第十六訓 旅行先で知人に予期せず会うと、なんとなくスルーしたくなる
「決めた。わしゃ空に行くぜよ」
「...そう」
屋根の上で夜空を彩る星を眺めながら話せば、金時は目を閉じて黙ったまま寝そべり、朔夜は煙管から紫煙をくゆらし、短くそう答えた。
「このまま地べたはいずり回って、天人と戦ったところで先は見えちょる。
わしらがこうしちょる間にも、天人はじゃんじゃん地球に来ちょるきに、押し寄せる時代の波にはさからえんぜよ」
「...うん」
「いくら朔夜が被害を最小限にとどめる策を練り続けても...こんな戦はいたずらに仲間死ににいかせるだけじゃ。わしゃもう仲間が死ぬとこは見たくない」
「ふふっ...辰馬らしいね」
ここで戦う仲間を置いていく、と言っているということくらい分かっているはずじゃった。
なのに戦場で生きているとは思えんようないつもの、周りを癒す笑顔を浮かべて話を聞いてくれるのが、ありがたく感じられる。
「これからはもっと高い視点をもって生きねばダメじゃ。
そう、地球人も天人も、いや星さえも見わたせる高い視点がのー」
「...高い、視点...」
確かめるように呟く朔夜に強く頷く。
「そうじゃ。だからわしゃ、宙(そら)に行く。宇宙にデカい船浮かべて、星ごとすくいあげる漁をするんじゃ」
「...(実に建設的で面白い夢だよ)」
「どうじゃ銀時、朔夜。おんしらはこの狭か星にとじこめておくには勿体ないデカか男と女子じゃけーわしと一緒に...」
「ぐー...ぐー...」
「残念、銀時ならさっきから寝てるよ」
くすくすとからかうように笑って銀時をさす。
なんじゃ、寝ちょったのかー...
「アッハッハッハッハッハッー天よォ!!コイツに隕石ば叩き落してくださーい、アッハッハッハッ」
「あ、それはちょっと見てみたいねェ」
***
「――ちょっ...ま...辰馬!」
「はっ!!」
どこかに意識を飛ばしているらしい辰馬が心配になり、目の前で声をかけ続けていれば戻ってきたらしい。
「ちょっと、大丈夫かい?別の世界に旅立ちかけてたけど」
「ハハッ、なんとかのう。危ない危ない、あまりにも暑いもんじゃけー昔のことが走馬灯のように駆けめぐりかけたぜよ。何とか助かったってのに危なか〜」
「助かっただァ?コレのどこが、助かったってんだよ...」
「確かにね...」
周りを見回せば、辺り一面砂漠だった。
しかも太陽が二つもあり、殺されそうなほど暑い。
おかげで小生も上衣を脱ぎ、着物の上半身部分を肌蹴させ、上をハイネックのタンクトップ一枚にしている。
「大体テメーが舵折らなきゃこんなことにはならなかったんだぞ」
「だから触っちゃ駄目だと思うって言ったのに...」
「アッハッハッハッ、前回のことなんか忘れたぜよ!男は前だけ見て生きてくもんろー」
「なーにすっとぼけてんだコノ毛玉ァ!!」
「少しは振り返れェ!!」
暑さでイライラ度が増し、銀時と二人で辰馬に掴みかかる。
「あーもう暑いから騒ぐなや〜!!ったく...神楽ちゃんも大丈夫?キミは元々日の光に弱いんだからね」
「大丈夫アルヨ、傘があれば平気だヨ。でも喉かわいたから、ちょっとあっちの川で水飲んでくるネ」
「川ってどこ!?イカンイカンイカン!その川渡ったらダメだよォォ!!」
「とっつァん、もう勘弁してくれ。俺ァボクシングなんて、もうどうでもいいんだ。水が飲みてーんだよ」
「誰がとっつァんかァ!銀さん、朔夜さんヤバイよ!!神楽ちゃんが三途の川渡ろうとしてる!!」
「「!!」」
掴みかかるのをやめて、そちらに向かう。
「おーい、しっかりしろ神楽」
ピチピチ
「神楽ちゃーん、戻っておいで」
ゆさゆさ
「とっつァん、やっぱ俺ボクシングやってみるよ」
そしてボクシングの構えをとる神楽ちゃん。
「あ、ダメだね。これは、完全に目が座っちゃってるよ」
「しょーがねーな。あっちの川で水飲ましてくらァ」
「あぁ、ついてくよ。小生も喉かわいたし」
「お前らも見えてんのかィィ!!」
ガゴ!
