第百二十八訓 ほぼ100%の確率でビニール傘を置き忘れて後で後悔する
「今日も雨か」
「すっかり梅雨だからね」
窓の外で降り続く止みそうもない雨をソファーに座ったまま眺める。
「こうもジメジメしてちゃ気持ちまで陰気くさくなっていけねーや」
「まぁまぁ、雨の日も楽しむのが乙な生き方さ。ほら、てるてるもう一体できた」
ヒマつぶしに、てるてる坊主を創作しながらそう笑えば、ため息が返ってきた。
「何体目だよ…ったくお前だけだぜ楽しそうなの」
「花鳥風月だよ花鳥風月」
「ジメジメしてるだけだろ梅雨は」
元も子もない事を言われ苦笑した。
そのまましばらく銀時と神楽が目の前でだらけているのを見ながらてるてる坊主をつくっていると洗濯物をしてくれていた新八君が戻ってきて
ジメジメに相当イライラしているらしい二人が、梅雨をインディペンデンスディとか言い出し、新八君に八つ当たりをし、喧嘩を初めたので
小さい山になってるてるてる坊主達を脇に寄せて、立ちあがり三人へと声をかけて、みんなで外出することにした。
***
「なんこんな雨降りの中、仲良く外出しなけりゃならねーんだ」
「文句ばっかりやめてよー。いいじゃないか、雨の日も」
サァサァと降る雨の下4人でそれぞれ番傘を片手に見慣れた街中を歩く。
「朔夜さんの言うとおりです。家の中で悶々としてるから気持ちまで陰惨になってくるんですよ。こういう時程外出しなきゃ」
「そうそう。それにたまにはいいじゃない。さっきもいったけど花鳥風月さ。
四季のもたらす自然の美しさを楽しまなきゃ。それが侍の生き様ってもんでしょ」
「ホラ、例えば傘を差して歩く女の子とか、楚々として趣があるでしょ?」
そんなことを話していると、先を歩いていた神楽が、まだ雨が降ってるのに急に傘を閉じた。
銀時と新八君が声をかけても、振り返りもせず拗ねたように、傘が壊れただけだからほっとけといい、また歩き出した。
訝しげに思い、近づいて声をかける。
「神楽?」
「...なんでもないアル。行くアルヨ。マミー」
ぎゅ、と手を握られて、引っ張られるようになって歩く。
わからなくて困っていたその時、隣を歩いていく可愛らしい柄モノの傘を差した、年頃の女の子達。
それを見てから、神楽の赤い番傘を見る。
そこでピンときて、思わず口元が緩んだ。
「(あぁ、そっか...可愛いなぁ)皆、ちょっとスーパー行かない?洗剤切れてるしさ」
神楽が頷くのを見てから後ろの二人を見ると、二人も気づいてくれていたようで二つ返事でOKしてくれた。
こうして小生達はスーパーに向かった。
***
「神楽お待たせ」
「!マミー」
外で待ってた神楽に声をかけたあと、すぐ銀時も店から出てきた。
そして銀時は神楽に買ったばかりの柄つきの100円傘を見せつけた。
一瞬顔を明るくさせた神楽だったが、照れたのかすぐにその表情を隠す。
「い...いらないネそんなチャラついた傘」
「誰がお前のもんだといった?」
銀時は意地悪に笑ってその花柄の傘をさして、雨の中を歩きだした。
「コイツぁ俺がさすんだ。てめーはその汚ねーのさしてろ」
「いや〜いいですね銀さん。その傘涼しげで粋ですよ」
「いいだろコレ。100円だけどな」
ブワハハハとわざとらしく笑いながら前を行く二人を見てから、うーっとなってる神楽に話しかける。
「花柄の可愛い傘を男がさしちゃって、神楽の方が似合いそうなのにねェ」
「ほ、ほんとマミーの言うとおりアル!オイ待てヨォォ!!
変アルヨなんかそれ、男がもってたら変ネ!私もらってあげてもいいアルヨ」
「いいんだよ、女は雨に打たれてろ」
目の前で行われるほのぼのとした会話に思わずくすくすと笑ってしまった。
***
それからしばらく、雨が降るたびに新しい傘をさして出かけていく。
その姿が微笑ましかったが、台風が近づいて大荒れの日まで、神楽は出かけていった。
心配だったが、神楽はしばらくして帰ってきた。
新八君と一緒に出迎える。
「神楽ちゃん」
「...何アルカ」
「大丈夫だった?」
「天気が荒れてたから心配してたんだよ?ベチャベチャだし...」
そこまでいった時、神楽はしゅぱっと横の部屋に入ってしまった。
「?神楽、ちゃんとタオルでふかないとダメだからね」
「ウン」
訝しげに思ったが、思春期の子供だしちょっとはほっといたほうがいいかなと扉越しに話しかけて、その場を離れた。
それから数日後、また雨の日に神楽は出かけていった。
最近、様子がおかしかったので気になっていた小生達3人は、その後を隠れて追いかけた。
神楽のさした傘は、つぎはぎだらけで、手作り感にあふれていた。
「壊しちゃったの言えなかったのか」
「ったく...ガキだなァ」
そう思いながらこそこそっと見ていると、神楽は、雨宿りをしているボロボロの着物を着た二人の兄妹を見て
悩んだ末、その傘を置いて走り去っていった。
それを慌てて追いかけると、神楽はどこかで拾ったらしいボロボロの傘をさして歩いていた。
周りの綺麗な傘をさした女達が嘲るように笑いながら、神楽の隣を通り過ぎていく。
でも、そんなのはどうでもいいさ。
3人で顔を見合わせてふっと笑ったあと、それぞれ傘をたたんで神楽に声をかけた。
「お嬢さんお嬢さん」
「なかなかイカした傘じゃないかい」
「ちょいと俺達も入れちゃくれねーかィ。傘イカれちまってね」
こちらを見た神楽がいつものように笑ったので、3人で神楽の傘に入る。
雨は相変わらずふっていたし、4人で一つの傘は狭かったが、心は晴れやかだった。
「あーあ、インディペンデンスディは気持ちまで陰気くさくなっていけねーなホント」
「いや、インディペンデンスディ、捨てたもんじゃないアル。ね、マミー」
「あぁ、いいもんだよ。こういう日こそ、楽しまなきゃね」
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