銀魂連載 | ナノ
第百三十訓 一人の時間も大事。でもやっぱり皆といたい




がぽっ――...


「っ...(苦しい...水...嫌...!)」


透明な冷たい水に、なすすべもなく身体がのみ込まれる。

この感覚は人生で二度目だ。

できれば二度と味わいたくなかった。


「(一人に、なりたくない...)」


酸欠で暗くなっていく視界に、押し寄せる恐怖を感じながら、意識をとばした。


「ん...」


眩しさにぱちりと目を開け、身体を起こすと、そこは砂浜であった。

どうやら打ち上げられて、溺れ死ぬ事は避けられたらしい。

でも辺りを見回しても誰もおらず、不安が募る。


「(皆どこ...?無事なのかな...?)」


不安になるが、震えていても仕方ないしと打ち消そうと、プラス思考にもっていく。


「プラスに考えなきゃ...」


あの銀時達が簡単に死ぬわけないだろうし...大丈夫。

もしかしたら別々の場所に流されただけかもしれないし...


「(あの時より、ずっとましな状況だ)」


そうだよ自分、それにこんなだだっ広い場所で一人なんて状況なかなかないし、楽しもう!


「(そうだよ!ここでなら何しても恥ずかしくない!!)」


よし!と立ち上がる。


「(昔からテイ●ズの魔法の詠唱してみたかったんだよね〜)」


気分が浮上してきたので、海に向かって立って詠唱を始める。


「て...天光満つる所に我はあり、黄泉の門ひらく所に汝あり 出でよ!神の雷!インディグネイ...」

「「「......…」」」

「...」


インディグネイションを唱えていた時、人の気配がし、振り向いた。

そこには銀時、新八君、長谷川さんがいて、小生を何ともいえない眼で見ていた。


「...」


両手で顔を覆い、沈黙のまま3人に合流したのは言うまでもない


「「「俺達何も知らないから」」」

「...…ごめん。一人だと思って...昔から魔法の詠唱全力でしてみたくて...今なら恥ずかしくないかと...」

「お前さりげなくテ●ルズファンだったもんな...」


***


そして島の中を歩いていくと

同じように独りきりだと思っていたのか、B'zの曲を崖の上で全力で歌っていた妙ちゃんと、

砂浜でSOSを描いた後、ソフトクリームの絵を描いていたら波でコーンだけ消されたという、それを次の波から思わず庇った九兵衛ちゃんと、

大きな雲を見て、あの雲の中にラピュタが絶対ある!と言い出した神楽と

次々と合流した。

一人だと思って痛々しい事をやっていたダメージに皆が遠い目をする中、最後の一人の小太郎を見つけた。

小太郎は、何故か尿でものすごい大きなSOSを砂浜に書きながらB'zの曲を歌い

見えた雲の中に、滝川クリスタルという謎の物質があると言い出して

途中で尿が止まってしまった途端、SOSの字が半分波に消されてしまったあと、残った部分を次の波から守るという謎の行動をとっていた。


「一つたりとも理解できないんだけど!他の皆は共感できたのに小太郎だけ共感できないよ!なんでこれ守ろうとしたの?!」

「奇跡だろうコレ。滝川クリスタルそっくりではないか」

「なんなのその滝川クリスタルって!?」

「奇跡的なのはてめーのバカさ加減だろ!!」


銀時と厳しい突っ込みを入れるもけろっとした表情で小太郎は続ける。


「小便が途中で切れてしまってな。誰かもよおしている者はいないか?」

「なんで小便オンリー!?」

「というかどんだけ出たんだい!?よくこんなおっきいの書けたよね!」

「井上雄彦先生のCMに影響されてな」

「「井上先生こんなことしねーよ/しないよ!!」」


小太郎絡むとツッコミ疲れが半端ないよ...

そう頭を抱えながら、とりあえず全員集まったので、こんな無人島で、これからどうするという話し合いをすることになった。

その結果――


「あーー竜宮城でウハウハの夏休みを過ごすはずが、なんでこんなことやってんだろ俺達は」


新八君、妙ちゃん、長谷川さんと別れ、島の中を銀時、神楽、小太郎と探索することになり、森の中を歩いていた。


「たまにはこんなのもいいアル。キャンプみたいアル」

「キャンプってお前、もしかしたら二度とこっから帰れねーかもしんねーんだぞ」

「それは困っちゃうよねェ」


思わずため息をつくと小太郎が口を挟んできた。


「さすがはリーダーだ。どんな窮地にも動じず、むしろそれを楽しむくらいの気概を持ち合わせているとは、それでこそ侍だ」

「侍じゃねーヨ、触んな」


語り出した瞬間、褒めた本人にアッパーカットを決められたがめげずに言葉を続ける。


「銀時、貴様も少しはリーダーを見習ったらどうだ?貴様ときたら、いつもいつもくだらんグチをたれおって

朔夜にまで影響しているではないか!そんなに現状に不満があるなら攘夷志士にでもなりな!!もぅ〜」

「なんで途中から勧誘に変わってんだよ」

「それになんでお母さん口調なんだい」


こういう時に小太郎がいるととても疲れるのは小生だけじゃないはずだ。

ため息を吐きだし、前を見ると、行く先になにか大きなものを発見した。

なんだろう、と4人で近づいて見ると、それはとても巨大な金属の箱だった。


「どう見ても人工物だぜ」

「なんでこんな無人島にこんなものが...」


神楽がそっと箱に触ろうとした瞬間、小太郎が大声で止めに入った。


「リーダー!!触るな!!勇気と無謀は違うぞリーダー。侍ならば無闇に突っ込むのではなく敵の恐ろしさを知った上で立ち向かう強さをもたねばイカン!!」


ダンッ


「おもっきりさわりましたけども!!」

「小太郎何してくれてるの!!」


次の瞬間吹き出した煙。

銀時と一緒に、神楽をつきとばす。


「逃げろ!神楽!!」

「早く行きな!!」

「マミー!!銀ちゃんん!!ヅラ!!」

「ヅラじゃない桂だ!!」

「(こんな時まで言うか!!)」


そして小生達は、あっという間に煙に巻かれ、ちょっと吸ってしまってから慌てて煙から逃げだす。


「けほっけほっ...ほんとなんなのこの煙...!」

「うぇぷっ!!」


むせている間に煙は引いていった


「なんなんだありゃ。オイ大丈夫か?」

「コホッ...なんとか大丈夫...」

「大丈夫じゃない、桂だ」

「マミー!銀ちゃん!ヅラ!大丈...!!」

「?かぐ...」

「誰アルかお前らァァァァァァァァ!!」

「?」


その反応に隣の二人を見れば、二人は見事によぼよぼな老人になっていた。

そして、嫌な予感に無言で鏡を出し、開いて見れば――


「.........あら」


二人ほどよぼよぼではないにしろ、初老のおばあさんが鏡の中から自分を見つめていた。


「...おやまぁ...」


あの煙、どうやら老化作用があったみたいだね。


〜第八章 End〜

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