銀魂連載 | ナノ
第百二十三訓 線路で遊んじゃいけません。轢かれたいなら別だけど



「近藤(たいしょう)の首を殺りたくば、この俺を倒してからにしろ」


僅かに刀身を抜いたトシが鴨達に言い放つ。


「何人たりともここは通さねぇ。何人たりとも俺達の魂は汚させねぇ」


村麻紗の刀身が、徐々に見え始めていく。


「俺は、近藤勲を護る最後の砦。真選組を護る最後の剣」


ついに鞘と刀身が二つに別れた。


「真選組副長、土方十四郎だァァ!!」


そう咆哮をあげる彼の背が、とても頼もしく見えた。


「ふふっ...自力で村麻紗の呪いをねじ伏せたなら...もう心配ないね」

「フン、ワリーなゴリラ。そういうこった。残念ながらてめーの依頼は受けられねェ。なんぼ金積まれてもな」


銀時が後ろのトシを親指で指す。


「土方(あっち)が先客だ」

「店主がこういってるんじゃ仕方ないよね、近藤の旦那」


助手席からボンネットに上がった銀時の後ろで笑いかける。


「万事屋、仕事はここまでじゃなかったのか」

「なァに、延長料金はしっかり頂くぜ」


銀時が近藤の旦那の手を掴んで引っ張り車乗せ、自分も助手席に乗りなおした。

瞬間、バイクを飛ばしてきた万斉と、その後ろに乗る鴨により、パトカーの車輪が片方斬り飛ばされた。


「!車輪が!!」


瞬間がたがたと車体が不安定に揺れる。


「っ...」

「オイ後ろォ!!」


トシの声に後ろを向けば後方車両が目前まで迫っていた。


「うっそ...!!」

「ぎゃああああ!!」


当たると思った瞬間、トシがパトカーと車両の間にブリッジのような状態で身体を滑り込ませた。

だが、ミシミシメキメキいっている辺り、長くはもたないだろう。

早く何とかしないとと、身体を動かした瞬間車体の両サイドから、鬼兵隊らしき者達の車両にはさみこまれた。


「こんな時に...!!」

「チッ!神楽後ろ手伝え!朔夜、俺と頼む」

「了解!新八君は早く車両と車体を!」

「ハンドルが言うことをー!!」


ますます車両と距離が近づき、間でつっかえ棒になっているトシの背骨があり得ない角度になりそうになっている。


「背骨がァァァ!!」

「このままじゃトシの背骨が折れちまうよ!!神楽!!」


銀時と背中合わせになり、襲いかかってくる敵を、腕に止まらせたカーラスのガトリングで狙撃しながら

トシの方に助太刀に車体の後ろにいった神楽を見ると何故かトシの上に乗っていた。


「わかってるヨ、マミー!トッシー、後は私に任せるネ。何も心配いらないネ」

「「おかしいィィィ!!なんかおかしいィィ!!」」

「って危ない後ろ!!」


神楽の死角から襲いかかった浪士が目に入り、呼びかけた瞬間、後方車両のドアが片方吹き飛んだ。


「近藤さん、さっさとこっちへ移ってくだせェ。ちぃと働きすぎちまった。残業代出ますよねコレ」

「「総悟/君!!」」


血と死体の匂いがする車両の中から、血に濡れ、怪我を負った総悟君が現れた。

そして近藤の旦那と総悟君が、トシを残していけないとトシを橋のように使いながら揉め出した。

それを見て、銀時と小生は後ろに声をかける。


「モタモタしてんじゃねーよ」

「さっさと行き...!」


刹那、後ろからの殺気に振り向いたと同時に銀時の胸に抱き寄せられた。

息をつく間もなく突っ込んできた万斉のバイクに、銀時ごと思い切り身体を吹き飛ばされ、線路の脇に叩きつけられた。


「ぐがっ」「ふぐ...っ」

「銀さん朔夜さんんん!!」


銀時に抱き寄せられたため、直接的なダメージは少なかったが、小生の横に倒れる銀時を見て思わずにじむ視界の中、名を呼ぶ。


「銀時...!!」


するとバイクのエンジン音が前から近づいてくるのが聞こえ、潤んだ目を拭い、采配を組み立て

先程のバイクのタックルを回避していたカーラスを、肩に呼び戻し、体制を整え、刀片手にバイクで近づいてくる万斉を睨んだ。


「(銀時を、護らなきゃ...!)」


そう思った瞬間、後ろの銀時が動き小生の身体を後ろから抱きしめると、目の前まできたバイクを洞爺湖で叩き斬った。


「!ぎ、銀時...!!」

「無茶すんな...俺はまだやれらァ」

「!うん...良かった...」


後ろから包んでくれる変わらない体温に安堵し、すれすれで避けたらしい無傷の万斉を見つめる。


「面白い、面白い音を出すな。おぬしと朔夜は」

「...」

「でたらめで無作法。気ままでとらえどころのない音は、ジャズにも通ずるか。いや、それにしては品がない。たとえるなら、酔っ払いの鼻歌でござる」


血を頭から流したままの銀時にそう告げた後、彼は小生を見た。


「万斉...」

「朔夜はバラードなリズムでござるな...憂いを知って万人の心に染みいり、悲しみを受け入れ、包み、吐き出させる...まさしく癒しのリズム」

「...」

「――だが戦いの最中では、とても凶暴なリズムに切り替わる...それも破壊を奏でるメタルの中でも、最も凶暴なデスメタルでござる」

「――ヘッドフォンしてるのに...随分耳が良いね、万斉は」


万斉の台詞にふっと、口角を上げれば、銀時が小生を庇うように前に出る。


「テメェ...高杉のトコにいた野郎だな。オイ人と話す時はヘッドフォンとりなさい。どういう教育うけてんだてめっ。チャラチャラしやがって、近頃の若いモンは」


「(あれ!?そこ!?いや確かに気になるけど!)」


心の中で突っ込む。


「オイきいてんのかオイ。バーカ!バーカバーカ」


すると黙っていた万斉が口を開いた。


「坂田銀時に吉田朔夜、いや...白夜叉に戦場の茨姫。何故おぬしらが真選組にいるでござるかバカ」

「(語尾にバカつけてきた)」

「てめっきこえてんじゃねーかよバカ」


二人のやり取りに思わずため息をつく。


「はぁ...子供かい?それより鴨...いや伊東鴨太郎は、卿らと交わった者のようだね...彼に何故、接触した?真選組の実権握らせて、幕府の間者にでもするつもりかい?」


――確固たる理想がある卿らは、仲間を裏切るような者は流石に認めないと思っていたが。

挑発するように言えば、冷静な答えが返ってきた。


「流石...その通り。背信行為を平然とやってのける者を仲間にする程、拙者達は寛容ござらん。また信義に背く者の下に、人は集まらぬ事も拙者達はしっている」

「じゃああの伊東(おとこ)は...」

「っまさか...!!」


嫌な考えに思考が至り、思わず声が震える。


「哀れな男でござる。己が器量を知る時はもう遅い。全て、砕け散った後だ」


同時に、電車の向かった先で聞こえる大きな爆発音。

振り返り見えるは、天を覆わんばかりのまっ黒の煙と、赤く燃える火の手。


「......なっ!?」

「う、そ...!!」

「――眠るがいい、伊東。真選組もろとも」


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