」

「あ、ヤベ。カレー煮込んでたの忘れてた。朔夜帰るぞー」

「えっ!?もうちょっと小生はいるよ!」

「マジかよ...分かった。だが早く帰ってこいよ」


そして土手を上がっていく銀時達三人。

神楽ちゃんはしっかりと腕に三郎の片腕を抱えていた。


「オイィィィ!!三朗の腕返せェェ!!」

「あーあ...」

「なんて奴らだ...ムチャクチャだ...」


小生もそう思う。


「アンタ大丈夫なのかィ?」

「......やるしかねーだろ。徹夜でしこめばなんとか...」

「そーじゃない。息子サンのことだよ」


え...息子...?


「アンタの息子、確か幕府に...」


平賀さんの息子ってことは...名字は、平賀・・・平賀...

知ってる気がする...聞いたことがある気がする...昔...


「......お登勢よ。年寄りが長生きするコツは、嫌なことはさっさと忘れることだよ。それに言ったろ。今はコイツらが俺の息子だってよ」


昔...戦場で...


***


「アンタが噂の茨姫サンだよな」

「おや...卿は誰だい?晋介のとこの奴かな?」

「そーだな。俺は鬼兵隊の平賀――...」


***


思い出した――。


「...平賀、三郎...?」

「!?朔の字...!どこでその名前...!!」

「...本人から、聞いたんだ...」


何故気付かなかったんだろう...。


「本人ってお前...」

「なるほどね...源外。朔夜もね、戦場出てた子なんだよ。さっきの坂田銀時って天パの奴とね」

「!本当か!?」

「...そうだよ、出てた。もう小生たちのころにはほとんど終結間近だったけど...しかも小生は最後、色々あって彼らと別れちゃったしねェ...」


でも、そうか...三郎が言ってた親父って、平賀の旦那のことだったんだね...

ならこのカラクリは、幕府に鬼兵隊として処刑された三郎の代わりの...なるほど、合点がいった。


「そうか」

「......すいません。平賀の旦那、お登勢さん...小生は今日は失礼します」


タッ

...きっと、詳しくは何も話さないほうが良い。これ以上は下手に刺激してしまうだけだ。

小生は顔を伏せ、走ってその場を後にした。

頬に、いくつかの水滴が伝ったが、きっと夕立か何かだろう。

この時、一人の笠をかぶった男が遠目から小生を見ていたことを、小生は知らなかった。


「...探したぜ...朔夜...」


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