神楽ちゃんを背負った銀時の頭に、新八君の踵落としがきまる。
でも、今はとりあえず水分補給だ。
「何言ってんの?見えねーの、お前ら?」
「花畑もあるよ〜綺麗だねェ」
「あ、朔夜もいる〜結婚してくれ〜」
「何をバカなことゆ〜ちょる朔夜はそこ...あっ、ほんとに朔夜じゃ!!1人でどこまで行くんじゃ〜!!」
「ふふ〜、暑さで頭おかしくなっちゃったかな〜二人の幻聴が聞こえるよ〜」
「あーもうダメだ!だれも信用できねー!おしまいだァァ!!」
「アッ!!なんだアレ!?」
新八君が叫んだ気がした時、乗客の一人が空を指差した。
そちらを見れば3隻の船が此方に飛んできていた。
「船だァァ!!」
「救援だァァ!!」
「俺たち助かったんだァ!!」
そして間もなくして、船は近くに降り立った。
それを見て小生たちも船に向かった。
***
「アッハッハッハッ、すまんの〜陸奥!こんな所までむかえにきてもらって」
「こんなこたァ今回限りにしてもらおう。わしらの船は救援隊じゃない。商いをするためのもんじゃきー。頭(かしら)のアンタがこんなこっちゃ困るぜよ」
「(これ辰馬の船なのか...すごいな。夢かなえたんだ)」
辰馬が、部下らしい、陸奥と言う女性と話をしてる間、まじまじと船を見あげる。
辰馬も立派になったもんだね。
「それからわしらに黙ってフラフラすんのも今回限りじゃ」
「アッハッハッ、すまんの〜。やっぱり女は地球の女しかうけつけんき〜。それに朔夜を探したくての〜」
「女遊びも程々にせんと、また病気うつされるろー。それにアンタに探される朔夜殿もきっといい迷惑じゃ」
「アッハッハッ、ぶっとばすぞクソ女(アマ)」
「...坂本さん、コレ」
「あぁ『快援隊』ちゅーてな、わしの施設艦隊みたいなもんじゃ」
そして二人が話しているのを聞いていると、急に陸奥さんに呼ばれた。
「...のう、そこのアンタ」
「?小生かい?」
「アンタが頭が探し取った、吉田朔夜殿じゃろ?」
「あぁ、そうだと思うよ。朔夜と呼んでおくれ。卿は...確か陸奥と言ってたね。辰馬が世話になってるねェ」
「ほんとにの」
「ふふっ...でも、卿のような人が辰馬といてくれて、一緒に夢をかなえてくれていてよかったよ」
少し、出て行ったあとどうなったのか心配していたんだ。
そう言って笑えば、陸奥はじっと小生を見てきた。
「?どうかしたかい」
「...女遊びの激しい頭が、アンタだけには執着していた理由がなんとなく分かったろー」
「?」
「...まぁ、アンタはフラフラしちょる頭の最終的に帰りつくところじゃき、変わらんでやって欲しいき」
「?勿論だよ。変わらないさ」
「それならよか。じゃぁ、早く中に入るろー」
そして陸奥に連れられて船中に入る。
そして甲板にて辰馬たちの近くで水を飲んでいると、急に船外から悲鳴が聞こえた。
そちらを見れば触手に掴まれて、助けをよんでいる船員たちがいた。
「アレ...ごめん、何だい?理解出来ないものが...」
「アッハッハッハッ、いよいよ暑さにやられたか。何か妙なものが見えるろ〜」
シュルル
すると辰馬の腕にも巻きついてきた。
「いやちょっと坂本さん、何か巻きついてますけど」
「ホントに大丈夫?」
「ほっとけほっとけ幻覚じゃ」
「イヤ、無理があるってそれ...」
ブォッ!!
「うわァァァ!!坂本さァァァん!!」
「ほらァァ!!少しはそのポジティブ過ぎな頭治せって前も言ったじゃない!!」
触手に捕まり連れて行かれた辰馬に叫ぶが、そんなことをしてもどうしようもない。
というかあの生物って...
「あれは砂蟲」
「砂蟲って...文献で読んだことがあるが、もっと大人しい生物じゃなかったかい?」
「確かに普段は静かじゃが、砂漠でガチャガチャ騒いじょったきに目を覚ましたようじゃ...」
「なるほど...」
納得した。そりゃ此方が悪い。
「ちょっとアンタら!自分の上司と友達がエライことになってんのに、何でそんなに落ち着いてんの?!」
「騒いで焦ったら、この天才の脳みそがふやけるからねェ。助けたいからこそ小生はいつも思考できるよう、冷静でいなきゃいけないのだよ」
「勝手なことばかりしちょるからこんな事になるんじゃ。砂蟲よォォ、そのモジャモジャやっちゃって〜!特に股間を重点的に」
「え、陸奥って辰馬に恨みであるの?」
まさかの陸奥の発言にちょっと驚いていると、辰馬が銃を取り出して
自分以外を捕えている触手を撃っていき、助け出す。
すると砂蟲が姿を現し、船を地中へと引きずりこもうとしだした。
「大砲じゃあああ!!わしばかまわんで、大砲ばお見舞いしてやれェェ!!」
「なっ、たつ...」
「大砲撃てェェェ!!」
「!(陸奥・・・!)」
陸奥の言葉で大砲が砂蟲に向けられる。
「ちょっ...あんた坂本さん殺すつもりですか!?」
「っ新八君、待ちなさい」
「えっ...」
「辰馬一人のために、この船に乗る乗客全てを危機にさらすことはできないんだよ。今この船がやるべきことは、大勢の乗客を救うこと、それが最優先なんだ」
「...そう、大義を失うなとは奴の口癖...撃てェェェ!!」
派手な音を立てて、砂蟲に大砲が撃ち込まれた。
「奴は攘夷戦争の時、地上で戦う仲間も気にかけていた女もほっぽいて、宇宙へ向かった男じゃ。なんでそんなことができたかわかるか?
