銀魂連載 | ナノ
第十二訓 自分を愛してくれる親にはちゃんと孝行なさい



「(今日は買値より良い値で、あの肝臓が売れたねェ)」


ほくほくとした気分で、闇医者業務を終えて帰宅していると

目の前の路地の角に見慣れた銀髪のふわふわ天パ髪がちらっと目にはいった。


「!(あれは…)」


タッと軽く走って、路地のところに行けば、やっぱり思ったとおりだった。


「!朔夜じゃねーか」

「やっぱり銀時だ」

「つーかお前、何で眼鏡かけてんだ?しかもその往診用の鞄…」

「あぁ、今まで闇医者業務にいってたから。医者のときは眼鏡を掛けてるんだよ」


似合ってないかい?

そう問いかければ、否定の答えが返ってきた。

まあ、それはおいといて――


「銀時はここで何してるんだい?あんぱん食べながら…」

「あぁ、実はな…」


その時――

ガタッ

「ヤベェ寝ちまった!!」

「!?た、辰巳ちゃん…?」

「!」

「戦線異状なしであります。よォ良い夢見たかィ、アネゴ」

「お前、それに朔夜先生まで、何で?…うぉ!!」


ドカッ

バランスを崩したらしく、ゴミ箱ごと倒れる辰巳ちゃん。

というか、「何で?」はいろんな意味でこっちの台詞なんだけど...

どういうことなんだ、これは?

当然の疑問を持っていた小生だったが、二人の話を聞いていて、なんとなく理解が出来た。

どうやら、今巷で噂の放火魔を捕まえる気らしい。

辰巳はめ組の子だから分かるが、銀時は関係ないだろうに…

相変わらず、銀時はいろんなことに首突っ込むなァ…

ま、小生も人のことは言えないかもしれないけどね。

そう思っていると、ザッと土を踏む誰かの足音が聞こえた。

慌てて3人でゴミ袋やバケツやらの陰に隠れる。

コソコソとする人影が見えるが、角度的に顔が見ることが出来ない。


「間違いねェ、放火魔だ」

「何を根拠に言ってんだ?」

「そうだよ。何してるかも見えないのに」

「まっとうに生きてる奴の身体からコソコソなんて音するわけねーだろ」

「お前も出てんぞ!」

「激しく説得力に欠けるよ」


すると、人影からゴソゴソという音が聞こえだした。


「うおっ、コソコソだけじゃあきたらず濁点まで!恐い!もう恐いよ!」

「うるせーよ!」

「はは…!って辰巳ちゃん、アレ…」

「ん?…アレ?ちょっと待てあの纏い…!!」


そして、かがめていた身体を起こした人影の顔が見える。

その顔には見覚えがあった。


「オイオイ、ありゃ…」

「辰巳ちゃんのところのめ組の頭じゃ…」

「頭ァ、何でこんな所に…(まさか…!!)」


一瞬シリアスの空気が流れるが、それはすぐにぶち壊された。


「…やっぱコレ捨てんの止めようかな…けっこー気に入ってんだよな」

「エロ本捨てに来たみてーだ」

「しかも熟女倶楽部を気に入ってるんだね」


ガシャンと、辰巳ちゃんがあまりのオチにその場ですっころび、ポリバケツをひっくり返した。

というか、め組の頭の趣味なんて別に知りたくもなかった情報だよ。

そう思っていると、音に頭がこっちに気づいたらしく、驚いた様子でこっちを見た。


「!あっ…オメッ、辰巳!!それに朔夜先生!?」

「やァ、どうも」

「あ、どうも…じゃなくてテメーこんな所で何やってやがんだ!先生まで連れて!!」

「先生はそこで会ったんだよ!オメーこそエロ本捨てにわざわざこんな所まで来てんじゃねーよ!」

「違いますぅ!俺はジャンプを捨てに来たんですぅ!」

「ウソつくじゃねェ!!薄っぺらいカモフラしやがって!!」


相変わらず仲の良い親子だねェ…実に微笑ましい

そう思っていると――


「まったくよォ、こんなオッサンにだけはなりたくねーな」

「…腰のあたりまでなりかけてるけど。侵食されてるけど」


腰のベルトに挟まれているエロ本を見て思わず突っ込むが、それをお構いなしにめ組の頭と話し出す銀時。

…やれやれ、相変わらずそういうの好きだね…

そう思っていると、め組の頭が辰巳ちゃんに話しかけてきた。

銀時はエロ本を読みだしている。


「そんなことよりテメー、ここで何やってやがった?まさかまた余計なマネ…」

「エロ本ジジイに何言われよーと、俺ァ火消しやめるつもりはないんでね」

「やめるもクソも、てめーみてーな小娘、必要とされてねーのがわかんねーのか?」

「小娘なんて言い方よせ。これでもずっと、アンタら火消しを見て育ってきたんだ。俺だって役に立てる!」

「てめーが何見て育ってよーが、こちとら火消しなんぞに育てた覚えはねーって言ってんだ!」


…相変わらずこの人も素直じゃない人だね。


「火はよォ、どんな尊いモンも一瞬にして灰にしちまう!その恐さはてめーが一番知ってるだろ?」

「…」

「火消しはその炎に立ち向かうだけじゃねェ、燃えた灰は全てその背中にのしかかってくる。

死んでいった仲間達、救えなかった連中…俺の背中はもう灰でいっぱいよォ。

てめーのその細い身体でコイツを背負っていくことができると思ってんのか!?」

「…アンタまさか、まだ父ちゃん母ちゃんのこと…」

「…てめーの父ちゃんも母ちゃんも、俺が殺したようなもんだ。その上お前まで死なせたら俺ァ…」

「何言ってんだハゲェ!!父ちゃんも母ちゃんも火事で死んだ!アンタのせいじゃねーよ。

そんなことよりアンタ、俺を助けてくれたじゃねーか!ここまで育ててくれたじゃねーか!

そいつに恩返しして何がワリーんだよ、力になりてーって思って何がワリーんだ!」


…辰巳ちゃんは本当に親想いのいい子だね…

銀時の背中にもたれかかって座り込み、二人の会話に耳を傾けているとそう思う。


「…フン、恩なんて感じる必要はねェ。てめーをここまで育てたのは愛情でも何でもねェ。親を見殺しにしちまった、罪滅ぼし以外の何物でもねーよ」


…本当はそんなこと今思っていないくせにね。素直になれないのにも困りものだよ。

そう思って内心ため息をつく。

その時、小生に背中を向け、鼻をほじりながら黙々とエロ本を読んでいる銀時に、眼鏡の変な男が話しかけてきた。


「そこの君」

「?」

「今日は燃えるゴミの日のはずだ」

「何ゆえエロティックな本が捨ててあるんだ?」

「決まってるだろ?読んだら燃えるからだ」

「(それは銀時が燃えてるだけだと思うよ)」


すると 銀時の手元のエロ本がパチパチと燃えだした・・・ってまずい!