大義のためよ。目先の争いよりももっとずっと先を見すえて将来の国のためにできることを考えて苦渋の決断ばしたんじゃ。
そんな奴に惹かれて、わしら集まったんじゃ、だから奴の生き方に反するようなマネ、わしらはできん。それに奴はこんなことで死ぬ男ではないき」
「いやいやいや!死んじゃうってアレ!どう考えても死ぬよアレ!」
「地中に引きずり込まれてるね...仕方ない...」
そろそろ銀時も行くころだよね。
スタスタ
「!?朔夜さん、どこに...」
「あぁ...ちょっとばかし、大きな漁をしにね」
パチンと軽くウインクをし、大砲の真下に向かった。
そして大砲の真下あたりの船の縁に背をもたれて、大砲を見上げる。
その間に砂蟲が、辰馬を連れて土の中に潜り込もうとしていた。
「潜り込む前にしとめるんじゃァァ!!」
「坂本さんば救えェェ!!」
船員たちが再び大砲を撃ち込もうとした時だった。
ガキィン!
大砲の砲口に上から木刀が突き刺さる。
やっと来たね。
「こんなモンぶちこむから、ビビって潜っちまったんだろーが。なぁ、朔夜?」
「あぁ、あちらさんが寝ていたのを起こしたのは小生たちだってのにね」
「大義を通す前に、マナーを通せマナーを」
「銀さん!」
「ったく...遅いよ銀時。もうギリギリだって」
「へいへい、わりーね。辰馬ァ、てめー星をすくうとかデケー事吐いてたくせにこれで終わりか!?」
「昔から、卿は口だけだね...小生たちを見なよ、ほら」
そう言いながら小生は船の縁に足をかける。
「自分(てめー)の思った通り生きてっぞォォ!!」
ばっ ダンッ
銀時が船の外に飛び出した瞬間、同じように船の外に飛び出し
落ちていく銀時の手を計算通りしっかり握り、一緒に砂の中へ落ちる。
***
「...そーか。お前と朔夜がおりゃあ、面白か漁になると思っちょったんだがの〜」
「ワリーね」
「こう見えてもこの星が好きなんだ」
「宇宙でもどこでもいって暴れ回ってこいよ」
「卿にはちっさい漁なんか似合わないからさ、大きな網を宇宙に投げて、星でも何でも救いあげてきなね」
「...おんしらはこれからどーするがか?」
そう問うたら、二人は笑っちょった。
「俺たちか?そーさな...俺ァのんびり地球(ここ)で釣り糸たらすさ。
地べた落っこっちまった流れ星でも釣り上げて、もっぺん空にリリースよ」
「小生も似たようなものかな?ゆったりこの星で船旅しながら、落ちた星見つけて
その星両手ですくいあげて、空に投げ帰しながら歩いてくよ。今までどおりね」
...フフ、そーいやそんな事ゆーちょった。
まったく何を考えちょるんだか分からん二人よ。
じゃがお前らがいたからわしゃ宙(そら)へいけた。
お前らが地上に残ってくれたから、わしゃ後ろを振り返らず走ってこれたんじゃ。
その時――
ズボボッ
「!!」
目の前にわしに向かって手を伸ばしちゅー二人が現れた。
朔夜...銀時...わしが地に落ちる時が来ても、
お前らがまた釣り上げて、すくってくれるちゅーなら
わしゃ何度でも飛ぶぞ、あの宙(そら)にの...
***
ズルッ...どさっ
「はぁ...ったく、相変わらずバカな奴だよ」
「ホントだぜ...」
「アッハッハッハ、助かったぜよ二人とも」
仰向けに寝転がってる辰馬に文句を言いつつ、自分の体の砂をはたく。
すると船員たちが駆け寄ってきた。
「坂本さんが生きちょったぞォ!!」
...ま、なにはともあれ慕われてるよーで、良かったよ。
その頃、船上で――
「...無茶なことを。自分らも飲まれかねんところじゃったぞ。何を考えとるんじゃあの二人...」
「...ホントッスね。何考えてんでしょあの人達。なんかあの人らしか見えないもんがあるのかな...」
こんな会話がされていたことを小生は知らない。
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