それを見てぱっと小生は立ちあがる。


「ん?っわたたたたたた!!」

「!!」


銀時も燃えてるのに気づいたらしく、慌てて雑誌を放り投げて立ち上がる。

そしてその様子に辰巳ちゃん達も気づいたらしく此方を見てくる。

しかし、謎の男は一切気にせず、手中の瓶の液体を辺りに意図的にこぼした。

その液体により辺りにボウッと火がつく。


「うおっ!」

「あれは可燃性の液体か…!」

「ややこしいルールなんていらない。ゴミなんてみんな燃やしてしまえばいいのさ」


そう言い残し、ふらふらと離れていく謎の男


「オイ待てコラァ!!」

「アレが噂の放火魔みたいだね」

「どけェェェェ!!」


ブシャァァァ

辰巳ちゃんが行く手を幅む炎を消火器で消し、すかさず銀時が放火魔を追っていく。

とりあえず銀時が追ったなら、放火魔は確実につかまるから放っておいても大丈夫だろう。

少し安心した時、新たな問題が発生した。


「ヤバイ!燃え移っちまった!」

「!」

「朔夜先生は危ないから離れててくれ!」

「あぁ、分かったよ」


そして一足先に路地から通りへと出る。

その後、中に耄碌している老人が居ることがわかり

辰巳ちゃんが中に飛び込んでいき、その後をめ組の頭が追っていった。


「とりあえず…め組に連絡しないとね」


小生自身に今できることは、それ以外ないからね…

小生は、取り出した携帯を開き、め組の番号を押した。


***


「…(遅い…)」

「朔夜」

「!銀時・・・ご苦労様」


すぐにめ組はやってきて、消火活動を始めた。

それを集まってきた野次馬に交じり眺めていると、放火魔を捕まえたらしい銀時が戻ってきた。


「エライことになってんな…お前は怪我ねーか?」

「小生は全然平気。でも二人が中に入ったまま出てこないんだよ」

「オッサンたちか…」

「あぁ…流石に一人助けるだけなのに遅すぎる」


何かあったかもしれない…でも、小生は行くことができない。

小生は、これだけ火が回ってる中に飛び込む無謀なまでの勇気はあっても、帰ってくるだけの運動神経がない。

物の下敷きになっていたとしても、それを持ち上げるだけの力がない。

それはこの場ではただの足手まといになる…これだから、無力は嫌になるんだ。

起こりうることを想定できる頭はあるのに、それを捻じ曲げるだけの力は小生自身にはない。


「…(なんで、こんなにいつも小生は無力なんだろう?)」


その時だった。


「ゲホッゲホッ」

「!」


家の中から辰巳ちゃんがでてきた。

その手には老人がいたが、め組の頭はいない。

やはり中で何かあったのだろう。

老人を仲間に押しつけ、すぐに辰巳ちゃんがまた中に戻ろうとする。

それを必死で仲間が止めている姿が目に映る。


「…銀時、お願い。場所は2階だから」

「――あぁ、分かった。ちょっくら行ってくる」


そして気絶している放火魔をぱっと離して、小生の頭をぽんぽんと撫でると燃え盛る家の方に走って行った。


「…(銀時達みたく…ううん、ほんのもうちょっとでも良いから、もっと身体的に強かったら…)」


きっと、手を伸ばしたいのに伸ばせない歯痒さなど、感じずに済むのにな――



「ったく、疲れたぜ」

「ははっ、行ってくれてありがとうね」


あの後少しして、銀時は無事に頭を連れて出てきた。

そして放火魔も引き渡し、事件は無事に解決したのであった。

そして今小生たちはというと、銀時が次のバイト先に送ってく、と言うので並んで歩いている最中だ。


「まぁ放っておく訳にもいかねーしな。それに…」

「?それに?」

「――お前が頭動かす代わりに体動かすのは、昔から俺達の役割だしよ」

「!――…うん…そうだったね」


ずっと、そうだね――。


「――…またどーせ、自分(てめー)は弱いとか、無力だとでも思ってたんだろ」

「!て、天才の小生がそんなこと…」

「…前も言っただろ。お前は運動神経ねーし、俺たちより腕っ節も遥かに弱いけどな…

俺たちより、魂と心根だけは誰より強い奴だって」

「うん、言ってた」


知ってるよ。分かってる。


「だから、無力なんて思うな、弱いなんて思うんじゃねぇ。人間なんだから、できねーことはやっぱりできねーんだよ。気にすんな」


ぽんぽん


「…うん、そうだね」


銀時の掌のぬくもりを感じ、微笑みを返す。


「おう…だから、あんま無茶ばっかすんじゃねーぞ」

「おや、それは銀時に言われたくないなぁ」

「いーんだよ俺は。戦えるから」

「むっ!小生だってちゃんと戦り合えるくらいには強いっての!」

「へいへい」


手をひらひらとふられ軽く流される。


「あ、腹立つんだけど。白髪天パバカにあしらわれると腹立つんだけど」

「アレ?それ俺限定じゃね?」

「あ、ごめんごめん。白髪天パバカで尚且つ今隣を歩いている男に言われると腹立つだった」

「さらに俺に限定しただけじゃねーか、コノヤロー!」

「あっはっは、人を当たり前のように戦闘要員から除外するからさ!」


さっきまでの空気を払拭するように思い切り笑ってやって

軽口をかわしながら二人でバイト先までの夕暮れの道を歩いていった。



〜第一章 End〜

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